養っていただかなくても結構です!〜政略結婚した夫に放置されているので魔法絵師として自立を目指したら賢者と言われ義母にザマァしました!(続く)
陰陽@3作品コミカライズと書籍化準備中
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第9話 悲しい夜の記憶①
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壁掛け時計は時計だから時間を操作出来るようになったのだろう。ヨハンが昨日尋ねて来たのも確か朝の10時頃。今は朝の7時だから約21時間分巻き戻ったことになる。新しく上に描いた絵は16時少し前をさしている。下に描かれた絵はよく覚えていないが、夕食前に1番最後に描き始めたものだから、大体の時間はあっていることになる。
描いた時計の針の時間分が巻き戻るのであれば、他のものを上に重ねた場合はどうなるのか?また、同じものであっても時計以外だったとしたら?
考えるときりがないが、これが私がこの家から自立する為に必要なことなのだ。
絵を描く事自体もちろん楽しいが、どんな絵の効果が出るか考えるだけで、それはもうとてもワクワクした気分になるのだった。
「……どうした?」
「え?」
私はイザークの話に耳を傾けていなかったので、何を話しかけられたのかが分からず、一瞬ポカンとしてしまった。
「──今日はやけに楽しそうだな、と言ったんだ。聞いていなかったのか?」
私はやっぱり顔に出やすいのだろうか?
私は慌てて返事をした。
「はい。絵を描くことが思ったよりも楽しくなってしまい、絵のことばかりを考えておりました。大変申し訳ありません。」
私は素直にイザークにわびた。
「いや、構わない。絵に造詣が深いのであれば、婦人たちとの会話も弾むことだろう。
そういえばバルテル侯爵夫人が新しく魔法絵を購入したので披露したいと招待状が届いていたな。行ってみるといい。」
イザークはさっそく社交にからめてくる。
だが今の私は魔法絵師が描いた絵に興味があった。私は招待状に応じることにした。
「はい。ぜひ伺わせていただきたいと思いますわ。とても楽しみです。」
私が笑顔で素直にそう答えたので、イザークは絵を描くことを許可して正解だったなとでも言わんばかりのドヤ顔をした。
イザークもなかなかに顔に出るわね。
「新しいドレスを作らせよう。──ヴァイゲル婦人を呼んでおいてくれ。」
「かしこまりました。」
最後の言葉は家令に向けて言ったものだ。私としては新しいドレスを作るくらいなら、正直その分のお金で、少しでも新しい絵の具が欲しいのだけど、黙ってお礼を言った。
お茶会のたびに新しいドレスを着なくてはならないのだから、貴族婦人というものは大変だ。ヴァイゲル婦人は私のドレスをいつも作ってくれている服飾店のデザイナーだ。
彼女の作るドレスは嫌いじゃないけれど、ドレスは長時間身に付けるのがしんどいものだから、あまり好きではないのよね。
私の社交嫌いの理由の一端が、この長時間着るのがしんどいドレスにもあるのだ。
ろくにものが食べられない服を着て、ニコニコと嘘の笑顔で興味のない会話を繰り広げる人たちの中に長時間いなくてはならないなんて、本当にただの拷問だもの。
貴族婦人のお茶会や、貴族の邸宅でのパーティは、親しい人たちを呼んで楽しむ為のものなんかじゃなく、関係性を強固にする為の足場がためと、その確認のようなもの。
上品な言い回しに含まれた嫌味なんかも上手に言い返せるくらいでないといけない。
私にそんなこと出来るわけがないのだ。
誠実に嘘なく生きてきたのだもの。
そういう人たちとの関わりを極端に避けてきたことで、私はそういう場面に相対したとき、ニッコリ微笑んでかわす力なんてない。
それが貴族婦人に唯一求められることだなんて、本当に嫌になってしまうわ。
──でも、それが貴族。それが嫌なら爵位を捨てて自立するしかない。アデリナ・アーデレはそれをやってのけたのだ。
公爵令嬢である立場を捨て、1人の魔法絵師として生きることを選んだ。彼女には兄がいたので公爵家の後継者問題にはそもそも関わりがないし、公爵令嬢なんて立場だって、結婚してしまえば意味のなさないもの。
夫となった人の爵位が新たな自身の爵位となる。それが貴族令嬢の唯一といっていい未来なのだ。公爵家は数が少ないから、王家に嫁がない公爵令嬢は、他の公爵家に独身の子息がいなければ、下の爵位の貴族、または外国の王族に嫁ぐことになる。
──だが彼女はそのどれも選ばなかった。
口さがない貴族たちは、上位貴族も下位貴族も、公爵令嬢の立場を捨てたアデリナ・アーベレを揶揄したけれど、新しい女性の生き方をその身をもって示したアデリナ・アーベレを支持する人たちも多い。
何より魔法絵師として、人気実力ともに5本の指に入る彼女を、この魔法絵流行りの昨今、無視することは出来ないのだから。
私はイザークの話を無視して一心不乱に食事を続けながら考え事をしていたからか、めずらしくイザークが食べ終わる前に、自分の分の朝食を食べきることが出来た。
いつも物足りなくなって、お昼ご飯を多めにして貰って、しっかり食べていたのだけれど、今日はそんなことにはならなそうね。
本来貴族は朝食と夕食しか取らないのだ。
代わりにティータイムがあり、軽い食事やお菓子などをいただく。これが貴族婦人のお茶会の基本スタイルだ。
夜にパーティを開く事が多いから、お腹をすかせておくためなのだけれど、我が家は私が開催しないのでパーティがない。
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少しでも面白いと思ったら、エピソードごとのイイネ、または応援するを押していただけたら幸いです。
描いた時計の針の時間分が巻き戻るのであれば、他のものを上に重ねた場合はどうなるのか?また、同じものであっても時計以外だったとしたら?
