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麗憶高原イデラゴエリ、賢者が遺すは虚像の糸編
12.謎の文様
しおりを挟む「ふむ……標高が高い場所のせいなのか、それとも超古代の技術のおかげか、空気はヤケに澄んでる感じだね。でも、外よりずっと暖かいみたいだ」
「言われてみると確かにそうだな。山の夜ってかなり寒いはずなのに、ここは温かくて地べたでも寝られそうだ」
「グォウ?」
俺達の話を聞いて、ロクが「そうなの?」と言わんばかりに首を傾げて、目の内膜をぱちぱちしながら、剥き出しの土をペタペタと足で確かめた。
そのあまりの可愛さに鼻から昇りくるものがあったが、俺は何とか顔を覆って鼻の熱を抑え込むと、ロクの留まる事を知らない可愛さに内心で悶えた。
ぐおぉ……なんで、なんでそこでそんな可愛いことをしちゃうんだ!!
そんなことをしたら、あまりに可愛すぎるせいで天使に間違われて悪いおじさんに連れて行かれちゃうかもしれないんだからな!?
えっ今は逞しい竜人の姿!?
可愛かったらマッスル如来だろうが人の心を惹きつけちゃうもんだろうが!!
ていうか俺が連れて帰りたい、たまらんもう頭撫でちゃう。
「よーしよしよしよし」
「グォオン! グルルルル……」
「ツカサ君がまた気持ち悪い顔してる……」
おいコラ俺を新手の犯罪者を見るような目で見るんじゃない。
可愛い子を全力の愛で可愛いと言って何が悪いんだ。それでなくともロクショウは世界一可愛いヘビトカゲちゃんだというのに。
見よ。今だって、でかぶっとい竜の尻尾をパタパタさせておるだろう。
ロクの中に在る無限の可愛さの一つだぞこれは。存分に悶えろ。
「はいはいもう良いから先に進むよ。ツカサ君の可愛いもの狂いに付き合ってたら、夜が何時間あっても足りないよ」
コイツ……俺に対してご無体を働くクセに、すぐこういうこと言うんだから。
まあしかしコレはお互い様なところもあるので今回は水に流してやろう。俺は大人だからな。ふふん。
「にしても……なんというか妙に入り組んでる遺跡だね。部屋と部屋の間隔が狭くて遺跡と言うか……家っぽい……?」
ブラックが曜術で出した炎の明かりは、広範囲を照らす。
確かに言われてみれば、階段を下りた所から続く廊下は狭く曲がりくねっていて、左右にはみっしりと部屋が詰められていた。
その部屋も、神殿のような「何かの祭祀を行う場所」っぽい広さは無くて、人が寛げる程度のサイズな部屋ばかりだった。
確かにこの構造は誰かの家っぽい。よく考えたら天井も家くらいの高さだな。
ちらちらと覗く部屋の中は相変わらずガランとしているが、たまに少しへこんだ所のある壁や、間違って斬りつけたっぽい壁、それに焦がした地面が見えた。
どれもパッと見では驚くけど、傷の浅さを見ても「うっかり壁を傷付けた」レベルの物で、怖さと言うよりは生活の跡が感じられる痕跡だ。
奥へ行く廊下の途中で少し広めの部屋があったが、そこには地面や壁などに金属で強化された穴が開いていて、俺は田舎で見た新築の家を思い出した。
「これ、何の穴だろう?」
不思議そうにブラックが壁の穴を覗くのに、俺は推測を答えてやる。
「それって多分水を通すためのモノと、下水を通す穴だと思うよ。ここは台所だったんだと思う。俺、人が入る前の家を見た事があるからちょっと分かるんだ」
「グォウ!」
「なるほど……そう言われると納得だよ。設備の整った家はこういう配管があるのか……。だとすると、この遺跡は元は大きな家か何かだったって事なのかな?」
おや、意外にもブラックは気が付かなかったらしい。
珍しいなと思ったけど……よく考えてみたら、ブラックはこういうカラッポの家ってのを見た事が無かったのかもしれない。
