孤独の恩送り

西岡咲貴

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4章 友情の崩壊

45話 「神の力」という言葉を借りた本気

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 チャイムが鳴り、テストが終了する。

 ハッキリ言って想定していたよりもかなり簡単な内容だった。

 普段はさぼっているので俺が言えた事ではないのだが、真面に勉強していたら点数が取れない訳がないと思えて仕方がない。

 問題なのは普段の結果と点数が違い過ぎる事で、カンニングを疑われないだろうかと言う事だ。

 しかしながら、かなり勉強した真っ黒なノートがあるし、教科書も読み込み過ぎてボロボロになっている。

 問題集にも色々書き込んである。

 カンニングが冤罪である事を証明できる材料はいくらでもあるので、教師に呼び出されたとしても何とでも言い返す事は出来る。

「ごめん、回収するよ」

 一番後ろの席の上杉蛍が答案用紙を集めに来た。

「話があるんだけど、後で少し時間をくれない?」

 小声でそんな事を言ってきたので、承諾した。

 あれだけキツク言ったと言うのにまだ話しかけてくるとは、どんな図太い神経をしているのだろうか?

 しかし、以前の彼女とは明らかに雰囲気が違っているのが分かる。

 俺に何を話したいのかは知らないが、話を聞いてみない事には何も分からない。

「上杉に何か言われたのか?」

 後ろの席から颯太が聞いてきた。

「いや、大した事じゃない……」

 内容までは聞こえていなかった様だ。

「そっかー、なら良いけど……」

 話がどうあれ、何も分からない状態でこいつに言うべきではないと判断した。

「それはそうと、神の力はどうだったんだよ?」

 んー、と悩んでみせる。

「とりあえず、問題文の意味は全く分からなかったよ」

 何を言っているんだこいつは?とでも言いたそうな顔をしていた。

「そうか、やっぱり神なんて居ないってことだな……」

 ケラケラと笑っている。

「おい、待てよ!
 俺は「テストで良い点が取れますように」って言ったんだ、「内容を理解させろ」と頼んだ覚えはない。
 点数が取れれば、それで良いんだよ」

 彼は再び笑い出した。

「問題が理解できないのに良い点が取れるのか?」

 必死で勉強した事は言っていないのだから、そう思うのも無理はないだろう。

 残り時間をギリギリまで使って、答案の欄がずれていないかまでしっかりと確認し、提出前のイメージでは満点だった。

「それは分からないよ、全問題にマークはしたんだから、偶然って事もあるだろ?」

 呆れている様だった。

「なら、結果を楽しみにしてるよ……」

 こんな風に言っておけば、結果を見て驚く事は間違いないだろう。

 祠の株が上がって仲直りのきっかけになるのなら、今は彼に散々バカにされておこう。

「で、お前の方はどうだったんだよ?」

 今度は颯太のできを聞いてみる。

「そーだな、今回は結構できた方だし八〇~九〇点くらいじゃないかな?」

 満点でないのなら多分俺の方が点数は上の筈だ。

「そうか……。
 なら、すまないが俺の方が高得点だな。
 神の力があるから仕方ない」

 彼は凄く不思議そうな顔をしているが、当たり前の反応だろうとも思う。

「その自信は何処から来るんだよ?
 そんなに言うなら賭けるか?」

 しばらく考えている様にみせる。

「やめとくよ。
 神の力なんて卑怯な手段を使って勝負に勝っても嬉しくはないし、そもそも問題文が全く理解できなかったのだから、仮に勝ったとしても俺の実力ではない訳だしな……」

 返事に不満そうだが、それで良い。

 あまり自信満々に神を信じているのも怪しさしかないからだ。

「こんだけ言っておいて自信がないのか?」

 実際はかなりの自信があったが、それは勉強したからであって、神と言う曖昧な存在を信じているからではない。

「ああ、ないよ……。
 自信があるなら、こんな神頼みなんて怪しい手段に頼ると思うか?」

 意外にもすんなりと納得してくれた。

「確かにそれもそうだな……」

 俺達はそれぞれお互いに笑った。
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