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港町ランティナ、恋も料理も命がけ編
13.心配性なヤンデレ彼氏への対処法
しおりを挟む※な、なにも進んでません、イチャイチャしてるだけです…_(:3 」∠)_ スミマセ…
なし崩しで賞品になってしまった俺だが、それでもやる事はやらねばなるまい。
俺もパーティー……いや、今はチームか。俺は「リリーネさんにファラン師匠の愛を届け賞金を貰うチーム」の一員である。
俺の役割が料理だけだからとは言え、俺だけ宿に閉じこもってる訳にもいかないだろう。祭りで使う小舟の補修に、船上格闘大会での役割分担と作戦、それに……クジラ島での、食材を効率的に採取するための予行演習。やる事は沢山あるのだ。
美食競争は、クジラ島に到着して食材を採取する所から競争が始まる。
この競技も普通の料理対決ではなく、あくまでもトライアスロンの一部だ。ただ料理するだけではなく、速度と実力が要求されるのである。
なにしろ、審査員は参加チーム全員の料理を食べ比べるのだ。料理を出す順番は早い方が良いに決まっている。例え美味しい料理だろうと、満腹では腹の中には入って行かなくなるものだ。人間の胃袋ってのは、そんなに耐久性のあるもんじゃない。こちらも結局は「早い者勝ち」な競技なのだ。
そのため、参加者は食材を採取したり、予行演習で時間を測る為にこのクジラ島に連日訪れおり、もちろん俺もその中に混ざってこの島にやって来たのだが……。
「実際、俺の料理ってそんなに材料使わねーんだよなあ……」
魚と粉と調味料とイモ。そのくらいの物で、俺が採取するシダレイモも、あまり人気がない食材なので刈り尽くされるという事が無い。
魚なんて、不人気も不人気。川に近付く奴がいても、小蟹を取るか水を汲む程度で誰も川の中の生き物に見向きもしていない。
ちなみに俺は朝から島に来て他の参加者の動向を探っていたが、イモも川魚も俺以外が採取するような気配は微塵も無かった。
…………そんなに嫌われてますか、どっちも。
祭りが近い事も有ってか、クジラ島には今大勢の冒険者や海賊が集まっているんだが、まさかこんなに不人気とはなあ……。
「イモを食べる地域は北の国だけって聞いた事が有るし、魚もめっちゃ嫌われてるとは聞いていたけど……これほどとはなぁ……」
まあこの辺の海賊は島が散らばる西方にばかり船を出すので、それならばイモを食べると言う習慣もないだろうけどさあ。
ここまで人気がないと悲しくなってきたわ。別に魚もイモも特に好きってワケじゃ無かったけど……いやまあ、乱獲されるよりはいいのか?
「しかしなあ、美味しい物を共有できないと言うのはなんか悲しいというか……」
「ツカサくーん、こんな所に居たの! 一人で歩いちゃ駄目だって言ったでしょ」
聞き慣れた声が聞こえてふと海の方を見ると、俺が居る川原の方へと走ってくる姿が見えた。あの赤い髪はブラックだな。
確か、クジラ島周辺で練習してたはずだけど……クロウと師匠はどこだろう。
こっちに来て貰うのもなんだったので、俺の方からも近寄って川の中程で落ち合った。数時間ぶりだなと思って相手を見上げると、何よりも先に髪が乱れまくっているのが目に入ってしまって、俺は思わず顔を歪めた。
うわー、また潮風で余計にもじゃもじゃになってる……これはひどい……。
「川の奥まで行ったら海から見えなくなるから、あんまり奥に言っちゃだめだよって言ったじゃないか」
「あーっと……ごめんごめん。他の奴らの食材とかを見ておきたくってさ……それよりお前、髪の毛ひっでーぞ。直すからちょっと屈んで」
「ん? う、うん」
みっともなくて、絡みに絡みまくった赤毛を引っ張らないよう解してやる。
潮風に少し痛んだのか、髪は滑らかさを失っていて少々ごわついていた。昨日も思ったけど、ブラックの赤毛ってわりと潮風に弱いっぽい。
「アンタ昨日ちゃんと頭洗ったか?」
「えーっと……あ、あはは」
「潮風に当たったら、水でも良いからちゃんと髪を濯げよな。そうしないと、髪が痛んでこのままモジャモジャ頭になっちまうぞ」
折角の美髪なんだから、せめて髪だけでも格好良くしてて欲しいんだがなあ。
毛先でしつこく絡み合っている部分をゆっくり梳いて取り去ると、俺は「終わったぞ」と言う合図で頭をぽんぽんと叩いた。
「はいオシマイ。今日はちゃんと丁寧に髪を洗えよ」
「えへへ……やっぱりツカサ君は最高だなあ……」
「何言ってんだか……。で、他の二人は?」
でれでれしてるブラックをしゃんと立たせながら質問すると、ブラックは海の方を振り返りながら答えた。
「ファランは船の番をしてるんじゃないかな。熊は泳ぎの練習してると思う」
「泳ぎの練習?」
「犬かきしか出来ないから、潜水を覚えたりしたいらしい。僕もアイツが何考えてんのか良く解らないけど、まあ、いいんじゃないかな! 僕達と関係ないし!」
「勝ち誇ったように俺の肩を抱くな」
このオッサン、分かりやすすぎる。
まあクロウの興味が他に逸れたのは俺もありがたいけど、しかしなんで潜水なんだろうな。海に来て楽しさを知ったからとか?
