養っていただかなくても結構です!〜政略結婚した夫に放置されているので魔法絵師として自立を目指したら賢者と言われ義母にザマァしました!(続く)
陰陽@3作品コミカライズと書籍化準備中
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第2話 アンの家②
しおりを挟む「じつは近くに、有名な魔法絵師用の絵の具を作っている工房があるんです。」
「へえ、それは知らなかったわ。」
「工房ですけど、お店も開いているので、見てみると楽しいと思いますよ?」
「──こんなところで店を?」
はっきり言って街からだいぶ離れているし、お客がたくさん来るとも思えない。それなのに、こんなところでわざわざ?
「なんと、あのアデリナブルーを作っている唯一の工房なんです!だからこんなところまで買い付けにくる人がいるんですよ。」
アデリナ・アーベレ!
今最も有名な女流魔法絵師だ。公爵令嬢ながら芸術学校を主席で卒業し、その卓越した写実性の高い作風もさることながら、彼女が使用したことで一躍有名になり、通称アデリナブルーと呼ばれる空の美しさと、そこから今まさに飛び立たんとするかのような蝶や鳥たちがモチーフの人気の魔法絵師だ。
イザークが購入した絵の1つで、我が家のホールに飾られている絵も、アデリナ・アーベレが描いた最も号数の大きな絵で、それ一枚で伯爵邸をもうひとつ建てられると噂される程の価値がある。
イザークが購入したものの中では、私は唯一それが好きだった。
美しくどこまでも澄み渡った空から飛び出してくる大鷲の背に乗って、私もどこまでも一緒に飛んで行けそうに思えたから。
私は孤独な家の中でただひとり、その絵を眺めては慰められていた。この家を出たいと強く思ったのもその頃だ。
「……行きたい。行ってみたいわ。」
私がそう言うと、アンは嬉しそうにニッコリと微笑んだ。
ニーナはアンといると安心しきっているのか、知らない人の前や、知らないところに連れて行ってもあまり泣かないのだそうだ。
「おかげで割とニーナと一緒にお出かけしやすいんです。」
アンはそう言いながら、ニーナのかえのオムツや着替を2種類、敷物、玩具、授乳ケープ、おしぼりをいくつか、それを使ったら入れる為の布袋、ハンカチを数枚、赤ん坊が眠った時用のおくるみなどを準備した。荷物が多いのね、と言うと、アンは、いつもこんなもんです、と笑った。
アンは前に抱っこ紐でニーナを、後ろにニーナの為の荷物を背負って、いざ出発!と嬉しそうに私と家を出た。
森の脇の道をひたすら真っすぐ歩いたところにその工房はあった。3階建てのレンガ造りで、2階の窓に3つ並んだ花の植木鉢が置かれているのが見える。
3階部分はおそらく屋根裏部屋なのだろう。1階や2階部分と比べると高さが低い気がする。レンガ造りで3階建ての建物を建てられるということは、小さな工房ながらかなり儲かっているのだろうことが伺えた。木々に囲まれたその建物は、一見するとまるでレストランのような外観だった。
工房というと無骨な職人たちの集まる小汚い場所を連想していただけに、ちょっと意外な美しさだった。やはり芸術に関連する商品を取り扱っているだけに、外観にも気を配っているのだろう。基本は工房だからか店名の書かれた看板のようなものはなかった。ドアを押して中に入ると、チリンチリンという可愛らしい鈴のような音が鳴り、静かにいらっしゃいという声がした。
「わあ……!素敵ね……!」
私は思わず簡単の声を漏らした。
2階まで吹き抜けの店内には、絵の具だけでなく様々な画材が見やすく並べられ、それだけでも絵を描かない人間でもワクワクする。
2階部分につながる螺旋階段の上の一部は簡易な画廊になっているらしく、様々な絵が飾られていることが1階からでも見て取ることが出来る。
ひときわ目立つ場所には、アデリナ・アーベレの絵と思わしき作品も飾ってあった。
「店の裏手が工房と絵画教室になっているんです。生徒さんたちの絵も飾ってあるんですよ。あとで見てみますか?」
とアンが教えてくれた。
「ええ!ぜひ見たいわ!」
絵画教室!なんて素敵な響きだろうか。芸術学校に通わずとも絵が習えるということだ。
遠目に見た生徒の作品だというそれらも、まだまだ荒削りで稚拙さも感じられるものの、まるできちんと学校に通っている生徒たちのものであるかのように、作品として見て楽しめるようになっている。
ここで習えば私もあんな風に──アデリナ・アーベレのように、自由な絵を描けるようになるだろうか?
そうすれば、この心ももっと慰められるだろうか。いや、きっとなるに違いない。
私は一気にこの工房の虜になってしまったのだった。
アンとともに店内を見て回る。独自開発しているという絵の具はどれも興味深かったが、やはり特にアデリナブルーの美しさに心が惹かれた。アデリナ・アーベレはこの絵の具をただ塗り重ねているというわけではないけれど、やはり絵の具自体の発色の美しさは目をみはるものがあった。
この色を使って絵を描いてみたい。この絵の具を前にすると、誰もが抱くであろう感情が、私の中にも確かに芽生えたのだった。
続けて2階に上がり、展示されている絵を眺めた。生徒たちの絵はどこかみな自由な感じがして、貴族の家や美術館に飾られている絵では決して感じることのない、楽しい気持ちにさせられた。
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