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聖都バルバラ、祝福を囲うは妖精の輪編
11.王様への謁見にテンションが上がるのはゲーマーのサガ
しおりを挟む「妖精族の街……と言うのは解っていたけど…………」
「…………グゥ……」
「おぢさんつかれてるのー? のー?」
「へんなとこにけがあるー! おくちなんでけがあるのー?」
「このおじしゃんだけみみちがーう!」
「おもしろーい!」
妖精達の住む都、聖都バルバラに降り立ったは良いものの……俺達は予想外の歓迎……いや、ヤジウマ……? に囲まれて、なかなか前へ進めないでいた。
これが普通の人間のヤジウマならば適当にいなせたんだけど、何せ、妖精の街のヤジウマってのは……二頭身しかない、落書きみたいなお目目ちょんちょん口がワの字な妖精達だったのだから。
……俺、このタイプの妖精、アニメとか小説で見た事有るよ……。
ありきたりとは言わないし、不定形の存在だから顔の造形がぞんざいって言うのも利に適ってるし文句は言いませんよ。可愛いしね。でもさ、流石にそれが三十人四十人居て、周囲を飛び回るなんて考えたりとかしないじゃん……?
これ軽く恐怖だよね、ヒッチコックの鳥状態だよね。
可愛い物でもこんなにタカられたら怖いって……。
「おにーさんだれなのー? なのなのー?」
ふよふよと漂う光に囲まれた、とんがり帽子の妖精が顔の前まで飛んでくる。
煉瓦敷きの道にキノコの形のファンシーな建物に妖精と来たら、いつもの俺ならいやでも和んでしまう場面なのだが、今回ばかりはちょっと事情が違う。
多い。多いんですって。とんがり帽子の妖精君の周囲に光がわらわらと集まって来て、眩し過ぎで和むどころじゃないんですってば。
「だれだれー? だれー?」
「う、うう……俺は冒険者だよ……あと、申し訳ないんだけど、この光達をちょっと遠ざけてくれるかな……」
そう言うと、光は何故か少し跳ねて、それからふるふると震えだす。
……ん? 震えだす?
「おにいさんいじめちゃだめなのー! 赤ちゃんなのー!」
「えっ?! 赤ちゃん!?」
どどどどういう事、この大地の気みたいなのが赤ちゃんってどういう事!?
意味が解らなくてとりあえず光達に謝っていると、背後で黙っていたアドニスが耳打ちしてくれた。
「この子達は形がまだない、気の状態で自我を持った存在なんですよ。これから数十年成長と修行を繰り返し、曜気を溜め込むとあの二頭身になるのです」
「へえ……いや、っていうか“気”って……」
「ああ、そこの説明からですか……。ツカサ君、妖精族は、元々曜気や大地の気が変質した結果生まれたものなのですよ」
「え!?」
それって……曜気や大地の気から自然に生まれたのが妖精ってこと……?
