13 / 91
2. 学校編
ミオレーツ山
しおりを挟む
アルノー先生に送り出され、ミオレーツ山を登り出した僕。
サバイバル訓練用に用意された山だ、山道が整備されているはずもなく。草が踏み固められた獣道が、曲がりくねって木々の間をくねっていくばかり。
だがそれが僕にとっては、却って都合がいい。
正直、アルノー先生にある程度見られているのは織り込み済みとは言えど、直接使徒の能力を浴びせかけるのは、気が引けるものがある。
そんなわけで10分ほど山道とも呼べない道を登り行き、すっかり眼下の平地が木々の間に隠れて見えなくなった頃。
僕は立ち止まって深く息を吸った。
そのまま吐き出し、数度深呼吸。身体の中に、土のにおいと草のにおいをいっぱいに取り込む。
3日の間に、ルドウィグとリュシールから、使徒の能力の使い方はみっちり叩き込まれたが、いずれにせよ前提となるのは自然を受け入れることと、二人とも口を酸っぱくして言った。
自然を自分の身体に受け入れ、その環境を受け入れること、そうして初めて自然が力を貸してくれる、と。
そうして山の空気を身体にしっかり取り込んだ僕は、両足を肩幅に開き、両の手を軽く握る。
程よく脱力し、程よく力を籠めた状態で、木から零れる木の葉を僅か揺らすほどの声量で、ぼそりと呟いた。
「大地よ我が声に応えよ」
刹那、大地につけた両の足の裏から波動のように、力が伝わっていくのが分かる。
その波動は地面を奔り、奔り、このミオレーツ山の隅々にまで伝わっていく。
そして俺の視点は、身体から浮き上がるように急速に上昇していった。
上昇が止まると、そこはミオレーツ山の山頂から60mほど高い位置だった。
真下に視点を動かすと、視界一杯にミオレーツ山の緑が広がる。
「グランドエコー」は自然神カーンの加護のうち、「大地と一体化する」能力のみを励起させた、僕独自のスキルだ。
自分のいる地域の地形や特徴的なポイントの位置、その時点での日の射し方や湿り具合などを、一挙に把握することが出来る。
地球ではG○ogleが提供するストリー○ビューがあったが、ルピアクロワにはインターネットも記録して配信してくれる業者もいない。
探査士の中でもミオレーツ山全域を一気に探査できる人は、一握りだろう、とアルノー先生は言っていた。
かくして僕は一瞬にしてミオレーツ山の地形を把握してしまう。
サバイバル生活においてまず最初にやることは、住居の確保だ。
雨風をしのげる場所を早急に確保しないと、体力の消耗が一気に激しくなる、とルドウィグに教えられた。
山の中では洞窟を見つけて、その中にキャンプを張るのが手っ取り早い。手近な位置にある洞窟は、先程のスキルで把握した。
手早く安全な場所を確保してしまおう。僕は構えを解いて歩き始めた。
歩き始めてから30分ほど経っただろうか。
歩けど歩けど木々ばかりだった僕の視界に切れ目が出来る。
視界が少し開けたそこは、小高い崖の下に広がる小さな広場だった。崖自体はそんなに長く続いていく様子はない。広場は視界の奥に向かって上り、向こうの方で崖の上に繋がる場所と合流する具合のようだ。
そして崖の下、広場に面したところにいくつかの洞窟が口を開けていた。
本当だったら洞窟内に危険な獣が潜んでいたり、虫とかが巣を作っていたりしていないか確認しないといけないわけだが、生憎僕は分かる人間だ。
先程と同様に足を緩く開き、手を軽く握って構えを作る。そして再び小さく呟いた。
「生命よ我が声に応えよ」
先程と同じように足を通って波動が大地に伝わっていく。
先程と違うのは、波動の広がり方だ。前方に見える洞窟に向かって、地面を這うように指向性を持って伝播していく。
そして洞窟に到達するや、波動は洞窟の壁面を包むように広がって奥へ奥へと伝わっていった。
洞窟の一番奥まで波動が達したのを感じ取って、僕はゆるりと構えを解く。
「アニマルエコー」は「グランドエコー」と異なり、「生命と一体化する」能力のみを励起させたスキル。
グランドエコーが地形を見るなら、アニマルエコーは動物や虫を把握するスキルだ。
そしてこれら二つのスキルは指向性を持たせて発動させることも出来る。つまり、ある限られた範囲だけを探査することも出来るというわけだ。
そして、先程のアニマルエコーに反応する生物はいなかった。つまりあの洞窟の中には、何も住み付いていないということになる。
30分前のグランドエコーで洞窟内の地形は把握済みだ。恐らくだが、奥行きがあまりないせいで大きな動物が隠れるには都合が悪く、小さな動物が隠れるには広すぎるのだろう。
それならありがたく使わせてもらうとしよう。
そして僕は洞窟内に立ち入り、持参した古毛布を入り口から少し入った平らな岩肌の上に敷く。大きめの石も持ってきて、古毛布を固定すれば動くことはないだろう。
壁面のへこみに引っ掛けられるフック式の魔法ランプをかければ、キャンプ設営は完了だ。
入山してから実に70分後。この世界において一つの時間の区切りである100分を待たずして、僕はひとまずの安全を確保できてしまったわけだ。
「ふー……さて、とりあえずご飯どうしようかな」
あまり最初から獣を狩ってしまうのもよくないから、まずは果樹でも探そうか。
先程のグランドエコーの際に果樹が実っている樹は何本か見つけたが、キャンプの近くにはあっただろうか。
僕は古毛布の上に胡坐をかいて座ったまま、すぅっと目を閉じる。
そうして再び、大地の力を感じ取るために深呼吸を始めるのだった。