なんにせよ健全で微笑ましいことだ。
そういう素直な部分がクロウの良い所だよなあ。
「それよりツカサ君、もう一人で人気のない所に行っちゃあ駄目だよ。また誰かに攫われたら、今度こそ僕ソイツ殺しちゃうかもしれないからね」
「いま凄い脅し文句言われた気がする」
「茶化さないでよ。だってほら、森の中とか見てよ……さっきからずっとツカサ君を見てる奴らが居るんだよ」
「は?!」
えっ!? き、気付かなかったんですけど!
言われて咄嗟に森の方を向くと、確かに人影のようなものが何人も見えた。
しかも、その半数は俺に気付かれた瞬間に森の中に走り去り、もう半数はわざと俺にアピールするかのように出て来て、にこやかに手を振って来る。
「…………人が多いから、あいつらも滅多な事はしてこなかったみたいだけど……今度何かあったら、僕、迷いなく相手を殺すよ」
「ちょっと、ブラック」
「だって、ツカサ君はもう僕の恋人なんだよ? 僕の物なんだよ? こんなに見せつけて牽制してやってるのに、それでも向かってくる奴なんて、殺されても良いって言ってるのと同じだよね? じゃあ、僕は迷いなく殺すよ。だって、またツカサ君を攫われたら我慢出来ないから。……だから、一緒に居てね、ツカサ君」
「…………」
やばい……いつのまにかヤンデレモードだ……。
顔に邪悪な影が掛かってて、菫色の瞳がギラギラとした光を湛えながら俺をじっと見つめている。最近穏やかだったから気にしてなかったけど、そう言えばこいつ基本的に「敵は殺す」って考えてる奴だった……。
最近は普通に人と触れ合うことが多くて、ナンパとかはあっても実害はなかったから忘れてたけど……俺がクロウに強姦されかけた時もこんなだったな。
あかん、忘れてた。普通の恋人同士って所にこだわり過ぎてて、ブラックが元々激昂し易くてすぐにヤンデレになるオッサンだったってのを失念してたわ。
それに今は、ブラックの苛つきを倍増させるクロウがいる。
これは非常にヤバい。
侮れない恋敵が登場したうえに、物珍しさに寄って来る迷惑な奴らもいるとなると、ブラックがいくら我慢しようと頑張っても多分…………。
「ツカサ君?」
「い、いや、なんでもない……」
とにかく、クロウがいる間はコイツと離れちゃいけないな……。
まだ顔が悪役みたいに険しくなっている相手を見上げて、俺は少し迷ったが――もうこの際仕方がないと思い、ブラックの手をぎこちなく握った。
「あっ……!」
「…………一人で出歩いて、悪かったよ。こ……こうしてりゃ、いいんだろ?」
「……うん……!」
途端に蕩けた嬉しそうな笑顔になる相手に、俺は不満げな顔をして睨んだ。
バカ、今日だけ特別なんだからな。
お前が暴走しないように自重するのも、俺の役目だ。俺自身の不注意でとんでもない事になったら嫌だから、恥を忍んで今こうしてるだけなんだからな。
そんな事をごにょごにょと愚痴のように吐き捨てたが、もう機嫌が直ってしまった相手はニコニコと笑いながら頷くだけだった。
ああもう、扱いやすいんだか扱いにくいんだかこのオッサンは。
「早く船の所まで連れてけよ」
「えへへ……解ってる解ってる」
すっごく認めたくないけど、こんなこと人には言えないけど……。
こういうだらしないコイツの顔は……嫌いじゃない。
少なくとも、さっきみたいな人を心底憎むような顔よりずっとマシだ。
…………怒った顔より、そっちの顔のほうが見たいから手を繋いだ。
なんて本音を言ったら、こいつは喜んでくれるんだろうか。
……もちろん、言える訳がないけどな。
「……自白剤とか使わない限り言えそうにないなあ」
「ん? ツカサ君何か言った?」
「なんでもない。いいから歩けっつの」
川原は石がゴロゴロしてて歩きにくいんだから、ちゃんと俺を案内しろよ。
そう言うと、ブラックは心底嬉しそうに微笑んで頷いた。
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