異世界日帰り漫遊記

御結頂戴

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アコール卿国、波瀾万丈人助け編

17.俺SUGEEEなので睡眠薬を作りました

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 ヘクトの街の薬屋は、ギルドの近くにある。
 この街は冒険者向けの商売に力を入れているらしく、旅人が立ち寄るような店はみんなギルドの周辺に作られていた。
 色々とのぞいてみたい所だったが、まずは薬屋だ。
 俺はこじんまりとした薬屋を見つけ、ドアベルを鳴らした。

「はい、いらっしゃい」

 所狭しと並んだ棚には、色とりどりの薬や薬草が並んでいる。
 それをきょろきょろと見回しながら、俺はカウンターに座っている緑髪の青年に近付いた。先程挨拶をしたのは多分この人……だよな。

「あのー、すみません。回復薬の鑑定とかって出来ますか? 出来たら、買い取って欲しい回復薬が有るんですが」
「ええ、出来ますよ。俺がやりましょう」
「お、お兄さんが鑑定してくれるんスか」
「そうですよ。ああ、若くてびっくりした? ちゃんと鑑定は出来るので安心して下さいよ。で、回復薬は?」
「あ、これです」

 まとまった数を渡すと、店主はその場で回復薬を光に翳して観察し始めた。
 観察していると、彼の体が僅かに光を纏っているのに気付く。曜気か気を使って鑑定しているのかな。ってことは、鑑定も査術と同じなのか?
 店主にそれを聞いてみると、大体こんな感じの返事が返ってきた。

 鑑定は、この世界では査術さじゅつの一種とされている。
 査術は通常索敵サーチとか相手の能力を調べるものだけど、アイテムの状態を探る勉強をすれば、真贋を判断できるようになる【鑑定】や、純度や毒性を調べる【照合】が使えるようになるらしい。
 これがいわゆる【物体特化】の査術だ。俺がブラックに勧められたヤツだな。

 でも、両方ともそこそこ勉強がいるから、普通の査術に比べて鑑定とかを使える人は少ないんだとか。勉強かあー……俺勉強苦手なんだよなあ……。
 査術は使えるようになりたいけど、俺にできるかなあ。

 色々不安になりつつ待っていると、何やら店主が驚いたような声を出した。

「これは……素晴らしい純度の回復薬だ……! き、君、これはどこで?」

 ……なんかこの流れ、面倒なことになりそうだな。
 自家製ってことは黙って置こう。

「えーと……偶然大量に手に入れたので……」
「そうか……惜しいなあ、これ程純度の高い回復薬を作れる薬師は珍しいんだよ。出来れば紹介してほしかったが……まあ、偶然なら仕方ないか」

 え、マジ? 俺の作った薬ってそんなに凄かったの?
 回復薬なんてみんなぺかぺか光るから、イマイチ実感湧かなかったわ。
 あれ、じゃあ、みんなが褒めてくれたのってまんざら嘘でもなかったのか?

「あ、あはは……で、どうです? なにか変なモノとかありました?」
「いや、全然。毒性はないし純度も最高級だ。恐らく回復量も普通の薬の倍以上はあるはず。これは本当に、どこに出しても恥ずかしくない回復薬だよ。買い取りなら、400ケルブ払うけど……どうだい?」
「えっ、相場の二倍じゃないっすか。いいんですか?」
「ああ。こいつはお得意様に売るには打ってつけだからな」

 ひえー。俺の薬マジですげえ。
 てか、回復量が倍以上って一体何の追加スキルが付いてるんだろう。
 こういう時にステータス画面とか見られたら簡単なんだけどなあ。うーん、本当面倒くさい世界だ。でもまあ、とりあえず俺の回復薬は信用できるって事だよな。
 ここに来てやっと安心出来たよ。もっと早くにこの方法を知ってればラクシズで教えて貰ってたんだが、まあそれは言いっこなしだ。

 回復薬は数個買い取ってもらい、次に俺は自家製の精力増強剤も調べて貰う事にした。こっちは材料に使ったドラゴウムの品質に不安が有って、結局誰にも使わせないまま放置してたんだよな。
 手渡すと、店主は薬を見た途端に目を丸くしてまた俺に向き直った。

 やっぱりこっちも「普通の数倍効く」との事らしくて、これはよっぽどの不能に飲ませるかしないと、健康な人間には逆にキツいと言われてしまった。
 それでも金貨一枚で二つとも買い取ってくれたけど、えーっとあの……これも、もしかして俺の知られざるチート機能で強化されたんじゃないよな?
 一生懸命頑張って作ったから、正直これはチートじゃない方が嬉しいんだが。

