異世界日帰り漫遊記!

御結頂戴

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麗憶高原イデラゴエリ、賢者が遺すは虚像の糸編

13.予想外のアクシデント

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   ◆



 あれから数分ブラックと頭をひねってみたが、やっぱりあの図形と「23」の謎は解けなかった。というか、何のヒントもナシじゃ無理だあんなの。

 もしかしたら何か意味のある図形だったり、実は隠し扉を開く鍵だったりするのかも知れないけど……今の俺達にはなにもピンとこない。
 なので、今日はもう遅いしって事でひとまず眠ることにした。

 最新式のテントは俺とブラックとロク、それにクロウが居ても四人で横になって寝られるくらい広くて、かなり快適だ。小屋っぽい感じに広がるテントって、こんなに休みやすいシロモノなんだなぁ。

 とはいえ、設営が大変そうなので、街道を旅する場合は滅多めったに使う機会きかいが無さそうなんだけども……ま、今回はキャンプ気分だからそこは気にしないでいいか。

 閑話休題。
 ともかく、色々知りたいことも有るが続きは明日だ。

 今回は何も分からなかったけど、領主のアーラットさんなら何か知っているかもしれないし、もしかしたらあのが秘密の扉を開くカギの可能性もあるからな。先に調査をした人たちの記録から、何か分かる可能性もある。

 うむ。確認は大事だよな。
 特に変わった所のない遺跡だという先入観から、俺達が何らかのヒントを見落としていたってコトもありそうだし。

 それにしても、奇妙な遺跡に謎の図形……ちょっとワクワクしてきたぞ。
 よし、今夜はしっかり眠って明日しっかり……

「ツ、カ、サ、くんっ」
「……ぐーぐー」
「んもう寝たふりしないでよう」

 また甘えた声を出しながら、ブラックが背後からにじり寄ってくる。
 俺は相手に背を向けているはずなのだが、近付いてくる布ずれの音と忍び笑いのせいで、何故かその何かをたくらんでいるような変な笑みや、肩を動かし横にいずってくる中々に怖い絵が想像できてしまう。

 っていうかもう声が近い。
 コラやめろ、うなじに息を吹きかけるんじゃないよアンタは。でもここで反応したら、何かのっぴきならない事になるような気がする。

 そう思ってどうにかやり過ごそうと寝たふりを続行したんだけど、背後のオッサンは俺が寝ていないと確信しているのか、どんどん近寄ってくる。
 ……ま、まさか、コイツ夜の「一回」の約束は別物と考えて、今からその「ご無体な一回」をやらかそうとしてるんじゃないだろうな。

 冗談じゃない、反対側にはロクが寝てるんだぞ。しかも俺だって下半身の感覚とかがいまだに完全復活して無いってのに。だあもうなんでコイツはこんなに元気なんだよ!!

 でも、ここで起きて抗議したら「寝たふりなんて悪い子だね……お仕置きだよ!」と、どこの一昔前の女子向けエロマンガだとツッコミたくなるような事を言いそうだし……ぐうう……もうこうなったら寝たふりを続けるしかない。

 しかし、吐息が吹きかかる量も多くなってきた。気配なんて、熱を感じるほど近くて最早もはやいている距離なんて数センチもないかもしれない。

 ……頭の上に、気配を感じる。

 もう、俺の頭にあごを乗っけられるくらい近くに来ちゃったんだ。

「つーかさくん。ね……今日はしないから……くっついて寝よ……?」
「…………」

 後ろで布がれる音がする。
 気配が動くのが分かって、熱がおおかぶさるように近付いてくる。

 抱きしめられるんだろうか。
 そう思うと急に胸がドキドキし始めて、俺は身じろぎしそうになった。

 寝てるフリをしているのに、なんで反応しようとするんだ俺は。
 む、無視無視。ここでウッカリ動いちゃったらブラックの思うツボだ。

「ツカサ君……好き……」
「っ……」

 う、うう、耳に息吹きかけながら、そんな……急に真面目ぶって言うなよ……っ。
 なんで息だけで軽く笑うんだ。もしかしてやっぱり、寝たフリがバレてるのか?

