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第47話 追いかけて来た夫①

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 夢中になって描いていると、工房長がひょっこりとアトリエに顔を覗かせた。
「全員帰ってこないと思ったら、まだやっていたのかね。そろそろ夕飯にせんか。」

「もうそんな時間ですか。」
「確かに休憩したくなってきましたね。」
 アルベルトのお父さまが、肩をグリグリとひねるように回しながら言う。

 同じ姿勢を強いてしまったから、体がこわばってしまったのかしら。申し訳なかったわね。人間を描くのが初めてで、どの程度で休憩してもらったものかわからなかったわ。

「どんな感じ?」
 アルベルトが立ち上がって私の後ろに立つと、後ろから絵を覗き込んでくる。

「……ほう、もうここまで描けたのですか。
 筆が早いですな。」
 アルベルトのお父さまも覗き込んでくる。

「早いほうかも知れませんね。ただ、やはりここまで大きいものは初めてなので、全体的な形を取るにとどまりました。まだまだ調整が必要ですね。ここまで長い筆を使って描くのも初めてですし、練習がてらというか。」

 書き慣れたサイズなら、もう今の時間に終わっていたかも知れないわね。
 やっぱりこの大きさで、バランスよく人の形を取るのはかなり難しいわ。

 長めの筆を作っていただいて正解ね。短い筆だったら、この大きさにバランス良く、人の輪郭をとるのもままならなかったわ。

「じいちゃん、もうご飯作った?」
「おお。お前たちが遅いから、作ってしまったよ。冷めないうちに食べよう。」
「ごめん、当番だったのに忘れてた。」

「こちらがお願いした絵のモデルをしてたんだ、仕方ないさ。全員が交代で作るという約束だが、当番の人間の手が空かなければ空いている人間が作る。それだけのことだ。」

 工房長はそう言うと、ほれ、急げ急げ、とアルベルトの背中を押して速歩きをした。それにつられてアルベルトの歩みも早まる。
 仲の良いご家族ね。微笑ましいわ。

 夕飯は工房長の作られたシチューと、サラダと、ほうれん草をニンニクと炒めたもの、パン、イチゴだった。イチゴはやはり村で採れたものらしい。

「このシチュー、パンに合いますね。」
「うちじゃいつも、皿についたのを、パンですくって食べているよ。パンに合うというのもあるし、一滴も残さず食べる為にな。」

「ソースみたいになさるんですね。
 ……でもそうするのも納得だわ、限られた量しかこのシチューがなかったとしたら、残さず食べたいですもの。」

「気に入って貰えてよかったよ。」
 工房長がニコニコしている。
「これ、じいちゃんの得意料理。」
 とアルベルトが言った。

 得意料理を振る舞ってくださって、それを褒められて素直にニコニコしてるのね。工房長は随分と可愛らしい一面をお持ちなのね。

「アルベルト、明日は買い出しに行くんだろう?ついでにこれを買ってきてくれ。」
 そう言って、工房長がメモを渡す。

 アルベルトはそれを一瞥すると、
「わかった。」
 と折りたたんでポケットにしまった。

「明日は私と孫だけがモデルになれます。息子は1日仕事があるので。構いませんか?」
「はい、何度か3人揃って並んでいただきたいですが、一緒でなくとも構いません。」

 最初に全体のバランスを取ろうと思うと、どうしても3人で並んでいただかないと難しいのよね。3人揃うまでは、描き進められるところだけ、進めるしかないわね。

「明後日なら3人で時間を取れますので。」
「わかりました、明後日ですね。」
 そこでいったん、3人並んだ時の位置に問題がないか確認しないとね。

 取り敢えず、並んで立っているアルベルトと、お父さまを先に描いたから、座っていただく予定の工房長のいるあたりを、明日は描き進めていきましょう。

 お風呂をいただいて、アルベルトのお母さまのものだったというパジャマを貸していただいて、その日は眠りについた。

 次の日の朝の朝食も、アルベルトが休みの為、もともと担当だったとのこと。私のリクエスト通り、昨日と同じ朝食が出て来た。

 んん~。やっぱり癖になるわ、ニンニクを炒めたオリーブオイルと、とろっとした目玉焼きに、チーズとハムの組み合わせ。

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