お題小説

ルカ(聖夜月ルカ)

文字の大きさ
上 下
113 / 641
007 : バラの村

53

しおりを挟む
「そんなことありません!
あなたを見るために、遠くの町からあんなにもたくさんの人々が集まって来るじゃありませんか。
 男性達は美しいあなたを見て、一目で恋に落ちてしまいます。
あなたは、誰からも愛されているじゃありませんか!」

「そんなもの、愛ではないわ。
 私はただの見世物…
私のことを本気で愛してくれる人なんていないのですよ…」

「何をおっしゃるんです!
あなたのことを愛し、そしてあなたに愛されたいと思ってる人ばかりです!」

ソレイユは、クロワの言葉を嘲るように一際大きな声をあげて笑った。



「自分の命を賭けてまで私を愛してくれる人がいるかしら?」

「…命を…?
どういうことですか?」

「…クロワさん…でしたわね?
あなた、私がなぜ夏至祭の女王に選ばれたか、ご存じかしら?」

「…いえ…」

「……満月の夏至の日に産まれたから…
ただ、それだけのことなのですよ。
 私は産まれてすぐに引き取られ、夏至祭の女王として生きることを決定付けられた…
特別な施設で、他のものからは隔離され、女王としての教育を受け、育ちました。
……実は、私は自分の両親の顔も知らないのです。」

「まぁ…そんなことが…
ご両親とはその後も会うことは出来なかったのですか?」

「……母は私が連れていかれてしまった悲しみから身体を壊し、若くして亡くなったそうです。
その後、父も母の後を追い、自ら命を絶ったそうですわ。
…もちろん、それはずいぶんと後になってから、私の世話をしていた者から聞いた話ですから、本当のことかどうかもわからないのですけどね…」

ソレイユは遠い目をして、口許に小さな笑みを浮かべた。



「ソレイユ様…それが本当だったとしたら…それはとても悲しいことですが、それだけあなたがご両親に愛されていたということですわ。
また、いつかそんな風にあなたのことを愛してくれる男性が…」
しおりを挟む

処理中です...