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第一章

第6話(4)反王道を往く

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「さて……」

「ま、待って!」

「なんだ、照美?」

「どうするつもりなの⁉」

「料理をするつもりだ」

「今の本郷君の料理を見ていなかったの⁉」

「もちろん見ていたさ、敵ながら見事なものだ」

 日光がうんうんと頷く。

「状況が分かっているの⁉」

「どういうことだ?」

「ここで下手な料理を作ったって、恥の上塗りになるだけよ!」

「か、勝手に下手だと決めつけるな! そ、それになんだ、恥の上塗りって! もう既に恥をかいたみたいに言うな!」

「出来るの、料理?」

「出来なかったら対決など持ちかけない……」

「で、でも……」

「ちょっとどいてくれ……」

 日光が青龍に歩み寄る。

「?」

「……」

「!」

 日光が眼帯をめくり青龍に尋ねる。

「俺の左眼は何色だ?」

「え?」

「教えてくれ」

「茶色ですね」

「そうか、分かった」

 日光は調理台に向かい、調理を始める。照美が心配そうに見つめる。

「だ、大丈夫なのかしら……」

「ふん……!」

「‼」

「それ!」

「なっ⁉」

「どうだ!」

「こ、これは……」

 日光の調理に青龍、照美、聡乃が驚く。

「……出来たぞ」

 テーブルに三品の料理が並ぶ。照美が尋ねる。

「こ、これはどこの料理なの……?」

「まずこれはウズベキスタン料理のプロフだ……」

「ウ、ウズベキスタン……」

「朱雀、食べてみろ」

「わ、分かったよ……」

 朱雀がプロフを口にする。日光が問う。

「どうだ?」

「! うん、見たところ、ただの焼き飯かと思ったが、甘いね!」

「味のアクセントとして、レーズンが入っているからな」

「レーズンか、なるほど!」

「次はこれだ、エジプト料理のコシャリ……」

「エ、エジプト……」

「玄武、食べてみろ」

「い、いただきます……」

 玄武がコシャリを口に運ぶ。日光が聞く。

「さあ、どうだ?」

「! トマトソースがとても良いスパイスになっている混ぜご飯だね!」

「日本人のエジプト旅行の思い出ベスト3で多いのが、『ピラミッド・スフィンクス・コシャリ』らしいぞ。まあこれは余談だが」

「そうなんだ……」

「お次はこれだ、南米料理のエンパナーダ……」

「な、南米……」

「白虎、食べてみろ」

「あ、ああ……」

 白虎がエンパナーダを食する。日光が尋ねる。

「……どうだ?」

「! さくさくした皮の中から肉のジューシーな香りが漂ってくる!」

「南米では国や地域ごとに様々な具材を使っているようだな」

「そうなのか……」

「さて……判定は?」

 日光が三人に問いかける。

「うむ……」

「悩みどころだね~」

「う~ん……」

「どちらだ?」

「日光くんだね」

「日光っちに一票」

「日光だ」

 三人はほぼ同時に答えた。日光が頷く。

「俺の勝ちだな」

「……それだけの腕がありながら、なぜ日本ではマイナーな料理を?」

 青龍が首を傾げる。照美が口を開く。

「恐らくだけど……反王道系を往く中二病が発動したってところね」

「中二病……なるほど、それが貴方の微能力か」

「ああ」

 青龍の言葉に日光が頷く。

「こうしちゃいられないわ! 私たちもカンボジア料理を作りましょう!」

「俺たちはウクライナ料理だ!」

「⁉」

 クラスメイトたちがおもむろに動き出したことに青龍が驚く。

「こ、これは、皆さんに影響を与えた……? 能力の副作用?」

 聡乃が分析する。周囲を見回して青龍が頷く。

「皆が高め合っている……。ふむ、どうやら私の完全な負けのようです」

「ほ、本郷君?」

 青龍の敗北宣言に照美が戸惑う。

「私の微能力では、自分ばかりが恩恵を受け、周囲に影響を及ぼすことなど到底出来ません。故に微妙な能力の域を出ない……」

 淡々とした青龍の言葉に日光が答える。

「そんなこともないだろう。どんな能力も使いようだ」

「! そのように考えたこともなかった……。貴方は己だけでなく、周囲も引き上げることが出来る人物のようだ……このクラスが私にとって過ぎたるものになるかもしれませんね」

「買いかぶりかもしれんぞ」

 日光が苦笑する。青龍が静かに首を振る。

「いえ……この本郷青龍、貴方の活動に力を尽くしましょう」

「そうか、それは非常に心強い……」

 日光と青龍がガッチリと握手を交わす。

「おい! うちはトリニダード・トバゴ料理を作ろうぜ!」

「わたしたちはエチオピア料理を作りましょう!」

「高め合っているというか、皆ただ単に面白がっているだけのような……まあ、いいか」

 周囲を見回した照美は余計なことは言うまいと決めた。
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