異世界日帰り漫遊記

御結頂戴

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アコール卿国、波瀾万丈人助け編

16.え?犯りたい?その前に所持品確認しようぜ!

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 セーナスから出て南の方へ行けば、【ヘクト】という街が有る。
 ヘクトまでの所要時間は徒歩なら五日、馬車では二日だ。
 少しリッチになった俺達は当然乗り合い馬車を使い、大いに時間を短縮したのだが……その間、必死に発情中年をいなした俺を誰か褒めて欲しい。

 丸二日、ずーっと隣に引っ付かれた上に、ブツブツとんでもない事を呟かれて、それを必死で宥めた俺は偉いのではないだろうか。
 危ないオッサンを宥めた功績で、金一封ぐらい出てもいいのではないだろうか。
 とにかく本当、ブラックの荒みようはハンパじゃなかった。

 セーナスに着いたら犯すと豪語していたくらいの心意気だったせいか、ブラックは相当色々と溜まっているようで、所構わず抱き着いてきたりキスしろとせがんで来ようとしたのだ。当然、公衆の面前なので俺は「言わせねえよ」とばかりに拒否しまくったのだが、それも逆効果だったらしく。

 セーナスより二回りほど小さな街であるヘクトに到着する頃には、ブラックは目の下に隈を付けてより一層人相が悪くなっていた。
 うねった長髪で無精髭で目つきが悪いって、どう考えてもアニメとかで良く見る悪役伯爵じゃねーか。ヤバいぞこれは。

「ブラック、ほら、ヘクトに着いたぞ」
「……ツカサ君」
「な……なんだ?」
「宿に……いこうか……」

 ヒッ。ちょ、ちょっと待て。
 目がわってるっ、てかいつの間にか腕掴まれてる!!

「おおおおおいおいおい待てっ、待てったら!」
「一週間くらい待ったんだからもういいよね? 僕腐食の森でめいっぱい頑張ったよね? だからもういいと思うんだ約束果たして貰ってもいいと思うんだ!」
「いきなり荒ぶるのやめてぇええ」

 引っ張る力が強くてどうにもならない。
 必死に踏ん張ってみたがそんな事で止まる中年なら苦労してない訳で、俺はあれよあれよと言う間に安宿に前払いで連れ込まれてしまった。
 おいテメェ余裕ないクセして宿屋しっかりチェックしてやがって!
 バカ! バカ! このむっつりスケベ!!

「さあツカサ君、一回目の約束……果たして貰おうじゃないか」

 乱暴にベッドに投げられて、俺は固い布の上でわずかに跳ねる。
 うげ、やばい。こ、こ、このままだとまた足腰立たなくなる。回復薬をケツに流し込まれてしまう。回復薬が無駄になるぞ。それだけは避けたい。
 ドービエル爺ちゃんに使ったせいでわりとストックが心許なくなってきてるし、第一これ売りもんだし。せ、せめて売却して新しいの作ってからにしてえ。

「ツカサ君……」

 マントをガチャガチャと外して、ブラックが荒い息遣いをしながら迫ってくる。
 うわ真正面からがっつり見たら怖いこの人! 目ぇ据わってんですけど!!
 思わず青ざめてベッドの上で後退るがもう後がない。低くて耳に残る声でずっと俺の名を呼んでくるブラックは、ついにベッドへと上がって来た。
 うわ、うわ、待って待って待って!

「ぶ、ぶ、ぶらっ、ブラック待てって! ロクがいるだろっ、昼間だろ!」
「ロクショウ君はとっくに寝かせてるからいいでしょ。それに昼間だろうが夜だろうがヤる奴はヤるさ。寧ろ今の方が宿に人が少なくていいんじゃないの」

 ふええ……仰る通りですぅ……。っていうかいつの間にロクにまた睡眠の術かけたんだよ。てかあれマジで睡眠の術なんだろうな、今更心配になって来たぞ。
 いや、そうじゃない。現実逃避するな俺。

「さて、何をしようかな……」

 舌なめずりをして、四つん這いで近寄ってくる凄味のある顔。
 なまじ整った顔立ちなだけに、ブラックがそういう怖い顔をするとゾクリと来てしまう。だけどこれは悪寒の方のゾクリだ。昼間っからこんなムサい中年に大興奮されて、青ざめない人は正直どうかしていると思う。
 俺ら恋人じゃねーんだってば。旅の仲間なんだってば。
 ってああもうこのオッサン間近に来てやがるしぃいい。

