異世界日帰り漫遊記!

御結頂戴

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竜呑郷バルサス、煌めく勇者の願いごと編

20.二度ある事は三度ある1

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「うわっ……! なんだここ、すげえ……!」

 思わず声が開出てしまうが、それも仕方がないことだった。
 何故なら、俺達の目の前に広がる光景は……遺跡ならではの独特な雰囲気がある、とても綺麗な場所だったからだ。

「キュゥ~……」
「ふむ……俺の美しさには到底とうていおよばないが、退廃的で美しい庭園だな」

 ちょっとムカッとするが、確かにラスターの言う通り綺麗な庭園だ。
 くやしがりつつも俺は上を向いて感動に息を吐いた。

 ――俺達の真正面に見えるのは、壁から浮き出ているかのような太く大きな柱だ。その柱の天井近くには、柱と同じ色をした竜の頭のようなオブジェが取り付けられていて、竜の頭からは惜しげもなく水が吐き出されて細い滝のようになっている。

 その滝を、天井からの暖かな光がキラキラときらめかせており、水飛沫みずしぶきが木や花々に落ち、緑をよりいっそう輝かせている。
 水が落ちる場所には、青々とした木々が伸び花が咲き乱れる庭園があるのだ。
 柱も壁も同じ黄土色の壁だからか、滝の下で飛沫を浴びる植物はとても色鮮やかに見える。だけど、その色彩も周囲に崩れたアーチ状の門の欠片かけらや崩れた何かの痕跡が残っているから、より目を引くのかも知れない。

 俺には退廃的ってヤツのなんたるかは分からないけど、それでも、緑豊かな庭園やその所々に見える建物の痕跡は、心を震わせるものがあるように感じる。
 うまく表現できないけど、とにかく綺麗な物は綺麗だ。
 だけど、同時に何だかちょっと寂しい気もする。

 この遺跡と同じように、深い真四角の堀で囲われて一つの橋だけを唯一の繋がりにした庭園は、まさに忘れ去られた廃墟の庭園なんだ。
 植物に覆われ、本来の庭園の姿がどうだったか判らなくなるほどに長い年月を経ても、植えられた植物はこうやってずっと残ってたんだなぁ……。

 思わず足が一歩進んでしまったが、そんな俺をラスターは「待て」と制止した。

「どうした?」
「記録では、ここは【失われた庭園】とされていた。……まあつまり、植物は生えていなかったはずだ。それなのに、こうして光が差し、記録と異なる姿になっていると言うのは少しおかしい」
「えっ、この植物無かったの?!」
「それどころか、水すら流れていなかったはずだ」

 ラスターに「背後にまわれ」と言われ素直にそうしつつ庭園に近付くと、深い堀の下に水が一割ほど溜まっているのが見えた。
 あの竜の頭の他にも水が流れ出ている場所があるのかな。

 不思議に思ってじっと見つめていると、ラスターが深刻そうな溜息を吐いた。

「なるほど……この水は……」
「え? な、なに、どうした?」
「この水には、うっすらとだがお前がまとっている気と同じ気配がある。それに、別の気の気配も。……おそらく、さきほどの杯への術の行使が引き金となって……いや、あのさかずきにお前と水麗候すいれいこうの曜気が吸収されて、この遺跡の本来の姿が現れたんだ」
「俺と、シアンさんの……? いや、でも、俺こんなに水出してないけど……」

 それに、これが「本来の姿」と言うのなら、記録に記されていたと言う「植物も水も枯れた状態」は何だと言うんだ。記録がウソって訳じゃなかろうし。
 いまいち納得できない、と首を傾げた俺に、ラスターはまたもや説明してくれた。

「恐らく、前回入った曜術師達は、遺跡を動かすにる力が無かったのだろう。そのせいで水は流れず木々も復活しなかったんだ。そして……この天井からそそぐ光も、現われなかったに違いない」
「えっ、この光も?」
「ああ。この光には俺のうるわしくも多しい気配が感じられる。多分、メネス遺跡の方も俺の曜気による光か、もしくはあの下衆げす……」

 と言いかけて、ラスターはゴホンとせきを一つこぼした。

「……あの中年による月光か宵闇が再現されているはずだ。もちろん、この庭園の間の構造は全く同じままにな」
「ラスター……!」

 確かにそれは考えられる。だってこの遺跡は双子のようにそっくりな遺跡で、太陽と月の神殿なんだ。きっとブラック達の方は月の光に照らされた綺麗な光景が見えているに違いない。しかし俺は別の所に感動して、思わず名を呼んでしまった。

 あの、あの何度も何度もブラックをナチュラルにけなしていたラスターが!
 下衆と言いかけて言い直したっ!
 これは凄い変化だ。ラスターお前わかってくれたんだなっ!?
 ああやっぱりお前なら分かってくれると信じていたよ俺は!

