異世界日帰り漫遊記

御結頂戴

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港町ランティナ、恋も料理も命がけ編

  異世界の価値観が俺の価値観と違い過ぎる2

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 するとそこには、屈強でいかにも「海賊です」と言った出で立ちの男達が……って何か嫌な予感しかしないんですけど。
 しかも一人は海賊船長が良く被る凸っぽい形の帽子被ってるし、美形だし、何か鍛えた体しててエラそうだし……なんだよ、俺達何もしてないよぉ……。
 でも無視するわけには行かないんだよなあ。
 強制イベントほんと嫌い……うう……。

「……えーと、何か御用ですか」

 恐る恐る男達を見上げると、彼らは俺から視線を外して、オッサン二人を見ると下卑げびた表情でニヤッと笑った。

「お前ら、この前ウチの連中を可愛がってくれたらしいじゃねーか。だからよお、どんな奴らかと思って挨拶しに来たんだよ」

 その言葉に目を丸くする俺達に先んじて、ファラン師匠がバッと立ち上がった。

「こ、これは、ガーランド船長だったアルか……申し訳ないアル、専用の波止場をお持ちの方がこちらに来られると思ってなくて、最初よく似た方かと……」
「ハッハッハ、気にするこたぁねぇよ。それにしても……そろいも揃っていいツラしてんなァ。特に……そこの可愛い坊主」
「ハイ?」

 何、また罵倒タイムですか? 耳触りのいい言葉で俺を殴るタイムですか?
 無闇に刺激しない方が良いと解っているのに、思わず眉をしかめてしまった俺に、ガーランドは豪快に笑うとさらに俺を見つめて来た。

「黒髪琥珀眼の珍しいヒノワ人か。気は強そうだが、子猫みてぇな可愛い顔してんじゃねえか。それに料理も上手そうだな?」
「い、いえ、別に……それに俺、本当全てが人並みなんで……」

 なんでこの世界の奴らは歯の浮くような台詞せりふをさらっと言えるんだろうなと思いつつ、俺はあくまでも一般人ですと首を振った。
 だが、相手はそんな俺の主張を否定するかのように肩を揺らして笑う。

「ハッハッハ! バカ言うんじゃねぇ。こんな伊達男三人も捕まえて、その上お前はこの桟橋の男達の関心を引きっぱなしじゃねえか。しまいにゃ俺の部下までお前の事が気になってな、ここや冒険者ギルドに潜入する馬鹿が出て来る始末だ」
「…………それで、親玉が直々に品定めって訳かい?」

 サンドを食べ終わったブラックが、指を舐めながらゆっくりと立ち上がる。
 筋肉の量では負けているが、しかし長身ではブラックの方が数センチ勝っていていい勝負だ。
 剣呑けんのんなブラックの言葉に、ガーランドは挑戦的な笑みを浮かべて肩をすくめた。

「良い面構えだな、オッサン。お姫様の騎士か?」
「騎士なんて行儀の良いもん願い下げだね。僕は彼の恋人だけど何か?」

 冷たい嫌悪の目で相手を睨み付けるブラックに、ガーランドは一歩も引く様子はない。それどころか、へらへらした態度で言い返してきた。

「こんな枯れてそうなオッサンの相手とは、坊主も可哀想なモンだ。人の手下に手ェだして詫びもねぇわ、しつけの悪い獣人も飼ってるわ、こんな最悪のパーティーに居ちゃあ報われねえだろうなあ。お前らもそう思うだろ?」

 ガーランドが背後に居た手下達に言うと、全員が一斉に笑う。
 これには黙っていられなくて、俺やクロウも立ち上がった。
 こんちくしょう言いたい放題言いやがって。大体先に手を出してきたのはアンタの部下からなのに、一方的に愚弄ぐろうするとはいい度胸だ。

 一瞬にして空気が緊迫したものに変化したが、それでも豪胆そうなガーランドはこちらを見下したような顔で笑い続ける。

「怒ったら認めることになるぜ。自分がロクでもねぇ存在だってよ」
「……何が言いたい? 人を怒らせたいだけなら、さっさとそこから帰って貰いたいんだけどね。僕達は食事中なんだ、邪魔をしないでくれるかな」

 そう言いながらブラックが指さすのは、桟橋の下。つまり海だ。
 要するにブラックは「海に飛び込め」と言っているのである。
 ああもう、喧嘩を更に売ってどうすんのお前は。クロウも何か怒ってるし、師匠もイラッとしてるしぃい。

 俺だって怒ってるけど、ここで乱闘になったらと心配する気持ちも有って、怒りより心配の方が先に湧いて来てしまう。
 それに今更かも知れないけど、完全に目を付けられたら絶対に事態が悪化するじゃないか。これ以上面倒事はごめんだぞ俺は。

 ここはやっぱり、どうにかして穏便に帰って貰うしか……。

 しかしどうしたら良いんだろう。
 こんな荒くれ者の権化みたいな奴らを、どうやって追い返せば……と、俺が考えていたら、不意に大きな声が俺に降りかかってきた。

「というワケで、俺達が勝ったらその坊主を貰うぜ!」

 …………は?

「うぬぼれも大概たいがいにしてほしいねえ、僕に勝てると思ったら大間違いだ!」
「なんなら今ここで決着つけるか」
「私も微弱ながらお手伝いするアルヨ……」

 待って待って、俺が考えてる間に何があったの。
 俺、いつの間にか賭けの対象にされてるのに全然話に付いて行けないんだけど。
 あれ、俺もしかしてまた考えすぎて話流してたの!?

