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第17話 アンへの贈り物①
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それからアンはこの村の決まりごとを教えてくれた。このあたりでは農家をしている家が多く、ヨハンを通じて野菜を売ってお金を獲得していること、村で作っている野菜は出来る限り村で買うこと。まあ、美味しいし村で買うと安いんで、あんまりよそで買うことはないですけどね!とアンは笑った。
そうすることで、1つの農家が1つの野菜に集中して育てられるので、効率がとてもいいのだそうだ。野菜は植え方も手のかけ方も収穫出来る時期も違うから、なのだそう。
誰々さんの家ごと、で作っている野菜とは別に、村全体で作っている高く売れる野菜もあって、それは村人全員で交代で世話をしていて、売上も均等に分配するらしい。
そうしないと、うちも高く売れる野菜だけを作りたい!となってしまうことからと、全体で作ることで質が安定し、この村で作っているからということが、1つのブランドになっているのだという。だからこの村の結束力は高いのだそうだ。そしてこれを提案したのが、なんとアンの夫のヨハンなのだそうだ。
誰よりもその野菜を美味しく作ることの出来たヨハンが、村全体に技術を教える代わりに、生産力とブランド力を高めるのに協力して欲しいと提案したのだそう。……まだ若いのに、ロイエンタール伯爵家の出入り商人になったことといい、アンの夫は平民の中ではなかなかのやり手なのではないかしら?
それをアンに言うと、そうでしょう?ヨハンったら凄いんです!と可愛らしくドヤ顔で夫を誇った。腰に両手を当てて胸をはるアンの姿に、愛おしく思うと同時に切なくなる。
……アンのことが羨ましいわ。私もこんな風に、誰かに夫を自慢したり、されたり出来るような関係が、築けたら良かったのにね。
それからアンと、昼休憩で自宅に戻って来たヨハンと共にお昼ご飯をいただいた。すぐに帰っては来れない距離に仕事に行く時以外は、こうして帰って来てアンの手料理を食べるのだという。アンはとても料理が上手だ。
ロイエンタール伯爵家では、料理人がいるから滅多に作らなかったけれど、それでもお菓子はよく作ってくれたものだ。
胃袋を掴まれちゃったんですよね、と嬉しそうにアンの料理を頬張るヨハンを、幸せそうに見つめるアン。私はそれを微笑ましく見つめた。私の幼なじみで妹で親友の彼女は、とても素敵なご縁に恵まれたのね。
食事が終わりお茶をいただきながら、
「そういえば、私、以前アンと一緒にお試し絵画教室に行ったでしょう?」
「お嬢様はかなり絵を描くことを気に入ってらっしゃいましたよね、ヨハンにキャンバスを追加で頼んだと伺っています。よい趣味が見つかって良かったですよね!」
と、アンが嬉しそうに私に微笑みかける。
「そうね、いいきっかけだったと私も思っているわ。連れて行ってくれてありがとう。」
私もアンに微笑み返す。
私はもともと結婚前から家に引きこもりがちだったのに、まったくの無趣味だったことから、部屋でのんびりと本を読むくらいで、以前から何かご趣味を持ってみてはいかがですか?と、アンに言われていたものだ。
画集は持っていたから、そもそも少し絵に興味はあったのよね。だからアンも工房に連れて来てくれたのだろう。もちろん、魔石の粉末入りの絵の具を作る工房が近くにあるだなんて、こんな小さな村じゃ珍しいことでしょうし、ましてや有名人が使っている絵の具を作る工房だなんて、村の誇りだと思うわ。
それを見せられるという点においても、あの魔石の粉末入りの絵の具工房は、この村に知り合いが訪ねて来たら、必ず連れて行きたい場所の1つなんでしょうね。
「あれから描き続けた絵が、魔塔に魔法絵として認めていただけることになったの。」
「──お嬢様の絵が魔法絵!?それも魔塔に認められた!?じゃあ、お嬢様はこれから、魔法絵師になるってことですか!?」
「……魔塔は凄いですよね、僕らじゃ生涯、関わることのない場所ですよ。」
とヨハンも驚く。
それを聞いたアンが、あら、ヨハンなら魔塔にだって、いつか商品をおろせるようになるに違いないわ!この短期間でたくさんの取引先を増やして、それも全部が凄いところばかり、おまけにバラバラだった村を1つにまとめたじゃない!と言って、ヨハンが、そ、そうかな?と頭の後ろに手をやって盛大に照れている。はいはい、ごちそうさま。
私は思わず笑いながら、
「それでね?私の描いた魔法絵の力は、絵に描いたものを、絵を撫でるだけでその場に召喚出来るというものだったの。だから、はいこれ、アンにこれをあげるわ。」
私は一番小さなキャンバスに描いた絵と、絵を入れる木箱をアンに手渡した。
「召喚!?それってなんか凄そうですね!