排水設備が無い村の家とか、反対に既に家具が取り付けられていて配管が見られない貴族の家は見た事があっても、こんな何もない現代的な家なんて普通は見られないだろうしな……俺だって、運よく見られた程度だし。
例え一人暮らしをすることになって内見をしても、流しを取り外した殺風景な台所なんて滅多に見られまい。いや、イメージでしか語って無いから実際は分からんが。
まあそれは置いといて、ブラックもこの感じは初めてだったってことだな。
しかし、ここまでご家庭っぽいと逆に不安になって来るな。
本当に遺跡が「誰かの家」だったとしたら、街興しはどうすりゃいいんだろ。
普通、観光地って「他では見られない素晴らしい光景や魅力的な物がある」から、観光する価値があるって思った人達が来るもんなワケで……だとしたら、歴史的には価値があるだろうけど地味なこの遺跡を観光地にするのはかなり難しいぞ。
中身はコレでもちゃんとした遺跡として国に認定されているから、リフォームしたり家具を置くなんて以ての外だろうし……。
…………マジで悩ましい依頼を受けちまったなこれ……。
「……そっかぁ……。家を建てるなら、排水とか水まわりの設備が必要なのか……。仮に誰にも知られない場所に家を建てたとしても、キッチンだけじゃなく部屋にも排水設備がないと、いざって時に閉じこめる事も難しいんだなぁ」
「ん?」
小さくてよく聞こえなかったけど、今なんかゾクッとすること言わなかった?
なんか物凄い物騒な事を言われた気配がしたんだけども?
「残りは第三層か……廊下の奥の方にあったね。そっちに行ってみようか」
「ブラックさん? なんか言いましたよね、おい、ブラックさんてば」
「やだなぁツカサ君たら“ブラックさん”なんて……なんかお淑やかな奥さんって感じでちょっと勃起しちゃうじゃないか」
「気軽に勃起すんな!! ってか敬称だけで興奮するのやめてくださる!?」
つい夫人みたいな喋り方になってしまったが本当にやめろ。
ていうか何でお前は昼間あんなに好き勝手やったってのに、なんでお前は元気に興奮出来てるんだよ。毎度のことながら恐ろしいよ。
「グオゥ、ガッ、ァウ゛」
俺がブラックを警戒して毛を逆立てたのを見てか、ロクが竜人の口でなんとか言葉を出そうとする。人間に近くなったからか、結構鳴き声も多彩になるのだ。
分からない人もいるだろうが、俺にはロクが「とにかく行こうよ!」と言おうとしているのがハッキリ聞こえるぞ。うんうん、そうだよなっ。
「そうだなロク、今日は軽めの調査にして早く帰らないとな! 明日もあるんだしっ」
「ツカサ君てば本当にロクショウ君にはあまあまだよね……。僕にだってあまあまで居て欲しいんだけどなぁ、常に」
「お前の場合は甘くしたら俺のケツがいくらあっても足りないからダメだ」
無駄口を叩いてないでさっさと行くぞとブラックを急かしつつ、俺達は最後の階層へ降りる。階段は相変わらずちょっと違和感があるほど高いのだが、第二層に降りる時と同じくらいの長さかなと体感で感じた。
このくらい距離を取らないと危ない地盤みたいな感じなのかな。
それとも、別の理由があるのか……。
訝しみつつ、変わり映えのしない階段を下りて第三層へ辿り着く。
と……そこもまた、遺跡と言うには奇妙な造りだった。
「……大部屋ひとつだけ?」
「みたいだね。ここまで何もないと逆に笑っちゃうよ。……はぁ……なんだかとんでもない事を引き受けちゃったみたいだね……」
ブラックが溜息をつくのも無理はない。
何故なら、第三層は……上の階に増して何も無い、ひとつの大きな部屋だけが広がっていたのだから。
……なるほど、確かにこれは観光地化しようもないし、調査をしに来た国の人達が「まあ好きにいじって」と放り出すだけはある。
たぶん、何を調査しても見つけられなかったんだろうな。だから、住居跡みたいな物だと断定して打ち切ってしまったのかもしれない。
