異世界日帰り漫遊記

御結頂戴

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シーレアン街道、旅の恥はかき捨てて編

3.人数が増えると無駄な話も多くなる

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※すみません全然話が進んでません(;´∀`)




 
 
 俺達がこのうらさびしいシーレアン街道を選んだ理由は、早く砦に到着したいからと言うのもあるが、本当のところを言えば「練習したいから」だった。

 何せ、新しい武器である宝剣ヴリトラと術式機械弓アルカゲティスは、強力過ぎて通常の戦闘でホイホイ使えない。なので、この人通りの少ない街道で武器を練習して操作に慣れようと思ったのだ。
 いざ本番ってなった時に暴発しても困るし、これ以上一か八かで扱う武器が増えても困るしな……そういうのは黒曜の使者の力だけで充分だよ……。

 ってな訳で砦に到着するまでの間、俺達はメシと風景を楽しみながらもきっちり武器のメンテナンスや調整を行った。もちろん、俺一人でじゃない。
 時にはロクやクロウが練習相手になってくれたり、ブラックも曜術の制御に関してもう一度俺に指南してくれたりして、仲間の協力のお蔭でなんとか最小限度での取り扱いは出来るようになったのだ。
 ……うん、最小ね! 完璧じゃない、最小!

 だってこのクロスボウ、困ったことに俺の取り込む曜気じゃなくて黒曜の使者の力でイメージした属性を倍の出力で放出するんだもの……。
 推測でしかないけど、おそらくハサクっていう鉱物は威力を倍化するような付加効果があるんだと思う。だから、ブラックも最初はヴリトラを扱えなかったんだ。

 曜術の付加に倍化効果ってなると、そりゃ今まで魔法頼りだった俺みたいな奴には扱いにくいにもほどがあるわな。
 俺は今まで想像通りの威力をそのまま出してたわけだから、急に「レベルアップして二倍の力が使えるようになりました!」とか混乱して当然だよ。
 いきなり指が六本に増えても扱い切れないのと一緒だもんな。

 だから、ゼロ出力からちょこちょこと試していった結果、最小の威力をマスターする程度の事しか出来なかったのだ。
 ……まあ、最小っていっても前の弓より物凄くパワーアップしてるけど……。

 ちなみにブラックは三日程度でマスターしてました。
 どつきたいこの中年。

「なんとか形にはなったけど……この先モンスターに会わないのを祈るのみだな」

 平坦な街道を三人横並びで歩きつつ、俺は腕に装備している黒い箱を撫でる。
 この街道では幸いまだモンスターには出会っていないが、オーデルではどうなるか解らない。後ろで引っ込んでるのも格好悪いし、オッサン二人に負けないように俺だって頑張らなきゃな。

 まだ遠い砦を想いながらそう決心する俺の横で、ブラックが顎を指でトントンと叩きながらぼんやりと言葉を零す。

「オーデルの首都【ノーヴェポーチカ】には、確か闘技場があったはずだから……用事が済んだら行ってみるといいんじゃないかな」
「闘技場?」
「闘技場で練習させるのはツカサには危険ではないか」

 首を傾げた俺の隣で早速心配してくるクロウに、ブラックは心配ないと言うように手をひらひらと振った。

「お前ん所の闘技場とはちょっと違うんだよ。オーデルは曜術師が少ないせいか、曜具を補助に使った武術や格闘技がさかんなんだ。だから、闘技場も武術の練習場って事になってるんだ。公営の施設だけど、殺傷沙汰はナシ」
「じゃあ、なんていうか……えーっと……なんかの道場とか、お金を払って借りる鍛錬場みたいな事?」
「そうそう、運が良ければ対戦相手も見つかる練習用コロッセオって感じ」