──え?というか、これって……。オムツとか、赤ちゃんの着替えの絵ですか?」
「ええ、そうよ。それと、これもね。はい、アンとニーナにプレゼントよ。」
私は絵に描いたものと、まったく同じ赤ちゃん用品をアンに手渡した。
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そうすることで、1つの農家が1つの野菜に集中して育てられるので、効率がとてもいいのだそうだ。野菜は植え方も手のかけ方も収穫出来る時期も違うから、なのだそう。
誰々さんの家ごと、で作っている野菜とは別に、村全体で作っている高く売れる野菜もあって、それは村人全員で交代で世話をしていて、売上も均等に分配するらしい。
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それをアンに言うと、そうでしょう?ヨハンったら凄いんです!と可愛らしくドヤ顔で夫を誇った。腰に両手を当てて胸をはるアンの姿に、愛おしく思うと同時に切なくなる。
……アンのことが羨ましいわ。私もこんな風に、誰かに夫を自慢したり、されたり出来るような関係が、築けたら良かったのにね。
それからアンと、昼休憩で自宅に戻って来たヨハンと共にお昼ご飯をいただいた。すぐに帰っては来れない距離に仕事に行く時以外は、こうして帰って来てアンの手料理を食べるのだという。アンはとても料理が上手だ。
ロイエンタール伯爵家では、料理人がいるから滅多に作らなかったけれど、それでもお菓子はよく作ってくれたものだ。
胃袋を掴まれちゃったんですよね、と嬉しそうにアンの料理を頬張るヨハンを、幸せそうに見つめるアン。私はそれを微笑ましく見つめた。私の幼なじみで妹で親友の彼女は、とても素敵なご縁に恵まれたのね。
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「そういえば、私、以前アンと一緒にお試し絵画教室に行ったでしょう?」
「お嬢様はかなり絵を描くことを気に入ってらっしゃいましたよね、ヨハンにキャンバスを追加で頼んだと伺っています。よい趣味が見つかって良かったですよね!」
と、アンが嬉しそうに私に微笑みかける。
「そうね、いいきっかけだったと私も思っているわ。連れて行ってくれてありがとう。」
私もアンに微笑み返す。
私はもともと結婚前から家に引きこもりがちだったのに、まったくの無趣味だったことから、部屋でのんびりと本を読むくらいで、以前から何かご趣味を持ってみてはいかがですか?と、アンに言われていたものだ。
画集は持っていたから、そもそも少し絵に興味はあったのよね。だからアンも工房に連れて来てくれたのだろう。もちろん、魔石の粉末入りの絵の具を作る工房が近くにあるだなんて、こんな小さな村じゃ珍しいことでしょうし、ましてや有名人が使っている絵の具を作る工房だなんて、村の誇りだと思うわ。
それを見せられるという点においても、あの魔石の粉末入りの絵の具工房は、この村に知り合いが訪ねて来たら、必ず連れて行きたい場所の1つなんでしょうね。
「あれから描き続けた絵が、魔塔に魔法絵として認めていただけることになったの。」
「──お嬢様の絵が魔法絵!?それも魔塔に認められた!?じゃあ、お嬢様はこれから、魔法絵師になるってことですか!?」
「……魔塔は凄いですよね、僕らじゃ生涯、関わることのない場所ですよ。」
とヨハンも驚く。
それを聞いたアンが、あら、ヨハンなら魔塔にだって、いつか商品をおろせるようになるに違いないわ!この短期間でたくさんの取引先を増やして、それも全部が凄いところばかり、おまけにバラバラだった村を1つにまとめたじゃない!と言って、ヨハンが、そ、そうかな?と頭の後ろに手をやって盛大に照れている。はいはい、ごちそうさま。
私は思わず笑いながら、
「それでね?私の描いた魔法絵の力は、絵に描いたものを、絵を撫でるだけでその場に召喚出来るというものだったの。だから、はいこれ、アンにこれをあげるわ。」
私は一番小さなキャンバスに描いた絵と、絵を入れる木箱をアンに手渡した。
「召喚!?それってなんか凄そうですね!
──え?というか、これって……。オムツとか、赤ちゃんの着替えの絵ですか?」
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