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【第161話】ザキールの動き
しおりを挟む「ガラルドの両親について話す前に確認しておく……貴様は確か赤ん坊の頃ディアトイルに捨てられていたらしいな?」
「……ああ、その通りだ」
俺がそう答えると、さっきまで歯切れのよかったザキールが、言葉を詰まらせ考え込みはじめた。困っていると言うよりは言葉を選んでいるように思える。そして、ザキールは俺の親について語った。
「当時、赤子の貴様をどうするかで両親は言い争いをしていたらしい。父親の方は手元に置いておくつもりだったらしいが、母親は逆に手放したかったらしくてな。結果貴様の母親は父親に内緒で赤子の貴様を抱えて運び、ディアトイルに捨てたらしいぞ」
捨て子だから当然『要らない存在』だと思われていたのだろうと分かってはいたが、実際に事実として突き付けられると中々つらいものがある……。だが、ザキールの言い方だと父親は俺の事を大事に思っていてくれたのだろうか? 俺は父親について尋ねてみた。
「父親は俺の事をどう思っていたんだ?」
「さあな? あの人が何を考えているのか、俺様はあまり理解できていない。直接聞いてみればいいんじゃないか?」
「直接? ザキールは俺の父親が今、何処にいるのか知っているのか?」
「ああ、知っているぞ。どっちみち貴様をそこへ案内するつもりだったからな、連れて行ってやろう。だが、グラッジを含む他の人間は我々にとって邪魔になりそうだから、ここで皆殺しにさせてもらうがな、ギヒヒ」
ザキールは不気味に笑うと、自身の爪を舐めて戦闘態勢にはいった。奴が何故俺だけを生かして父親に会わそうとするのか、母親が何故俺を捨てたいと思ったのか、フィルとはどういう関係なのか、聞きたいことが山ほどあるが、今はザキールを止めるのが最優先だ。
ザキールは一番最初にグラッジへ攻撃を仕掛けた。虹の芸術で岩の剣を二本作り出し、二刀流で迎撃したグラッジだったが、右腕と右足しか使っていないザキールの攻撃を受け止めるのが精一杯だった。
その間にザキールの後方からリリスがアイスニードル、サーシャがファイアーボールを放ったものの、ザキールは後ろを振り向きもせず、右の羽を豪快に煽いだだけで両方の魔術をかき消してしまった。
認めたくないが俺達とは基礎能力が桁違いだ。出し惜しみをしていたら一瞬で頭数を減らされてしまう、俺は最初から双纏の型で魔力を高め、ザキールに放出した。
「喰らえ! サンド・テンペスト!」
俺の両腕から二つの魔力を混ぜ込んだ砂の嵐が放出され、ザキールの右側面を襲った。しかし、ザキールは初見の技でも焦る事はなく、グラッジを強引に蹴りで遠くへ押し出すと、右手と右足を構えてサンド・テンペストをガードした。
「ほほう、人間にしてはいい魔力だぜ、フィルと同じ二種の魔力を混ぜ込んでやがるから威力もかなりのもんだ。だが、魔人である俺様には及ばないがな、あらよっと!」
ザキールは掛け声と同時に右手を発光させると、サンド・テンペストを受けたまま直線型の閃熱魔術ファイアスラッシュを放ってサンド・テンペストに対して押し合いを挑んできた。
「ぐっっ! なんて威力だ……」
ファイアスラッシュは初歩的な魔術で基本的に威力は高くないにも関わらず、ザキールは俺の最強火力技と匹敵する威力を放っている。むしろ俺が少し押されているぐらいだ、悔しいがまたしても基礎能力の違いを実感する羽目になった。
前にモードレッドが放った魔術と均衡した撃ち合いをしたこともあったが、あの頃よりもずっと成長したであろう俺の双纏サンド・テンペストを軽々止めている事からもザキールの実力は未知の領域だ。
こうなったら十一人全員で一斉に攻撃を仕掛けるしかないと判断した俺はハンドシグナルで一斉攻撃の指示を出した。しかし、ザキールは俺の考えを察したのか、後ろへ大きく下がった。
そして、指先から糸の様に細い魔力を伸ばし始めると、その糸は分裂して近くで待機していた魔獣にくっ付いた。
一体何をするつもりなんだと警戒していると、ザキールは高笑いしながら放出した魔力の説明を始めた。
「流石に貴様ら全員に囲まれて360度から攻撃されてしまうと俺様でも骨が折れそうだ。だからメインディッシュ以外は俺様の下僕に相手してもらう事にしよう。行けお前ら! あいつらをぶち殺せ!」
ザキールが叫ぶと三十匹近くいる魔獣が一斉にパープルズと門番兄弟に襲い掛かった。一旦俺もパープルズ達の加勢に入らなければと走り出したが、フレイムが大声で制止した。
「来なくていいよガラルド君、魔獣は僕達に任せるんだ! 修行の成果を見せてやる!」
すると、パープルズと門番兄弟は出会った頃とは見違えるほどの洗練された魔力を纏いはじめた。伊達にエナジーストーンでの修行・死の海の渡航・カリギュラでの修行を終えただけの事はある。
色堅とまではいかないまでも、それに準ずるほどの力強く流麗な魔力に魔獣だけではなくザキールも驚いていた。
「ちっ、メインディッシュ以外にも中々の奴が揃っているじゃないか。やはり人間側も力を付けているようだな、益々早く手を打たなければならない理由が出来た」
さっきまでの戦いを楽しんでいる様子から一転してザキールは真剣な顔に変わった。まるで模擬試合の直前かのように大きく深呼吸をしたかと思うと、カッと目を見開き、グラッジに突進した。
さっきよりも更に速くなった突進に慌てて岩の大盾を作り出して防御したグラッジだったが、ザキールのタックルは大盾を粉砕し、そのままグラッジを吹き飛ばした。
「グハァッ!」
吐血して吹き飛んだグラッジはそのまま後ろへゴロゴロと転がっていってしまい、ザキールは追撃の為に再びグラッジに向かって走り出した。
グラッジはあまりの衝撃に足元がふらついている、このままではとどめを刺されてしまう。俺は足裏に回転砂を溜めて、サンド・ステップでグラッジとザキールの間に滑り込んだ。
「させるかよ!」
寸でのところで横から入った俺の棍がザキールの爪を止めた。しかし、ザキールは爪を豪快に下へ振り払って、俺の棍を下に叩きつけた。その振動が持ち手部分に伝わってきて、たまらず俺は棍を手放してしまった、こうなったら肉弾戦でいくしかない、俺はソルとの戦いで披露した技を使う事にした。
「みんな、俺が少しだけ時間を稼ぐ、グラッジを回復してやってくれ! いくぞザキール! サンド・ラッシュ!」
燃費度外視の乱打の型サンド・ラッシュ。これなら一時的とはいえ、ザキールの膂力に近づく事が出来るはずだ。俺は砂拳の雨をザキールの腹部にお見舞いした。
「オラオラオラァッ!」
ザキールの想像以上に俺の拳が速かったらしく、ザキールのガードは間に合わなかった。一瞬にして俺は七発の拳撃をお見舞いした。
「グェッ! グェッ!」
ザキールの連続したうめき声に確かな手ごたえを感じた、どうにかダメージは与えられているようだ。腹を抑えてよろけたザキールは刺すような目つきで俺を睨んだ。
「調子に乗るなよガラルドォォ!」
ザキールは完全に頭へ血が昇って俺しか見えていないようだ、これはザキールを離れた位置に誘導してグラッジとの距離を開けさせるチャンスかもしれない。
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