「そうだ、ツカサ君がどこまで正気を保ってられるか試してみようか」
「ふぇ?」
「今から次の朝までずーっと抱いて、どの程度までなら大丈夫なのかを試すんだ。そしたら、次にこうする時も、一度にどこまでやっていいか解るでしょ?」
「そ……それ、どういう風に確かめるんだよ」

 恐る恐る訊いた俺に、ブラックはニヤリと笑った。

「決まってるじゃないか。抜かずにずっと突き上げて、泣いて喚いても愛撫を止めないで、ずっとずっとずっとベッドの上で君を可愛がってあげるんだよ……。何度気絶しても、無理矢理に起こして……ね?」

 うわあ。
 ようするに、おかしころすって、やつかなあ?

 ……一瞬自分の頭がバカになったのは、現実逃避の極致ゆえか。
 それでも俺は必死に理性を取り戻し、衝撃的な発言をまるで睦言の様に囁いた相手に必死になって首を振った。こ、このまま犯られてたまるか。

「だ、だめ、だめだめ駄目だって、そんな事されたら俺狂っちゃうってば!!」
「大丈夫だよ、薬でも使わなきゃ精神まで狂う事なんてないから」
「この世界にもヤバい薬あるんかい! いやそうじゃなく、あ、あのっ、俺三回目なんだけど! 挿れられるの三回目なんだけど!!」
「それがどうしたの」
「俺まだ初心者だしっ、そっ、そういう事するのってちゃんとしたセックスした後だと思うんだけど!?」

 と、俺が叫ぶと。
 ブラックが虚を突かれたような顔をした。

「…………ちゃんとしたセックス?」
「あっ」

 やべ、セックスとか言っちゃった凄い恥ずかしい。
 いやでもそんな場合じゃない。これはチャンスだ。
 こうなったら、この線からブラックを納得させる落ち処に持っていくしかない。
 俺は激しく脈打つ心臓を押さえつつ、必死に冷静さを保ちながら問いかけた

「あ、あの……セックスって解るか」
「初めて聞く言葉だけど……ツカサ君の世界でのまぐわいの言い方?」
「ま、まぐわ……いや、うん……ていうか、俺の国では一般的ってだけだけど……とにかく、お、俺はだな、お前に掘られるまではこんな事しなかったんだよ」

 おいコラおっさん、ニヤニヤすんな。「僕が初めての相手なんだぁ」って悦に浸るな。そういう話じゃねーんだよ。
 てか俺には不名誉な事なんだからそこに食いつくな。
 若干イラッとしつつも、俺は話を続ける。

「俺の国では、二次元はともかく現実ではちゃんとした手順があんだよ。二人とも衣服を脱いで、合意の上で、ちゃんと相手を気遣いつつヤるの。それが最初なの。道具も薬も一切ナシなの!!」
「えー。なんか子供のまぐわいみたい」
「だー畜生っ百戦錬磨のお前にいわせりゃそうだろうけどな!! でもそれが一番最初にやるヤツなの! 初々しいの!! お前みたいに俺の意思に構わずガツガツ掘りまくるワイルドドリラーな事しねーんだよ! 新婚夫婦が初夜にこんな事やってたらドンビキだわ!!」

 二次元だったら即落ちアヘ顔ダブルピースでもいいんですけど、俺は現実だからね! 俺はそれを見たい方で実践したい方じゃないからね!!
 そんな思いを込めた俺の必死な訴えに、ブラックはきょとんとしたムカつく顔をしていたが、やがて何かを考えるように空を見た。

「初々しく、付き合ってる二人は初夜に服を脱いで…………ふうん、そっか。普通はどっちも服を脱ぐのか。恋人たちはそれが当たり前なんだねえ」
「…………そ、ソウダヨ」

 もしかしてコイツ、今まで自分だけ服を着たままとかが多かったの……?
 そりゃ娼姫のお姉さんも怒るよな、娼館でもお互い服を脱いで合意の上でするって言うのが普通だって女将さんが言ってたし。
 あれ、でも、そうなるとこの世界でもそれが普通な訳で、って事は……。
 ブラックって、実は……誰とも付き合ったことが、ない……?

