養っていただかなくても結構です!〜政略結婚した夫に放置されているので魔法絵師として自立を目指したら賢者と言われ義母にザマァしました!(続く)
陰陽@4作品商業化(コミカライズ他)
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第2話 アンの家①
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アンの家は森の近くの村の奥深いところにあった。近くに畑もあるし蝶々が飛んでいたり、花の咲き乱れる場所があったりと、自然豊かで過ごしやすそうだった。
馬車がこれ以上道に入れなかったので、途中でロイエンタール伯爵家の馬車を降りる。
御者は馬車で待つというので、護衛もつけずにアンの家に向かう途中で、走って来た子どもたちとすれ違う。みんな楽しそうだ。
アンがメイドをやめてからというもの、私は常に一人だ。代わりの私専属の従者も護衛も、イザークはつけてくれなかった。
従者もなしに一人で歩いている貴族婦人など私くらいだったが、気が付いたうえで必要ないと思っているのか、興味がなくて家令に指示をしないのか。おそらくは後者なのだろう。私をナメているメイドなんて付けられても不愉快なだけだし、身軽かつ気楽な時間が出来るので、今はむしろこれでいいと思う。
アンの家は木造りの2階建てで、中古物件とはいえ平民の新婚夫婦が住むにはかなり贅沢なほうらしい。
アンの夫となったヨハンは、ロイエンタール伯爵家にも出入りをし、野菜を大量におろしている農家兼小売業者の為、平民の中では割と裕福だといえる。
家の周囲にはアンが育てているのだろう、たくさんの花の植木鉢が並べられ、とても可愛らしい雰囲気だった。柵はないから庭と言っていいか分からないけれど、隣近所に家がないから、広い敷地をふんだんに使って、赤ちゃんとアンとご主人のものと思われる洗濯物が風にはためいていた。
私が手に入れたかったものが、ここにはすべてある気がして、アンを祝いたいのに何だか胸がチクリと傷んだ。
「──お嬢様!!」
ドアを開けるなり、アンが嬉しそうな表情を浮かべて玄関で出迎えてくれる。
「お嬢様はやめて。一応結婚してるのよ。そんな風に呼んでくれるのは、もうあなただけだわ。」
私は苦笑いを浮かべてそう言った。
「でも、お嬢様はお嬢様ですから。
私と2人だけの時はよろしいでしょう?」
アンが甘えたような仕草でそう言ってくる。
「もう、仕方がないわね。分かったわ。」
そう言って微笑むと、アンは嬉しそうに子どもの頃そのままの笑顔で笑った。
「主人は仕事で出かけてるんです。お昼は食べに戻って来ますから、一緒に召し上がって下さいね?」
「ええ。楽しみだわ。」
アンについて家の中に案内され、テーブルの前の椅子をすすめられて座った。
お下がりを譲って貰ったのだろう。テーブルの脇に古びたベビーベッドが置かれ、そこに可愛らしい赤ん坊が、スヤスヤと寝息をたてていた。
「この子がそうなのね?可愛らしいわ。」
「はい、ニーナと言います。」
「アンの小さい頃にとても、よく似ているわ。きっと可愛らしい女の子に育つでしょうね。鼻は旦那様似かしら?」
アンは鼻が低いけれど、眠っている赤ん坊はきれいな鼻筋をしていた。
「そうなんです。コンプレックスだったから、それが一番嬉しくて。」
アンは自慢そうにそう言った。
それからアンお手せいの焼き菓子とお茶をいただいた。優しい味。私の乳母だったアンの母親から引き継いだ味。何度も子どもの頃から食べた味に、まだ幸せだった頃を思い出して何だか泣きそうになる。
アンは私に子どもが出来たら、乳母として復帰させてくださいね?お嬢様のお子さまは、必ず私が面倒みますから!と気色ばんでくれたが、私はこのまま子どもが出来ないほうが、捨てられる時に心残りがなくていいと思っていたから、素直に喜べなくて言葉を濁して曖昧に微笑んだ。
2人でおしゃべりを楽しんでいると、アンの夫であるヨハンが仕事から帰って来た。何度もロイエンタール伯爵家で顔を合わせていたから、ヨハンとも顔見知りだ。もちろんいつもはメイドたちが対応するから、私が直接話すのは、用事があってなおかつ、ヨハンとアンの話がしたい時に限られるけれど。
ヨハンは脱いだ帽子を胸の前に当てて、嬉しそうに私に挨拶してくれた。幼い頃からアンと一緒に育った私は、雇い人の娘と従者という関係ながら、姉妹のような幼なじみのような関係でもあった。だから本当は結婚式にも出たかったのだけれど。
義母に伯爵夫人が従者の結婚式に出るなんて体裁が悪いと責められ、諦めることを告げる際、アンの前で子どものように泣いてしまった。せめて自宅に祝いに行くことだけは、人に見られないから許して欲しいと頼み込んで、ようやく受け入れて貰ったのだ。
それを知っているヨハンは、私をアンにとって大切な人だと思ってくれているみたいだ。イザークの指示で家令から預かった祝い金を手渡すと、ヨハンは平身低頭でお礼を言ってくれた。
私からはお金は渡せなかったけれど、女の子だとは事前に手紙で聞いていたので、私のドレスを縫い直して、ニーナのドレスを作ってプレゼントした。アンもヨハンも喜んでくれた。
