旦那様は魔法使い

なかゆんきなこ

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第一章 二人の日常 1

小さな恋の物語編 3

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『小さな恋の物語編』はこれにて完結です。
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「ララっ」
 ララは弾丸のように走り、あっという間に港の外れまで来た。
 セラフィは走るララに追いついて、その手を取る。
「うっ、うえっ」
 ララは泣きじゃくり、弱々しくセラフィを見上げる。
「…ごめん。もっと上手く、連れ出せば良かったな」
「ち…ちがっ、セラフィ…悪く…ない…」
 少年達にからかわれたのは恥ずかしくて悔しかったけれど。
 自分がこんなに悲しいのは、アンディに、好きな男の子に、拒絶されたからだ。
 こればっかりは、彼の気持ちだけは、ララにも、そしてセラフィにも、どうしようもない。
 また、両目からぼろぼろと涙が零れる。
 馬鹿みたいだ。浮かれて、騒いで。アニエス達を巻き込んで。それで、結局、受け取ってもらえなくて。泣いて。
 迷惑、かけてる。
 そう思えば思うほど、涙が止まらない。
「うえええん」
 セラフィはララが落ち着くまで、その背をさすってやった。
「あっ、あのねっ…アンディねっ…」
「うん」
「ほんとはっ、優しくてねっ…」
 学校で料理の授業があった時。
 自分では先生の言うとおり、やってみたつもりだったのだが、ララは失敗した。
 黒焦げになったカップケーキ。
 みんなが美味しそうなカップケーキを手に誇らしげにしているのを、ただ見ていることしかできなくて。落ち込んで。
 けれど誰もが敬遠する中、ただ一人アンディだけが、ララの作った黒焦げのカップケーキを食べてくれた。
「…美味しいって、言って、くれてねっ…」
 見た目は悪いけど、味は悪くない。
 アンディがそう言ってくれたから、自分は辛くなかった。
 料理が下手だってからかれれても、辛くなかったんだ。
 その時から、友達だと思っていた少年は友達とは違う、特別な存在になった。
 声をかけてくれるのが嬉しくて。
 笑ってくれるのが嬉しくて。
「だから…っ、今度はちゃんと…っ、見た目もきれいでおいしいの、食べてもらいたくて…っ…」
 でも食べてもらえなかったよう、とララは泣く。
「ララ…」
 セラフィはララがぎゅっと握りしめる、クッキーの包みを見つめた。
 力強く握りしめていたせいで、綺麗なラッピングがしわしわになっている。
「…食べる」
 ララはぐしゅっと涙を拭い、クッキーの袋を持ち上げた。
「せっかく上手に焼いたんだもん。自分で…食べる…」
「うん…」
 ララはそっと、包みを開いた。
 中から一枚、取り出したクッキー。
 アンディに、食べてもらうはずだったクッキー。
「…セラフィにも、あげる」
 それを一枚、セラフィに差しだした。
「ありがとう、ララ」
 セラフィがそう、クッキーを受け取った時、

「まっ、待てよ!!」
 
 アンディの声が、響いた。
「アンディ…?」
 ララは茫然と、目の前に立つ少年を見つめる。
 走ってきたらしい彼は、ぜえぜえと、息を切らしていた。
「…それ、俺のだろ」
「えっ」
 アンディはつかつかと歩み寄り、ララの持つクッキーの袋と、セラフィの持つクッキーを一枚奪い取る。
 そしてセラフィから奪い取ったクッキーを、ばくっと口に入れた。
「…………美味いよ」
「あ…」
「…悪かったな。俺、恥ずかしかっただけで…」
 友達にからかわれて、恥ずかしかったんだ。
 あの場でプレゼントを受け取ったら、またからかわれると思って。それで、と。
 アンディが不機嫌そうに、呟く。
 そのほっぺたは、真っ赤に染まっていた。

「おまえのこと、嫌いなわけじゃない…から」



「って言ってくれたのー!!」
 弾丸のようにアウトーリ家に入ってきたララは、そう言ってアニエスにぎゅーっと抱きついた。
 後からやってきたセラフィとアクアに詳しい話を聞いたアニエスは、あらあらとララの顔を見つめる。
 涙でぬれた頬。でも、その瞳だけは変わらずキラキラと輝いている。
「そうなの。良かったわね、ララ」
「うんっ!」
 アンディが自分を追い掛けて来てくれただけで、「嫌いじゃない」と言ってくれただけで、ララは十分だった。
「ありがとう! アニエスお姉さん!! ありがとう!! セラフィ、アクア」
「どういたしまして」
 とアニエスは微笑む。そして二匹の猫達も、揃って「「にゃー」」と鳴いた。
「わたし、これからは料理も頑張るんだ! それでね、アニエスお姉さんみたいなお嫁さんになるの!!」
「まあ」
 ララはにっこりと笑ってアニエス、そして二匹の猫達にキスを贈ると、「またね!!」と言ってまた弾丸のように飛び出していった。
「ふふ。可愛いわね、ララ」
「「にゃー」」
 アニエスと猫二匹は微笑ましげに、少女の去った扉を見つめる。
 そして一人、椅子に座ってアニエスの焼いたクッキーを頬張っていたサフィールは。
 ララのせいで二度もおあずけをくらった魔法使いは、
(…やれやれ…)
 やっと静かになったと、嘆息した。

************************************************
 この年頃の少年少女って、こんな感じだったよな…と遠い昔に(笑)想いを馳せながら書きました。別に付き合うとか付き合わないとかそういう話にはならなくても、相手の一挙一動でただ胸がときめく。嬉しい。みたいな。
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