異世界日帰り漫遊記

御結頂戴

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聖都バルバラ、祝福を囲うは妖精の輪編

12.後悔先に立たず

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「あ、あの……不躾ぶしつけな質問で申し訳ないんですが……ま、孫娘って……?」

 ぎこちなくしか動かない顔で妖精王に問うと、相手はどこかで見た事のあるような人懐っこい笑みでにっこりと笑い、俺の手を取って俺を立たせた。
 あの、あの、なんすかこのお姫様の手を取るみたいな格好。

 っていうか間近で見たら妖精王めっちゃイケメンお爺ちゃんなんですけど。
 透き通るような金の目が凄く綺麗だし、鼻も高いし、これは若い頃は相当にモテててた……あ、いかんイラッとして来た。

 そんな事を思いながらアホ面で見上げる俺に、妖精王は笑顔のまま答えた。

「決まっておるではないか。可愛いお主の事だ」
「は、はえ!? おおお俺男なんですけど!?」
「男であっても、孫娘だ。人族がお前を孫娘と言ったのだから、それでよかろう」
「え……ええぇ……?」

 誰だよ、誰が孫娘とか言ったんだ?
 俺はどこからどう見ても男にしか見えないのに、娘なんて……いや、待てよ何かそう呼ばれた事があった気がするぞ。
 あれはええと……。

「あ……まさか、あの祭りの……」

 ブラックの呆気あっけにとられたような声に、俺の記憶が一気に巻き戻される。
 祭……祭りって…………うわ、そうだ。そうだった!!
 孫娘ってあれだよ、妖精の過ぎ越し祭の時にウサミミフード被った俺が言われていた奴じゃねーか!! ……じゃあ、もしかして、この人……。

「間違ってたら、すみません……あの……まさか、貴方様は……ラフターシュカを守っているという、ジェドマロズ……?」

 そう。俺は、あの祭りの時にそんな事を言われていた。
 そしてあの街では、ジェドマロズはこう呼ばれていたではないか。


 ――白き神々の山から来たる、厳冬の支配者にして雪華の“妖精王”……と。


 ああ、そうか。そう言う事だったのか。
 白き神々の山とはドラグ山、バルバラ神殿から発掘されたのは【妖精言語】……そして、妖精族であるアドニスが使った術は、氷の術。
 人族が使う曜術では絶対に再現する事が出来ない、氷の魔法だ。
 考えてみれば簡単な事だったのに、どうして繋がらなかったのか。
 いや繋がらなくて当然だよ。だって、ジェドマロズが今も生きているだなんて、誰も思わないに違いないんだから。

 目を丸くして凝視ぎょうしする俺に、妖精王は嬉しそうに笑った。

「左様。あの街での見世物、見事であったぞ。お主とそこの赤い髪の男が考えたのだろう? 炎を使う事もそうだが、その炎の練度を上げ白い光に変えたのも爽快であった。剣技は言うまでも無く素晴らしかったが……特に、可愛らしい子ウサギのように飛び出してきて、我が分身に抱き着いたお主は特に好ましかったぞ」
「え、ええ、え」

 み、見てたんですか。あの祭り見てたんですか!
 なるほど、だから俺を見て孫娘って……でも、あの、ま、まって、だからって、あの、俺を抱き締めるのは何か違うと思うんですけど……!?
 あああ背後から人を殺しそうな眼差しが二つ分突き刺さるぅううう……。

「ウィリディス、挨拶あいさつはそれぐらいにして話を……」
「おお、そうであったな。ここで話すのもなんだ、庭園でゆっくりと話そうか」

 俺の肩に乗っているチェチェノさんが、なんとも言い出し辛そうな声で妖精王に提案をする。相手はチェチェノさんと知り合いらしく、先程の威厳はどこへやらと言った顔でほがらかに笑い、指を鳴らした。

 ぱちんと音がすると、目の前に小さく風が巻き起こる。
 すると、風が巻き起こった場所には、いつの間にか俺より四五しご歳下くらいの綺麗な二人の子供が参上していた。中性的な顔のため男か女かは判らないが、とにかく目を見張るほどの美しさだ。古代ギリシャっぽい服のせいで、胸の膨らみで判断しようにもよく解らないんだよなあ、うーむ。
 まあどっちにしろ俺のストライクゾーンよりだいぶ下なので興奮はしないが。

「ようこそ。お客様こちらです」
「お荷物お持ちします」
「ああ、そこの箱は特に丁寧ていねいに運べ。中身は人族の皇帝だからな」
「御意」

 こういう所は王様っぽい。やっぱ威厳が有るなあ。
 俺の両手を掴んで離さなければ、格好いい白髭の妖精王なんだけどな……。

「さあ行こうか。ささ、可愛い孫娘よこっちに」
「あ、あの王様、あのっ」

 待って待って、なんで手を繋いだまま歩き出すんですか。
 何で楽しそうにしてるんですか妖精王さま。
 いくら祭りでの事が嬉しかったからとは言え、俺の事を孫娘って言い過ぎじゃないですかね。俺男なんですけど。おとこなんですけど!!