いや、うん、俺の世界ではそうだな。自然界の力や古い物から妖精は発生して、悪戯をしたり時には人間のためにお手伝いをしてくれるんだ。
いわば精霊にも近い物であって、俺の世界でも妖精王とか存在する訳で……。
成程。この世界の“気”も、そういう事が出来たのか。
いやでも、それが本当なら、どうして今まで妖精を見かけなかったんだろう。
オーデルやベランデルンはともかく、大地の気が溢れまくっているライクネスなら、妖精の一人や二人いたろうに。
その疑問を読み取ってくれたのか、アドニスは素早く俺に説明をくれる。
あんたホントに髪色変えてから性格変わってんな。
「とは言っても、曜気や気から生まれたのは、始祖である“原始の二十七士”だけで、現在生まれている妖精は妖精王のみが使える【魂魄精製】という特殊技能により発生しているだけです」
「に、にじゅうしちしか……。じゃあその人達だけが自然から生まれたのか」
「自然発生……とは言えませんけどね。生み出したのは神と言われていますし」
「神様か……神様が二十七士を遣わしたのか……」
俺、婆ちゃんの家で四十七士のビデオなら見た事有るんだけどな……。
あれは神様じゃなくて上様だっけ、降臨させたの。違う気もするがまあいい。
しかしこれで何となく妖精族の出自が解った。
そんな特殊な生まれ方をしているのなら、そりゃーか弱いし何百年も曜気を溜め込んで成長するまでは他種族にいじめられ続けるだろう。
しかし解せないな。そんなか弱い種族ならば、友達になりたい守ってあげたいと言う気にはなるけど……害も無いのに森から追い出したりするもんかね。
「おにいさんごめんしたのー?」
考え込んでいると、いつの間に飛んできたのか、俺の目の前には三人の妖精達がふわふわ浮かんでいた。
周囲の光も相変わらず離れてくれないみたいだ。
「あかちゃんにごめんごめんはー?」
「あ、ああ、ごめんごめん。赤ちゃんたちもごめんな」
「きらいくない?」
「嫌いじゃないよ、大丈夫」
俺の隣でゲンナリしてるオッサン達はともかく、俺は人数が少なければこういう可愛い妖精も好きだし。まあ正直美しくて素っ裸の妖精美女なら言う事ないんだが、可愛いとエロは別口の感情だからな!
再び寄って来た光達をよしよししていると、目の前にやって来ていた妖精達の内の、二つに先割れした帽子を被っている子が何やら顔をもぞもぞ動かした。
「おにいさんいいにおいするー」
「ん? 良い匂い?」
「おかあさんのにおいするするー! 赤ちゃんあつまってくるー」
「赤ちゃんほしいのー、ごはんほしいのー!」
唐突に変な事を言われたが、確かにさっきより光が集まっている気がする。
一瞬からかってんのかと思ったが、そうじゃないよな。
妖精の「お母さん」と言うと……やっぱ曜気だろうし。
と言う事は、この光の赤ちゃん達は俺の体内を巡る曜気に引きつけられているのかも知れない。その予想を肯定するかのように、アドニスが囁いてきた。
「どうやら君の【曜気を無尽蔵に蓄える能力】に引き寄せられたようですね」
「……あげても問題ないかな?」
「いいと思いますよ。妖精王が新しい妖精を顕現させるのは、人手が欲しいからです。幼体の精霊でも充分に役立ちますし、彼らも早く成長したいでしょうから」
「そっか、じゃあやってみる」
しかしアドニスよ、お前さんこの国の事に詳し過ぎだぞ。
さてはお前、もう自分が妖精だと見破られてると解って開き直りやがったな。
まあいいけどね、教えてくれるのはありがたいけどね!
内心納得のいかなさを感じつつも、俺は頬にすり寄るかのようにぽんぽんと飛んで来ていた光の玉にちょんと人差し指で触れた。
おお、指が突き抜けない。やっぱ大地の気とは違う存在なんだな……。
「じゃあ、ちょっとだけな」
頭の中でコップ一杯分の水を想像しながら、指で触れた光に「この曜気が欲しいのかな」と何となく直感で思って、木の曜気を注ぎ込んでみると……光が急にぷるぷると震え出し、ポンという音を立てて一瞬で俺達にまとわりついている二頭身の妖精に変化してしまった。
「え゛」
「ちょっ、つ、ツカサ君!? なにしたのそれ!」
「手品か。ツカサは凄いな」
「ちがう、ちがーう!!」
「ツカサ? ツカサ! ツカサごはんありがとうー! ツカサすきー!」
新しく生まれた緑色の服の妖精は、気の抜けた顔ながらもニコニコと笑い、俺の周囲を飛び回る。あ、みんな背中見えないから解らなかったけど、ちゃんと小さな羽がついてるんだな。うーむ、やっぱり可愛い。
「ツカサ君がまた羽虫を一匹虜に……」
「なんてこというんじゃいお前は!」
「ハム氏とは誰だツカサ」
「ハムじゃねーよ!!」
ああもうこのオッサンどもったら、へっぽこな会話しやがって!!
「いいなーいいなー、あたちもごはんほしいー」
「ぼくもー」
「つかしゃー、赤ちゃんごはんほしいってー」
「あああ数が増えて」
妖精達だけじゃなくて光の玉の赤ちゃんも沢山増えてるぅうううう。
やめてくださいそのもにもにした体で体当たりしてこないで下さい!
痛くないけど数十体のもにもにに体を押されると何かこう、指圧を受けているみたいでちょっと痛いって言うか……っ!!
てか俺の顔両側から押し潰されて酷い事になってるんで、ほんとにもう勘弁して下さい。モテない男がさらにモテなくなってもどうしようもねえ。
「こ、こらこら! みなさん落ち着きなさい! この人達は今から妖精王のお城に連れて行くんですから、引き留めていたら怒られますよ!」
「えー」
「よーせーおーさまー!」
「うー、うー」
な、なんだなんだ。妖精王に会いに行くと聞いた途端に妖精達が離れていくぞ。
やっぱあれか、小さな幼体でも自分の創造主の事はきちんと認識してるのか。
「さ、これでもう大丈夫。早く先に進みましょう」
ちょっと驚きながらも、俺達はアドニスの指示に従って街を歩き始めた。
「ツカサ君、幼体にほっぺぐりぐりされて赤くなってるけど大丈夫」
「おう……意外とあいつら質量あるのな……」
そう言うブラックも多少げんなりしてるみたいだけど、大丈夫なのか。
まあ、クロウはともかくブラックは子供苦手だもんな……。しかも三歳児くらいの妖精達だし、外道おじさんのコイツでも流石に何も言えなくて、防戦一方だったんだろう。でも、ブラックって酷い性格してるけど、子供や女の人をむやみやたらに殴る奴じゃないんだよな。
子供は嫌いだけど、そのくせ子供には優しいって言うか。
……子供に暴力を振るうって選択肢を考えない所は、まあ……好きかも……。
「ツカサ君?」
「ん゛っ!? な、なんでもねえよ!?」
「心なしか、さっきより顔があか」
「さっきグリグリされたからだろバカ!」
「んんん?」
危ない危ない、怪我の功名だな……。
頬を軽く叩いて顔を整えていると、クロウが鼻を動かしながら呟いた。
「しかし、説明を聞いてもまだ夢を見ているようだ。匂いや感じは大地の気なのに、重みや感触が有るなんて不思議だぞ」
「そっか、クロウは土の曜術師でもあるからそう言うの分かるんだっけ」
大地に含まれる曜気やその変質を確認できるのは、土の曜術師だけだ。
それに加えてクロウは獣人だから、匂いや耳でも感覚を拡張して、曜気や大地の気を感じる事が出来るんだろう。……ってそれがマジなら結構凄いよな。
獣人族の五感って一体どういう感じになってるんだろうか……。
「あと、ここには大地の気が満ちている感じがする。ドラグ山の中だからという事も有るのだろうが、妖精の国という空間が何かの作用をしているんだろうか」
「え、マジ? ここ大地の気があるの?」
試しに気の付加術のラピッドを掛けてみると、足が軽くなる。
うわ本当だ。なんでだろ、やっぱ別の国との国境だからかな……?
とか思っていたら、ものの数分で体の軽さは消えてしまった。どうやらここも潤沢に気が湧き出ているという訳でもないようだ。じゃあ、この街の妖精達が光状態だったり幼体だったりするのは、充分に気を食べる事が出来てないからか?
しかし曜気まで不足するもんなのかな。
そんな事を思いながらも街を歩いていると、ふと釣り看板を掲げるキノコの家が目に付いた。妖精の国ってファンシーな街並みだけど、ちゃんとお店が有るみたいだし、本当に人族の街と変わらない生活をしているんだな。
裁縫屋に雑貨屋、さすがに宿屋や食堂はないけど、妖精達にもおやつと言う概念はあるのか、お菓子屋さんという看板が目に入る。
こういう所は美味しいお菓子が有るオーデル皇国の影響なのかな?
それにしても、改めてみると良い国じゃん。
落ち着いて見れば妖精達もとっても可愛いし、何なら光の玉状態の妖精も可愛い。俺の世界にはお婆ちゃんとか爺ちゃんみたいな姿の妖精もいるけど、この世界はアドニスみたいな成人してるっぽい姿の妖精は少ないのかな。
いや、アドニスも意外とあのお目目ちょんちょんのワな口が真の姿なのかも……何それちょっと可愛い。イヤミを言われてもあの顔なら和むわ。
お菓子屋さんもきっとあの二頭身の妖精が「いらっしゃいませー」ってやってるんだろうなあ。窓越しにでも良いからちらっと見れない物か。
そう思って、通り過ぎる家の窓をふと見てみると。
「あっ」
い、いま窓に普通の大人がいた! ちょっとだけ耳の尖った大人が居た!!
でも俺の方見てめっちゃ侮蔑の目を向けて隠れちまったよ……。
え……なに……俺なんか気に入らなかった……? あっ、もしかして騒いでたのがご近所迷惑でしたか、それとも単純に妖精基準では俺ブ男なの!?
ああああ前者だったら申し訳ないし、後者だったらめっちゃショックうううう。
うう、妖精の国にはそう長居しないっぽいのでちょっとだけ安心だが、でもこうも正面切って「近寄りたくないです」の態度を取られる事なんて、この世界に来てからはやられた事が無かったからめっちゃへこむぅう……。
俺調子乗ってたかなあ……ああ、なんかごめんなさい、反省します。
もし時間が有れば、遠ざけちゃった赤ちゃん達にもう一度会って謝っておこう。
暗澹たる気持ちになりつつも歩いていると、あの氷の城が近付いてきた。
やっぱ凄いなあ……ここにこの国の王様が住んでいるのかあ……。
「……ってちょっと待って。アドニス、何で俺達王様の所に向かってんの」
色々驚き過ぎて頭からすっぽ抜けてたけど、そうだよ。ヨアニスを復活させるのが俺達の目的なのに、どうして王様の所に行かなきゃ行けないんだ。
「あれ、言ってませんでしたか。王城へ向かうのは、この国を訪れた物の義務なのですよ。私達の本来の目的とも関係しているので、まあとりあえず王に御目通りを願って下さい」
「願って下さいって……他人事だなあ」
「どのみち、私は城の中には入りませんので」
「え?」
どういう事だと目を丸くする俺達に、アドニスはフードを目深に被ったままニッコリと笑った。そりゃもう、邪気なんて微塵も感じない口で。
「もう皆さんお察しでしょうが、私は上位種の妖精族です。……が、私はある事情により王城の中へ入る事は許されておりません。なので、貴方がたと神茸老殿のみで謁見を行って下さい」
「お察しでしょうがって……えらくさらっと言うね、色々な事を」
「だって、ココまで来たら隠しても仕方ないですからねえ……。ツカサさんも貴方も、私がこの国の事情を知りすぎている事である程度予想はしていたでしょう? それに、そちらの熊さんも人族とは少しにおいが違う事に気付いていたみたいですし」
「あ……」
確かに、クロウはアドニスの事を変なにおいだと言っていた。
俺はてっきり薬草とかの香りが染みついているもんだと思っていたけど……それが妖精族特有の匂いだったとすれば納得だ。
嗅ぎ慣れていない初めてのにおいだったんだから、そう言うしかないよな。
「と言う訳で、私は街の外れにある小屋に居ますので、色々と用事が住んだらそこに訪ねて来て下さい。神茸老殿、後はよろしくお願い致します」
「うむ、分かった。皇帝陛下とツカサさん達はお任せくだされ」
「お、おい……って行っちゃったよ……」
「こんな所まで来ても自分勝手なんだな」
「まあ、妖精ってのは基本気まぐれで悪戯好きで“いい意味でも悪い意味でも無邪気”だと言われているからね……。今までの態度も、妖精族の特徴だと考えれば納得かな……ムカツクのは全然変わらないけど。殺したいけど」
うーんブラック、大人には容赦ないネ!
