異世界日帰り漫遊記!

御結頂戴

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邂逅都市メイガナーダ、月華御寮の遺しもの編

8.マッサージとはなんですか1

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   ◆



 食堂での一件の後、俺達はヤギか羊かわからない角つき耳を持つ老執事さんに案内され、客間へと移動させられていた。

 メイガナーダ領主の家はかなり大きく、あの中庭を望む食堂が有るこの館は、迎賓館を兼ねた建物なのだそうで……だからなのか、この館の中であれば執務室以外は自由に出入りして良いらしい。
 迎賓館ということは、執事さんが改めて説明してくれた。

 でも、それって……とんでもない話だよな……。

 こんなデカい館なのに客がほとんど見学できるうえに、敷地内にまだ別の館が有るなんて、どう考えても普通の領主の館のスケールではない。
 ヘタしたら王都の【ペリディェーザ】王宮と同レベルの広さなんじゃなかろうか。

 他の【五候】の館もこんな風にデカいのかな。
 けど、さすがに全部王宮と一緒の規模ってのはないんじゃないか……?

 ついつい変な所が気になってしまったが、しかし今はそんなことを掘り下げている場合ではない。

 でっかい天蓋ベッドつきの豪華なアラビアン部屋に来て「わーっ! ここも千夜一夜じゃねーか!」なんて内心喜んでいる場合でもないのだ。
 も、もちろん、豪華なクッション山盛り座席とかにも「やっぱ王宮並だ……!」なんて驚いたりしてるのもダメなんだからな。

 ゴホン。
 ともかく、俺は別の事がずっと気になっているのだ。そして、とても怒っていた。

 だから部屋に通されて執事さんが下がった後、ついつい怒りを爆発させてしまったのである。……ちょっと子供っぽいかもと思ったけど、でもしょうがないよな。
 目の前であからさまに親戚の子を無視してるオッサンなんて、そりゃ怒るだろ。

 大人げなさ過ぎてありえないし、第一いまの状況は一触即発なんだぞ。
 それなのに昔の禍根か何かであからさまにクロウを無視するなんて……。

 …………あの時、あの【五候】で集まった会議の時に、クロウがカウルノス殿下と共に行動したり試練で互角の戦いをした事を説明されたのに……それでも、あの伯父さんはクロウのことを認めようとしていないのだ。

 そんなの、誇り高い獣人としてはダメなんじゃないのか。
 勇敢に戦う強い者は認めるのが獣人じゃないのかよ。

 こんなの、納得できない。
 だからずーっと、なんだかもうモヤモヤしてて、なんというかもう!

「だーっもうっ!! こんな緊急事態だってのに、なにが『断る』だよっ!! 普通ならああもうイライラするぅう!」

 背もたれ代わりの大量のクッションをボカスカ殴りながら唸る俺に、ブラックが手をヒラヒラとさせて落ち着かせようとする。

「まあまあツカサ君落ち着いて。駄熊が親戚中から嫌われまくってるのは今まで散々見て来たじゃない」
「ぐぅ……」

 アッ、ほら見ろクロウが熊耳を伏せてシュンとしちゃったじゃないか。
 言い方ってもんがあるだろうにまったくこのオッサンは!

「ブラック! お前もだけどなんでこー、この世界のオトナは子供なんだよっ! 普通は今みたいな状況なら話し合いだってするし協力するだろ!? なのになんでクロウを平然と無視すんだよあのオッサンはー!」

 俺の方がガルルルと唸って獣人化しそうだったが、そんなにブラックは呆れ顔だ。
 まあブラックは他人にあまり興味が無いからだろうけど、それにしたって大事な仲間が変に無視されてたら怒るのは当然だろうに。

 ロクだって、珍しくムスッとした顔をしてるんだからな。
 まあロクはムスッとしてても可愛いんだけどね!

「まあ腹の中で憎しみを募らせるよりかはマシなんじゃないの? 何を考えているのか分からない敵より、分かりやすい敵の方が相手にしやすいし」
「そっ……それはそうだけど、でもあからさまな悪意はやりすぎだろ!」
「キュー!」

 ほらほら、ロクも一緒に「そーだそーだ!」って言ってくれてるぞ。
 心優しいロクちゃんにも、伯父さんが酷い事をしたのはわかってるんだ。

 誰だって故意に無視されたら悲しいし、態度をコロコロ帰られたら傷付くんだぞ。
 ブラックは強いから気にならないのかも知れないが、クロウは心が優しいから小さなことも自分が悪いんじゃないかって思っちまうんだから。

 あのデハイアって伯父さんも、クロウの性格は知っているに違いない。
 だからこそ、余計にムカつくんだ。

 相手が傷付く事を知っていて、わざとやってるんだから。

 まったくふてぇ野郎だっ……ぅ、うぐっ、なんだ、背後からギュッとされたぞ。
 何だろうかと振り返ると、俺の腰にクロウが抱き着いていた。

「ツカサ……オレのために怒ってくれて嬉しいぞ……。でも、ツカサが怒るのは寂しいから、慰めてくれる方がもっと嬉しい……」
「く、クロウ……」

 無表情ではあるが、俺には分かる。
 橙色の瞳がうるうるしていて、俺に対して心底「慰めて」と訴えている。

 そ、そんな顔をされると。顔をされると……。

「…………ぅ……よ、よしよし……」
「ングゥ……ツカサ……」
「あーっずるい!! テメェなにしてんだ駄熊ッ、ツカサ君僕もっ、僕もー!」
「ぐわーっ! 両方から羽交い絞めにするなー!」

 左右からオッサンに挟まれて、腰と顔が思いっきり潰される。
 っていうか今腰がミシッって言ったんだけど! 腰が!

「キュッ、キューッ! キュゥッキュー!」
「ああぁああこっコシ、こしがっ」
「離れろ駄熊ツカサ君は僕を癒してくれるんだぞ!」
「お、オレだって、ツカサに癒されたいぞ……っ」
「あっこの野郎、いつになく立て付きやがって……」

 あああああメキメキ言ってる、腰がメキメキ言ってるんですって。
 やばい、このままだとやばい。主にクロウに腰をポキッといかれる。

 いやでもクロウがいつになく抵抗してこんだけ力を籠めちゃってるって事は、本当に今くらいは安心したいってことなんだよな。そうなんだよな?
 だ、だったらやります、やりますからっ。

「ううう分かったっ、分かったから! 二人とも何とかするから離れろってー!」

 このままだと体がエビぞりのまま折れて死ぬと確信した俺は、腰をミシミシ言わす熊さんの剛腕と頬に引っ付いて来るオッサンの顔を抑えて叫んだ。

 もうこれで既にミシッてた腰が大声で変に痺れたが、後遺症は無いと信じたい。

 違う意味でドキドキしつつ、すっかり冷や汗で冷えた顔でブラックとクロウを交互に見やると――――二人は、あどけない表情で目を丸くして瞬かせた後……ニヤッと、嫌な感じで笑った。

 …………うん……えっ……?

「ナントカするって、ツカサ君がどうにかして僕達二人とも癒してくれるってこと?」
「え……え、えぇ……? そ、そうなる……かな……」
「何をしてくれるのだ」

 妙にニヤついた声で言うブラックにぎこちなく頷くと、すぐクロウが問うてくる。
 なんで急にコンビネーションを発揮してるんだと思ったが、まあ答えてやろう。癒しと言ったら、もう決まったようなモンだからな。

「そりゃあもう、俺がお茶でおもてなししたり、マッサージでコリをほぐしたり料理とかをやってもいいぞ! アンタらが好きなモン、出来る限り作ってやるよ!」

 喋るだけで腰が痛いが、俺の【黒曜の使者】のチート自己治癒能力で治っていると思いたい。内心そっちのほうが気になってしまって、月並みな事を答えるが……二人は、ニヤついたまま何も言わなかった。

 …………おや……な、なんか……この感じ、既知感があるような……。

「ふーん、おもてなしかぁ……。ちなみにマッサージってアレだよね。ツカサ君の世界で言う、肩もみとかの按摩みたいなものだよね?」
「う、うん。そう。肩たたきとか、腰が痛いなら揉んでやるぞ」

 まあ今の俺が揉んでほしいんですけどね腰。
 いやこれ揉まれたらダメだ。たぶんもう耐えられん。静かに落ち着いていたい。

「なるほどなるほど……コリをほぐしてくれるのかぁ……」
「ムゥ、実にそそられる」

 二人の笑顔が妙にいやらしい感じなのは気のせいだろうか。
 ……どうも怪しいが、しかしここでヤブヘビは突きたくない。俺が「またえっちな事をするつもりだろ!」なんて言ったら「え~、そんなこと考えてたの~? ツカサ君たら僕とそんなにセックスしたいんだねっ」とかハートマークが乱舞した口調で言われて何をされるか分からないもんな。

 ふ、ふふ……もう二度と自分から地雷は踏まないぞ。
 俺は頭が良いからなっ、もうからかわれたり地雷を踏んだりしないぞ!

 こ、コリとかだって、別に変な意味じゃないもんな。
 絶対普通の意味だし。だって「凝り」だもん。相手もそう考えているはずだ。

 このやらしい笑顔のブラフに釣られたりは絶対にしないぞ……!

「確かに、そう言われたら僕も疲れて筋肉が張っちゃってるし……お願いしようかな」
「オレもツカサに揉んで貰いたいぞ」

 ホレみたことか、ブラック達も普通に考えてたじゃないか。危ない危ない。
 コイツらは急にフェイントをかけてくるからな。今回は本当に疲れてるんだろう。
 ならば俺が婆ちゃんたちを癒したゴールドフィンガーを披露してしんぜよう。俺だって肩もみとかはちょっとしたモンなんだからな。

 婆ちゃんの田舎に帰った時には、近所の爺ちゃんとかお婆ちゃんの肩や足を丁寧に揉んで、おこづかいとか美味しい野菜を貰ってるんだ。
 ふふふ、俺の技に二人とも酔いしれるがいい。

「じゃあ早速やる? どっちからでも良いけど、ベッドに俯せで寝転んでくれたら、俺が指で疲れた所をギューッっと……」

 などと親指を両方立ててアピールすると。
 何故か二人は、同時に席を立って。

「…………え?」

 座ったままの俺は更に相手の顔との距離が遠くなり、思わずうえを見上げる。
 遥か高みにあるオッサン達は、顔に陰を作って俺を見下ろしながら……またもや、やらしい顔でニヤッと笑った。

「僕らを癒してくれるんだよね? なら……とことんまで癒して貰おうじゃない」
「ツカサの全部で……な……」

 …………。
 あれ……もしかしてこの笑みって、ブラフじゃなくて、本気……?











 
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