考えるときりがないが、これが私がこの家から自立する為に必要なことなのだ。
絵を描く事自体もちろん楽しいが、どんな絵の効果が出るか考えるだけで、それはもうとてもワクワクした気分になるのだった。
「……どうした?」
「え?」
私はイザークの話に耳を傾けていなかったので、何を話しかけられたのかが分からず、一瞬ポカンとしてしまった。
「──今日はやけに楽しそうだな、と言ったんだ。聞いていなかったのか?」
私はやっぱり顔に出やすいのだろうか?
私は慌てて返事をした。
「はい。絵を描くことが思ったよりも楽しくなってしまい、絵のことばかりを考えておりました。大変申し訳ありません。」
私は素直にイザークにわびた。
「いや、構わない。絵に造詣が深いのであれば、婦人たちとの会話も弾むことだろう。
そういえばバルテル侯爵夫人が新しく魔法絵を購入したので披露したいと招待状が届いていたな。行ってみるといい。」
イザークはさっそく社交にからめてくる。
だが今の私は魔法絵師が描いた絵に興味があった。私は招待状に応じることにした。
「はい。ぜひ伺わせていただきたいと思いますわ。とても楽しみです。」
私が笑顔で素直にそう答えたので、イザークは絵を描くことを許可して正解だったなとでも言わんばかりのドヤ顔をした。
イザークもなかなかに顔に出るわね。
「新しいドレスを作らせよう。──ヴァイゲル婦人を呼んでおいてくれ。」
「かしこまりました。」
最後の言葉は家令に向けて言ったものだ。私としては新しいドレスを作るくらいなら、正直その分のお金で、少しでも新しい絵の具が欲しいのだけど、黙ってお礼を言った。
お茶会のたびに新しいドレスを着なくてはならないのだから、貴族婦人というものは大変だ。ヴァイゲル婦人は私のドレスをいつも作ってくれている服飾店のデザイナーだ。
彼女の作るドレスは嫌いじゃないけれど、ドレスは長時間身に付けるのがしんどいものだから、あまり好きではないのよね。
私の社交嫌いの理由の一端が、この長時間着るのがしんどいドレスにもあるのだ。
ろくにものが食べられない服を着て、ニコニコと嘘の笑顔で興味のない会話を繰り広げる人たちの中に長時間いなくてはならないなんて、本当にただの拷問だもの。
貴族婦人のお茶会や、貴族の邸宅でのパーティは、親しい人たちを呼んで楽しむ為のものなんかじゃなく、関係性を強固にする為の足場がためと、その確認のようなもの。
上品な言い回しに含まれた嫌味なんかも上手に言い返せるくらいでないといけない。
私にそんなこと出来るわけがないのだ。
誠実に嘘なく生きてきたのだもの。
そういう人たちとの関わりを極端に避けてきたことで、私はそういう場面に相対したとき、ニッコリ微笑んでかわす力なんてない。
それが貴族婦人に唯一求められることだなんて、本当に嫌になってしまうわ。
──でも、それが貴族。それが嫌なら爵位を捨てて自立するしかない。アデリナ・アーデレはそれをやってのけたのだ。
公爵令嬢である立場を捨て、1人の魔法絵師として生きることを選んだ。彼女には兄がいたので公爵家の後継者問題にはそもそも関わりがないし、公爵令嬢なんて立場だって、結婚してしまえば意味のなさないもの。
夫となった人の爵位が新たな自身の爵位となる。それが貴族令嬢の唯一といっていい未来なのだ。公爵家は数が少ないから、王家に嫁がない公爵令嬢は、他の公爵家に独身の子息がいなければ、下の爵位の貴族、または外国の王族に嫁ぐことになる。
──だが彼女はそのどれも選ばなかった。
口さがない貴族たちは、上位貴族も下位貴族も、公爵令嬢の立場を捨てたアデリナ・アーベレを揶揄したけれど、新しい女性の生き方をその身をもって示したアデリナ・アーベレを支持する人たちも多い。
何より魔法絵師として、人気実力ともに5本の指に入る彼女を、この魔法絵流行りの昨今、無視することは出来ないのだから。
私はイザークの話を無視して一心不乱に食事を続けながら考え事をしていたからか、めずらしくイザークが食べ終わる前に、自分の分の朝食を食べきることが出来た。
いつも物足りなくなって、お昼ご飯を多めにして貰って、しっかり食べていたのだけれど、今日はそんなことにはならなそうね。
本来貴族は朝食と夕食しか取らないのだ。
代わりにティータイムがあり、軽い食事やお菓子などをいただく。これが貴族婦人のお茶会の基本スタイルだ。
夜にパーティを開く事が多いから、お腹をすかせておくためなのだけれど、我が家は私が開催しないのでパーティがない。
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