上 下
24 / 51
第一章

第6話(3)マウントからの急展開

しおりを挟む
「もういいですか? 次は移動教室ですから。皆さんも遅れないように」

 青龍は颯爽とその場を去る。聡乃が照美に問う。

「に、日光さんは本郷さんを引き入れることが出来るのでしょうか?」

「さあね……私たちも急ぎましょう」

 調理実習室に向かうと、本郷の席の近くに日光が立っている。本郷が首を傾げる。

「あの……貴方と私は違う班ですが?」

「本郷青龍……」

「はい」

「俺は自慢じゃないが、中学の時、全国統一模試で100位台に入ったことがある!」

「え、ええ⁉」

「突然の成績マウント⁉」

 聡乃と照美が戸惑う。日光が見せた端末の画面を見た青龍がフッと微笑む。

「ああ、その模試でしたら、私は二桁順位でしたよ」

「なっ⁉」

 日光が愕然とする。照美が頭を抑える。

「三桁順位でなんでイケると思ったのよ……」

「お、俺は中学一年生の時、既に身長160センチ台はあった!」

「え、えええ⁉」

「昔の身長でマウント⁉」

 聡乃と照美が再び戸惑う。青龍も流石に戸惑い気味に答える。

「あ、ああ……私は中一の頃には170センチ台でしたが……」

「なっ……!」

 日光が唖然とする。照美が俯く。

「現在は身長差だいぶあるし、過去上回っていたとして、それが何になるのよ……」

「う、ううむ……!」

「え、ええ……」

「マウント取る材料が尽きたの?」

 聡乃と照美がある意味戸惑う。青龍が思い出したかのように告げる。

「ああ、ちなみに私はデイトレーダーをやっておりまして……」

「!」

「毎月これくらいの収入があります」

「‼」

 青龍が表示した端末の画面を見た日光は驚く。

「まあ、自慢するほどのことではありませんが……」

「なっ……」

 日光が呆然とする。照美が膝に手をつく。

「もう見ていられないわ……」

「に、日光さん、呆然と立ち尽くしていますね……」

「学歴・身長・収入でマウントを取られてしまったからね……」

「ど、どうするんでしょう?」

「さあ?」

 聡乃の問いに、体勢を戻した照美が首を傾げる。

「……まだだ」

「え?」

 日光の呟きに照美をはじめ、周囲の視線が集まる。

「まだだ! まだ勝負はついていない!」

「勝負をしていたつもりはないのですが……」

 日光の言葉に青龍が困惑した様子で答える。

「これからだ、本当の勝負は!」

「こちらの言葉は無視ですか……」

「今から何が行われる?」

「え? 調理実習ですが……」

「そうだ!」

「そ、それが何か?」

 青龍の問いに日光は腕を組んで頷く。

「ふむ、なかなか良い質問だ」

「質問というか、疑問ですが……」

「これから俺と貴様で料理対決を行う!」

「ええっ?」

「どちらがより審査員の舌を満足させられるかで勝負だ!」

「い、いや……」

「どうした? 驚いて声も出ないか?」

「そ、そうですね、あまりにも展開が急過ぎて……」

 日光の問いに青龍が頷く。

「料理は三品まで、何を作ってもいい」

「は、話を強引に進めますね……」

「なんだ、逃げるのか?」

「! いいえ、受けて立ちましょう」

 青龍が日光を見つめる。日光が笑う。

「そうこなくてはな」

「ちなみに審査員はどなたですか?」

「この三人に頼む」

 日光が朱雀、玄武、白虎を指し示す。青龍が首を捻る。

「……公平さに欠けませんか?」

「審査は公平に行ってもらう。俺にもプライドがあるからな」

「プライド、まだ残っていたのね……」

 照美が小声で呟く。日光が声を上げる。

「それではあらためて……料理対決だ!」

「あの~盛り上がっているところ悪いんだけど……」

「どうかしたんですか、先生?」

 照美が調理実習担当の教師に尋ねる。教師は言い辛そうに説明する。

「こちらの手違いで、食材のストックがほとんど無いんだよね……」

「えっ⁉」

「こんな具合で……」

「こ、これでは、出来る料理なんてたかが知れているわ……」

 教師が指し示した食材を見て、照美が啞然茫然とする。

「……問題ありませんよ」

「本郷君⁉」

「料理に取り掛かります」

 青龍が調理を始める。手際良く料理を完成させていく様に照美たちは驚く。

「こ、これは……⁉」

「……出来ました」

 テーブルに三品の料理が並ぶ。照美が問う。

「本郷君、これらの料理は?」

「世界三大料理と言われる、フランス料理からキッシュ、中華料理からチャーハン、トルコ料理からケバブです」

「せ、世界三大料理……」

「さあ、お召し上がりください」

「うん、このキッシュは美味しい!」

「こんなチャーハン、どんな町中華でもまず食べられないよ!」

「ケバブの肉厚ぶり、最高だぜ!」

 朱雀、玄武、白虎は口々に青龍の料理を絶賛する。

「あ、あれだけの食材からあっという間にこれだけの料理を……」

 聡乃が感嘆とする。照美が呟く。

「これが『スパダリ』の能力が成せる業……」

「……俺の番だな」

「日光君⁉」

 日光の言葉に照美は驚く。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。

矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。 女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。 取って付けたようなバレンタインネタあり。 カクヨムでも同内容で公開しています。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

令嬢の名門女学校で、パンツを初めて履くことになりました

フルーツパフェ
大衆娯楽
 とある事件を受けて、財閥のご令嬢が数多く通う女学校で校則が改訂された。  曰く、全校生徒はパンツを履くこと。  生徒の安全を確保するための善意で制定されたこの校則だが、学校側の意図に反して事態は思わぬ方向に?  史実上の事件を元に描かれた近代歴史小説。

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

【第1章完】ゲツアサ!~インディーズ戦隊、メジャーへの道~

阿弥陀乃トンマージ
キャラ文芸
 『戦隊ヒーロー飽和時代』、滋賀県生まれの天津凛は京都への短大進学をきっかけに、高校時代出来なかった挑戦を始めようと考えていた。  しかし、その挑戦はいきなり出鼻をくじかれ……そんな中、彼女は新たな道を見つける。  その道はライバルは多く、抜きんでるのは簡単なことではない。それでも彼女は仲間たちとともに、メジャーデビューを目指す、『戦隊ヒーロー』として!

処理中です...