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【第345話】ウィッチズガーデンの個性
しおりを挟む※345話~347話はグラッジ視点です
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「グラッジく~ん! サーシャはこっちだよ~! 早く早く~!」
僕がガラルドさんとリリスさんをポセイドへ送り届けてシンバードの港へ帰ってくると、サーシャさんが遠くから僕を呼んでいた。
いつもより元気にはしゃいでいるサーシャさんは遠目からでも可愛かった。よっぽどウィッチズガーデンに行くのが楽しみなのだろうか?
サーシャさんの生みの親であるネリーネ夫妻が子供を捨てたわけではなくエンドに攫われた事実が判明した今となってはウィッチズガーデンがトラウマの場所ではなくなったのかもしれない。
僕達は小舟で港から離れてリヴァイアサンに乗り込み、ウィッチズガーデンへ僕達を運んでくれとリヴァイアサンにお願いした。
シンバードからウィッチズガーデンまではかなり距離があるから到着はどんなに速くても明日の日中になるはずだから、僕とサーシャさんは少し暇になる。
他のガーランド団員もいなくて完全に僕達二人しかいないから、異様なほど静かに感じる。
沈黙が長すぎるとつまらないと思わせてしまうかもしれない、ここは僕が何か話題を振った方がいいだろう。まずは旅の目的についてサーシャさんに聞いてみよう。
「あ~、え~と、その、ウィッチズガーデンへ誘ってくれてありがとうございました。サーシャさんは今回どうして僕をウィッチズガーデンへ誘ってくれたんですか?」
僕が問いかけるとサーシャさんはプッと吹きだすように笑い、軽く僕を揶揄ってきた。
「いつもの船旅と違って凄く静かだからグラッジ君は慌てて話題を振ってくれたのかな? ワタワタしていたから思わず笑っちゃったよ。二人っきりで海底火山を見ていた時みたいにリラックスしてくれていいんだよ? じゃないとサーシャも緊張しちゃうもん」
「あはは……すいません。女の人どころかお爺ちゃん以外の人間に対しても免疫がなくて、未だに人と接する時は少し緊張してしまったり、気を遣い過ぎちゃうところがあるかもしれません。同じパーティーメンバーだから、気楽にすべきなんですけどね」
「サーシャもあまり社交的な方じゃないから気持ちはわかるかなぁ。ガラルド君もそういうところがあるから、叔父と甥っ子で似ている部分があるのかもね。あ、それで質問の答えだけどサーシャがウィッチズガーデンへ誘った理由は一緒に行ってほしいところがあるの。そこは町の人から『幻想の図書塔』って呼ばれているの」
「何だかメルヘンな響きですね。図書と言われているぐらいですし、本が沢山置かれているんですか?」
「そうだった……と思う……。正直、サーシャがかなり小さい頃に住んでいた町だから記憶が曖昧なの。本の種類は絵本がかなり多かったのは覚えているんだけどね。サーシャの曖昧な記憶だけならわざわざ連れ出したりはしないのだけど、サーシャの両親が残した日記帳に幾つか気になる記述を見つけてね、どうしても二人で行きたくなったの」
「絵本……それにご両親の気になる記述ですか……。その内容を聞いてもいいですか?」
「……もし、サーシャの読みが外れていたら恥ずかしいから、『幻想の図書塔』に着いてから話せそうだったら話すよ。ずっと曖昧な言い方をしちゃってごめんね」
「いえいえ、そんな。今回誘ってもらえただけでも十分嬉しいですから、思った通りの場所じゃなくても気にしないでください」
サーシャさんが申し訳なさそうに理由を語るから僕は慌ててフォローを入れておいた。確かサーシャさんは6歳頃に両親と離れ離れになったはずだから、そんな年頃の記憶なんて曖昧だろうし、十年ほど前の記憶だから時間経過によって忘れるのも仕方ないだろう。
※