とはいえ、遺跡って普通は何もなくても保護されそうなもんだけど……こっちの世界では【空白の国】と呼ばれる遺跡がいっぱいあるから、軽視されがちなんだろうか。
案外こういうひっそりした遺跡の方にも、すごい物が眠ってそうなんだけどな。
でも、今回はそういう依頼じゃないしなぁ。
うーん……でも何もないとは本当に困ったぞ。どうすりゃ良いんだろう。
トンラクルの件は名物や綺麗な風景がいっぱいあったから成功したけど、それって裏を返せばほぼ村の底力があったからで、俺達の功績かと言われると怪しいところも有るんだよな。このプレーンな遺跡ではアイディアの出しようもない。
そのまま観光地ってのは難しいだろうから、やっぱり何らかの店や施設に改造する必要があるのかな。でも、遺跡にそんな事をするのはちょっとヤダぞ俺は。
本当に何もないと決めつけちゃっていいんだろうか。
「ううー……とりあえず、壁とか地面とか調べて見よう。調査してた人達も何か見落としてたかも知れないし」
「えー? 有るとは思えないけどな~」
そんな風にぶちぶち言いつつも、壁や地面を探し出す。
やっぱりブラックも「ちょっとこれは逆に改造とかしづらい」と思ったんだろうな。
俺とロクも何か「遺跡」たるものがないか、壁を探し始めた。
「何もなくて綺麗な遺跡だと思ったけど、意外と壁や地面は土のクズ……? みたいな物が積もってるんだな。やっぱりそれなりに劣化はしてるのか」
みっちりと石積みにされた壁だけど、よくよく見ると土でコーティングされてしまっている。どうやら経年劣化で隙間から土が入り込んできてしまったらしい。
ということは、超古代の技術は使われてないのかも。
それならそれで逆に価値が生まれそうでもあるがと思いつつ、俺は入口の真正面に位置する壁の部分まで移動して、土をさっさと手で取り払ってみた。
ぱらぱらと落ちる乾燥した土埃が、明かりの中でどんどん崩れていく。
……と、俺は違和感に手を止めた。
「ん……?」
「グォ?」
「あ、いや……なんかここだけヤケに土が出てくるなって思って」
しかもこれ……土っていうか、石材の一部が剥がれてる?
公園に在る古い鉄棒の支柱に塗ってあったペンキがバリバリになって剥がれていく感じに似てる。でも他の所を手で触ったって別に剥がれたりしなかったよな?
どういう事だとバリをとにかく剥がしていく。
すると、妙なものが見え始めた。
「……ん? んんん……?」
「どしたのツカサ君」
「いや、これ……何だと思う?」
石材のバリを剥がし終えて見えて来たのは……壁に刻まれた、図形。
紋章のようにも見えるけど、なんだか違う気がする。
これは……簡単に描かれた人の絵……かな……?
大きい花の上に手を合わせたヒトガタが配置してあって、その後ろに大きな円がある。その円には、ヒトガタの頭の後ろの小さな円が少しだけ重なるように置いてあった。
そして、花の下にはこの世界の文字で「23」と書かれていた。
「にじゅうさん……? ブラック、これ分かる?」
「なになに? …………うん? なんだこれ……何かの人形を模した図形か?」
ブラックを呼んで聞いてみるが、見た事も無かったのかブツブツ独り言を言い出す。どうやら、ブラックの中の膨大な記憶にすら当てはまるものが無いらしい。
ってことは……他の【空白の国】でも見た事が無かったってことだよな。
なら、これはこの遺跡独特の何かなんだろうか。
だとしたら大発見のような気もするんだけど……。
…………うーん……でもなんかこれ、どっかで見た事あるんだけどな……。
何だろう、あまりに簡単に描かれ過ぎててパッと思い出せない。
似たような何かを、昔どっかで見た気がするんだけど……。
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