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【第346話】絵本と記憶
しおりを挟む楽しいデートの時間……と解釈しても許されるのかは分からないけど、僕とサーシャさんは二人だけで買い物を楽しみつつ散歩を続け、目的地である『幻想の図書塔』に到着した。
白い薔薇が絡まった鉄の柵と背の高いレンガに囲まれた図書塔は恐らく15メード程の高さがあるだろうか? 特別高いわけではないけれど、建物がひしめく町から少し離れた岬にポツンと一基だけ立っている点と手入れがあまりされていない外観が独特の荘厳さを醸し出している。
「ああ、こんな見た目の塔だったって思い出してきたよ。昔はもっと大きな塔に感じたけれど、今見るとそうでもないのかも。これってサーシャが大きくなったからなのかな?」
サーシャさんがしみじみと月日の流れを噛みしめている。僕もイグノーラへ戦争の加勢に行った時は久々に見たイグノーラの街が少し小さく見えたからサーシャさんの気持ちがよく分かる。
僕はサーシャの言葉に頷いた後「何故、ここはあまり手入れされていないんですかね?」と疑問を口にした、するとサーシャさんは自分なりの見解を語ってくれた。
「図書塔が離れた位置にあるのも原因だと思うけど、利用者が限られてくるからじゃないかなぁってサーシャは予測しているよ。絵本とかが多いし、ウィッチズガーデンの子供たちは読書に関しては大人びている子が多いからね。おませな子だと『空想本なんかより実用的・知識的な本を読むべき』って背伸びするぐらいだから」
「僕は16歳になった今でも空想的な本が好きですけどね。むしろ空想・妄想こそが色々な発想を得るきっかけに……いや、何だか愚痴っぽくなりそうだから止めておきますね、あはは……」
「グラッジ君が空想的な本が好きって言ってくれてサーシャは嬉しいよ? それじゃあ図書塔に入ろっか!」
押すだけでギシギシと音の鳴る入口扉を開けると、そこには大小さまざまなサイズの本が円柱状に並べられていて、どの階にも寝転びながら読書が出来る広々としたスペースが用意されていた。
図書塔に入ってすぐのところには『ジッと座って本を読むのが苦手な子に寝転びながら読めるスペースを用意しております。保護者の方は勧めてあげてください。本好きな子供が増える事を祈っています』と書かれている。
入口付近から順に本を確認していくと、子供が興味を持ちやすい絵本や動物の絵が描かれた生態を学べる本などが置かれている。絵の付いた本は大半が薄く大きなサイズをしており、子供に関心を持ってもらいつつ、重たくならないような工夫が施されている。
ここはとても良い場所だ、僕達以外誰もいないのがとても勿体ないと思う。僕が年齢一桁の時にウィッチズガーデンに住んでいれば一日中図書塔に籠っていたかもしれない。サーシャさんも僕も色々な絵本を手に取り、しばらく読書を楽しんでいた。
そして、読み終わった本を元に戻すタイミングがサーシャさんと一致したところで僕は休憩がてら声を掛けることにした。
「ここは良い場所ですね、好きになりましたよ。とはいえ休暇期間中にここを訪れたくなるだなんてサーシャさんは可愛いところがありますね」
「ち、違うよ! 絵本が読みたいってだけで来たわけじゃないもん! さっきも言った通り図書塔には気になる点があるから来たんだよ。グラッジ君の意地悪!」
サーシャさんが頬を膨らましながら否定している。そう言えばネリーネ夫妻の日記を見て気になる点があると言っていた事をすっかり忘れていた。でも、拗ねたサーシャさんは可愛かったからうっかりしていてラッキーだったかな。
サーシャさんは膨らました頬を元に戻すと、近くにあった机の上に数冊の絵本を広げて僕に読んでみてくれと促してきた。表紙には『勇者フォグスンの冒険 その7』と書かれている。絵柄や文体からオーソドックスな冒険ものの絵本みたいだ。
これはサーシャさんが好きなシリーズなのだろうか? だとしたら僕も好きになれたらいいなぁ、と考えながらページを捲っていると、書かれている内容に僕は心底驚かされた。その絵本には
――――勇者フォグスンはコンパスも機能しない荒々しい海を進み、全身が視界に収まらない程に大きな海神龍を退け、千年樹が絡みつく洞窟へと辿り着きました――――
と書かれている。まるでガラルドさんが辿ってきた冒険のようだし、千年樹が絡みつく洞窟なんて僕の住処と同じ場所にしか思えない。
サーシャさんは他の本棚から更に絵本を追加しつつ、気になっている部分を開いた状態にして僕に見せてくれた。
サーシャさんが見せてくれたページは既視感のあるものばかりで、神獣グリフォン、アビスロードにしか見えない大穴、神笛カタストロフィ、天の糸、樹白竜、海底集落アケノスに似た場所、逆さの廃墟群などなど、一部僕が仲間になる前にガラルドさん達が関わったものや場所、女神フローラ様が話していた大陸南の場所などが混ざっているが、その全てが今までに見たり聞いたりしたものばかりだ。
「凄い……子供向けに分かりやすく冒険心を煽る構成にしてあって、それでいて冒険の記録と旅の注意点を促すような本になってる……これがサーシャさんの言っていた『気になる点』ですか?」
「そうだよ。小さい頃には単に楽しむ為だけに読んでいた本だけど、お父さんが日記にこう書いてあったの『娘が読んでいた絵本と僕達が見てきた景色に重なる部分がある気がする。幻想の図書塔は一体誰がどんな目的を持って建てたのだろうか?』ってね。サーシャ自身が見てきた景色とも重なっていたから是非読んでもらいたかったの」
「そうだったんですか。僕らが味わってきた濃密な冒険をこんなにも多くの本へ仕上げた作者は何者なんですかね? 鳥肌が立ってしまいましたよ。正直、今すぐ大人数で図書塔の本を調べまわって、最終決戦に役立ちそうなアーティファクトに繋がる情報などがないか探したかったですね。もう時間的にも地理的にも不可能ですが……」
「サーシャがもっと早く両親の日記から『幻想の図書塔』に関する記述を見つけられていたらよかったんだけどね。あ、でもガラルド君がここを知っちゃったら『事前に不思議な場所の詳細を知りたくないから俺は読まないぞ!』って言いそうだね」
「確かにそんな気がしますね。だけど、根が凄く真面目で優しい人だから『大陸や仲間の安全の為に……』とか言って、嫌々読み進めそうな気もしますけどね」
「フフフ、そんな姿を見たら思わず笑っちゃいそう。冒険家であり国の中心人物でもあるから相反する気持ちを抱えちゃって大変だよね」
まさか、ガラルドさんの性格の話で盛り上がるとは思わなかった。それからも僕達はバラバラにしまってある『勇者フォグスン』の本を集めたり、それ以外の本からも情報を得られるかもしれないと中身を確認してまわった。
結果としては興味が惹かれる内容は多かったものの、最終決戦に向けて役立ちそうな情報は得ることは出来なかった。だけど、今回の旅はリフレッシュが一番の目的だからサーシャさんと楽しい時間を過ごす事が出来たし大成功と言えるだろう。
外が少し暗くなってきたことだし、そろそろ図書塔を出ようとサーシャさんに声を掛けると、サーシャさんは「最後に見てもらい一冊があるの」と言い、僕を最上階まで案内してくれた。
=======あとがき=======
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