異世界日帰り漫遊記

御結頂戴

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聖都バルバラ、祝福を囲うは妖精の輪編

13.辱めというのにも様々なバリエーションがある

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※種類的にはちょっと変わった羞恥プレイ…? だと思うんですけど
 不快に思う方がいらしたらすみません……(´・ω・`)





 
 
 この妖精の国では、基本的に夜が短いらしい。
 だから、夜という時間になったとしても晩餐ばんさん会ではなく夕食会と言うのだそうだが、そういう無駄知識は俺達にとってはどうでもいい。
 問題は、今のこの状況だ。

 ながーい机の上座に妖精王のイケメンお爺さんウィリーが居て、その隣に俺が座って……いや、強引に座らされて、ブラックとクロウがそれぞれ右と左に別れて着席し、俺にじぃいと不機嫌そうな視線を寄越よこしてくる。
 頼みの綱のチェチェノさんは小さい姿のままテーブルの上に乗ってはいるが、俺達から少し離れた所でアカン形のキノコをモシャっている。
 つまり、助け船がない。

 ああオッサン二人の視線が痛い。やめて見んといて、俺は全然悪くないじゃないですか、お爺ちゃんに相席頼まれてるだけじゃないですか。
 やましい気持ちなんてこれっぽっちも無いのに、どうして「ツカサ君の浮気者」と言うような視線をぶつけられねばならんのだ。

 バカ! バカかお前らは!!
 何で俺がお爺ちゃんと浮気しなきゃなんねーんだよ!!
 千歩譲って浮気するとしても美女か美少女とやるわそんなもん! つーかなんで男と浮気せにゃならんのだ、お前ら俺が健全な男子だってこと忘れてない?!
 コンパニオンがやらしい職業だと思ったら大間違いだぞ!

 しかも、俺が必死こいてウィリー爺ちゃんと話しているのに二人は黙りこくったまんまだし、爺ちゃんが話しかけても生返事しかしないし、子供かこいつらは。
 大人だったら、表面上だけでもニコニコしてるもんじゃないのか。いや、自分がそれをやられたら絶対嫌だけど、でもこの夕食会って言わばウィリー爺ちゃんへの接待みたいなものなんだからさあああ。
 うう……せっかくの豪華な料理がまた美味しく感じられない……。
 ウィリー爺ちゃんが気を効かせて人族の料理をだしてくれたのに。

「久しぶりの人族風の食事だが、これはこれで美味いものだな。街の妖精達が真似をしたがるのも理解出来る」

 そう言いながら、肉を切って口に運ぶ隣の妖精王に、俺はおずおずと問う。

「普段は、こういうのって食べないんですか……?」

 早くヨアニスを復活させる方法が知りたいけど、俺達のが判らない限り話してくれないみたいだし、ここは黙ってるより話しかけた方が良いよな……。
 態度悪いまんまだと、無礼者ぶれいものーとか言われて追い出されかねないし。
 孫娘呼ばわりは本当に嫌だが、この際仕方がない。
 オッサン達は我慢してないけど、俺だけでも我慢して大人にならなければ。

 そんな決意からの当たり障りのない質問に、ウィリー爺ちゃんは髭を軽く扱いて記憶を探るように空を見上げる。

「まあ……妖精族は、大地の気と曜気を食らって生きる生物だからな。だが、そこの特殊な熊族と同じように、それのみで生きると言う事も無い。いわば雑食だ」
「自分の種族を雑食って言っちゃっていいんですか」
「事実だから仕方あるまい。ところで、ツカサ達は旅をしておったが、どのような職に就いておるのだ?」
「あ、ええと……職ってほどでもないけど、冒険者です」

 依頼が無かったら普通に無職だから、職業と言っていいのか不安だが。
 俺の返答に、ウィリー爺ちゃんは少し驚いたのか座る俺をまじまじと見て、目をパチパチとしばたたかせる。

「そうなのか。そうは見えんな……」
「まあ俺は成長期なので! 後からぐんぐん伸びるので!! ……と、それは置いといて……あの、王様」
「ウィリーと呼べ」
「ええと……ウィリー、さん。あの、それで、俺達のを見るとおっしゃられていましたけど……具体的にそれがどう俺達の頼みに繋がるんですか?」

 このままだと話が進まないし、ここはバシッと本題に切り込む方が良いだろう。
 そう思って、ウィリー爺ちゃんをじっと見た俺に、相手は思っても見ない言葉を言われたかのように動きを止めたが、ふっと笑うと白髭をたくわえた口をぬぐった。

「単純に言えば、人族の皇帝陛下を助ける方法は『はい、そうですか』と簡単に教えられる事ではないと言う事だよ。いくらチェチェノが認めた相手とはいえ、あの王を蘇らせるための方法は我が妖精族の根幹に関わるものだからな」
「そ、そうなんですか……」
「ああ、かと言って妙な媚びへつらいはいらぬぞ。妖精はある程度ていど人族の心を読める。お主達の心のありようを知る事など造作ぞうさもない」
「えっ!?」

 こ、心を読める!? えっ、じゃあ今さっきまで考えていた事とか筒抜つつぬけ……。
 待て待て落ちつけ俺、俺達は別にやましい事なんて何もないじゃないか。
 この件に限っては本当にヨアニスを助けたいがための行動だし、やっとアレクがお父さんと対面できたんだから、アレクのためにも……いや、国の人達のためにも、絶対にヨアニスを連れ帰るって気持ちは変わっちゃいない。

 それに、ウィリー爺ちゃんがドンビキするほど心を読めるとすれば、俺の今までの心の声も読まれてるって事だけど、そんな気配はなかったし!
 あれだ、きっとウソ発見器的な性能に違いない! そうだと思わせて!!

「ん? ツカサは何やら信用しておらんようだな」
「そっんなことは」
「今までは能力を封じていただけだぞ。どれ、試しに読んでやろうか」
「イエエェ!? いいいい良いです良いです遠慮します!!」
「まあまあ……そう言えば、先程から連れの二人が我をジロジロ睨んでおるが……さては、どちらかがお主の嫁か夫か?」

 よめか、おっと?
 えっ、待って待って、話に付いていけないんですけど。
 誰が嫁か夫だって?

「ふむ、試しにどちらがお主の伴侶か当ててやろう」
「ひぇっ!? だっ、う゛ぁ!? ちょ、ちょっとうぃりーさんっ!?」
「ではまずは、あちらの熊の御仁ごじんからだ。彼は実にたくましい体をしておるし、比較的穏やかにも見えるがどうか?」
「ど、どうかってっ言われましても!!」

 やめて下さい!
 こんな話ブラックもクロウも聞いてて気分のいい話じゃないでしょ!

 そうだろうお前達、とオッサン二人を見たが……。
 クロウは熊耳をせわしなく動かしながら、ワクテカな空気を周囲にまとわせて俺を見ているし、ブラックはブラックで俺の事を射殺いころしそうな目で凝視しつつちょっと頬を赤らめていた。
 ……ああ……だめだ……このオッサン達本当に駄目だ……。

「なんかあきれておらぬかお主」
「ひえっ、そ、そんな滅相めっそうもない!!」
「そうかの? で、この熊の男はお主の伴侶ではないのか」
「は、伴侶って言うのは違うかと……」

 だって、俺はブラックの恋人だし、その……そりゃクロウは俺をはらませたいとか何とか物凄い事を言ってくるけど、俺は男だし、恋人じゃないから……申し訳ないけどそう言うのは出来ないって言うか……。
 いやでも嫌いな訳じゃなくて、何故かは自分でも判らないが、クロウには何故か拒絶すると言う気が湧かなくなるわけで……うわ、やだ、今更だけどあんな恥ずかしい事してるのに恋人じゃないって、物凄く関係がただれてないか。
 あ、あ、あんな、水車小屋でしたみたいな事をして恋人じゃないって……っ。

「ふむふむ、顔を赤くしているが違うようだな」
「うえっ!?」

 なっ、い、いつの間に顔が赤くなってたんだっ。
 違う違うこれそう言う意味じゃなくて!

「しかし熊の御仁の事は憎からず思っているようだな。恥ずかしい事をさせられているようだし、仲は悪くない……いや、むしろ充分に良い。そうであろう?」
「ひっ……ぇう……」

 恥ずかしい事って、え、え、嫌だ、本当に読まれてる。心読まれてる!!
 あああああお願い勘弁して下さいそんなの発表されても困るんだってばああ!

「お、お願いですからもうこれくらいでっ」
「と言う事は、本命はそっちの少々だらしない男か?」

 その言葉に、ブラックは両手を組んでキリッと言葉を返した。

「当ててみてください」
「だーっ、ばー!! ばかブラックー!! 」

 なに急にやる気満々でへりくだってんだよばかばかばか!!
 この中年、さてはこの機に乗じて俺の事を虐める気だな!?
 ちくしょう、キラキラ目を輝かせやがって。人がこんなに恥ずかしい思いをしているのにどうしてお前は他人の苦しみを解らないんだ! まあ解らないか、こいつ本当俺以上にスケベだし人でなしだもんなもう!!