 ふーん……ってかコロッセオって単語この世界にあったんですね。
 俺より前に来た異世界の人にそう言うの好きな人が居たんだろうか。

「ならいいが……ツカサ、のーべなんたらに着いたらオレと練習しよう。オレなら撃たれ強いしツカサを抱き締めてやれるぞ」
「おい熊公、脳みそかち割られて食材にされたいのかな」
「やめーって! 砦に着くまであと二三日はかかるってのに、一々喧嘩されてたらこっちの身が持たないんですけど!!」
「大丈夫だよツカサ君、疲れたら僕がおんぶしてあげるから!」
「だーもーこの変態はもー!」

 クロウはなんか過保護だし、ブラックは対抗相手が出来たせいなのかいつも以上にグイグイ来るしで鬱陶うっとうしい。
 普通に仲間として振る舞えというのが無理があるとは解っているが、しかしもう少しどうにかならない物だろうか。
 て言うか同行を認めたのアンタでしょブラック。
 仲良しこよしとまでは言わないから、せめて普通に会話してくれないかな……。

「あんたらどうやったら仲良くしてくれるの」
「この駄熊が僕を出し抜いてツカサ君とイチャイチャしようと思わなかったら」
「この変態が当初認めたとおりオレを二番目のオスとして認めてくれたら」
「永遠に平行線やないかい!!」

 いかん、関西の人でもないのについ関西弁で突っ込んでしまった。
 しかしこれは由々ゆゆしき事態だぞ……。俺も納得尽くでクロウを引き受けちゃったんだし、どうにかして二人を仲良くさせなくては。
 でも、俺が原因なのにどうやって仲良くさせれば……。

「ウキュキュ?」

 悩んでいる俺の肩で、ロクが「どうしたの?」と首をかしげる。
 そう言えば、ロクにはクロウのことをちゃんと説明してなかったな。

 今回は長く起きているロクだが、ランティナではほとんど眠っていたのでブラックとクロウの話を知らない。
 二人が俺を好きだってことはなんとなく理解しているらしいが、それが恋愛対象としてのスキって事だとは理解出来ないらしい。なので、どう話したものかと悩んでいたのだが……この際格好つけてもしょうがないか。

 ロクには「おじちゃん達は俺を独り占めしたくて喧嘩してるんだよ。それで、俺は困ってるの」と二人だけに通じるテレパシーで伝える事にした。
 すると、ロクはキョトンとした顔をしたが、やがてプンスカ怒り出した。

 ロク曰く、「ロクがつかさの一番! ぶらっくとくろうちがう!」との事。
 もちろんテレパシーなので“そんな感じの言葉”だし、実際の言葉は「ウギュギュー!」って感じなのだが、ロクが言うと本当にめっちゃ可愛い。
 やっぱり小動物は最高だ。可愛すぎる。

 もう辛抱堪しんぼうたまらず、俺は肩で鼻息をフンスフンスしてるロクに頬を摺り寄せた。

「はぁあロクぅ~~~っ! 俺もロクが一番大好きだよ~っ」
「キュー!」

 もうあんなオッサン達放って置けばいいか。
 大人なんだし自分達で解決するでしょ。だいたい、クロウが二番目のオスになるとか言う変な話も二人で勝手に決めちゃったんだし、良く考えたら俺があいつらの仲を取り持つ必要ねーじゃん。あれ、なんかムカッとしてきたぞ。

「いや、でもなあ……あのまま喧嘩されるとウザいしなあ……」

 いつの間にか立ち止まってぎゃいぎゃい言い合いしているオッサン達を無視して歩きながら、俺は腕を組む。
 別に喧嘩するのは良いんだけど、長引くのが嫌なんだよなあ。

「ウキュキュ?」
「ん? うーん……そうだなあ、確かに喧嘩は嫌だな。何か解決方法があればいいんだけど……どうしたもんかねえ」

 あの二人が納得するような落としどころってのが判らない。
 ピュアで可愛いロクに聞いてもしょうがないけど、今は蛇の尻尾も借りたいほど困っていた。だってこのままじゃ俺の胃が死ぬし。
 しかし、こういうただれた関係についてはロクは絶対解らないだろうしな……と、思っていると、ロクは思っても見ない事を言いだした。

 ――みんなつかさのことだいすきなら、じゅんばんにぎゅーしたらいいよ!

