孤独の恩送り

西岡咲貴

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4章 友情の崩壊

46話 いじめの代償

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「悪いが急用ができたんだ。
 先に帰っててくれ……」

 テストが終わった後、「帰ろうぜ」と後ろの席から言ってきた誘いを断った。

 彼が校門を出るのを教室の窓から確認した後、呼び出された空き教室へ向かう。

 あれ程キツク言ったが、まだ話しかけてくる事ができるとは、かなりしつこい奴だ。

「わざわざ俺を呼び出して、話ってなんだよ?」

 指定された場所に到着すると中には既に誰かの気配があったので、そんな事を言いながら扉を開く。

 しかしそこには、呼び出した本人とは別にもう一人の存在があった。

「涼香、どうしたんだ?
 お前まで居るとは思わなかったよ」

 彼女は颯太とあんな事があってから、しばらく休んでいたが、今日久しく登校してきたのだ。

 放課後に何故ここに居るのだろうか?

「上杉、どういう事だよ?」

 何も分からず質問する。

「私が涼香ちゃんも呼んだの。
 話を聞いて欲しくて……」

 余計に分からない。

「話ってなんだよ?」

 入ってきた扉を閉めて、彼女達の方へ寄る。

 まぁ、昔涼香が上杉にいじめられていたと言っても俺が居れば何かをしてくる事はないだろう。

「ごめんなさい……」

 彼女は俺達に深々と頭を下げた。

「は?」

 一瞬何を言っているのか分からなかった。

 俺が知っている彼女のイメージは、素直に謝罪するような人物ではない。

「この前、誠君に言われたよね?
 まずは、涼香ちゃんに謝れって……」

 彼女は下を向いて涙をこぼしている。

「そんな事は分かってたよ……。
 いじめてしまっていた時だって、涼香ちゃんが嫌いだった訳じゃない……。
 でも、どうしても止められなかった……。
 誠君の言う通り……あいつらに……そうしろって言われていた……。
 涼香ちゃんに嫌がらせなんてしたくなかったけど、それを拒んでしまったら、次の標的は私だから……。
 怖かったんだよ……。
 本当は、誠君や涼香ちゃんと仲良くなりたかっただけなのに……」

 彼女にも色々事情があるのは分かる。

 呼びつけて俺達に謝罪できる事は凄いけど、これは本心なのだろうか?

 あいつらに「謝ってこい」と言われて、遊ばれている可能性だってある。

 あるいは、カースト上位のグループから除外された時の保険の為か?

 どちらにせよ、この教室を出た後の彼女の行動を観察しておかなくては心が何処にあるのか分からない。

 颯太と涼香の問題だけでも厄介だと言うのに、これ以上問題を増やして涼香を困らせる訳にも、傷付ける訳にも行かない。

「四人は何をする時も、いつも一緒で凄く羨ましかった。
 お互いがお互いの事を想っている関係性が私にとっては眩しかった……」

 この子は本気で言っているのだろうか?

 自分の立場を守る為に演技をしていたって分かりはしない。

「あいつらに友達止めるって言ってきた。
 人が傷付く事をしないと一緒に居られない関係性なんて友達じゃないよね……。
 涼香ちゃんにずっと謝りたかった……」

 そんな事を言って泣きながら土下座した彼女は、本気で凄いと感じた。

 悪かったと思った所で実際に行動できる事じゃないし、物凄く勇気のいる事だと思う。

 心では分かっていても、絶対に言ってはならない事を口にしてしまった颯太もこの子を見習って欲しいとさえ思うくらいだ。

 しかし、実際に謝られているのは俺ではないのだから、許すかどうかを勝手に決める訳にも行かない。

「どうする?」
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