お題小説

ルカ(聖夜月ルカ)

文字の大きさ
上 下
248 / 641
025 : 牢獄の賢者

しおりを挟む
数日が経ち、ケヴィンの体調が少し落ち着いてから、私達は彼の故郷の村を目指し旅立った。

「大丈夫ですか、ケヴィンさん?
具合が悪くなったらすぐに仰って下さいね。」

「ありがとうございます。
お陰さまで私はこの通り元気ですよ。」

彼はそう言って微笑んだ。



彼にとって故郷は懐かしいだけの場所ではなく、辛い記憶の場所でもある。
ましてこれから彼は、自分の犯した罪と向き合おうとしているのだ。
長い間、心の奥底に封じこめていた罪に…

それを考えると、故郷に近付く毎に彼の足が重くなるのではないかと思ったのだが、意外な程、彼は冷静に見えた。

やがて、五日目の昼近くさしかかった頃、やっと彼の故郷に着いた。
彼の話した鉄砲水の時の被害の跡は、微塵も感じられないのどかな村だ。

それも当然のことだ…
それはもう三十年も昔の出来事なのだから…

ケヴィンは、村の入口に立ち止まり、遠い目をして村の風景をみつめていた。
彼がどんなことを考えているのか…その表情からは読み取ることは出来なかった。
ただ、彼の気持ちがとても落ち着いており、揺るぎがないことだけはなんとなく感じられた。



「……行きましょうか…」

人影もまばらな村の広い道を並んで歩いていく。

ケヴィンは何も話さなかった。
クロワも、あの日以来めっきりと口数が減っている。

時折、頭上を通りすぎる鳥の羽音がやけに大きく感じられた。



「……懐かしいです。
あれからもう三十年経っているのが信じられない思いです。
先程、うちの畑があった場所を通ったのですが…
今でもまるで昨日の事のように両親の働く姿が目に浮かびました…」

不意にそう言って微笑むケヴィンの顔は寂しそうにも嬉しそうにも見えた。



「ケヴィンさん、今、どこに向かっているのですか?」

私は、ケヴィンの言葉に返す言葉が思いつかず、つい、そんなことを聞いてみた。



「あぁ…何も言わずに申し訳ありませんでした。
山の牢獄に向かっているのです。
お疲れかもしれませんが、この村には宿屋なんて気の利いたものはありません。
それなら、ここで早めに話を聞いてから隣町に移った方が良いと思ったのです。
隣町はここよりは賑やかな町で宿屋もありますから、ゆっくりと休めますよ。」

「私達なら大丈夫ですよ。
ケヴィンさんさえお疲れでなければ、そうしましょう。」 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

赤ずきんちゃんと狼獣人の甘々な初夜

真木
ファンタジー
純真な赤ずきんちゃんが狼獣人にみつかって、ぱくっと食べられちゃう、そんな甘々な初夜の物語。

アイドルグループの裏の顔 新人アイドルの洗礼

甲乙夫
恋愛
清純な新人アイドルが、先輩アイドルから、強引に性的な責めを受ける話です。

処理中です...