 ……と言うような事を。

「…………ん? ぎゅー?」
「キュー」
「えーっと、どういう事かな」

 ごめんねロク、今のはちょっと俺も理解出来なかったかな……。
 詳しく説明してくれるかな、と内心動揺しながら聞いてみると、ロクは次のような答えをテレパシーで説明してくれた。

 要するに、あの二人が俺を好きだからって事で喧嘩になるなら、俺が二人に平等にキスをしたり頬擦りしたりしてあげてという事らしい。
 俺がロクに一番に構っているから、あの二人がそう言う事に嫉妬しているのだとロクは思ったらしい。だから、ロクにしてる事を二人にも平等にやって、喧嘩をしないようにすれば良いと言うのがロクの考えだった。

 優しい。さすがロク優しい。あと考え方がめっちゃ可愛い。
 だけどねロク、それね、あの二人にやったら絶対ケツに悪戯されるから……。
 どう考えてもあの二人調子に乗るから……。

「ツカサ君置いてかないでよー!」
「ツカサ、一人で行ったら危ないぞ」

 やっと俺が居ない事に気付いたのか、オッサン二人が慌てて追いかけてくる。
 この方法もわりと有効かもしれないと思ったが、そう何度も使えないよな。
 しかし実際問題人前で喧嘩されたら困るし、ぎゅーじゃなくても何か対策を考えなきゃなあ……。

「ロクショウ君となに話してたの」
「お前らを仲良くさせる方法」
「……さーて、そろそろ次の休憩所が見えても良い頃だけどなー」
「逃げたなコンチクショウ」

 そんなに仲良くしたくないのか。
 いや、ブラックにしてみれば、二人っきりの時間が削られてるから怒ってるんだろうけど……なら、二人きりの時間を作ってやれば、ちょっとはクロウの事を許す気になれるのかな。クロウは自分の立ち位置に不満は無いみたいだし……ブラックの機嫌を直すためだ言えば協力してくれるかも。

 まあ、俺も一応、その……恋人だっていう自覚はあるんだし……だったら、自分からもっとガツンとやってやるのも、時には必要だよな、うん。そうだ、男ならやってやれだ!

「ん? ツカサ君、ちょっとアレみて」
「え、なに?」

 小さくガッツポーズをして気合を入れる俺の肩を叩き、ブラックが前を指さす。
 その方向を見ながら、クロウも鼻を動かしていた。
 なんだろうかと思い前方を見やると。

「…………ん?」

 前方には、昨日見たような休憩所の東屋がうっすらと見える。
 だがそこからは煙が上がっていて、明らかに人の気配が在った。
 ほう、先客が居るとは珍しい……と思ったのだが、俺はその煙が黒い事にやっと気付いて、顔を歪めた。

「あの煙って……ど、どう考えてもたき火じゃねーよな……」
「少なくとも、野焼きや煮炊きの煙じゃないのは確かだね」
「おい、油の臭いがするぞ。アレは生き物を焼いてるんじゃない……恐らく道具や金属を焼いた時の煙だ」

 普通のキャンプでそんな事をする訳がない。
 ってことは、絶対に非常事態だよなアレ。どっちにしろ不審火とかで周囲の畑に燃え移ったら大変だ。

「ブラック、クロウ、確かめに行くぞ!」

 取り越し苦労ならいいがと思いながら、俺は駆けだした。
 一瞬遅れたが、ブラックとクロウも俺の後に付いて来る。他人の事などどうでも良い人でなしコンビだが、もしもの時の為に頑張って貰わねば。

 水筒を取り出しすぐに水の曜術が出せるように準備しながら、俺は必死の走りで休息所に辿り着いた。と、そこには。

「……!?」

 休憩所を覆わんばかりの黒い煙に腰を抜かして……一人の男性が座っていた。










 
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