 ……四面楚歌しめんそか……ああ、勘弁してくれえ…………。

 ゲンナリする俺に、ウィリー爺ちゃんは短く笑うとその綺麗な金色の目で俺をじっと凝視しだした。思わず息を呑む俺の目の前で、金色の瞳がじんわりと別の色に変化していく。……金の瞳が、青の混じる綺麗な銀に染まる。
 有り得ない光景に瞠目どうもくする俺に、相手はその少し鋭い目を笑うように細めると、静かに問いかけて来た。

「では、こちらのブラックという男がお主の伴侶か?」
「は……伴侶……は……その…………」

 恋人って伴侶? 伴侶なのか? 伴侶って結婚してる人の言葉じゃないのか?
 だいたいなんで俺こんなこと訊かれてるんだ。なにこれ、何の話。
 俺なんで初対面の偉いお爺ちゃんにこんな尋問されてるの……?

「結婚はしておらんのだな」
「ひっ、あ、あの、その」
「結婚はしておらぬが、その男の事は憎からず思っておると」

 ち、違う。待って俺そんな事思ってない。

「ふむ……あの男と触れ合う事は悦んでおるようだしのう。内心ではずいぶんあの男に惚れこんでおるのだな」
「そ、そっ、そん、な……こと……っ」

 触れ合うって、なに、どれ。どれの事を言ってるんだ。
 まさかえっちしてる事すらも心を読めばバレちゃうのか? そんな。俺、そんな事いま考えてなかったのに。なのに、心を読まれてしまえば、俺自身も意識していない感情や想いを全部知られてしまうってのか。
 じゃ、じゃあ、まさか…………。

「顔が野苺のごとく赤くなっておるな。……もう答えは出ておるような気もするが……しかしツカサ、お主意外とそこのブラックと言う男の事を純情に思っておるのだな。我はこの男ともただれた関係でしかないと思っておったのだが……これではまるで生娘ではないか」
「あ、っぇ……!? ぃや、そ……な……」
「そこの男は、開き直って気分が悪くなるくらいの感情を我に送って来ると言うのに、お主はこの男の事を考えると、身悶えするような感情を抱くとは。こんな男の小さな優しさにすら心を高鳴らせるなど、今時深窓の令嬢ですらやらぬ事だぞ」

 小さな優しさって、どれ。もしかして街での事?
 子供には優しいなって、思った事? なんで、なんでそんな事知ってるの。
 今そんな事思ってないのに。なんで。

「ツカサ君、そんな事を……っ」

 ブラックの目が、クロウの目が、じっと俺を見つめて来る。
 チェチェノさんまで俺の事を見つめてて、そんな状況で知られたくない事を喋られて、俺はどんどん頭の中がこんがらがっていってしまう。
 そんな目で見るな。嫌だ、知られたくない。

「可愛らしい泣き顔だな。その分では気の利いた睦言むつごとささやいた事が無いか。心も体もこの男にひらかれておるというのに、純真無垢とはこの事だな」
「や、やだ、ちがっ……」

 違う、そんなんじゃない。そんな事言わないで。
 恥ずかしくて仕方なくて涙が出てくる。ブラックにされる恥ずかしい事とは全然違うのに、胸がぎゅっとなって逃げだしたくなるような恥ずかしさは同じで。
 それが苦しくて俺はウィリー爺ちゃんにすがろうとするけど、羞恥のあまり全身が震えてうまく動けなかった。

 そんな俺に、ウィリー爺ちゃんが言葉を畳み掛けてくる。

「可愛らしいのう。初めてで何もかも分からぬか。だがその男のために努力をして羞恥にも耐えようとしているとは……」
「うっ、ぅあっ、ちっ……ちが……ちがいますぅう……!」
「違うか? 我が探るまでも無く、心の中では……」
「ひっ、ぅ……っ……うぅう……!!」

 もう耐え切れなくて、俺は席を立ってしまう。
 だけど、自分の心を読まれると言う事が予想以上の衝撃だったのか、俺は威厳も何もない泣き顔を拭う事すら出来ず、立ち上がったと言うのにすぐに床にぺたんと座り込んでしまった。
 力が出ない。恥ずかしくて、どうしようもなくて、足が震えている。