アンとヨハンとともにお昼をいただく。ヨハンが育てた取れたての野菜を使った料理はとても美味しかった。ニーナにもお乳をあたえ、アンがニーナにゲップをさせているのを微笑ましく見つめる。ヨハンが再び仕事に戻って行ったあとで、アンがこのあたりを散歩してみませんか?と言ってきた。
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馬車がこれ以上道に入れなかったので、途中でロイエンタール伯爵家の馬車を降りる。
御者は馬車で待つというので、護衛もつけずにアンの家に向かう途中で、走って来た子どもたちとすれ違う。みんな楽しそうだ。
アンがメイドをやめてからというもの、私は常に一人だ。代わりの私専属の従者も護衛も、イザークはつけてくれなかった。
従者もなしに一人で歩いている貴族婦人など私くらいだったが、気が付いたうえで必要ないと思っているのか、興味がなくて家令に指示をしないのか。おそらくは後者なのだろう。私をナメているメイドなんて付けられても不愉快なだけだし、身軽かつ気楽な時間が出来るので、今はむしろこれでいいと思う。
アンの家は木造りの2階建てで、中古物件とはいえ平民の新婚夫婦が住むにはかなり贅沢なほうらしい。
アンの夫となったヨハンは、ロイエンタール伯爵家にも出入りをし、野菜を大量におろしている農家兼小売業者の為、平民の中では割と裕福だといえる。
家の周囲にはアンが育てているのだろう、たくさんの花の植木鉢が並べられ、とても可愛らしい雰囲気だった。柵はないから庭と言っていいか分からないけれど、隣近所に家がないから、広い敷地をふんだんに使って、赤ちゃんとアンとご主人のものと思われる洗濯物が風にはためいていた。
私が手に入れたかったものが、ここにはすべてある気がして、アンを祝いたいのに何だか胸がチクリと傷んだ。
「──お嬢様!!」
ドアを開けるなり、アンが嬉しそうな表情を浮かべて玄関で出迎えてくれる。
「お嬢様はやめて。一応結婚してるのよ。そんな風に呼んでくれるのは、もうあなただけだわ。」
私は苦笑いを浮かべてそう言った。
「でも、お嬢様はお嬢様ですから。
私と2人だけの時はよろしいでしょう?」
アンが甘えたような仕草でそう言ってくる。
「もう、仕方がないわね。分かったわ。」
そう言って微笑むと、アンは嬉しそうに子どもの頃そのままの笑顔で笑った。
「主人は仕事で出かけてるんです。お昼は食べに戻って来ますから、一緒に召し上がって下さいね?」
「ええ。楽しみだわ。」
アンについて家の中に案内され、テーブルの前の椅子をすすめられて座った。
お下がりを譲って貰ったのだろう。テーブルの脇に古びたベビーベッドが置かれ、そこに可愛らしい赤ん坊が、スヤスヤと寝息をたてていた。
「この子がそうなのね?可愛らしいわ。」
「はい、ニーナと言います。」
「アンの小さい頃にとても、よく似ているわ。きっと可愛らしい女の子に育つでしょうね。鼻は旦那様似かしら?」
アンは鼻が低いけれど、眠っている赤ん坊はきれいな鼻筋をしていた。
「そうなんです。コンプレックスだったから、それが一番嬉しくて。」
アンは自慢そうにそう言った。
それからアンお手せいの焼き菓子とお茶をいただいた。優しい味。私の乳母だったアンの母親から引き継いだ味。何度も子どもの頃から食べた味に、まだ幸せだった頃を思い出して何だか泣きそうになる。
アンは私に子どもが出来たら、乳母として復帰させてくださいね?お嬢様のお子さまは、必ず私が面倒みますから!と気色ばんでくれたが、私はこのまま子どもが出来ないほうが、捨てられる時に心残りがなくていいと思っていたから、素直に喜べなくて言葉を濁して曖昧に微笑んだ。
2人でおしゃべりを楽しんでいると、アンの夫であるヨハンが仕事から帰って来た。何度もロイエンタール伯爵家で顔を合わせていたから、ヨハンとも顔見知りだ。もちろんいつもはメイドたちが対応するから、私が直接話すのは、用事があってなおかつ、ヨハンとアンの話がしたい時に限られるけれど。
ヨハンは脱いだ帽子を胸の前に当てて、嬉しそうに私に挨拶してくれた。幼い頃からアンと一緒に育った私は、雇い人の娘と従者という関係ながら、姉妹のような幼なじみのような関係でもあった。だから本当は結婚式にも出たかったのだけれど。
義母に伯爵夫人が従者の結婚式に出るなんて体裁が悪いと責められ、諦めることを告げる際、アンの前で子どものように泣いてしまった。せめて自宅に祝いに行くことだけは、人に見られないから許して欲しいと頼み込んで、ようやく受け入れて貰ったのだ。
それを知っているヨハンは、私をアンにとって大切な人だと思ってくれているみたいだ。イザークの指示で家令から預かった祝い金を手渡すと、ヨハンは平身低頭でお礼を言ってくれた。
私からはお金は渡せなかったけれど、女の子だとは事前に手紙で聞いていたので、私のドレスを縫い直して、ニーナのドレスを作ってプレゼントした。アンもヨハンも喜んでくれた。
アンとヨハンとともにお昼をいただく。ヨハンが育てた取れたての野菜を使った料理はとても美味しかった。ニーナにもお乳をあたえ、アンがニーナにゲップをさせているのを微笑ましく見つめる。ヨハンが再び仕事に戻って行ったあとで、アンがこのあたりを散歩してみませんか?と言ってきた。
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