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第47話 追いかけて来た夫②

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 美味しく朝食をいただいたあとは、アルベルトと日用品の買い出しに町まで出かけた。
 この村で馬車を持っているのは、アンの夫のヨハンだけらしく、ヨハンにお願いして、町まで送ってもらうことになった。

「ついにこの村に住まわれるんですね、奥さま。……もうご自宅のほうは、かたがついたのですか?」

 御者席から振り返らずにヨハンが尋ねてくる。離婚のことを言っているのね。
「それはまだこれからよ。ひとまず家を出ただけなの。……というか、追い出されたといったほうが正しいわね。逃げてきたのよ。」

「追い出された?それを聞いたらアンが怒りますよ。うちに来て下さっても良かったのに、工房長の家でお世話になってるとか?」

「ええ。新婚家庭にお邪魔するのもね。部屋が空いているというからお借りしたの。今日からは、お金を払って借りた家に住むわ。」

「困ったことがあったら、いつでも言ってきて下さいね?うちの野菜は好きなだけ持っていってください。アンからもじゅうぶんお願いされていますから。」

「そう?ありがとう。迷惑かけるわね。」
「とんでもない。アンはもちろん、自分も喜んでますよ。アンと奥さまは乳兄弟だと伺ってますからね。姉のようなものだと。」
「そうね、アンは私の大切な妹よ。」

「その姉が困っているというんです。迷惑なんてことはありませんよ。
 ずっと奥さまを心配していましたから。
 この村で穏やかに暮らしていただけたら、それ以上のことはないです。」

 そう言ってくれるヨハンに、私は心から感謝した。アンがいるから、知り合いの少ないこの村に住むことを決めたけれど、ヨハンがいてくれることも、とても頼りになるわ。

 少なくとも、最低でも私の味方が2人もいるということだもの。2人が貴族を敵に回して戦えるわけではないけれど、心の拠り所になる人は、1人でも多いほうがいい。

 知らない場所で1人で暮らすのも、これから貴族相手に戦わなくてはならないのも、私1人だと心細いものだから。

「あとはイザーク次第ね……。」
「……旦那さまとのことが、1日も早く解決すればいいですが……。」
「そうね……。」

 それ以上、話は続かなかった。ヨハンにもイザークとのことは、どうしようもないものね。私が1人で戦うしかないもの。

 町について、調理器具や食器など、細々としたものを購入する。正直私にはあまり良し悪しはわからないけれど、私の買える値段だから、特別いいものではない筈。

 だけどアルベルトが連れて行ってくれたお店は、どれも古道具なんかじゃなく、使い勝手のよさそうな、職人が作った一品物、という感じのものばかりが並んでいた。

「この辺は、平民が使う為の、割と質の良い品が並んでる。貴族のものほど良い素材は使ってないけど、職人の腕があるから、それでも使い勝手のいいものばかり。」

 と説明してくれた。
「そうなのね、凄く切れ味の良さそうな包丁だわ。手を切りそうで怖いくらい……。」

「手に取ってもいいけど、気を付けて。」
 とアルベルトが微笑む。
 私は包丁の握り具合なんかも確かめて、ちょうどいい大きさの包丁を選んだ。

 包丁なんて使うの、結婚前以来ね。料理をするのが楽しみだわ。一緒に食器店にも行って、可愛いお皿をたくさん選んで、おがくずの入った箱に入れてもらった。

 これがあると、馬車に乗せても、中で食器が割れないんだそう。便利なものがあるのものね。私は食器店でカップとソーサーを手に取った。うん、これなんか良さそうね。

「これ、今日のお礼に購入するわ。」
「お礼?別にいいよ。」
「アルベルトが家に来る時は、いつもこのカップでお茶を淹れるわ。嫌かしら?」

「あの人のは買わないの?」
 と突然不思議なことを言い出した。
「あの人?誰のこと?」
 私は心底わからなくて首をひねった。

「そっか……。買わないんだ……。うん。
 嫌……じゃない。嬉しい。ありがとう。」
 アルベルトは恥ずかしそうにうつむいた。

 アルベルトが買った物を運んでくれる。ヨハンが戻るのを待って、再び馬車に揺られて村に帰ると、アルベルトは私の家に寄ってから、工房長を向かえに一度自宅へと戻った。

 アルベルトが家まで荷物を運んでくれたので、私は買ったものを造り付けられた棚の中へとしまった。1枚しかなかったシーツも2枚購入したし、当分これで問題なさそうね。

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