「ウゥウウウ……」
「また一人羽虫が…………」
 
 ああもうホラ後ろからついて来てるオッサン達がああああ。
 ヤダもう知らない、俺知らないからな。

「す、すまんのツカサさん……ウィリーはこういう奴での……」
「ウィリー?」
「我のあだ名だ。我の名は長いのでな、友人はみなそう呼ぶ。ツカサ、と言ったか。お前も我の事をそう呼ぶのを許そう」
「あ、あはは……あざす……」

 あかん、このお爺ちゃん完全に後ろのオッサン達と同じタイプの人だ。
 まるで人の話を聞いてねえ。

 ああもうこれ絶対後でブラックとクロウにネチネチ言われる……俺が悪いんじゃないのに。全面的に妖精王のハッスルが悪いのに。

 ゲンナリしつつエスコートされていると、氷の廊下の先に緑が見え始めた。
 王様の庭園、というからには凄い所なんだろうと思っていたが……辿り着いた所は意外とこじんまりしており、高級住宅街で見かけるイングリッシュガーデンとか言うこじゃれた個人の庭を想起させた。
 彩宮の中のサロンと比べると三分の一くらいのスケールだなあ……。

 大地の気が存在する場所と言えども、やっぱオーデル国内だと植物を育てるのは厳しいって事なんだろうか。
 考えつつも手を引かれて庭の中心に有る洋風の東屋あずまやに向かい、そこに設置されていた椅子に座らされるようにうながされる。王様の命令なので、俺達はそれぞれ座……ろうとしたんだけど、俺は何故だか妖精王ウィリーさんに手を掴まれたまま離れる事が出来ず、ひzに座らされてしまった。

 わあ、お爺ちゃんなのになんて固くて太いもも…………じゃなくて!!
 膝! なんでひざのうえ!!

「お、王様っ、俺……」
「良い良い、お前には我が膝になつく事を許す。我はお主の爺だからな」
「そうじゃなくてえぇ……」
「はっはっは、泣き顔も可愛らしいな。人族であるとも気にする事は無いぞ。我は人族は嫌いではないからな。そこの男達も楽にするがいい」

 楽にするどころか殺気立ってるんですけど、お爺ちゃん解ってますか。
 ああもう真正面の二人の顔が見れないよぉおお。王様だから何も言わないけど、これが普通の男だったらどうなってるかなんて想像したくない……。
 こうなったら早く話を進めて貰おうと決心し、俺は間近に有る妖精王ウィリーの顔を見やった。ちくしょう美形だ。美形は老人になって美形だくやしい。

「それで、その……俺達がここに来た理由なんですが……」
「良い、心得ておる。我には遠見の力が有る故な。そなたらが邪悪な影を背負う者より子供を守り、国の守護者を救った事も見ておった。お主達の頼みは、その守護者を氷の眠りより冷まし、生き返らせる事であろう?」
「そ、そうです……」
「なら話は早いですよね。全てを心得た上で通してくれたと言う事は、その願いを聞き届けると言うのも同じ。そうでしょう?」

 不機嫌を隠しもしない顔で天下の妖精王を睨むブラックだが、相手はその視線にビクともしていないのか、朗らかに笑いながら俺を抱え直した。

「はっはっは、お主達も話が早いな。つっけんどんだが頭の回転が速い人族は好きだぞ。……そう、確かに我はその願いを叶える事の出来る力を有しておる。だが、それにはまずお主らを知らねばならん」
「は?」
「とりあえず、今夜は夕食会をもよおそう。諸々の話はそれからだ。おおい、早速食事を人数分用意せよ。ああ、チェチェノはいつも通りの菜食でな」

 何を言っているんだとばかりに目を点にするブラックに構わず、ウィリーは手を叩いてどこぞに命令を下している。
 あの綺麗な子供達以外は全く人の気配がない城だと言うのに、ウィリーの声が響いた途端に周囲がざわめきだし、どこかからささやくような声が聞こえてくる。
 もしかして、俺達には見えないけど妖精達がいるんだろうか。
 不思議に思って空を見る俺に、ウィリーは忍び笑いをして俺の頭を撫でた。

「本当にお主は可愛らしいのう。声が気になるか。みな、人族を初めて見たので、照れておるのだよ。遠見の力がある物は、お主とそこの男達の姿に見惚みとれて、照れて出て来れぬのだ。悪意があっての事ではないので気にするな」

 じきに出て来て自己紹介でもしてくるだろう、と俺に囁くウィリーに、俺はなんだかむず痒くなりながらも頷いた。
 みんな姿は見せないけど俺達を見てるって事は、あれですよね……俺が妖精王の膝の上に座ってるって言う、とんでも不敬罪な姿もバッチリ見てるんですよね……あああやだあああ恥ずかしいよぉおおおお!!

 どうしてこんな事になったのかと頭を抱える俺だったが、そんな俺の事など王様は構う事も無く、今頃気付いたかのようにブラック達に向き直った。

「そういえば、我も自己紹介がまだであったな。……申し遅れたが、我が名はウィリディス・ジラント・ヴァリシカ・ゲルトハルト。第十五代目の妖精王だ。因みに過去、白銀の鎧を纏って国を一つ救った事があるぞよ」
「ぞよとはまた、似合わない格好つけ方をするのう、ウィリー……」
「お主も長老と呼ばれているせいで、年々じじむさい口調に代わっておるではないか。お主も大概だぞ、チェチェノ」

 ああ、やっぱり長いお知り合いなんですね。
 でもチェチェノさん、若干今ヒいてましたよね。

 俺的にはさっきの扉の前のビシビシした会話で、二人は戦友的な格好いい間柄あいだがらなのではないかと思っていたんだけど……なんだこの茶飲み友達的な会話は。
 一体どんな付き合いなのか知りたいが、ブラックとクロウが完全にウィリー王を敵視している今の状況じゃ、俺何か喋ったらとばっちりを喰らいそうだ。

 ちくしょう、どうしてこんな事に。
 やっぱりあの祭りでウサミミなんて見せるんじゃなかった…………。












※つ、次もおじいちゃん無双……ちょっとセクハラかもなのでご注意
 余談ですが私は老年攻めも好きです…(いらない情報
 
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