れ直したか?」
「なんでだよ!」

 そう言いながら得意げに笑うラスターに俺は反射的に罵倒ばとうしてしまったが、しかし誤魔化ごまかすようにニカッと笑うと、謝りつつもラスターを見上げた。

「いや、ゴメン。まあでも……解ってくれたのは嬉しいよ。アンタやっぱ、ふつーに良い奴なんだなぁ」
「当たり前だ。俺は誉れ高き騎士団の麗しき団長だぞ。惚れ直すのが筋と言う物だ。と、まあ……そんな事を言っている場合ではないな。ともかく、今回の件は、最高位の曜術師がつどったがゆえの事態だ。……こうなると、次どうなるのかも予測出来ん。早いところ“伝令穴”を探して相手の様子を確認しなければな」
「あっ、う、うん。じゃあ探すか」

 そうだ、いつまでも喜んではいられないんだよな。
 俺達の曜気でこの遺跡が本来の機能を取り戻したのだとすれば、あの書物の記録とは異なる事態が起きる危険性がある。
 もしかすると新しい罠なんかも作動してしまうかも知れない。その罠に引っかからないためにも、今まで以上に慎重に進まなければならないんだよな。

 早くあっちと連絡を取って、まずは状況の確認をしなければ。
 ブラック達の方もどうなってるか、俺達には分からないワケだし……。

 そうなると急に不安になって来て、俺は庭に渡る前に、広い空きスペースである庭の周囲を調べてみる事にした。
 瓦礫がれきが転がっているだけの空間を壁から床からペタペタと触ってみるが――しかし全然それらしい機能が見つかる感じがしない。

 ロクショウも天井やら壁やらに顔を引っ付けて、何かの音が聞こえないかと聞いてみてくれたんだけど、まったくそれらしい音は聞こえてこなかった。
 指輪でブラック達の位置を確かめてみたが、やはり相手も同じ場所にいるようで、俺達と同じく“伝令穴”を探しているらしくウロウロしている。

 でも、声が聞こえてこないって事は……ブラック達も見つけられてないんだな。

「庭の周囲の壁や床に無いと言う事は、やはり庭園の中にあるのか……?」

 探し終えて橋の前に集合した途端、ラスターが眉根を寄せて言う。
 何だか嫌そうだが、でもそれしか可能性が無いよな。

 庭園の周囲には目ぼしい仕掛けも無かったし、出口や伝令穴があると考えられる場所はもう庭園の中しかない。だけど……橋の向こう側の庭は、本当に鬱蒼としてて、探すのにも苦労しそうだ。一応、橋から伸びる順路っぽい石畳は残っているんだけど……それも、木々の中に埋もれちゃってて先が見えないし。

 この中を探すとなると骨が折れそうだ。
 俺とロクショウもラスターのようにイヤだなと顔を歪めてしまったが、先に進むというのならば、どの道この鬱蒼うっそうとした庭園に入るしかなさそうだ。

「…………いくか」

 少し細身の剣を抜きつつ庭を突っ切る覚悟をしたらしいラスターにうなづいて、俺達は石橋を慎重に渡り、覚悟を決めて木々の生い茂る庭園へと分け入った。

「うわ……なんか蒸し暑いというか……湿気があるな……」
まぶしい日差しと、大気に溶けた水の曜気のせいだろうな……。ツカサ、のどかわくのなら、遠慮なく水を飲め」
「う、うん」

 そうだよな、湿度が高いと余計に喉がかわくって事も有る。
 熱中症とかにならないように気を付けないと……って、この世界って熱中症になるメカニズムとかあるのかな?

 不思議に思いつつも、ラスターの背後に隠れつつ周囲を見回していると――――

「おっ?」
「どうしたツカサ」
「いや、なんか木々の奥の方に変な建物が有ったような気がして……」

 だけど、気のせいかも知れない。
 そう言って、ガッカリさせたかなとラスターを見やったが、相手は首を振って俺が指をさした方向へと歩みを変えた。

「見間違えでも、確かめた方が良い。遺跡の調査は一筋縄ではいかないからな。まれに幻術で大多数の者には見えないように隠されている物だってある」
「ラスター……」

 さすが騎士団の団長、言う事が違う。
 だけど本当に見間違いだったら何だか申し訳ないなぁ……。

 どうか、何かがありますように……などと思いつつ、石畳の順路を外れて土がき出しの森の中をサクサクと歩いて行くと……。
 なんと、木々の奥に何かのぞうのような物が見えてきたではないか。

「や、やっぱり見間違いじゃ無かったんだ! 良かったぁ~」
「キュ~!」

 俺の心底ホッとした言葉に、ロクもキャッキャと小さなお手手を上げる。
 ありがとうロク、本当にお前はかわいこちゃんだなぁ~!

 ついつい嬉しくなってしまい、ラスターの横から体を乗り出して、まだ踏まれていない地面を思いきり踏み込んだ。刹那。

「うぼぁっ!?」

 急に足が滑ったかと思った瞬間、視界が反転どころかぐるりと一回転以上回って、俺の足は唐突に地面を感じなくなり宙を蹴っていた。

「えっ、ええ!?」

 何が起こっているか分からない。分からないが、なんか足が浮いてるっ。
 髪の毛が一気に逆立って……いやこれ、俺さかさまになってる!?
 でもなんで、どうして!?

 ワケも解らず咄嗟に足の方を見上げると、そこには。

「え゛……」

 俺の片足に、何重にも巻き付いている――――太いつるが見えた。











 
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