169 / 1,098
竜呑郷バルサス、煌めく勇者の願いごと編
20.二度ある事は三度ある1
しおりを挟む「うわっ……! なんだここ、すげえ……!」
思わず声が開出てしまうが、それも仕方がないことだった。
何故なら、俺達の目の前に広がる光景は……遺跡ならではの独特な雰囲気がある、とても綺麗な場所だったからだ。
「キュゥ~……」
「ふむ……俺の美しさには到底及ばないが、退廃的で美しい庭園だな」
ちょっとムカッとするが、確かにラスターの言う通り綺麗な庭園だ。
悔しがりつつも俺は上を向いて感動に息を吐いた。
――俺達の真正面に見えるのは、壁から浮き出ているかのような太く大きな柱だ。その柱の天井近くには、柱と同じ色をした竜の頭のようなオブジェが取り付けられていて、竜の頭からは惜しげもなく水が吐き出されて細い滝のようになっている。
その滝を、天井からの暖かな光がキラキラと煌めかせており、水飛沫が木や花々に落ち、緑をよりいっそう輝かせている。
水が落ちる場所には、青々とした木々が伸び花が咲き乱れる庭園があるのだ。
柱も壁も同じ黄土色の壁だからか、滝の下で飛沫を浴びる植物はとても色鮮やかに見える。だけど、その色彩も周囲に崩れたアーチ状の門の欠片や崩れた何かの痕跡が残っているから、より目を引くのかも知れない。
俺には退廃的ってヤツのなんたるかは分からないけど、それでも、緑豊かな庭園やその所々に見える建物の痕跡は、心を震わせるものがあるように感じる。
うまく表現できないけど、とにかく綺麗な物は綺麗だ。
だけど、同時に何だかちょっと寂しい気もする。
この遺跡と同じように、深い真四角の堀で囲われて一つの橋だけを唯一の繋がりにした庭園は、まさに忘れ去られた廃墟の庭園なんだ。
植物に覆われ、本来の庭園の姿がどうだったか判らなくなるほどに長い年月を経ても、植えられた植物はこうやってずっと残ってたんだなぁ……。
思わず足が一歩進んでしまったが、そんな俺をラスターは「待て」と制止した。
「どうした?」
「記録では、ここは【失われた庭園】とされていた。……まあつまり、植物は生えていなかったはずだ。それなのに、こうして光が差し、記録と異なる姿になっていると言うのは少しおかしい」
「えっ、この植物無かったの?!」
「それどころか、水すら流れていなかったはずだ」
ラスターに「背後にまわれ」と言われ素直にそうしつつ庭園に近付くと、深い堀の下に水が一割ほど溜まっているのが見えた。
あの竜の頭の他にも水が流れ出ている場所があるのかな。
不思議に思ってじっと見つめていると、ラスターが深刻そうな溜息を吐いた。
「なるほど……この水は……」
「え? な、なに、どうした?」
「この水には、薄らとだがお前が纏っている気と同じ気配がある。それに、別の気の気配も。……おそらく、さきほどの杯への術の行使が引き金となって……いや、あの杯にお前と水麗候の曜気が吸収されて、この遺跡の本来の姿が現れたんだ」
「俺と、シアンさんの……? いや、でも、俺こんなに水出してないけど……」
それに、これが「本来の姿」と言うのなら、記録に記されていたと言う「植物も水も枯れた状態」は何だと言うんだ。記録がウソって訳じゃなかろうし。
いまいち納得できない、と首を傾げた俺に、ラスターはまたもや説明してくれた。
「恐らく、前回入った曜術師達は、遺跡を動かすに足る力が無かったのだろう。そのせいで水は流れず木々も復活しなかったんだ。そして……この天井から降り注ぐ光も、現われなかったに違いない」
「えっ、この光も?」
「ああ。この光には俺の麗しくも多しい気配が感じられる。多分、メネス遺跡の方も俺の曜気による光か、もしくはあの下衆……」
と言いかけて、ラスターはゴホンと咳を一つ零した。
「……あの中年による月光か宵闇が再現されているはずだ。もちろん、この庭園の間の構造は全く同じままにな」
「ラスター……!」
確かにそれは考えられる。だってこの遺跡は双子のようにそっくりな遺跡で、太陽と月の神殿なんだ。きっとブラック達の方は月の光に照らされた綺麗な光景が見えているに違いない。しかし俺は別の所に感動して、思わず名を呼んでしまった。
あの、あの何度も何度もブラックをナチュラルに貶していたラスターが!
下衆と言いかけて言い直したっ!
これは凄い変化だ。ラスターお前わかってくれたんだなっ!?
ああやっぱりお前なら分かってくれると信じていたよ俺は!
「惚れ直したか?」
「なんでだよ!」
そう言いながら得意げに笑うラスターに俺は反射的に罵倒してしまったが、しかし誤魔化すようにニカッと笑うと、謝りつつもラスターを見上げた。
「いや、ゴメン。まあでも……解ってくれたのは嬉しいよ。アンタやっぱ、ふつーに良い奴なんだなぁ」
「当たり前だ。俺は誉れ高き騎士団の麗しき団長だぞ。惚れ直すのが筋と言う物だ。と、まあ……そんな事を言っている場合ではないな。ともかく、今回の件は、最高位の曜術師が集ったがゆえの事態だ。……こうなると、次どうなるのかも予測出来ん。早いところ“伝令穴”を探して相手の様子を確認しなければな」
「あっ、う、うん。じゃあ探すか」
そうだ、いつまでも喜んではいられないんだよな。
俺達の曜気でこの遺跡が本来の機能を取り戻したのだとすれば、あの書物の記録とは異なる事態が起きる危険性がある。
もしかすると新しい罠なんかも作動してしまうかも知れない。その罠に引っかからないためにも、今まで以上に慎重に進まなければならないんだよな。
早くあっちと連絡を取って、まずは状況の確認をしなければ。
ブラック達の方もどうなってるか、俺達には分からないワケだし……。
そうなると急に不安になって来て、俺は庭に渡る前に、広い空きスペースである庭の周囲を調べてみる事にした。
瓦礫が転がっているだけの空間を壁から床からペタペタと触ってみるが――しかし全然それらしい機能が見つかる感じがしない。
ロクショウも天井やら壁やらに顔を引っ付けて、何かの音が聞こえないかと聞いてみてくれたんだけど、まったくそれらしい音は聞こえてこなかった。
指輪でブラック達の位置を確かめてみたが、やはり相手も同じ場所にいるようで、俺達と同じく“伝令穴”を探しているらしくウロウロしている。
でも、声が聞こえてこないって事は……ブラック達も見つけられてないんだな。
「庭の周囲の壁や床に無いと言う事は、やはり庭園の中にあるのか……?」
探し終えて橋の前に集合した途端、ラスターが眉根を寄せて言う。
何だか嫌そうだが、でもそれしか可能性が無いよな。
庭園の周囲には目ぼしい仕掛けも無かったし、出口や伝令穴があると考えられる場所はもう庭園の中しかない。だけど……橋の向こう側の庭は、本当に鬱蒼としてて、探すのにも苦労しそうだ。一応、橋から伸びる順路っぽい石畳は残っているんだけど……それも、木々の中に埋もれちゃってて先が見えないし。
この中を探すとなると骨が折れそうだ。
俺とロクショウもラスターのようにイヤだなと顔を歪めてしまったが、先に進むというのならば、どの道この鬱蒼とした庭園に入るしかなさそうだ。
「…………いくか」
少し細身の剣を抜きつつ庭を突っ切る覚悟をしたらしいラスターに頷いて、俺達は石橋を慎重に渡り、覚悟を決めて木々の生い茂る庭園へと分け入った。
「うわ……なんか蒸し暑いというか……湿気があるな……」
「眩しい日差しと、大気に溶けた水の曜気のせいだろうな……。ツカサ、喉が渇くのなら、遠慮なく水を飲め」
「う、うん」
そうだよな、湿度が高いと余計に喉が渇くって事も有る。
熱中症とかにならないように気を付けないと……って、この世界って熱中症になるメカニズムとかあるのかな?
不思議に思いつつも、ラスターの背後に隠れつつ周囲を見回していると――――
「おっ?」
「どうしたツカサ」
「いや、なんか木々の奥の方に変な建物が有ったような気がして……」
だけど、気のせいかも知れない。
そう言って、ガッカリさせたかなとラスターを見やったが、相手は首を振って俺が指をさした方向へと歩みを変えた。
「見間違えでも、確かめた方が良い。遺跡の調査は一筋縄ではいかないからな。稀に幻術で大多数の者には見えないように隠されている物だってある」
「ラスター……」
さすが騎士団の団長、言う事が違う。
だけど本当に見間違いだったら何だか申し訳ないなぁ……。
どうか、何かがありますように……などと思いつつ、石畳の順路を外れて土が剥き出しの森の中をサクサクと歩いて行くと……。
なんと、木々の奥に何かの像のような物が見えてきたではないか。
「や、やっぱり見間違いじゃ無かったんだ! 良かったぁ~」
「キュ~!」
俺の心底ホッとした言葉に、ロクもキャッキャと小さなお手手を上げる。
ありがとうロク、本当にお前はかわいこちゃんだなぁ~!
ついつい嬉しくなってしまい、ラスターの横から体を乗り出して、まだ踏まれていない地面を思いきり踏み込んだ。刹那。
「うぼぁっ!?」
急に足が滑ったかと思った瞬間、視界が反転どころかぐるりと一回転以上回って、俺の足は唐突に地面を感じなくなり宙を蹴っていた。
「えっ、ええ!?」
何が起こっているか分からない。分からないが、なんか足が浮いてるっ。
髪の毛が一気に逆立って……いやこれ、俺さかさまになってる!?
でもなんで、どうして!?
