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ルカ(聖夜月ルカ)

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025 : 牢獄の賢者

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「私は大丈夫です。
クロワさんの薬をいただくようになってから、あの発作的な痛みもほとんど感じなくなりましたから。
それに、山の牢獄はもうすぐそばなんです。
ほら、あそこです。」

ケヴィンが指差した先は洞窟のような所だった。



「あの洞窟ですか?」

「ええ。このあたりはもともと水晶の鉱山で、廃鉱を牢獄として使っていたのです。
今でも使われているかどうかは、わかりませんが…」

洞窟の中に入っていくと、壁にランプが吊してあった。
中はひんやりと冷たく、まだ真昼だというのにランプがなければ何も見えないような所だった。



「今でも使われているようですね。」

さらに奥に入っていくと、一人の老人が椅子に腰かけていた。
老人は、私達の姿を見て驚いたような顔をして大きな声を張り上げた。



「あんたなのか!?」

私にはその言葉の意味がわからなかった。
ケヴィンのことを言ってるのだろうか?



「勝手に入ってきて申し訳ありません。
実は、少し、お尋ねしたいことがありまして…」

「………そうだったのか……
で、尋ねたいことってのはなんだね?」

「もう三十年程前の話なんですが…」

「わしがここへ来た頃のことだな。
どんなことだい?」

「あなたはその頃からここへ?
では、村の護り石の水晶玉が割れた事件のことはご存じですか?」

「ああ、もちろんよく覚えてる!
なんたって、わしはあの時、水晶玉の見張りをしていたんだからな。」

「あなたが見張りを…!!」

「あぁ、あの晩、わしの家の牛が産気付いててな。
家内と息子だけじゃ安心出来なくて、つい様子を見に家に戻ってしまったんだ。
幸い、子牛は無事に産まれててわしはすぐに持ち場に戻ったんだが、着いたと同時にいやな音がしてな…
わしは直感した。
誰かがあれほど触れてはならんと言われていた水晶玉に触れ、そして割ったんだということを。
わしのカンは的中していた。
……水晶玉を割ったのは、若い旅人だった。」

 「…………違うのです。」

ケヴィンの低い声が響いた。
その一言を言うのに、彼はきっと勇気を振り絞ったことだろう。



「え…?何のことだい?」

「あの水晶玉を壊したのは……
あの若い旅人さんではなく、村の少年だったのです。
 少年はあの水晶が大好きで、満月の晩にはいつも水晶を見に行っていました。
たまたまその日は、番人がいませんでした。
 水晶に手を触れてはいけないことはわかってましたが、少年はどうしても我慢が出来なかった。
そして、月の光にかざしてキラキラ輝く水晶玉を見ているうちに手が滑って…」

「……まさか……」

「……そうです。
水晶玉を割った犯人は、この私なのです。」

「な、なんだと……!」 
 
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