 でもこんなのフリするしかないじゃんか。
 だって、起きてるとか言ったら絶対、なんか、その……。

「可愛い……ツカサ君の耳、っかだね……」

 い、息が、近い。
 これ……み、耳を何かされる時の距離だ。

 次に何をされるかなんて、もう何回もやられて分かり切っている。
 耳の外側をまれたり、耳たぶをし……舌で、舐めまわされたり……その……それと……耳の穴とか、いろいろ……とにかく思い返すと結構なことをされてるんだよ!

 だから、声が凄く近いと体が勝手に意識してしまって、足がぎゅっと閉じてしまう。
 急な衝撃に反応してしまわないようにと無意識の行動だったんだけど、そのせいで自分が変に意識してるように思えてきて、体が熱くなった。

 ぐうう、これはきっと今日ブラックにさんざんあえがされたせいだ。
 そのせいで体が今もおかしいというか、だから……

「ぎゅってして良い? いいよね、僕達恋人だもん……ね……?」

 あ……だ、駄目だ……絶対ヤバいことになる。またおかしいことになっちまう。
 こんなのもう、素直に起きて拒否した方がいいんじゃないのか。

 でも、ブラックの声を耳に吹き込まれると、緊張で動けなくなる。
 下手に良い声のせいで、至近距離にいると体の中が痺れるようなじんじんするような感覚になるんだ。それが、その……え、えっちな気持ちに、なってるって、勘違かんちがいをするモトになっちゃうっていうか……。

 だから、下腹部に熱が溜まるのを警戒してしまって、体が固まってしまって。
 どうすりゃ良いんだと考えるんだけど、もうこうなるとどうしようもない。

 拒否しなきゃって思うんだけど。
 けど……ブラックが、今から俺を抱き締めるのかなって思うと…………心の中では、ちょっとだけ……そうされるのを、望んでる俺が……いたりして……。

 ………………。
 い……いや、俺がそんなこと言ったってキモいのは分かってるんだけど!

 でも、そ、そりゃ……こ、恋人なんだ、し……俺だって……。

「ツカサ君……」

 ああもう、変な事を考えてたら余計にドキドキしてきた!
 バカバカ俺のばっきゃろう、なんでついそんなコト考えちゃったんだよ!

 もう今日は無理だってのに、なのに、甘い声でささやかれたからって、そんな。
 そんな…………っ。

「おいバカ二人! そこまでだ!」
「ギャーッ!?」
「なっ、なんだお前!!」

 いや何なにナニ心臓飛び出るかと思ったんだけど!?
 なんだよ今の声、なっ、なにっ、ブラックにだけ集中してたから急に別の声がっ……いや、待てよ……今の声って……キュウマ……?!

「ちょっ……あっ、やっぱりキュウマ……!」

 ブラックの驚いた声がほうられた方向……テントの入口の方を見やると、そこには俺達の事を覗いているノゾキ……ではなく眼鏡の男が立っていた。
 それはもう見間違えようもない。清潔な白シャツでスラックス姿というラフな格好をした、この世界の神様……つまりはキュウマだった。

 おいおいマジで急に来るのはやめてくれよ心臓止まるかと思っただろ。

 ブラックと一緒に体を起こすと、キュウマはすぐに手招きをしてくる。

「おい、一旦いったん帰るぞ。ちょっとまずい事になった」
「え……マズいことって?」

 キュウマが呼びに来たって事は、この世界でのことではなく……たぶん、俺の世界の方の「不都合」だろう。でも、何が起こったのかな。
 よく解らなくて問いかけると、キュウマは眉根を寄せて頭を掻いた。

「お前、アレ……今回はよくわからん神社からコッチに跳んで来ただろ。そのせいで、時間合わせのズレが生じてるんだよ。こっちから合わせようとしたが、アッチと繋がる感覚がズレてる。多分、五分くらい超過してんぞ」
「ジンジャ?」
「超過って……え、どういうこと……?」

 ブラックは初めての単語を聞いて首をかしげているが、説明してやる余裕がない。
 あとでなと肩を叩きつつキュウマに問いかけると、相手は息を吐く。

「要するに、いつもの『こっちの一日があっちの一分』じゃなくなってるんだ。こっちでの一日は、今おそらく五分になってる。……時間のズレは、もっと酷くなるかも知れん」
「ええっ!? や、ヤバイってそれ! シベが探しに来ちゃうじゃんか!」
「しべ……?」
「だから一旦いったん帰れって言ってんだよ! 一日の間になんとか調整すっから!」

 あわわわヤバい。
 五分も十分も時間が経過したら、さすがに「なんか遅いな……帰ってこないし探しに行かねば」ってなっちゃうぞ。

 しかも今の俺は、シベに保護されてる状態なのだ。責任感も強いシベの事だから、絶対に俺を探しに来てしまう。そうなると、探しに来たシベに「お前どこに行ってたんだ」とか問い詰められちまうじゃねえか。

 いやあの現実主義者なシベが「異世界に行ってました」なんて言っても信じるワケが無いだろうけど、しかしそうなると説明できる理由が何もなくなってしまう。

 これが尾井川なら、ブラックの事はともかく俺の事情は把握はあく済みだから、異世界に行っていたというのは信じてくれるだろうけど……ああもう、考えてる時間も惜しい。

 どのみち、キュウマに助けて貰わないと俺はこちらに来られないんだ。
 ここは素直に撤退した方が良い。

 そう思い、俺はブラックと、今の騒ぎで起きたのか目をこすっている超絶可愛いヘビトカゲちゃん姿のロクに振り返った。

「ごめん、色々聞きたいと思うんだけど俺一度アッチに帰るよ! 時間見てまた来るから、申し訳ないんだけど朝までに帰ってこなかったらアーラットさんに話を聞くのをやっといて、頼む!」

 ぱん、と両手を合わせてお願いのポーズを取ると、ブラックは大きな大きなため息を長く吐き出して、キュウマをにらみながら目を細めた。

「はぁあ……。まあ、ツカサ君がコッチに来るのに不都合が起こるってんなら仕方ないけど……だったら、出来るだけ早く調整しろよ眼鏡神」
「メガネをつかさどる神みたいに言うな変態クソオヤジめが。……よし、じゃあ帰るぞ」
「お、おう!」

 ロクにも「待っててね」と頭を撫でてやると、俺はすぐさまキュウマが出現させた“穴”に飛び込んだ。いつもの事なので、もう不安など無い。
 白い空間に戻ると、キュウマが俺を急かした。

「あそこからまた来ても良いが、人に見られるんじゃねえぞ! いつもの神社以外は、俺も他の奴に対してどうにも出来ん。いいか、シベって奴に何か聞かれても、こっちの事や滝の裏の神社の事は話すなよ! 変に詮索せんさくされたら困るからな!」
「わっ、わ、分かった! 聞かれてもなんとか誤魔化ごまかしてみる!」

 急いで着替えながらキュウマの警告に答える。
 が……なんだかキュウマは凄く微妙な顔をしている。「本当に大丈夫かなあ」とでも言いたげなイヤな顔だ。なんだコラ、俺が信用できないってのか。

「いや……だってお前、ウソが壊滅的にヘタクソじゃねえか。しかもチョロいし……」
「はぁ!? チョロくないですけど!?」
「チョロい奴は自覚ねえんだよ。……ともかく、帰り道は開けておいたから行け。早く帰らんと、俺にもどうなるか分からんからな」

 ……いつもならもうちょっと言い合いをするんだが、今回はぐっとこらえる。
 本当なら、この白い空間に一時間くらいはとどまって、異世界での出来事とかアッチの世界での生活の話とかをするんだけど……緊急事態なんだから仕方ないよな。

 というか、もう帰り道が繋がっているなんて早いな。
 もしかして、事前にキュウマが俺の世界と繋げておいてくれたんだろうか。

「あ、ありがとキュウマ」
「…………別に礼なんていい。お前は運命共同体だからな。それに、俺達の世界へ帰らせる事を了承したのは神である俺だ。出来る事をしているだけにすぎん」

 またそんな冷静な事を言っちゃって。
 本当は俺のために出来るだけ協力してくれてる良い奴なのに……まあ、そういうツンデレな所がキュウマって感じだけどな。

 って今は帰ることが先決だった。
 俺はキュウマに改めて挨拶あいさつをすると、躊躇ためらいなく穴へ飛び込んだ。

 ――――と……

 世界が急に真っ暗になり、湿気と夏の暑さが体を包み込んでくる。
 滝の音が耳に届いて来て……現実感のある音や風景が五感に入ってきた。

 うん。
 間違いなく帰って来たんだな。これは。

「……洞窟の中だと時間が分からないな。えっと、スマホは……」

 たぶん、時間は結構経っているはずだ。
 そう思いズボンのポケットに刺していたスマホを取り出してみると、表示された時刻は……シベの別荘を出発してから三十分ほど経過していた。

「うわ……これは確かにヤバいかも……」

 もしかしたら、キュウマはこのスマホの時計を見て変化に気付いたのかもしれない。だって、俺が別荘から滝まで歩いてきた時は十五分程度だったんだ。
 それで滝の裏側の洞窟を見つけた時間を加算しても、たぶん二十分にもならないハズ。それが三十分くらいになってるってことは……あっちの一日が一分になるハズの滞在が、十分にズレてしまってる。

 五分の超過どころの話じゃないじゃないか。
 これが「いつもと違うこと」をした時の不具合なのか。

「…………いつもと違う場所を使ったら、こんな事になるんだな……」

 一応おやしろに頭を下げると、あわてて洞窟から出て滝に戻る。
 警戒して周囲を見回したが……幸い、誰もここに来てはいないようだった。

 よ……良かった……誰もいないんなら、とりあえず安心だな。

 慌てたせいでちょっと服を汚してしまったが、これはシベに頼んで洗わせて貰おう。とにかく、今はシベにバレないのが先決だ。
 早く別荘に戻らないとな。そう思って、俺は遊歩道へ戻るために歩き出した。

「ふぅう……む、無駄に汗をかいた……」

 おかげでブラックとの甘い雰囲気など吹き飛んでしまったが、まあ仕方ない。

 しかし……こういうのって俺だけじゃ分からなかったよな。
 こういう時に、異世界側に気心の知れたヤツが居てくれるのはありがたい。本当、キュウマには助けられっぱなしだよ。

 ……俺も、出来る限りキュウマのために動かないとな。
 よし。せっかく戻ってきたんだし、今度こそシベにキュウマの事を調べられないか聞いて見なければ。次どうやってアッチに行くかは、それから考えればいい。

 あせりは禁物だ。家に帰ればいつもの神社を通ってあっちに行けるんだし、少しくらい遅くなってもブラックやロクは怒らない。それより、来られなくなる方が大事おおごとだからな。

 なので、シベの別荘にいる間は大人しくするか……もしくは、時間のズレが起きても不審に思われない程度ていどの滞在を心がけねば。

 ここで異世界に行きたがって迂闊うかつな行動をするのは悪手だ。
 もう二度といけなくなるワケじゃないんだから、気持ちを切り替えていこう。

 それに、折角せっかくの滝と綺麗な森の中なんだ。不安にドキドキしながら見るような風景ではないだろう。だから深呼吸をして…………ふう。

 ……うむ。落ち着いた、はず。
 少なくとも呼吸は整っているから大丈夫だよな。

 これでシベの所に戻っても、変な感じにはならないはず。
 自分の冷静さに自信を持った俺は、来た道を戻ろうとして前方を向いた。

 すると……――――

「あっ、いた! おい潜祇くぐるぎ、どこまで行ってんだよお前は!」
「ええっ!? し、シベ!?」

 緩く曲がりくねった道から、背の高い相手がずんずん近付いてくる。
 アレは間違いなくシベだ。メガネというとキュウマもそうだが、やっぱり姿形やメガネのフレームは異なる……って何言ってんだか俺は。

「たかだか数十分程度ていどの遊歩道なのに、帰ってこないと思ったらノホホンとした顔をしやがって……」
「ご、ごめんごめん。えーと……滝見てたらちょっと……」

 すぐにそばまで来てしまったシベに、内心あせりつつも言葉を返す。
 滝を見てたってのは本当だし、そこから動いてはいないのだ。いくらシベでも、俺の言葉が嘘だとは思わないはず……。

 だけど、俺が滝を見物するのは変だと思ったのか、シベは片眉を上げる。

「滝ィ? お前、そんなモンに興味あるのかよ」
「え、いやだって滝すごくない? それに俺どっちかっていうと自然派だし、森の中の方が心地いいっていうか……」
「ハァ……何言ってんだか……。とにかく帰るぞ。もうすぐ夕食だしな」
「お、おう……」

 うーむ……これは……セーフと言っていいんだろうか?
 俺の言葉を疑ってはいるっぽいけど、本気でただしてる感じではない。

 その疑いは、どっちかっていうと「俺が滝を見物するような性格に思えない」って所のようだし、滝を見ている間に何をしていたかは気にしていないみたいだ。
 ……ということは、安心して良いんだよな。

 はぁあ、良かった~……シベは何か妙にカンが良いところがあるから、俺がどんな事をしたのか気付くんじゃないかって心配だったんだよ。

 俺が滝に来たこと自体は怪しんでないっぽいだし……この感じなら、もう一回くらいはブラック達の所に行けるかも。
 シベにキュウマの事を話したら、時間を作ってまた洞窟に入ってみようかな。
 アッチの遺跡の事も気になるし……。

「…………ん……?」

 シベの背中を見ながら考えていると、少し離れた前方の体が向きを変える。
 それに気が付いて顔を上げると、シベは少し上半身をひねり、すんすんと鼻を動かし何かのニオイを確かめているようだった。

 だけど何かおかしいのか、しきりに高い鼻を手の甲でこすっている。

「どした、シベ」
「ああ、いや……何だかヘンな匂いがするなと思って……」
「ニオイ……? 俺には森の匂いしか感じないけど……」
「そうだよな……」

 納得したような言葉で会話を切るが、でもシベの表情は納得していない顔だ。
 顔をしかめてはいないから、たぶんイヤなニオイじゃないんだろうけど……だったら、一体何のニオイなんだろう?

 俺は感じないけど……そんくらいかすかなニオイなのかな?

 気にはなったけど、感じようのない事を必死に想像しても仕方がない。
 それより夕食のメニューを想像した方がよほど有意義と言うものだろう。

 夕食か……お金持ちの夕食って、どんなんなんだろう。
 あの美味しいアイスを作った管理人さんが作ってくれるのかな。だとしたら、物凄く期待できるんだが。アッチの世界でメシを喰ったって、全然入るぞ。

 むしろ考えると腹が減ってきた。
 ようし……こっちの夕食も残さずに食べてやろう。

 そしてブラックにガツガツやられた分の体力を取り戻すんだ!

「へっへっへ、金持ちの夕食が楽しみだなぁ……」
「気持ちの悪い声を出すな。……しかし……発生源が特定できん香りとは……」

 香りかぁ。
 案外、自分の服から匂ってるかもしれないぞ、シベよ。

 えらく香水っぽい香りがしたと思ったら、自分の服に使ってた柔軟剤のフローラルな香りだった……みたいな話もあるからな。
 でも、それを指摘するのはマナーに反するだろう。
 自分で気が付くまで放っておいてやる。それが男の思いやりってもんよ。

 ……なーんて事を言いつつ、俺はフフンと鼻を鳴らす。

 しかしシベはよほどニオイが気になっているのか、俺には目もくれなかった。












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