ワケも解らず咄嗟に足の方を見上げると、そこには。
「え゛……」
俺の片足に、何重にも巻き付いている――――太い蔓が見えた。
→
22
あなたにおすすめの小説
【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)
かのん
恋愛
気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。
わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・
これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。
あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ!
本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。
完結しておりますので、安心してお読みください。
魔王の息子を育てることになった俺の話
お鮫
BL
俺が18歳の時森で少年を拾った。その子が将来魔王になることを知りながら俺は今日も息子としてこの子を育てる。そう決意してはや数年。
「今なんつった?よっぽど死にたいんだね。そんなに俺と離れたい?」
現在俺はかわいい息子に殺害予告を受けている。あれ、魔王は?旅に出なくていいの?とりあえず放してくれません?
魔王になる予定の男と育て親のヤンデレBL
BLは初めて書きます。見ずらい点多々あるかと思いますが、もしありましたら指摘くださるとありがたいです。
BL大賞エントリー中です。
【本編完結】転生したら、チートな僕が世界の男たちに溺愛される件
表示されませんでした
BL
ごく普通のサラリーマンだった織田悠真は、不慮の事故で命を落とし、ファンタジー世界の男爵家の三男ユウマとして生まれ変わる。
病弱だった前世のユウマとは違い、転生した彼は「創造魔法」というチート能力を手にしていた。
この魔法は、ありとあらゆるものを生み出す究極の力。
しかし、その力を使うたび、ユウマの体からは、男たちを狂おしいほどに惹きつける特殊なフェロモンが放出されるようになる。
ユウマの前に現れるのは、冷酷な魔王、忠実な騎士団長、天才魔法使い、ミステリアスな獣人族の王子、そして実の兄と弟。
強大な力と魅惑のフェロモンに翻弄されるユウマは、彼らの熱い視線と独占欲に囲まれ、愛と欲望が渦巻くハーレムの中心に立つことになる。
これは、転生した少年が、最強のチート能力と最強の愛を手に入れるまでの物語。
甘く、激しく、そして少しだけ危険な、ユウマのハーレム生活が今、始まる――。
本編完結しました。
続いて閑話などを書いているので良かったら引き続きお読みください
異世界は『一妻多夫制』!?溺愛にすら免疫がない私にたくさんの夫は無理です!?
すずなり。
恋愛
ひょんなことから異世界で赤ちゃんに生まれ変わった私。
一人の男の人に拾われて育ててもらうけど・・・成人するくらいから回りがなんだかおかしなことに・・・。
「俺とデートしない?」
「僕と一緒にいようよ。」
「俺だけがお前を守れる。」
(なんでそんなことを私にばっかり言うの!?)
そんなことを思ってる時、父親である『シャガ』が口を開いた。
「何言ってんだ?この世界は男が多くて女が少ない。たくさん子供を産んでもらうために、何人とでも結婚していいんだぞ?」
「・・・・へ!?」
『一妻多夫制』の世界で私はどうなるの!?
※お話は全て想像の世界になります。現実世界とはなんの関係もありません。
※誤字脱字・表現不足は重々承知しております。日々精進いたしますのでご容赦ください。
ただただ暇つぶしに楽しんでいただけると幸いです。すずなり。
臣下が王の乳首を吸って服従の意を示す儀式の話
八億児
BL
架空の国と儀式の、真面目騎士×どスケベビッチ王。
古代アイルランドには臣下が王の乳首を吸って服従の意を示す儀式があったそうで、それはよいものだと思いましたので古代アイルランドとは特に関係なく王の乳首を吸ってもらいました。
異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました
雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。
気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。
剣も魔法も使えないユウにできるのは、
子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。
……のはずが、なぜか料理や家事といった
日常のことだけが、やたらとうまくいく。
無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。
個性豊かな子供たちに囲まれて、
ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。
やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、
孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。
戦わない、争わない。
ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。
ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、
やさしい異世界孤児院ファンタジー。
男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。
カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。
今年のメインイベントは受験、
あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。
だがそんな彼は飛行機が苦手だった。
電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?!
あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな?
急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。
さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?!
変なレアスキルや神具、
八百万(やおよろず)の神の加護。
レアチート盛りだくさん?!
半ばあたりシリアス
後半ざまぁ。
訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前
お腹がすいた時に食べたい食べ物など
思いついた名前とかをもじり、
なんとか、名前決めてます。
***
お名前使用してもいいよ💕っていう
心優しい方、教えて下さい🥺
悪役には使わないようにします、たぶん。
ちょっとオネェだったり、
アレ…だったりする程度です😁
すでに、使用オッケーしてくださった心優しい
皆様ありがとうございます😘
読んでくださる方や応援してくださる全てに
めっちゃ感謝を込めて💕
ありがとうございます💞
王様お許しください
nano ひにゃ
BL
魔王様に気に入られる弱小魔物。
気ままに暮らしていた所に突然魔王が城と共に現れ抱かれるようになる。
性描写は予告なく入ります、冒頭からですのでご注意ください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる