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廃荘ティブル、幸福と地獄の境界線編
14.古来より、腹を割って話す場所は決まっている1
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前々から薄々思ってた事だけど……ブラックって、やっぱり「友達」という概念をちゃんと理解出来てないんじゃないだろうか。
だって、クロウがあんなに泣いて怒っていたのに、イマイチよく解らないって顔をして首を捻ってるんだもんな。普通、あれだけ心配されたら「俺って、コイツにそれほど思われてたんだ……」とか思って嬉しく思いつつも反省とかしちゃうよな?
けれどブラックはと言うと、驚いた顔をするだけで特に何か言う事も無い。
というか、寧ろ俺に抱き着いたクロウに嫌そうな顔をするくらいで、クロウが心配していた事については悪びれもしていないようだった。
現に今も、クロウが俺を離さずに家まで付いて来た事にイライラしている。
不義理をしたのは俺達の方だと言うのに、なんとも自分勝手だった。
……しかし、それを無暗に怒ってはいけない。ブラックがこういう事に慣れてないのは、周知の事実なんだ。怒ったって、余計に拗れるだけだろう。
――知らない事を「何故知らないんだ」と怒るのは、とても難しい。
その理由は数えきれないほどあって、ただ無知を叱るだけでは済まないからだ。
だから、本当は怒らなきゃ駄目なんだとしても、俺には何も言えなかった。
…………大体、俺、普通に友達いたんだぞ?
ブラックのような特殊な境遇で育った奴に、どう言えってんだよ。
何を言ったって「お前に僕の気持ちが解るか」となるじゃないか。例えブラックがそう言わなかったとしても、俺が嫌だ。なんか「友達」という物を知ってるからって、上から目線になってるみたいじゃん。そんなのごめんだ。
俺はブラックの事を全部知ってる訳じゃない。頭が良いわけでも無い。
だけど友達と言う存在の大切さは知っているし、想われる事の嬉しさも知ってる。
でも、俺がブラックを説教するのだけは違うと思うんだ。
いつもは考えなしに言葉をポンポン放っちゃってるけど、こういう目に見える深刻な問題の時は、ちゃんと言葉を選ばなくちゃって事くらい俺だって分かる。だから、迂闊な事は口が裂けても言えなかった。
……けど、クロウの事を思うと何も言わないってのもなぁ……。
「ツカサ……」
「うん、大丈夫。大丈夫だから」
すんすんと鼻を鳴らしながら、クロウは俺をぬいぐるみのように抱えたまま、首筋に懐いてぐりぐりと頭をすり寄せて来る。
もっさりとした硬めの髪が頬を埋もれさせるが、今はやりたいようにさせたくて、俺はクロウの頭をただ撫でてやった。
「ぐうう……」
「ブラック、解ってやれとは言わないけど……クロウは、本当にお前の事も心配して泣いたんだからな? 慰めるのくらいは許せよ」
「だって僕にはよくわかんないもん……」
子供のような事を言って頬を膨らませるが、その言葉は真実だろう。
ブラックは本当に、クロウが泣いた意味が解らないんだ。
でも……ブラックだって、俺の事を思ってあんな風に必死になって探してくれたじゃないか。人を心配する思いは変わらないと思うんだけどなぁ……。
とりあえずクロウに抱き締められたまま、このとんでもない恰好を早く解消しようと風呂の用意をし始めた俺の背後で、ブラックは不機嫌そうに唸っていた。
やっぱこれ、何か一言くらい落ち着かせる言葉を言わなきゃ駄目かなあ……。
でも、何て言ったらいいんだろう。
とりあえず……。
「ブラック、クロウ、俺ちょっと風呂入って来るから待っててくれる?」
「じゃあ僕も一緒に……」
「お前な……」
すぐこんな事を言う。
…………いや、待てよ。
これは実際、良い機会なのかもしれない。もういっそ三人で一緒に入っちまえば、少しはオッサン二人の距離も縮まるんじゃないか?
