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【第388話】黒い鎧と曇り空
しおりを挟む「フレイムのおかげでアクアを治す方法を思いついたぞ。絶対に救い出すからもう少しだけ頑張ってくれ、アクア」
俺が宣言するとアクアは驚きながらも弱弱しく拳を握りしめ、生きのびる意思を固めた。落ち込んでいたリリスにも笑顔が戻って背筋も伸びている、良い兆候だ。
俺はバイオルとの戦いでフレイムが炎舞剣・改によって毒を高熱処理していたのを参考に魔砂に熱を込めた。俺が作れる最小サイズの魔砂の塊を倒れているアクアの腹の上に浮遊させた。するとフレイムが俺に詳細を尋ねた。
「ガラルド君、この熱せられた小さな粒……いや、粒とすら言えないぐらい小さな赤い光の集合体は一体なんだい?」
「レックの部下にも施した魔砂による体内循環治療の応用だ。前回は毒物質を抜き出す治療だったが、今回は熱した魔砂を体内に循環させる治療だ。
似たような事は火の色堅……つまりレッド・モードでやってはいるが、今回は自分の体ではなく他者の体に施すわけだから成功するとは断言できない」
「……それでも、他に助かる道がないのならやってくれガラルド君。そして、アクアを助けてやってくれ、君なら出来る!」
「ああ、任しとけ」
神にすがるように手を合わせたフレイムが俺に頼み込んできた。アクアだけじゃなくフレイムやリリスの為にも絶対に成功させてやる。俺はレックの部下を助けた時以上の緊張感で熱砂をアクアの口から体内に侵入させた。
「ぐ、ぐはっ! うぐぅぅっ!」
アクアがまるで毒を盛られたかのように呻き声を上げ始めた。それと同時に紫色になっていた皮膚が赤紫色へと変化し、体から湯気が出始めた。本当に大丈夫なのか? と心配そうに俺を見つめるリリスとフレイムを尻目に治療を続けた。
毒と熱気でこれまで以上に苦しみ続けるアクアを見るのは辛く、ジタバタする人間の体内に熱砂を繊細なコントロールで循環させる治療はかなりの集中力を使う。
時間にして十分も経っていないとは思うが、体感的には何時間も治療を施しているような疲労感が襲ってくる。必死に熱砂の移動と温度調整を繰り返し、遂にアクアの皮膚から毒気が消えて治療は成功に終わった。
「や、やりましたよガラルドさん! アクアさんを救えました! 本当にありがとうございます!」
リリスが泣きながら俺に抱き着き、フレイムは俺の手を握り大粒の涙を俺の手の甲に落としている。アクアは毒・熱と戦い過ぎた影響で気を失っているようだが命に別状はなさそうだ。
スキルも魔術もあまりコントロールに長けていない俺が難しい治療をやってのける事が出来た。遅れてやってきた達成感に頭の処理が追い付かずボーっとしていると、誰かが俺の肩を後ろから軽く突いてきた。
目の前にリリスとフレイムがいるというのに誰だろうと後ろを振り向くと、そこにはシン、グラッジ、サーシャ、ブレイズ、レインが立っていた。シンはにっこりと微笑むと別動隊の事を教えてくれた。
「ガラルド君が治療に集中していたから暫く声はかけなかったけど、実はグラッジ班は5分前にこっちへ来ていてね。ミニオス殿下の拘束に成功したよ。どうやらバイオル殿下もミニオス殿下と同じく毒を使っていたようだね。毒に触れることなく倒し切ったグラッジ君には驚いたけど、毒を高熱処理するガラルド君にも驚きだよ。改めて勝利を称えさせてくれ、おめでとうガラルド君」
「そうか、そっちの班も似たような戦いをしていたんだな。とはいえ、グラッジ班はミニオスを倒し、モーデックに乗って東から西へ来たわけだから相当早い撃破だったみたいだな、こっちは死闘だっただけに情けなくなるぜ」
「グラッジ君一人が一瞬で撃破したから俺は何もしていないけどね。それより、ガラルド君は魔砂の可能性を新たに広げたみたいだね。レック君の部下を治療した時の応用みたいなものだろうけど大したものだよ。今後の戦いにも役に立つかもね」
「もう毒の治療は懲り懲りだけどな。でも、今回の技術を活かしきれればレッド・モードを扱うにあたって更に上のステージにいけそうな気がしているよ。魔砂は本当に奥が深い……シルフィ母さんには感謝しかないぜ」
「なるほど、君らしい成長の仕方だね。とりあえずミストルティン使いの二人を無効化することは出来たはずだから二人が扱っている魔獣群は大人しくなるはずだ。暫くここで休憩したらドライアドの様子を外から伺う事にしよう。バイオル殿下ミニオス殿下以外にも手強い武将がいるかもしれないからね」
シンの言う事も一理ある。ミストルティンによって魔獣に圧力をかけて無理やり動かす手法はモードレッドにもできるとは思うが、少なくともミストルティン使い三人の内の二人は無効化できた事になる。三人が同じ強さと考えたうえでのざっくりとした計算だと6割以上の魔獣が動けなくなった事になる。
魔獣にとってミストルティンが圧力をかけて移動させる用途しかないのならシンバードへ移動させきった魔獣はもう止めようがない可能性もあるが、それでも現段階では圧力の上書きはモードレッドにしか出来ないはずだ。
つまり、モードレッドがシンバード付近に居ないのなら、シンバード民がシンバードから離れる事さえ出来れば魔獣は散らばる民を追う事もなくなり、人死には最小限に抑えられる。
依然として魔獣自体は残っているし、帝国兵もほぼ100%残っているから仕事はまだまだあるけれど今はとにかく休むことにしよう。俺だって一応バイオルの毒を少量吸い込んでいるから毒を消し去り、消耗した身体を休める必要がある。
グラッジ班と合流した俺達は全員が円となり360度警戒できる態勢を作り出してから休み始めた。地平線に重なるほど遠い位置には人影や魔獣の姿が見えるものの今いる場所は平和そのものでゆっくり休めそうだ。
このまま警戒をほっぽりだして今いる平原に寝っ転がりたいなぁ、なんてことを考えていると俺達の真上の空が突然曇り始めた。
何だか胸騒ぎがする……俺は一層周囲の警戒を強めていると西側にある林から多くの兵士を引き連れた黒い鎧の男が現れた。
まだ体力が完全には回復していない今、あの男には極力会いたくはなかった……胸騒ぎの正体は奴だったのようだ。俺はフレイム達に指示を出し、拘束したバイオル達を岩場に隠すよう指示を出した。
一方、黒い鎧の男は俺の顔を見ると薄く笑みを浮かべながらゆっくりと近づき話しかけてきた。
「久しぶりだな、ガラルド。大陸会議以来お前達を倒せる日を心待ちにしていたぞ」
「モードレッド……まさか、総大将のあんたが既にここまでシンバードに近づいていたとはな。シンを直接殺しに来たのか? それとも弟達の敵討ちか?」
=======あとがき=======
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