「あの……ブラック」
「そっかそっか。恋人だもんね、そうだよねえ! 思いつかなかったなあ~、そうかぁ、意外と興奮するかも……夜に儀礼に則ってまぐ……セックスかあ」
「言い直さないでそこ!! 覚えないで!!」
「じゃあ、楽しみは今夜に取って置こうかな」
「えっ」

 何その変わり身の早さ。
 俺がポカンとしているのに、ブラックは妙に嬉しそうに笑いながらベッドから退く。そうして、何やら用意をし始めた。え、なに、外に行くの?
 今までハァハァ言ってたくせに、その興奮はどこに行ったんだ。

「ちょ、ど、どうした」
「初夜のために色々と用意してくるよ。ああそうだ、今夜はちゃんとした所で食事をしようね、ツカサ君。夕方には帰ってくるから、ちゃんと宿にいてね」
「わ……わかりました……」

 俺の返事を聞くと、ブラックはさっさと外に出て行ってしまった。
 後に取り残された俺は暫し呆けていたが……すやすやと眠っているロクの寝息に我を取り戻すと、ゆっくりベッドから降りた。
 そして、改めてロクをベッドに寝かせてやる。

「何だか良く解らないが、助かった……」

 思わずホッとするが、まあ、今夜は地獄だろうな。
 でも先程のように酷くはされないと言う確信も有ってか、気持ちは楽だった。
 ……楽だったって言えるほど慣れて来てる自分が嫌なんだけども。

 まあいい。おぞましい約束はあと二回も残ってるんだ。
 慣れなきゃやってられない。憂鬱だけど頑張ろう。

「……ええと……じゃあ、とりあえず所持品の整理でもして、薬を売りに行くか」

 兎にも角にも、先だつものはお金だ。
 あと、この間になんとか金を工面して睡眠薬の材料を揃えておきたい。

 ふふふ、移動時間の丸二日、無駄に過ごしたわけじゃないんだぜ。
 移動の間も俺はブラックの隙をついてせっせと調べ、ついに睡眠薬の調合法を見つけたのだ。材料は中々手に入りにくい物みたいだが、薬屋か材料を取り扱ってる場所に行けば多分おいてあるだろう。
 その金を工面するためにも、回復薬を無駄に使う訳にはいかなかったのだ。
 しかし、俺って今、何をどのくらい持ってるんだろう。
 ちょっと確認してみるか。

「俺が持っているものは……これで全部かな」

 リュックやスクナビ・ナッツの中から取り出したのは、以下の通り。

 ・蜂蜜瓶(中)×19
 ・溶解液(大)×2
 ・蜂蜜漬け(中)×5
 ・自家製回復薬(中)×17
 ・自家製精力増強剤(中)×2
 ・ハチミツトリートメントの小瓶×20
 ・空の瓶(合計)×63

 他、地図や器具、寝袋、そしてペコリアとドービエル爺ちゃんから貰った召喚珠しょうかんじゅ……と言った所か。旅に出る時に荷物を極力少なくしたから、実を言うとあんまり物を持ってないんだよな。食料はその場その場で食べちゃうし。

 本当は魚の干物とかも作ろうかと思ってたんだけど、開いた魚持って歩く訳にもいかないしな。保存食については、どっかの街で調べて作り方を考えよう。

「にしても……そうか、俺、これ持ってきてたんだったな……」

 ブラックにばれなくて良かった、精力増強剤。
 実はゴシキ温泉郷から帰った時に、ドラゴウムを使って作って置いたのだ。効果の程は未知数だけど、どっかで鑑定とか出来る人いないかなあと思ってな。
 薬屋に行けば、見極める事が出来る人を知ってたりしないだろうか。

「とりあえず、蜂蜜と回復薬幾つか、そんで増強剤は取り出して置いて……あとは全部収納、収納」

 自分が採取したり作ったものは、露店で売ったりしてもいいが店でも引き取ってくれるらしい。こう言う所はゲームちっくだが、その代わり店に卸す物はそれなりに良い物でないと駄目らしいから、純正品以外を売る人はあまりいないんだとか。

 でも、純正品以外は難しいってことは、そう言うのを鑑定する事が出来る人が店をやってるって事だよな? だったら、査術が使えない俺には良い鑑定屋さんだ。ダメもとで行ってみて、自分の薬がどれくらいの物か教えて貰おう。

「ロク、いい子でお留守番しててな」
「キュ……キュゥ~……」

 気持ちよさそうに眠っているロクを撫で、俺は部屋のドアをそっと閉めた。
 よっし、とにかくまずは薬屋だ!
 俺の薬がどれくらいのグレードの物か、鑑定して貰おう!
 初夜とかのアレはそのー、まあ、とにかく、睡眠薬の材料が有るかどうかを調べてから考えればよし!!








 
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