「海賊ってのは大口だけは一人前なんだねえ。……いいよ。そこまで言うんなら、かかってくればいいさ。船上で真っ先に海に突き落としてあげるよ」
「ガーランド、首を洗って待っていろ」

 お、おい、やめろって、人をそんな憎しみのこもった目で見るなって二人とも。
 海賊さん方もちょっと落ち着きましょうって……。

「ツカサと言ったな、待っていろ。すぐに俺達がさらいに来てやるからな!」

 ふえぇ人の表情見てらっしゃらないですーこの船長さんー。
 俺めっちゃ困った顔してるのに、なんでそう人の感情を無視して話を進められるのこの人達! っつーか帰るな!
 捨て台詞残してガハガハ笑いながら帰るな海賊どもー!!

「っていうか、これどういうことだよブラック! なんで俺が賭けられてんだ!」

 慌ててブラックにつっかかると、ブラックはキョトンとした顔でった。

「えっ、え!? 話聞いてなかったの?!」
「知らない間に話が進んでたんだよ! 説明しろっ」
「いや、まあ、簡単な話あいつらが突っかかって来たから、合法的にぶちのめす為に喧嘩を買っただけだよ。もちろん負けるつもりなんて無いから安心してね!」

 ばちこーんとばかりにウインクする無精髭腐れ中年に続き、クロウも無表情だが鼻息荒く俺に詰め寄って宣言してくる。

「あんな奴らすぐに蹴散らしてやる。ツカサ、大船に乗ったつもりでいろ」
「あ、あのねえアンタら……俺の人権は完全無視なの……?」

 勝つ自信があるから受けたってのは解るし、男としては理解出来るよ。
 だけどさ、俺が知らない内に俺を賭け事の賞品にしちゃうってどうなの。
 それって仲間が、恋人がする事なんですか……ううう……。

 とは言え、怒ったってもう遅いんだよなあ。聞いてなかった俺が悪いんだし。
 あああ、しかしどうしてこう、毎度毎度こんな事になるんだか……。

「とにかく、祭りの前に敵も私達を全力で潰しに来るって判明して良かったアルよ。これで心置きなく対策が取れるネ」
「対策ッスか……?」

 さきほど怒ってた割りには冷静な師匠は、まだ残っていたポテトをロクと仲良く食べながら、ガーランドの事を説明しだした。

「ガーランドは、典型的な悪い海賊ネ。だけど上手い事立ち回ってるからリリーネちゃんも騙されてるし、あいつらの悪事は、迷惑を被ってる冒険者や港には近寄れない気弱な人しか知らないアルヨ。その上乱暴なワリには証拠を残さない狡賢ずるがしこさが有るから、街では鼻つまみモノネ」
「あいつら、そんな奴らだったんですか……」

 まあ、典型的な悪役っぽいなってのは俺も思ってたけど、まさかそこまでとは。
 話を聞く限りでは、立ち回りが上手い狡猾さってのでシムラーを思い出すが……あんな風に泣かされている人達がこの街にも居るんだろうか。
 だったらなんか許せないぞ。

 思わず不機嫌な顔になる俺に、もっともだと言うように師匠は頷く。

「良い海賊だったら、熊さんにイチャモンつけたりしないネ! ……けど、今回の祭りで私達に嫌がらせをしてくると解ったら、これは逆に良い機会アルヨ。私らへの嫌がらせが大勢の人間の前でバレたら、審査員のリリーネちゃんも黙ってないしガーランドも知らぬ存ぜぬじゃいられないネ! ツカサ君には悪いけど、でもこれは千載一遇の機会アル……この街の冒険者や住民の為に、どうにか堪えて貰えないアルか……?」

 ファランさんが賭けを止めなかったのはそう言う理由だったのか。
 ギルドに迷惑をかける人間を許しちゃ置けないから、俺を賞品にした賭けに嬉々として乗ってしまった……と。なるほどなあ、解る解る。
 どうせ優勝するつもりなんだし、些細ささいな障害だよね。そのうえ、リリーネさんに良い所を見せられるついでに敵も一網打尽に出来るんだから、まさに一石二鳥っていうかー……

「って納得できるかぁああああああ!!」

 ふざけんなの五文字を背後で燃やしながら、俺は目の前にいた大人三人を一斉にビンタした。そりゃもう、勢いよく。
 思っても見なかったその衝撃に、弱い力だったろうにブラック達はドミノのように全員で同じ方向へと倒れた。しかし俺の怒りは収まらない。

「そもそもあいつら最初から敵意剥き出しだっただろうが、そんなんだったら当日に絶対嫌がらせしてくるのも解るだろうがあああ。なんでそこに『俺が賞品』とかいう面倒くさい項目足してんだよ完全に蛇足じゃねーか!」
「だ、だってムカついたんだもん! だから、大きい事をほざかせてから完膚かんぷなきまでに勝ってやって、思う存分バカにしたかったんだもん!」
「性格りーなこんちくしょう!」

 今更だけど、このオッサン本当に救えねぇ。
 自分が気持ちよくなる為なら俺すらも守らずチラつかせるんだなと思ったが……まあ、それがブラックらしくも有る訳で。
 …………本当に厄介で面倒くさい相手の恋人になったもんだと思いながら、俺は諦めるようにでっかい溜息を一つぶちかましたのだった。








 
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