サバイバル訓練用に用意された山だ、山道が整備されているはずもなく。草が踏み固められた獣道が、曲がりくねって木々の間をくねっていくばかり。
だがそれが僕にとっては、却って都合がいい。
正直、アルノー先生にある程度見られているのは織り込み済みとは言えど、直接使徒の能力を浴びせかけるのは、気が引けるものがある。
そんなわけで10分ほど山道とも呼べない道を登り行き、すっかり眼下の平地が木々の間に隠れて見えなくなった頃。
僕は立ち止まって深く息を吸った。
そのまま吐き出し、数度深呼吸。身体の中に、土のにおいと草のにおいをいっぱいに取り込む。
3日の間に、ルドウィグとリュシールから、使徒の能力の使い方はみっちり叩き込まれたが、いずれにせよ前提となるのは自然を受け入れることと、二人とも口を酸っぱくして言った。
自然を自分の身体に受け入れ、その環境を受け入れること、そうして初めて自然が力を貸してくれる、と。
そうして山の空気を身体にしっかり取り込んだ僕は、両足を肩幅に開き、両の手を軽く握る。
程よく脱力し、程よく力を籠めた状態で、木から零れる木の葉を僅か揺らすほどの声量で、ぼそりと呟いた。
「大地よ我が声に応えよ」
刹那、大地につけた両の足の裏から波動のように、力が伝わっていくのが分かる。
その波動は地面を奔り、奔り、このミオレーツ山の隅々にまで伝わっていく。
そして俺の視点は、身体から浮き上がるように急速に上昇していった。
上昇が止まると、そこはミオレーツ山の山頂から60mほど高い位置だった。
真下に視点を動かすと、視界一杯にミオレーツ山の緑が広がる。
「グランドエコー」は自然神カーンの加護のうち、「大地と一体化する」能力のみを励起させた、僕独自のスキルだ。
自分のいる地域の地形や特徴的なポイントの位置、その時点での日の射し方や湿り具合などを、一挙に把握することが出来る。
地球ではG○ogleが提供するストリー○ビューがあったが、ルピアクロワにはインターネットも記録して配信してくれる業者もいない。
探査士の中でもミオレーツ山全域を一気に探査できる人は、一握りだろう、とアルノー先生は言っていた。
かくして僕は一瞬にしてミオレーツ山の地形を把握してしまう。
サバイバル生活においてまず最初にやることは、住居の確保だ。
雨風をしのげる場所を早急に確保しないと、体力の消耗が一気に激しくなる、とルドウィグに教えられた。
山の中では洞窟を見つけて、その中にキャンプを張るのが手っ取り早い。手近な位置にある洞窟は、先程のスキルで把握した。
手早く安全な場所を確保してしまおう。僕は構えを解いて歩き始めた。
歩き始めてから30分ほど経っただろうか。
歩けど歩けど木々ばかりだった僕の視界に切れ目が出来る。
視界が少し開けたそこは、小高い崖の下に広がる小さな広場だった。崖自体はそんなに長く続いていく様子はない。広場は視界の奥に向かって上り、向こうの方で崖の上に繋がる場所と合流する具合のようだ。
そして崖の下、広場に面したところにいくつかの洞窟が口を開けていた。
本当だったら洞窟内に危険な獣が潜んでいたり、虫とかが巣を作っていたりしていないか確認しないといけないわけだが、生憎僕は分かる人間だ。
先程と同様に足を緩く開き、手を軽く握って構えを作る。そして再び小さく呟いた。
「生命よ我が声に応えよ」
先程と同じように足を通って波動が大地に伝わっていく。
先程と違うのは、波動の広がり方だ。前方に見える洞窟に向かって、地面を這うように指向性を持って伝播していく。
そして洞窟に到達するや、波動は洞窟の壁面を包むように広がって奥へ奥へと伝わっていった。
洞窟の一番奥まで波動が達したのを感じ取って、僕はゆるりと構えを解く。
「アニマルエコー」は「グランドエコー」と異なり、「生命と一体化する」能力のみを励起させたスキル。
グランドエコーが地形を見るなら、アニマルエコーは動物や虫を把握するスキルだ。
そしてこれら二つのスキルは指向性を持たせて発動させることも出来る。つまり、ある限られた範囲だけを探査することも出来るというわけだ。
そして、先程のアニマルエコーに反応する生物はいなかった。つまりあの洞窟の中には、何も住み付いていないということになる。
30分前のグランドエコーで洞窟内の地形は把握済みだ。恐らくだが、奥行きがあまりないせいで大きな動物が隠れるには都合が悪く、小さな動物が隠れるには広すぎるのだろう。
それならありがたく使わせてもらうとしよう。
そして僕は洞窟内に立ち入り、持参した古毛布を入り口から少し入った平らな岩肌の上に敷く。大きめの石も持ってきて、古毛布を固定すれば動くことはないだろう。
壁面のへこみに引っ掛けられるフック式の魔法ランプをかければ、キャンプ設営は完了だ。
入山してから実に70分後。この世界において一つの時間の区切りである100分を待たずして、僕はひとまずの安全を確保できてしまったわけだ。
「ふー……さて、とりあえずご飯どうしようかな」
あまり最初から獣を狩ってしまうのもよくないから、まずは果樹でも探そうか。
先程のグランドエコーの際に果樹が実っている樹は何本か見つけたが、キャンプの近くにはあっただろうか。
僕は古毛布の上に胡坐をかいて座ったまま、すぅっと目を閉じる。
そうして再び、大地の力を感じ取るために深呼吸を始めるのだった。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
1,228
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる