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邂逅都市メイガナーダ、月華御寮の遺しもの編
21.言葉以上に伝わるもの1
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動物がもっともよく学習するものとは何だろう。
そう問われて、大体思い浮かぶのは「美味しいもの」と「危険」だ。
ごはんが豊富な場所は何が何でも覚えているし、危険な所だって本能で行かない方が良いと悟って避けるようになる。
まあ、それを覚えているかどうかとか、どのくらいの期間忘れないかってのは、動物によって違うんだろうけど……ともかく、その二つが重要だと俺は思うのだ。
そしてそれは、獣人でも同じだろう。というか、同じはずだ。
何故そう断定できるのかと言うと……今、俺達の目の前に、腰布と装飾品だけを身に着けた褐色マッチョ軍団が跪いているからだ。
……いや、別に、俺が跪かせているワケじゃないぞ。
これはひとえにロクショウのおかげだ。
可愛くて格好よくて強いという三拍子揃ったロクが、準飛竜の姿でビジ族の面々をビビらせまくったため、彼らはここまで純粋になってくれたのである。
脅しと言ってはいけない。
ゴホン。ともかく、ロクのおかげで俺達は今、ビジ族を拘束できたのである。
…………人のタマを噛みちぎる凶暴な種族でも、やっぱり圧倒的な存在相手では分が悪いらしいな。ここまで屈服してくれるとは思ってなかったけど、とにかく誰一人傷付けられずに終わって良かった。
でも……正直、見知らぬマッチョに跪かれているのは非常に居心地が悪い。
全員が降伏したのを改めて確認してから穴より救出したビジ族達は、当初の凶暴な態度はどこへやらで、俺とロクを見るなりずっと頭を垂れている。
俺達が厳戒態勢を解除して館へ戻っても、常にお辞儀状態だ。まあ、それは手足を拘束されているからというのも有るかも知れないけど……どちらにせよ、急に従順になっているので、なんかもう逆に怖かった。
だって、相手は何度も襲ってきた奴らなんだぜ?
なのにこんなに態度を急変させるなんて、ついつい「罠なんじゃないか」と勘繰ってしまう。領主の館の地下にある牢獄に彼らを放り込んでも、全然安心できなかった。
いやだって、コイツらなら強引に檻を破って出てきそうだし……!
拘束されて服従してても、正直全然安心できないよ!
まだ俺はコイツらがタマを狙って来る可能性を捨ててないんだからな!?
……しかし、デハイアさんやカウルノスは既にビジ族を「観念した捕虜」だと考えているようで。警戒してブラックとクロウの背後に隠れてしまう俺に対して、彼らは牢獄の檻の前で、堂々とビジ族達を見下ろしていた。
「ふむ……いつもの覇気がない。どうやら本当に服従しているようだな」
「はい。尊竜様の御威光が強すぎたようですね。ですが、これは好都合でしょう。もう彼らは抗う気も無い。尋問するには絶好の機会です」
一応、目上の人間であるカウルノスには敬語を使うデハイアさん。
年若い相手を敬う年上のオッサンを見るのは、なんだか違和感が凄い。いやまあ、二人とも歳は違えど同じ中年なんだけどね。
だが今はそんな事を気にしている場合ではないだろう。
服従の態度が怖かろうが何だろうが、彼らは重要な証人なのだ。どうしてこんな事をしたのか聞ける状況を逃す手は無い。
それはデハイアさん達も考えていたのか、一通り檻の中のビジ族を確認した後、俺達の方を振り返ってジッと俺を見つめて来た。
「今の所……こいつらが完全にいう事を聞くのは、尊竜様を操れるお前しかいない。ツカサ、こいつらから話を聞いてくれるな」
この場で一番偉いカウルノスが、俺にそう言う。
命令じゃなくて、あくまでも「お伺い」のような言葉なのは、たぶん俺が怖がっているのを察してくれているのだろう。けど、そう優しくして貰うと自分が恥ずかしくなる。
…………今になってビクついてるなんて、格好悪いよな。
しかも、殿下であるカウルノスにまで気を遣わせているなんて……こんなのは、男らしくない。いつまでも怯えてちゃダメだ。
ここは、俺とロクが先頭に立って彼らから情報を引き出さねば!
俺は下半身を襲う恐怖をぐっと抑え込んで、ブラックの後ろから彼らに声を掛けた。
「…………あの……ビジ族のみなさん」
恐る恐るブラックの体の盾から前に出て、檻の向こう側の相手に話しかける。
すると、先程俺達に頭を下げたビジ族の一団のボスが、顔を上げた。
――――褐色の肌に、真ん中が白くなってる不思議な灰黒の髪。精悍な顔つきで、人型だととても凶暴なビジ族にはみえない。
真ん中部分だけ白い髪の毛は、恐らく額から尻尾まで一直線に流れる白い部分の名残なのだろう。そこだけ見ると少し微笑ましかったが、俺を見上げて来る眼差しは獰猛な獣そのもので、やっぱりちょっと怖くなってしまった。
うう……明らかに他の獣人達とは違う威圧感だ……。
小さな姿に戻ったロクも、ビジ族が怖いのか俺の首に尻尾を巻きつけて、ふるふると震えていた。可愛いけど可哀想すぎる。
くそう……人型になってもまだ俺達を怖がらせるとは……もう早く訊問してここから抜け出したい。
「……なんダ、強キモノ……。オレタチになんのヨウだ」
カタコトっぽい声で、今俺が観察していた相手が顔を上げる。
やっぱり、肩幅も筋肉もかなりデカい。
その大きさに気圧されつつも、俺は負けずに続けた。
「どうして、わざわざこんな所まで来たんですか。貴方達の縄張りは、風葬の荒野のはずでしょう。なのに、こんな遠い場所まで来る理由は何なんですか」
……よ、よし、言えたぞ。
ついホッとしてしまうが、相手から帰って来たのは意外な言葉だった。
「ムズかシクて、よくワカラン……もっと、簡単に言ってホシイ」
「えっ……」
なにそれ、どういうこと。
思わず思考停止してしまったが、そんな俺にブラックが横から通訳して来た。
「ツカサ君、たぶんコイツらはモンスターに近いんだよ。だから、小難しい言葉よりも直接的な言葉を使ってるんじゃないかな」
なるほど、そういうことか。
原始的な暮らしをしていたら、自然と言い回しも単純になるとかそういうことだな。確かにそんな状態だと、遠まわしで柔らかいセリフは面倒なのかも。
俺は彼らが居痛い事をようやく理解して、言葉を改めた。
「どうしてここに来たんですか。貴方達は風葬の荒野が縄張りですよね?」
よし……どうだ、これなら簡単だろう。
俺がジッと見つめると、相手はウウムと唸ってから答えた。
「……オサに、言わレた……メイガナーダ、敵……うまい肉、アルと。だからオレたちは、遠くのメイガナーダ食いに来タ……」
「オサ……長、かな……? 長が、食べて来いって言ったんだな。どうして?」
「わからナイ。オレタチ、約束アル……熊との約束……。荒野デナイ代わり、肉と戦いをくれル。オレそれスキだっタ。でも、オサ言っタ。メイガナーダ食べロっテ」
なるほど、ビジ族もクロウ達王家との約束は理解してたんだな。
あの場所から出ない代わりに、欲しい物を提供してくれる。そういう約束で、旅人や他の獣人をやたらめったに襲う事をやめたんだろう。
でも、だったら……どうして長は彼らに「メイガナーダを襲え」と命じたんだろう。
そもそも一番王都から遠い場所なのに、意味がわからない。
「オサの人は、本心から……ええと……オサの人は、自分で考えてそう言ったの? 誰かに言わされたとか、そういう事は無い?」
ちょっと考え方が解せなくて、頭の隅に掠める可能性を問いかけてみる。
凶暴なビジ族と言っても、会話が出来るくらいの人間っぽさはあるし、約束を守ると言う道義心のようなものも彼らは持ち合わせているようだ。
なら、尚更約束を破るようなことをする理由がわからない。
命令されたこの人達は「約束に不満は無い」感じだし、やる理由が無いよな。
……でも、一番偉い人に命令されてやらざるをえなかった。
そんな状況を聞かされると……つい、妙な事を考えてしまうのだ。
もしかすると――――
これも、あの【黒い犬のクラウディア】の策略の一部なんじゃないかって。
「ジブンで……?」
リーダーらしき一際大きいビジ族の男が、フンフンと鼻息を漏らして振り返り、後ろで黙っていた仲間達とキュンキュンギャウギャウなんて言葉を交わす。
どうやらお互いに記憶を確かめあっているようだ。
その様子を暫し見ていると、男はようやく俺達の方を向いて、不思議そうに片眉を眉間に寄せながら答えた。
「オサ、いつもト違うダッタ。他のヤツ言ってル。何個か太陽昇ル前から、オサ、少しオカシイだっタ。荒野にイナイ時たくさんアッタ。……どしてカ……よくワカラナイ」
「…………」
彼らの言葉はたどたどしい。
だけど、彼らが一生懸命話してくれているのは判る。
ビジ族は凶暴な種族だが、相手に嘘を吐くような種族じゃないんだろう。
嘘を言っているようには見えなかった。なら、つまり……。
「……ブラック……」
振り返って反応を見ると、相手は小難しげな顔で顎をさすりながら息を吐いた。
「どうもきな臭くなって来たね。……解読が面倒だけど、そいつらからはもっと詳しく話を聞いた方が良いかも知れない」
ブラックの言う事に誰も異を唱えなかったのは、その場の全員が嫌な予感を覚えていたからだろう。
――――きっと、今の状況と少なからず関係が有る。
そう思ってしまうと、どうしても不安がぬぐえなかった。
→
※今年一年、読んで下さってありがとうございました!
楽しんで頂けてたら幸いです(*´ω`*)
来年は漫画と小説に力を入れて行きたいと思ってますので
もし良ければ、来年も一緒に楽しんで頂けると嬉しい!
それでは、みなさま良いお年を!
応援ありがとうございます!
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