殺すのまではさすがに止めて欲しいので、殴るだけにしてねお願いだから。
……俺もアドニスにはイラッとした事が有るので、限界を越えたら殴っちゃっても仕方ないかなとは思うが。いや駄目だけどね本当は。暴力反対。
「では、時間も勿体ないし行きますかの。皇帝陛下のお体を、早く氷の中から助け出してあげたいですしのう」
チェチェノさん、なんて大人……!!
ああそうだよな、普通の大人はこういう感じで常に他人を気にかけているんだ。
すなわち紳士なんだ。将来はこういう大人になりたいよな……俺に男として生きられる未来が有るのかどうか最近本気で不安だが。
まあそこはおいおい考えよう。
チェチェノさんを肩に乗せて、俺達はソリを引き摺りながらえっちらおっちらと緩やかな坂を上る。街の入口から一直線に走る大通りは、王城への一番の近道だ。
途中、幼体の妖精達に手伝って貰ったり、挨拶をしたりしながら進んでいくと、ついに氷の王城の扉が目の前に姿を現した。
「…………すごいね、この城。水晶かと思ってたけど、これ本当に氷だよ。しかもかなり純度の高い氷……」
「冬の国だからか? だが、この国はどちらかと言うと常春に見えるのだがな」
「ふぉっふぉっふぉ、それは王に謁見すれば理由が解りますよ」
チェチェノさんは何かを知ってるみたいだな。
でも、これの場合は……俺達を驚かせたいから隠してるみたいだ。やだ可愛い。お茶目なお爺ちゃんって嫌いじゃないぜ。ウチの爺ちゃんもそうだったし。
「じゃあ、早く王様の所に……と思ったけど、兵士が居ないな……」
普通、こういうのって兵士に身元を検められるもんだけど……この王城の扉の前には一人も兵士が立っていない。というか扉もすっかり開いている。
前方には奥へと延びる緋毛氈の敷かれた通路が有るけど、その通路にはやっぱり人の姿は見当たらなかった。人どころか、妖精族の赤ちゃんも見当たらない。
まるで、綺麗な廃墟みたいにひっそりと静まり返っている。
「チェチェノさん、兵士に何か言わなくていいの?」
「この国には賊はおりませんからな。さあ進みましょう」
大丈夫かなこれ……。
ちょっと不安だったけど、俺達は緋毛氈を避けてソリを中に引き入れた。
いや、流石に地面に接触してる汚れたソリで、敷物を汚すわけにはいかんし。
緋毛氈にソリが掛からないように注意しながら奥へと歩いて行くと、唐突に目の前に金の装飾がなされた大きな両扉が立ちふさがった。
おお、ここが謁見の間って事かな?
ガラスのようだけど向こう側を透写しない綺麗な氷の廊下に、キンピカの扉か。
なんか氷の神殿っぽくて向こう側にボスとかがいる想像をしてしまうな。この場合は絶対に炎で弱点を攻撃する奴だろうな……そんで、ボスは氷の支配者だから、吹雪の全体攻撃とかでこっちを状態異常とかにしてくるんだ。
ふ、ふふふふふ……氷の神殿ダンジョンとか燃えるなあ……!!
人知れず燃えていると、扉の向こうから何やらカチンという鍵の開く音がした。
何だろうかと顔を上げると、俺達の目の前でひとりでに扉が開いて行く。
音もせずに内へと引き込まれていく扉に目を見張っていると、部屋の奥の方から声が聞こえた。
「ようこそ、客人達よ。さあ、こちらへ来られよ」
おおっ、格好良くてシブい、威厳のある爺ちゃんボイス!!
妖精の王様って言うからてっきりまーたイケメンか、それともお城に似合わないファンシー妖精ちゃんかと思っていたが、まさかの老獪な王様パティーン!?
何気に俺って王様的な人の顔はヨアニスしか知らなかったからな、白髭を蓄えた威厳のある王様とかだったらテンション上がっちゃうぞ。
だってさ、そう言う王様ってまさにファンタジーの定番じゃん!
うおおお、最近「定番」って言葉に飢えてたからテンション上がるなああ……!
「さあ行こうぜ! 王様に謁見するんだ!」
「う、うん? なんか凄く元気だねツカサ君……」
「また何かすいっちとやらが入ったか」
ええい悔しいがその通りだ、俺は今、久しぶりのゴリゴリのファンタジーに不覚にも燃えているんだっ。このままの気合で行かせてくれい!
鼻息荒くソリを引き出す俺に、ブラックとクロウは顔を見合わせて肩をすくめたが、俺の気合やよしとは思ってくれたのかソリを入れるのを手伝ってくれた。
さあいよいよ妖精王と対面だ。
ああ、どんな人なんだろう。
声からしてお爺さんには間違いないけど、どんな姿なんだ?
太めかな、それとも老騎士っぽく細めでがっちり? 期待を裏切ってめちゃくちゃマッチョだったりして……ああもう全部格好いいな! なんでこう強いジジイキャラって格好いいんだろうなっ!
どんな人か楽しみだと思って、玉座の間に入る。
そうして遠くにある玉座に座る人影を見て、俺は一心不乱に歩を進めた。
なにげに謁見って行為も初めてだ。こういう時って確か膝をついて挨拶するんだよな。うわ俺騎士みたいじゃない? めっちゃ格好いい!
しかも相手は妖精王だしうわーうわー!
「ツカサ君、ほら、ソリを止めて。挨拶するよ」
「うえっ!?」
ええっ、もうそこまで来ちゃったの!?
どどどどうしようまだ心の準備がっ!
急な声に慌てて縄を離して前を見た俺は、真正面の光景に思わず言葉を失った。
「あ…………」
視界の先に在るのは、美しい透明な青の階段。
――階段の先には、磨き上げられて輝く金の玉座がある。
その黄金の玉座に……美しい白髭を蓄えた老王が、安閑と座っていた。
「――――っ」
うわ……ほ、ほんとに……本当に……ゲームの中の王様みたいだ……。
金の輪の形をした、飾り立てられた王冠に、少しだけ先が尖った耳。
こちらを愉しそうに見つめる顔は雄々しく美しいが、深く皺を刻んでいる。だけどその皺は決して醜い物ではない。寧ろ、年輪という表現がしっくりくるほどに、彼の容貌を威厳のある物に仕立てていた。
そして、そんな顔を更に飾り立てるように、輝かんばかりの白い髭を胸のあたりにまで豊かに蓄えている。緩やかにウェーブした銀の髪と色味は違うが、薄青い布地の“神様が着ているような服”なのも相まって、爽やかにすら見える。
この人が、妖精王……この国を総べる王様なのか。
思わずブラック達と共に傅いて、ただただ驚き興奮しながら妖精王を見つめていると……相手は、俺を見てにっこりと目を笑ませた。
え……俺を見た?
目を瞬かせていると、相手はゆっくりと立ち上がり両手を広げる。
「ようこそ、人族の人々よ、樹木竜殿よ。そして……我が愛しの“孫娘”よ!」
その嬉しそうな最後の言葉は、しっかりと、俺を見つめて吐き出された。
と、言う事は、その広げられた両手も、俺に対してって事で……。
じゃあ、孫娘って…………
え。
…………え゛!?
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