「しかし君、凄い薬ばかり持ってるな。実は目利きの才能があるんじゃないか? 今度この街に来た時も、是非また薬を持ってきてくれよ」
「そ、そうっすか? えへへ……あ、そうそう店主さん。この店に【ネムリタケ】とえーっと……ふぁるなんたら……」
「ああ【ファルシュバレリー】かい。有るよ。眠り薬か何か作るのか?」
「ええ、そんなとこっす」
「そうか……でも、あんまりオススメしないなあ。調合は木の曜術師じゃなけりゃ九割失敗するし、素人が改良なんてやろうとしたら酷い事になるからね」

 うーん、確かに。
 俺も回復薬で色々やったけど、未だにうまい事改良できてないんだよな。
 あれだけは木の曜術師だからとかいう問題じゃないと思う。
 やっぱちゃんと勉強しないとだめなのかな。

「薬の改良って、出来た人いるんですか?」
「さてなあ……まあでも、神族なら出来るかもな。言い伝えみたいな話だから信用できないけど、神族は昔、回復薬を改良した【ネクタル】って薬を作ったって話がある。だから、彼らなら改良の仕方を知ってるんじゃないのか? 神族は神様の子だし、人族よりうまく曜術を扱えて知恵もあるからな」
「なるほど……」

 ってことは、現状俺には改良は無理ってことか。
 普通の薬師でも改良してないって感じの喋り方だし、薬を改良するには何か特別な手順がいるのかも。神族ってことは……シアンさんに聞いたら何かわかるかな。ダメもとで聞いてみるか。
 うむ、有意義な事がきけたな。

 俺は店主のお兄さんに礼を言うと、ネムリタケとファルシュバレリーを買って店を出た。銀貨十枚使ってしまったが、まあ仕方ない。安全のためだ。
 ネムリタケは森を歩けば見つけられるけど、ファルシュバレリーって言う草は東の温暖な地域にしか咲かないからな。こっちじゃまず採取出来ないのだ。
 しかも、眠り薬は作るのがちょっと面倒くさい。
 他の買い物は後にして、早めに帰って早速薬を作るか。

 俺は宿に帰って早速薬を調合してみることにした。

「えーっと……睡眠薬の作り方はっと」


【睡眠薬(別名:眠り薬)】
 ネムリタケ:一個/ファルシュバレリー:十枚
 水:小瓶二杯分/好みで香り付けの香草:適量

 ネムリタケのカサを細かく切り、形が無くなるまですり潰す。
 (ネムリタケは乾燥した物でも良いが、その場合水を含ませる事)
 すり潰したネムリタケは水に浸して置き、半刻ほど待つ。
 ファルシュバレリーは軽く表面を焼き、蒸留して精油を作る。
 この精油は小瓶に二三滴溜まる程度に抑えること。
 水に浸したネムリタケは布で濾し、成分だけを取り出す。
 これを精油と混ぜ、その中に香り付けの香草を入れる。
 (香草は無くても問題はないが、価格は一段下がる)
 完全な液体である事を確かめた後水を加えて半刻置き、
 液体が薄い青色になれば完成。
 寝かせなかった場合、効果が極端に薄くなるので注意。

                       【一般薬品調合辞典】


 なにが面倒くさいかって言うと、蒸留して精油を作るって部分だ。
 蒸留ってのはちゃんとするとなると専用の器具が必要だし、簡単にやるとしても時間と手間がかかる。王宮仕えとか儲かってる薬師は楽に蒸留出来る器具を持ってるらしいけど、俺は冒険者だから買えない。高いしかさばるし。

 なので、宿屋に滞在している間でもないと作れないのだ。
 幸い、簡単な蒸留の方法は本に載ってたのでやってみる。流石に婆ちゃんも蒸留して何か作るみたいな事はしなかったからありがてえ。

「えーと、沸騰した水で蒸して上がってきた蒸気を冷やす……氷がないな」

 キョロキョロと周囲を確認して、部屋のカーテンを閉める。
 何をしようとしてるかっていうと……まあお察し。
 あんまり使わなさ過ぎて忘れ去られつつある、俺の不名誉な称号・黒曜こくようの使者の固有スキル……【創造】の術で、水を出して冷やそうと思っていたのだ。
 水を出すくらいならゴシキで何度かやったし、変な事にはならないだろう。
 いやしかし、あの時は暴発とかしなくて良かったな本当。

「えーと……出来るだけ穏やかに、小さいイメージで……」

 にわか仕込みで作った蒸留装置で薬草を蒸しながら、俺は水の玉を出す。
 蒸気を受け止める部分を水の玉で包んで冷やそうと思ったのだが、思ったより蒸気は熱いのか水がなんだか温まった感覚がする。
 うーん、容器を包んだ水をくるくる回してみてもあまり冷えた感じはしない。