 人間って恥ずかしさの許容量を超えると、こんな事になるのか。
 こんなの知りたくなかった。恥ずかしい、逃げたいのに逃げられないなんて。

「だ……大丈夫か、ツカサ」
「ひ、ぐ……う、うぅう……もっ、やだ……おぅさま、も……かんにん、してくださ……お願、だから……っ、く……うぅ……」

 勘忍して下さいとか言う日が来るなんて自分でも思ってなかったよ。
 でももうやだ、もう心を読まれたくない。
 そんなの知らないよ、俺いまそんな事思ってないんだって。
 違う、言われたくない。そんなこと思ってるだなんて、そんな。

「ご、ごめんねツカサ君、すぐ止めるべきだったよね、ごめんね?」

 そう言いながら慌てて駆け寄ってきたブラックに、俺は涙目の情けない顔でヤケになってブラックの足を力任ちからまかせせにばしばし叩いた。
 ほんとだ、ほんとだよ!!
 何で「もう良いです」って言ってくれねーんだよお前!
 知ってるくせに、俺がこういうの苦手だって知ってたくせに!

「まさかそこまで初心うぶとは……いや、すまん。これは我もやりすぎであった……。そこの男達のように肝がわっているかと思って、少しのからかいのつもりだったのだが……泣くぐらいに恥じらうとは……」
「ツカサ君意地っ張りだからそう見えないですけど、色恋沙汰には本当に弱いのでまあ仕方ないと思います……」

 仕方ないってなんだ!
 こんな事されたら誰だって泣くだろ、隠してる本音を曝されるなんてどう考えても気分の良いもんじゃないだろうが。
 アンタらだってこんな事されてみろ、絶対泣くぞ!!

「しかし……お主らとこんな子が一緒に居るとは軽く犯罪だのう……。我に隠しもせずにツカサに触るなだの今すぐ犯したいだのと強く訴えてくる男らだというのに、ツカサは女への欲望すらも普段は蓋をしておる。……我が言うのもなんだが、何故ツカサはお主らと一緒に行動しておるのだろうな」
「そりゃあ恋人だからですよ」
「オレは二番目の雄だからだ」

 何この会話もう聞きたくない。
 耳をふぃさいでぐすぐす言いながら会話を掻き消そうとするのに、オッサン達の声は低くて腹に響くようなバリトンボイスだからか、嫌でも聞こえてきてしまう。
 もうこれ以上辱めはたくさんだと言うのに……。

 ちくしょう、妖精王だしチェチェノさんの知り合いだからまともな人だろうと思ってたのに、こんなジジイだなんて予想外過ぎる。詐欺だ。もうこれ詐欺だろ。
 でも、考えてみれば妖精王はアドニスの身内だ、妖精なんだ。そりゃ人間の都合なんてお構いなしだろうし、こんな悪戯いたずらしてもおかしくない。妖精ってのは、人が死ぬような悪戯さえ仕掛けてくる無邪気な鬼だもんな……。

 ああもう、恥ずかしい。悔しい。
 状況を整理する事で精一杯で感情が落ち着かず、俺が涙を拭っていると、不意にブラックが俺の両脇に手を差し入れて抱き上げて来た。

「うぁっ!?」

 驚く暇も無く、俺の体は軽々と体勢を変えられてお姫様抱っこの形に直される。
 何度かやらかされたとはいえ、やっぱりこの体勢はキツいし嫌だ。
 これ以上俺を赤面させてどうしたいんだとブラックを睨むと、相手はにっこりと笑って食堂から出ると廊下を歩きだした。

「えっ、え……!? な、なに、食事は、クロウ達は……」
「話が付いたから、夕食会はもうお開きだよ」
「いつのまに……」
「今日はもう疲れただろう? だからさ、もう寝ようか」

 …………うん。……うん?

……?」
「うん、

 ……どう考えても、俺の言う「寝る」とブラックの言う「寝る」は違う気がするのだが……それを指摘しても、どうせブラックは俺を降ろさないんだろうな……。
 ブラックの目、物凄く爛々らんらんとしてるし。なんか鼻息も荒いし……。

 今日は色々衝撃的な事が有ったのに、なぜこいつはここまで元気なんだろう。
 もうやだ、俺はもう疲れたのにぃい…………。

 俺は更に泣きたくなったが、泣いたってブラックが興奮するだけだと思うと泣くに泣けなかった。ああ、せめて柔らかいベッドならいいなあ……あぁ……。










 
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