僕達はその後、ウィッチズガーデンに関する昔話や、最近のシンバード陣営の話をしながら到着の時を待ち続けた。そして、翌日の朝、ウィッチズガーデン近くの海へ到着した僕達は早速海岸から上陸して徒歩でウィッチズガーデンへ向かった。
道中、見覚えのある景色に興奮しているサーシャさんの話を聞きながら進み続け、無事ウィッチズガーデンの入口へと到着する事が出来た。
僕は初めて見るウィッチズガーデンの景色に興奮して、珍しく長々と感想を喋り続ける。
「わぁ~、名前の通り本当に魔女が住んでそうな町ですね。赤茶色の屋根をした木組みの家屋が綺麗に並んでいて、民衆のほとんどが魔術のようなローブ、ハットを着用してますよ! それに町の至る所に大釜があって湯気を発していますし、各家庭の家の入口には小さなガラスケースに囲われた本の置物までありますよ! あれは何なんでしょうかね?」
魔女の庭という名に相応しいメルヘンっぽさが溢れる外観と、魔術や学問を大事にしていますと言わんばかりの研究・実験道具・本などがいたるところで目に入る。この町は不思議な世界に迷い込んだようなワクワクを僕に与えてくれた。
町によっては特定の動物や植物の彫刻を家や店の前に置いて、健康や商売繁盛を祈る風習があったりするけれど、それがウィッチズガーデンでは家の前にあるガラスケース越しの本なのだろうか?
ほぼ全ての家の入口にあるガラスケースと本が気になっていた僕を察してか、早速サーシャさんが説明をしてくれた。
「グラッジ君は本の置物が気になるって言っていたけど、実は置きものじゃなくて本物の本なんだよ」
「え? 何で本をわざわざ目立つ位置に飾っているんですか? 本なんて読んでこそ価値があるものだと思いますけど」
「ふふふ、心配しなくても何処の家庭もガラスケース内の本は読んでいるよ。ウィッチズガーデンには変わった風習があってね。民衆全員が知識・実験・空想を大切にしている町だから、家庭が大切にしている一冊をまるで『家紋』のように扱っているの。伝記を大切にしている家は伝記を、魔術書を大事にしている家は魔術書を、って感じでね。逆に本が無くなっている時は家の子供や来客たちが読んでいる最中だと判断できるね」
「なるほど、我が家の誇りは『この一冊です!』と胸を張る風習なんですね。それぞれの個性が出るところも、本を大事にしているところも素晴らしいですね。僕は早速この町が好きになってきましたよ」
「そう言ってもらえて嬉しいよ! だから両親が学問の町で活躍できるぐらい立派な学者さんだったことがサーシャは凄く誇りに思えるし、この町で得られる情報ならきっと役に立つと思うの」
「僕もそう思います。それじゃあ、ほどほどに観光したら『幻想の図書塔』に行ってみましょうか」
それから僕達は幻想の図書塔がある町の北端に向かいつつ、通りにある様々な店を見て回った。
タロットカードという紙を使った占いをしてくれる店で厳かな雰囲気のお婆さんに未来を占ってもらったり、大釜で不思議な薬を作る店でオモチャのような使い方が出来る薬を買ったりする等、刺激の多い時間を過ごす事が出来た。
占い屋で占ってもらった結果は幸運なことに悪い未来は見えなかったらしい。それに加えて、そう遠くない未来に僕もサーシャさんも行ったことのない地を沢山巡って楽しい思いをする未来が見えたそうだ。
占いというものがどこまであてになるものなのか分からないが、数日後に生死を賭けた大きな戦いを控えている僕らに未来があると占ってもらえただけでも有難いと思える。
不思議な薬を扱う店では飲むと数分だけ髪の色が変わる薬や声が変わる薬を買って、互いにいつもと違う見た目や声を腹の底から笑い合って楽しい時間を過ごす事が出来た。
そんな楽しい散歩が永遠に続けばいいのに、と思いながら歩みを進めていると、いつの間に僕達は北端の岬にある『幻想の図書塔』に到着していた。
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