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【第387話】人生最大の誇り

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 フレイムとの連携によってバイオルに打ち勝った俺は地べたに座り、毒で弱る自分の身体を休ませていた。

 そういえばリリスとアクアはどうしているだろうかと周りを見渡すと、彼女たちはバイオルの部下達を退けている最中だった。道理で俺とバイオルの戦闘に一切口を挟まなかったわけだ。

 俺はリリス達が兵士達との戦闘に負けないか心配になって眺めていたが人間と女神両方の力を得たリリスがあまりに強すぎて兵士程度に相手が務まる訳もなく、百人近くいた兵士達はほぼ全員倒されていた。

「これで最後です! アイス・ニードル!」

 リリスが最後の兵士を魔術で気絶させ、周囲一帯の敵は全て戦闘不能となった。リリスとアクアは座り込んでいる俺を見て心配そうに駆け寄ると、リリスが俺に体の異変について尋ねてきた。

「大丈夫ですか、ガラルドさん? 何だか顔色が悪いですけど」

「ああ、大丈夫だ、ちょっとだけ毒を貰っちまった。実はリリス達が兵士と戦っている時に――――」

 俺はリリスとアクアに何があったかを伝えた。バジリスクの毒を少量とはいえ吸い込んでしまった俺を心配したリリスがすぐに解毒魔術を唱えてくれたおかげで体が楽になった気がする。

 とはいえ、まだまだ体は本調子ではないからバイオルを拘束するのはリリス達に任せる事にしよう。俺はフレイムに肩を借りながらゆっくりとバイオルに近づき、リリスとアクアもバイオルの鎧を引っ剥がす為にうつ伏せで倒れているバイオルに近づいた。

 リリスは鎧の肩部分から毒を垂れ流すバイオルにビビりながら俺に話しかけてきた。

「あの~ガラルドさん、本当に鎧に触って剥がしても大丈夫ですかね? うっかり毒に触れちゃわないですかね?」

「う~ん、まぁ鼻や口から吸わなければ大丈夫という保証もないからな。少し離れた位置から杖で引っ掛けながら鎧を外してみたらどうだ? 何だか汚い虫でも触っているみたいだけどな」

「それが一番安全そうですね。それじゃあ、手間はかかりますけど杖で鎧を剥がしますね」

 リリスとアクアは先端がフック状になった杖を使い、息を合わせながら鎧を剥がす作業を進めた。

 これで、毒の発生源もなくなり、ミストルティンによって無理やり動かされている魔獣達もバイオルが意識を失ったことで動きを停止させるだろうと俺は安心していた。

 しかし、次の瞬間うつ伏せで倒れていたはずのバイオルが突然起き出し、自身の血を指先から飛ばし、リリスの目を潰してきた。

「きゃー! め、目が……見えない……」

 リリスが珍しく悲鳴をあげると、口から血を垂れ流しているバイオルが邪悪な笑みを浮かべ、剣先と手甲をリリスへ向けた。

「貴様ら、私が気を失っていると思い込んでまんまと近づいたみたいだな! そこの女は見つめた場所に瞬間移動ができるスキルを持つと噂の女だろ? せめて生きている内に厄介なお前だけでも消してやる……喰らえ!」

 マズい……このままではアイ・テレポートで逃げられない。近距離で毒を直接浴びれば俺とは比にならない毒をリリスが喰らってしまう。例え息を止めたとしても堪えられるレベルじゃないはずだ。

 俺が今からレッド・ステップで攻撃を加えてもバイオルの毒噴射を止められる距離ではない。どうするべきか答えが出ないままバイオルは無慈悲に毒を噴射した。

「死ねぇぇっっ!」

「させない!」

 バイオルの毒がリリス目掛けて真っすぐに噴射された瞬間、リリスの横に立っていたアクアが両手を広げてリリスの前に立ちはだかった。アクアはバイオルの毒をダイレクトに受けてリリスを守ると、皮膚が少しだけ紫色に変色し、その場に倒れ込んだ。

 まさかの事態に動揺するリリスとバイオルを尻目に俺とフレイムは同時に飛び出し、バイオルに攻撃を加えて遠くへ吹き飛ばした。バイオルは離れた位置で泡を吹きながら体を痙攣させている……今度こそ気を失って戦闘不能になったようだ。

 だが、今はバイオルの事なんかどうでもいい、アクアの治療が最優先だ。俺より先にフレイムが駆け寄るとアクアの手を握り、声を掛けた。

「おい! アクア! 大丈夫か? しっかりするんだ!」

「うぅぅん、この声はフレイムかしら? ごめんなさい、毒のせいか目がおかしくなってきてて」

「す、すぐにリリスさんに解毒魔術を掛けてもらうからな! もう少しだけ頑張ってくれ」

 フレイムの言葉に従い、急いで解毒魔術を唱え始めたリリスだったが、アクアの容態は悪化するばかりだった。恐らく毒の広がりが解毒スピードを上回ってしまっているのだ。

 アクアに庇われたリリスは泣きながら解毒魔術を唱え続けるがアクアの死が刻々と近づいていくのを感じる。アクアは自分の死期を悟ったのか、リリスの方を見て終わりの言葉を語り始めた。

「泣いてくれてありがとう、リリス。貴方達を一度襲撃してしまった罪深い私達なのに涙を流すぐらい大事にしてくれて嬉しいわ。そんな貴方を最後は体を張って守れたことは私の人生最大の誇りよ」

「し、死なないでください、アクアさん! 貴方はもう立派に贖罪を務めました! だから、これからの人生は――――」

「いいえ、私はフレイムやブレイズとは違って勇気の無い戦士だわ。ジークフリードへ貴方達を助けに行く事が出来なかった自分が情けないわ。だからね、私にはこんな最期がお似合いなの……。それに、猛毒なんかよりギルドで貴方にされた説教の方がよっぽど効いたもの……貴方とガラルドのおかげで私達は変われたわ」

 アクアは死を受け入れて伝えておきたかった事を伝えようとしているが諦めるなんて冗談じゃない。反省している彼女はこれからも罪を見つめ、幸せに暮らしていく為のステップを踏んでいかなければいけないのだ。それに俺はもう目の前で人が死んでいくのを黙って見ているつもりはない。

 ビエード、アーサー、レックの部下、過去視、戦争、多くの死を目にしてきて、中には俺が頑張ったところでどうにもならなかった死もあるけれど、あがけるだけあがいてやる。

 とにかく今は毒の進行より解毒が上回るようにするのが大切だ。解毒魔術が使えず、解毒に役立つアイテムも持っていない俺が出来る事はなんだろう?

 せめて抵抗力を上げさせるか毒そのものを弱らせることが出来ればいいのだが。周りを見渡し活路を見出そうとしていると俺の視界にフレイムの姿が入った。その瞬間、さっきの戦いと俺の記憶がリンクし始めて、一つの解決策が舞い降りた。

 俺は解毒魔術を続けているリリスの横に座ると、アクアの目を見て宣言する。

「フレイムのおかげでアクアを治す方法を思いついたよ。絶対に救い出すからもう少しだけ頑張ってくれ、アクア」


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