 四苦八苦しながら水を操っていると、その内に俺は有る事に気付いた。
 自分の創造した術であれば、俺は自在に水を消したり温度を変えられるのだ。
 まあ、俺自身が曜気を作って発動する魔法なんだから、それくらい当然だよな。寧ろ今まで思い至らなかった事に……まあいい。必要以上に落ち込むのはやめよ。

 とにかく、俺はキンキンに冷えた水を思い浮かべて容器を水で包んだ。
 すると、今度は上手くいったのか、水は温まる感覚もなく動いてくれる。
 結構体力を使ったけど、比較的早く精油を取り出す事が出来た。
 精油って作った事なかったけど、こんな早く出来る物なのかな。やっぱしこれもファンタジー補正? まあいい、次だ次。

「どっちの液体も匂いは無いな。えーっと、これで混ぜて……半刻置いておく……って半刻ってわかんねーよ。三十分くらい?」

 この世界って塔からの鐘の音で時間を知らせるんだけど、それって一時間の間隔っぽいんだよな……。砂時計とかあったら良かったかな?
 でも道具屋には売ってないんだよな。
 計測の道具だから、もしかしたら専門店とかにしか売ってないのかも。
 仕方がないので、次の鐘の音が聞こえるまで置いておく。

 これで、小瓶に詰めれば完成だけど……どうなってるかな。
 ちらっと液体を見ると、どうやら薄い青色に染まっているようだ。うまく出来たかどうかは解らないが、とにかく形だけは完成かな。

 でも使うのはちょっと怖いので、次の街で薬屋さんに鑑定して貰おう。
 大丈夫そうだったらブラックのメシに薬を盛ってみるか。……まあ、それまでに三回の約束が全部果たされてなかったら……だが。

「うーん……すぐにでも確かめたいが、薬屋さんに持ってくと俺が回復薬作ったってバレそうだし……。危ない橋は渡らないのが吉だな」

 ……ん、待てよ? この流れ見た事有るな。
 もしかして今の俺って、まさしくチート主人公って感じじゃないか?
 と言う事はあれが言える! やっとあれが言えるぞ!

「辛いわー、俺ってば超使える薬作れちゃって辛いわ~。凄い薬作れるってバレると騒ぎになっちゃうから隠さないといけないの辛いわ~……なんちゃって。うっはキタコレ! いやー、俺もやっと主人公っぽくなってきたかな!?」

 やばい、めっちゃ嬉しい。
 今までって、能力的に偉ぶって良いものか解らない物ばっかだったから、素直に自分の功績を誇れなかったんだよなあ。でも、少なくとも俺には薬を調合する才能が有る。ってことは薬師の資格も軽々取れちゃうかもしれない。
 ま、俺が主人公かどうかはさておいて、これぞやっと異世界転移の王道って感じだよな! 俺にも秘めたる凄い力が眠っていたのだ……っていうね!

 でも黒曜の使者の【創造】の力は、まだ保留な。
 ちょっと使う程度には便利だけど、それ以上は怖くて出来ないし。
 どの程度使っていいかも解らない得体のしれない力なんて誇れるかっつーの。
 俺小市民よ。寧ろパスパス。

「でも……何の力も使ってないのに、なんで効果の高い薬を作れたんだろ? ……もしかして、他の奴はちゃんと作ってない……とか?」

 木の曜術師は職業補正があるから、どんな作り方をしようがそれなりの薬が出来るってのは何となく予想してたけど……まさかな。
 とりあえず、俺はちゃんとした薬が作れるって事で置いとこう。

「……にしても、ロク起きないな。アイツ変な術掛けてないだろうなあ?」

 数時間経ってるけど、未だに起きない。
 気持ちよさそうに眠ってるからいいけど、具合悪くさせたりしないだろうな。
 アイツの使う術ってフレイムくらいしかまだちゃんと見た事ないし、図書館のある街に行ったら曜術の種類を調べなきゃな。幾らなんでもここまで起きないとちょっと怖い。変な副作用が有ったらマジで怒るぞ。

 そう心配しつつ、ロクの寝顔を見つめていると。

「ツカサ君、ただいま!」

 くだんの中年の声がして、ドアが開いた。
 コンチクショウ、一発罵声を浴びせてやる、と……振り返ったのだが。

「……あんた、なにニコニコしてんの……?」

 入って来るなり満面の笑みを見せるブラックに、面食らってしまった。
 なんだこいつ。外で良い事でもあったのか?
 にしては、別に何も買って来てないみたいだけど……。
 思わずブラックの顔を見ると、相手は人懐っこい笑みのまま俺にこう言った。

「ツカサ君、これから食事に行こう!」

 うん。……うん?
 それって、今更言う事か?










 
※次は22時更新です。つまりエロ(直球)
 やっとまともなデートしよるでこいつら(´・ω・`)
 
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