57 / 192

第28話 襲い来るクロスウルフ①

しおりを挟む
 この子と一緒に暮らせたらいいのにね。そうすれば、私もこの子も、独りぼっちではなくなるもの。この子が本当に私を気に入っていて、家までついて来てくれるならだけど。
「……レオンハルト様、町中で魔物を飼っている方というのはいらっしゃいますか?」
 専門家のレオンハルト様に尋ねてみる。

「いるぞ。まずテイマーだな。テイムしている魔物を連れて一緒に行動している。それと貴族の一部で魔物を飼うことが流行っているそうだ。当然敷地内で飼っちゃいるがな。」
 と言ってくれた。
「テイマーの方しか、魔物は町中を連れ歩けないのですか?」

「テイマーはテイムした魔物に言うことを聞かせられるが、貴族は飼っているだけで、言うことを聞かせられるわけじゃないからな。
 そんなものを町中に放たれたら困るだろ。
 基本巨大な檻の中で飼うのさ。」
 なるほどね。

「ですが、テイムしている魔物かどうか、見ていて分かるものですか?私は見たことがありませんけど、魔物が町中にいては、皆さん怯えられるのでは……?」
「テイムしている魔物は、専門の首輪を付ける決まりがあるのさ。必ずそれをしてる。
 ──というか、なぜそれを聞く?」

 レオンハルト様が不思議そうに首を傾げて私を見下ろしてくる。
「その……。いずれこの子を飼えたらいいなと思いまして……。
 レオンハルト様も、特にこの子を飼っているわけではないとのことでしたので……。」
 と言うと、レオンハルト様は驚いた表情で私を見つめてあんぐりと口を開けた。

「驚いたな……。メルティドラゴンを飼おうってのか?確かに大人しい方ではあるが。
 貴族の令嬢の考えることは分からんな。」
「……駄目でしょうか?」
 不安になって尋ねると、レオンハルト様は少し考えて答えた。

「……家に閉じ込めるつもりなら構わんだろうが、あんたは町中を連れ歩きたいんだろ?だったら駄目だな。あんたがテイマーならいざ知らず、この子を操れないんだから、連れ歩くなんてのは不可能さ。」
「……出来たとしたらどうですか?」
「──何?」
 じっと見上げる私を見つめてくる。

「私、召喚の力を持つ魔法絵師なんです。
 絵に描いたものを呼び出して操ることが可能です。既に猫で試しました。今回魔物の絵を描きたいと思ったのは、それが魔物であっても可能であると、証明する為なのです。」
「描いたものを呼び出して操るだって?」

「先日既に魔塔でそのことを証明いただいております。魔物を描いた絵を売れば、その魔物を呼び出して操ることが可能です。絵を高く買い取って貰えるだろうと思い、それで魔物の絵を描くことにしたのです。」
 胸に手を当ててそのことを告げる。

「そんなことが本当に……?だが、確かに、昔の魔法絵師のスキル持ちの中には、魔物を呼び出して操れるほどの存在がいたと聞く。
 お嬢ちゃんが、その力を持つと言うのか?
 ……だが、もし本当だとしたら、この子を飼うことは構わないが、絵を売ることは認められないな。」

 レオンハルト様が、腕組みしながら、少し厳しい目線をこちらに向けてくる。それはかなり私にとって、予想外の言葉だった。
「なぜですか?魔物を使役出来るということは、殺すだけでなく、役に立てることも出来る魔法だと思うのですが……。」
 だけどレオンハルト様は首を横に振った。

「考えてもみろ。絵は誰でも買うことが出来る。あんたのその、魔物を操る力を持つ絵を1番手にしたいのは誰だ?」
「冒険者ですとか、騎士団とか、あとは護衛代わりにしたい貴族ですとか……。」
「ちがうな。──犯罪者だ。」
「犯罪……者……。」

「その絵を大量に集めれば、王家に反逆だって企てられるかも知れん。そんなものを売るなんてことは認められない。
 王家で購入することは、ひょっとしたらあるかも知れないが、元第一騎士団、団長として、誰彼構わず販売するのは認められん。
 恐らく販売を続けたら、そのうちあんたが芋づる式に反逆罪で捕まりかねんぞ。」

「そんな……。」
 そういうことであれば、確かにそうなってしまうのかも知れなかった。だとするとすぐにでも絵を売って家を出る計画が台無しだ。
 私は絶望に打ちひしがれた。
 ……あら?でも、ちょっと待って?

「レオンハルト様、私の絵は、時間を操ることも可能なのですが、先程の理屈で言うのであれば、その絵も売ったらまずいですよね?
 犯罪者が時間を操って色々したら……。」
「そうだな、まずいと思う。」
 レオンハルト様は、軽く握った拳の人差し指の背を顎に当てながらそう言った。

「ですが私、魔塔から、魔法使用権の権利証を作成いただいて、その使用権利料を毎月支払っていただけることになっているのです。
 それなのに、私の魔法が使えないということなのでしょうか?」
 と尋ねた。だってそのお金を、私は離婚後の生活費としてあてにしているんだもの。お金が入らなれば困ってしまう。

「ああ、そうなのか。
 それはもちろん支払われるだろうな。」
「そうでしたか。良かったわ……。」
「魔塔は魔法を管理している。公表されない魔法も含めてな。もしも公表されない魔法や特別な許可のいる魔法を勝手に使用する者がいた場合、罰則とともに罰金を課すために、利用料を定めているのさ。」

────────────────────

少しでも面白いと思ったら、エピソードごとのイイネ、または応援するを押していただけたら幸いです。
しおりを挟む
感想 89

あなたにおすすめの小説

側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、孤独な陛下を癒したら、執着されて離してくれません!

花瀬ゆらぎ
恋愛
「おまえには、国王陛下の側妃になってもらう」 婚約者と親友に裏切られ、傷心の伯爵令嬢イリア。 追い打ちをかけるように父から命じられたのは、若き国王フェイランの側妃になることだった。 しかし、王宮で待っていたのは、「世継ぎを産んだら離縁」という非情な条件。 夫となったフェイランは冷たく、侍女からは蔑まれ、王妃からは「用が済んだら去れ」と突き放される。 けれど、イリアは知ってしまう。 彼が兄の死と誤解に苦しみ、誰よりも孤独の中にいることを──。 「私は、陛下の幸せを願っております。だから……離縁してください」 フェイランを想い、身を引こうとしたイリア。 しかし、無関心だったはずの陛下が、イリアを強く抱きしめて……!? 「離縁する気か?  許さない。私の心を乱しておいて、逃げられると思うな」 凍てついた王の心を溶かしたのは、売られた側妃の純真な愛。 孤独な陛下に執着され、正妃へと昇り詰める逆転ラブロマンス! ※ 以下のタイトルにて、ベリーズカフェでも公開中。 【側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません】

【完】夫から冷遇される伯爵夫人でしたが、身分を隠して踊り子として夜働いていたら、その夫に見初められました。

112
恋愛
伯爵家同士の結婚、申し分ない筈だった。 エッジワーズ家の娘、エリシアは踊り子の娘だったが為に嫁ぎ先の夫に冷遇され、虐げられ、屋敷を追い出される。 庭の片隅、掘っ立て小屋で生活していたエリシアは、街で祝祭が開かれることを耳にする。どうせ誰からも顧みられないからと、こっそり抜け出して街へ向かう。すると街の中心部で民衆が音楽に合わせて踊っていた。その輪の中にエリシアも入り一緒になって踊っていると──

年に一度の旦那様

五十嵐
恋愛
愛人が二人もいるノアへ嫁いだレイチェルは、領地の外れにある小さな邸に追いやられるも幸せな毎日を過ごしていた。ところが、それがそろそろ夫であるノアの思惑で潰えようとして… しかし、ぞんざいな扱いをしてきたノアと夫婦になることを避けたいレイチェルは執事であるロイの力を借りてそれを回避しようと…

