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第28話 襲い来るクロスウルフ②

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「え?ど、どういうことでしょうか?
 つまり、勝手に私の魔法を使用する方がいらして、その方から罰金としてお金を徴収しない限りは、私にお金が支払われない性質のものということてしょうか?」
 それならば、支払われるとは言っても、いつお金が手に入るか、わからないじゃない!
 私はサーッと青ざめた。

「──いや、そうじゃない。
 罰金の金額の基準にするものではあるが、使用権利料自体は、固定で魔法作成者に毎月支払われる性質のものだからな。」
 私の心配を悟ってか、レオンハルト様が優しく微笑みながら教えてくれる。
「そうなんですか?」

「公開されない、または使用制限のある魔法の場合は、公開した場合を想定して、支払われるであろう金額を、毎月支払うことで、魔法が非公開になることを、作成者に了承して貰うのさ。新しい有効な魔法も、その作成者も、大切な国の財産だ。本来得られる筈の既得権利を侵害するのは、国や魔塔の本意ではないということだな。──安心したか?」

「はい……。レオンハルト様は、魔塔の決まりに関してお詳しいのですね。」
「まあ、取り締まる側の立場にいたからな。
 魔塔と協力して、魔法犯罪者を捕獲するのも、騎士団の大事なつとめのひとつさ。
 多少は知っている、というところだ。」

 なるほどね。お仕事で関わるのであれば、対象者がどのようなことに違反して、自分たちが捕まえなくてはならないのか、理解しておく必要があるものね。
 下の人たちは指示があれば、理解していなくても動くでしょうけど、騎士団長ともなると、そうもいかないのね。

 私はレオンハルト様から聞いた魔法が非公開にされる件について、ふと思うことがあった。ひょっとしたら、作成者である私も、使うことは出来ないのかしら、と。
 もしもそうであれば、この子を描いた絵を私が持っていてはまずいのかも知れないわ。

「あの……、その……、魔法が非公開になった場合、私自身がその魔法を使うことも出来なくなるのでしょうか?」
「いや?そんな話は聞いたことがないな。
 もちろん犯罪に使用するようなことがあれば別だろうが。そこいらへんは、魔塔に詳しく聞いてみたらいいんじゃないか?」

「そうですね。この子の絵を持って行って、詳しく聞いてみたいと思います。」
「──なんだ、もう描けたのか?」
「はい。動かないでいてくれたので、とても描きやすかったですわ。ただ、まだ乾いていないので、私がこの子を使役でるかどうかまでは、この場で確認出来ませんが。」

「そうか、なら、暗くなる前に戻ろうか。この辺りも、暗くなると、あまり大人しくない魔物がたくさん出るからな。」
「わかりました。」
 私は広げてあった道具を片付けて、絵の具がくっつかないように、木箱の中に慎重にしまい、袋の中に入れた。

 レオンハルト様が馬に荷物をくくりつけようとした時、急に馬がヒヒィーン!と鳴いて暴れ出してしまった。
「どう、どう、落ち着け。
 どうしたんだ?」
 レオンハルト様に手綱を掴まれたまま、馬は前足で飛び跳ねたりしてもがいている。

 メルティドラゴンの子どもが、ガバっと立ち上がると、私の前に立ちふさがるかのようにして、森の方向に向けて、アギャア!と威嚇のような声を放った。レオンハルト様が、ハッとしたように森に視線を向けた。
「……きやがったか。クロスウルフだ。」

 目の部分が赤い十字傷のようなものに塞がれた、灰色の犬のような魔物の群れが、森の中からゆっくりとこちらに歩いてくるではないか。可愛らしいメルティドラゴンの子どもとは、こちらに対する敵意がまるで異なるのが、肌に伝わってくるような気がするわ。

「下がってな。護衛の出番だ。」
 レオンハルト様はそう言うと、馬が逃げ出さないように、荷物を馬ごと、マジックバッグの中へと吸い込んだ。──あんなに大きな物が入る大きさだったのね!!
 レオンハルト様は、ジリジリと距離を詰めてくるクロスウルフに向けて剣を抜いた。

「グルル……、ガウッ!!!」
 恐らくは群れのボスなのであろう、ひときわ大きなクロスウルフが吠えたのを合図に、群れが一斉にレオンハルト様に襲いかかる。
「レオンハルト様!!」
「──ギャン!!!」

 レオンハルト様に襲いかかったクロスウルフが、その剣で真っ二つ寸前の深さまで体を切りつられ、悲鳴をあげて地面に落ちる。
 ──凄いわ!さすが元第一騎士団長ね!
 それを見たクロスウルフのボスが、再びガウッ!ガウッ!と吠えた。

 仲間がやられて、レオンハルト様にたどり着く前に尻込みしていたクロスウルフが、レオンハルト様と、──私の二手に別れて襲いかかってきた。
「くっ……こいつら……!!」
 レオンハルト様に8体、私に2体のクロスウルフが襲いかかる。

「アギャア!!」
 メルティドラゴンが戦闘態勢を取ろうとしたので、「だいじょうぶよ。」と言って、メルティドラゴンの子どもを脇で軽く抱くようにして、その行動を静止しながら、手にしていた絵を、左から右へと撫でた。

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