それならお湯の節約にもなるし、なんたって意外とこの家の風呂は広い。
デカブツのおっさん二人くらいは収納できるだろう。もし狭くても、一人は風呂桶に入れちまえば良い。誰が設計してくれたのかここがどの国なのかは今も解らないが、湯に浸かる習慣を熟知してくれている家として建ててくれて本当に良かったぜ。
そうと決まれば言うが早いと思い、俺は二人に「まあ待たれよ」と掌を出した。
「よし分かった。そうまで言うなら一緒に入ろう」
「ほんとっ!?」
「だがしかーし! クロウも一緒だ!!」
「ええええ」
物凄く嫌そうな顔をしたブラックは汚い声を出すが、クロウは平然としつつも嬉しそうに熊さんの耳をぴんと立てる。これが漫画ならば、周囲にはきっとキラキラした謎の物体か何かが舞っているのだろう。いつも無表情だけど、なんか時々凄い表情が見えて来るんだよなぁ、クロウって。
でも、ちょっと元気になってくれたのは嬉しいぞ。
「クロウは俺達と一緒に入って大丈夫か?」
「うむ。望むところだ。ずっと一人で寂しかったから一緒にいたいぞ」
「こっ、この駄熊……ツカサ君に甘えやがって……っ」
ぴるぴると熊耳を動かして目をキラキラ輝かせるクロウに対し、ブラックは額に青筋を浮かべ、睨むような目で喜ぶクロウをジト見している。
ブラックとしては納得できないだろうが、俺はそんな相手に近付き、シャツの裾を小さく引っ張った。……自分でもゲンナリするが、今は仕方ない。
そうして見上げて、ブラックに目で訴えかける。
「ブラック、頼むよ……。何も変な事をしようってんじゃないんだ。俺達三人は一応パーティーだろう? だったら、クロウの事も労ってやらなくちゃダメだ。仲間外れは可哀想だよ。だから……な……?」
自分でもズルいとは思うが、でも、実際そうなんだから仕方ないよな。
だって、俺達が一緒に風呂に入ったらクロウは再びひとりぼっちになるんだ。
その孤独の辛さは、ブラックが一番よく知っているはずだ。どれほどクロウの事を嫌がっていても、自分が嫌だった行為を他人に行うなんて事は出来ないはずだ。
……だって、ブラックは……そう言う痛みを、一番解ってやれるだろう?
口では色々言うけど、そんな奴の事を無碍には出来ないはずだ。
そう信じて見上げる俺に、ブラックは実に嫌そうな顔をしたり我慢するような顔をしたりして、何やら負の百面相をしばし繰り広げていたが……やがて、諦めたように眉と目尻を下げると、深い溜息を吐いてがっくりと肩を落とした。
「はぁー…………。でも、一回だけだからね。変な事はさせないからね!!」
「いやそれを言うのは俺の方だろ……まあ良いか。ありがとうなブラック!」
色々ツッコミどころが有ったが、とにかく笑顔で礼を言う。
そうすると、ブラックは弱り顔になった。
やっぱちょっとズルかったかな。自分でも媚びてるなあって思って気持ち悪いんだけど、でも二人が歩み寄るチャンスを潰す訳には行かないもんな。
それに……ブラックとクロウが気兼ねなく仲良く出来るのなら……いや、ブラックが「友達」という物の意味を少しでも理解出来るようになるのなら……俺は、何でもする。クロウが泣いた意味を、ブラックにも教えてあげたいんだよ。それがどんなに暖かい事で、ありがたい事なのかって事を。
泣いてくれたクロウにも、友達の良さを改めて感じて欲しい。
その為なら俺は、キモい奴になったっていいさ。
「……よし、じゃあさっそく風呂に入るぞ! 俺、お湯を作って来るな」
まずは大量のお湯の確保が必要だが、黒曜の使者の俺に不可能はない。
【ウォーム】と【アクア】の合わせ技でお湯を無限に出すだけなので、用意は簡単なのだ。まあ、能力の無駄遣いだし、しっかり疲れるから……あんまりやらない方が良いとは思うんだけどな。でも、今は大事な時だし仕方がないだろう。
早速風呂場に行こうとした俺に、クロウがボソボソと耳打ちして来た。
「ツカサ、ありがとう……オレも一緒に風呂に入れるのは嬉しいぞ」
「クロウ……」
「ブラックと一緒に、待っている」
言って、すぐに離れたクロウを置いて、俺は風呂場に向かう。
さっきの言葉を聞いて、正直俺は……嬉しかった。
そうだよな、クロウだって裸の付き合いがしたいよな。健全な男ってのは、風呂やサウナで女の子には聞かせられない青臭い夢を語り合うもんだ。……とかなんとか、ドラマや漫画で言ってた。なので俺も仲良くなるには風呂だと思っているのだ。
あと単純に、俺は仲間と風呂に入ってワイワイやるのが好きだしな。
い、イスタ火山の時はブラックがアホな事をやって恥ずかしい展開になっちまったが、クロウとだけ一緒ってんなら別にもう隠す事なんてないし大丈夫だろう。
それに、こいつらが一緒に風呂に入るなんて、イスタ火山の時ぐらいしかなかったんじゃなかろうか。だから、お互いに距離が掴めないんじゃないかな。だとしたら、裸の付き合いでもう少し距離が近付くかも知れない。
恋敵とかそういうのはまず置いといて、二人はちゃんと腹を割って話さなきゃ。
クロウは、ブラックの事をちゃんと仲間だし大事な友人だって思ってる。ブラックだって、心の底ではクロウに対して心を開いてるんだ。
だけど二人とも不器用だから、その思いをちゃんと理解出来ていない。
難しい事じゃない。きっと、それだけのことなんだ。
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普段はいつもの空気が邪魔をして、その事をちゃんと考えられないだけなんだ。
でも、風呂ならみんな裸だ。何も隠す事なんてないし雰囲気も柔和になる。
だから、これを機に、二人には風呂で本音をぶつけ合って貰おうじゃないか。風呂という特殊な空間でなら、きっとブラックもクロウも言いたい事を言えるはずだ。
俺はそこで行われる会話のヒートアップを抑える第三者になろう。
ここは俺が一肌脱いで、二人を立ててやんなくっちゃな!
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