王太子妃は離婚したい

凛江
恋愛
アルゴン国の第二王女フレイアは、婚約者であり、幼い頃より想いを寄せていた隣国テルルの王太子セレンに嫁ぐ。 だが、期待を胸に臨んだ婚姻の日、待っていたのは夫セレンの冷たい瞳だった。 ※この作品は、読んでいただいた皆さまのおかげで書籍化することができました。 綺麗なイラストまでつけていただき感無量です。 これまで応援いただき、本当にありがとうございました。 レジーナのサイトで番外編が読めますので、そちらものぞいていただけると嬉しいです。 https://www.regina-books.com/extra/login

前世の記憶が蘇ったので、身を引いてのんびり過ごすことにします

柚木ゆず
恋愛
 ※明日(3月6日)より、もうひとつのエピローグと番外編の投稿を始めさせていただきます。  我が儘で強引で性格が非常に悪い、筆頭侯爵家の嫡男アルノー。そんな彼を伯爵令嬢エレーヌは『ブレずに力強く引っ張ってくださる自信に満ちた方』と狂信的に愛し、アルノーが自ら選んだ5人の婚約者候補の1人として、アルノーに選んでもらえるよう3年間必死に自分を磨き続けていました。  けれどある日無理がたたり、倒れて後頭部を打ったことで前世の記憶が覚醒。それによって冷静に物事を見られるようになり、ようやくアルノーは滅茶苦茶な人間だと気付いたのでした。 「オレの婚約者候補になれと言ってきて、それを光栄に思えだとか……。倒れたのに心配をしてくださらないどころか、異常が残っていたら候補者から脱落させると言い出すとか……。そんな方に夢中になっていただなんて、私はなんて愚かなのかしら」  そのためエレーヌは即座に、候補者を辞退。その出来事が切っ掛けとなって、エレーヌの人生は明るいものへと変化してゆくことになるのでした。

継母の嫌がらせで冷酷な辺境伯の元に嫁がされましたが、噂と違って優しい彼から溺愛されています。

木山楽斗
恋愛
侯爵令嬢であるアーティアは、継母に冷酷無慈悲と噂されるフレイグ・メーカム辺境伯の元に嫁ぐように言い渡された。 継母は、アーティアが苦しい生活を送ると思い、そんな辺境伯の元に嫁がせることに決めたようだ。 しかし、そんな彼女の意図とは裏腹にアーティアは楽しい毎日を送っていた。辺境伯のフレイグは、噂のような人物ではなかったのである。 彼は、多少無口で不愛想な所はあるが優しい人物だった。そんな彼とアーティアは不思議と気が合い、やがてお互いに惹かれるようになっていく。 2022/03/04 改題しました。(旧題:不器用な辺境伯の不器用な愛し方 ~継母の嫌がらせで冷酷無慈悲な辺境伯の元に嫁がされましたが、溺愛されています~)

【改稿版】夫が男色になってしまったので、愛人を探しに行ったら溺愛が待っていました

妄夢【ピッコマノベルズ連載中】
恋愛
外観は赤髪で派手で美人なアーシュレイ。 同世代の女の子とはうまく接しられず、幼馴染のディートハルトとばかり遊んでいた。 おかげで男をたぶらかす悪女と言われてきた。しかし中身はただの魔道具オタク。 幼なじみの二人は親が決めた政略結婚。義両親からの圧力もあり、妊活をすることに。 しかしいざ夜に挑めばあの手この手で拒否する夫。そして『もう、女性を愛することは出来ない!』とベットの上で謝られる。 実家の援助をしてもらってる手前、離婚をこちらから申し込めないアーシュレイ。夫も誰かとは結婚してなきゃいけないなら、君がいいと訳の分からないことを言う。 それなら、愛人探しをすることに。そして、出会いの場の夜会にも何故か、毎回追いかけてきてつきまとってくる。いったいどういうつもりですか!?そして、男性のライバル出現!? やっぱり男色になっちゃたの!?

[完結中編]蔑ろにされた王妃様〜25歳の王妃は王と決別し、幸せになる〜

コマメコノカ@女性向け・児童文学・絵本
恋愛
 王妃として国のトップに君臨している元侯爵令嬢であるユーミア王妃(25)は夫で王であるバルコニー王(25)が、愛人のミセス(21)に入り浸り、王としての仕事を放置し遊んでいることに辟易していた。 そして、ある日ユーミアは、彼と決別することを決意する。

処理中です...