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世界協定カスタリア、世界の果てと儚き願い編
他人
しおりを挟む※またもや遅れましたすみません…_| ̄|○
予告通り、他の女性を抱いたという描写が有ります(ふんわりですが)
一棒一穴主義の方は、くれぐれもご注意ください
性交をする時に甘い香を焚くのは、雰囲気を更に淫らにするためと聞くが、実際の場合は五感を麻痺させて嫌悪感を取り去り、夢現にする為なのかも知れない。
(こんな甘い香の何がいいんだか)
今も鼻の奥に残る、頭が腐りそうな程に甘く熟した芳香。昔はそう言う物が嫌いでわざわざ安宿に娼姫を呼び込んだりしていたが、今更この香りを嗅ぐことになるとは思わなかった。
(…………煙草、吸いたいな)
甘ったるい臭いに、胸がむかむかする。
そう思うと自然と指に挟む物が欲しくなって、ブラックはごそりと手を動かした。
ベッドのすぐ横にある細い棚机の頭に手を伸ばす。だが、そこには何もない。今更に昔の癖を思い出した事に舌打ちをしたくなったが、ブラックはもぞりと体を動かしシーツから這い出て、絨毯の地面に足を付けた。
「…………」
裸のままで何も纏ってはいないが、気にする者はいない。装飾が至る所に施された目が痛くなるような豪華な部屋には、自分と、あと一人だけしかいなかった。
(いま何時だろう……。あんまり遅くないと良いんだけどな)
ふう、と溜息を吐きたいが、そうもいかない。
今ブラックと一緒にベッドに入っているのは、神が定めし国の女王だ。無礼……は散々に働いてしまったが、相手が起きているかも知れない状態で背を向けて溜息を吐くのは流石にまずいだろうと思ったのだ。
(大きく息を吐いただけなのに、不機嫌なのかとかしつこく聞かれるし……娼姫にもセックス直後に溜息を吐くなって言われてたしなあ)
詰まっていた息を吐いただけで何故そう怒るのか意味が解らなかったが、人というものは、それだけで「疎まれているのでは」と思ってしまう物らしい。
その感覚はブラックにはよく解らなかったが、恐らくはこの女もいい気などしないだろう。そう思ったので、ぐっと堪えたのである。
だが、それがまた更に息を痞えさせてしまったような感じがして、ブラックは先程と同じようについついやめたはずの煙草を視線で探してしまっていた。
「…………サイドチェストの二段目に、煙草が入っております」
ベッドの方から布ずれの音が聞こえて、誰かが起き上がる気配がする。
その相手など一人しかいなかったが、しかしブラックは振り返る事も無く、ああと呟いて、棚机の二段目を開いて木製の小箱を取り出した。
これは恐らく葉巻だろう。
(……まあ、解ってたけど、そこそこ高い奴だよね)
煙草の等級になどさして興味もないが、金持ちと言う存在は高級品であれば大丈夫だろうという謎の感覚が有るようだ。
そういう部分が如実に相手の“ブラック”という存在に対する認識を歪ませているのだと思うと、やはり身分違いの相手は厄介だなと思わずにはいられなかった。
何故なら、ブラックはこのような高価な葉巻などほとんど吸わなかったからだ。
「どうぞ、好きなだけお持ちください」
背後で女が言うが、そう言われても葉巻など持っていても邪魔だ。
ブラックが吸っていた煙草は、冒険者でも安価に購入できる粗悪な物が多かったのだが、まあそれをお姫様に察して見せろと言うのは困難な事だろう。なにせ、相手はブラックがまだ若い頃の状態しか知らないし、会ったのだって恐らく一度きりだ。
ツカサと同等の気遣いを求めてもそれが得られない事は解り切っていた。
(煙草を用意してくれてたのは、ある意味助かったけどねえ)
葉巻の端を小さな刃で切り取り、自分の掌から創り出した炎で炙る。
ゆっくりと葉巻を回して熱を持たせるのも、久しぶりだ。
もう長い間吸う事も無かったのでやり方など忘れていると思っていたのだが、頭はしっかり煙草の味を覚えていたらしい。何やら情けない気持ちになりつつ、ブラックは白い輪が出来始めた葉巻を見て、口を付けた。
「…………フゥ……」
口腔で煙を転がすと、独特の苦みとほのかな甘さが感じられる。“銘柄”という物が存在する葉巻には、やはり原料の物を明確に思い起こさせる味が有るらしい。
しかし、思っていたよりも刺激は薄いようで、肺が疼いている。
葉巻というものは肺では無く口で味わう物とは言うが、それでは満足出来ぬほどに胸の痞えが溜まっていたブラックは、思いきり吸い込んで葉巻を三分の一ほど白灰に変えると、肺まで煙を飲み込んだ。
――と、その刺激の強さに頭が久方ぶりの独特の酩酊に襲われる。肺の中を満たし燻していく独特の苦さに、鼻腔がじんわりと痺れた。
粗悪なものはとても肺まで飲みこめないが、さすがは高級品と言った所か。
煙草など最早刺激でも何でもなくなったブラックにとって、この名も知らぬ葉巻は懐かしい刺激を思い起こさせてくれた。
(ふうん。いいね、これ。葉巻は興味なかったけど、機会が有ったら探そうかな)
そんな事を思いながら、灰皿に灰を落としていると。
「……葉巻には、そのような顔をなさるのですね」
すぐ近くに布ずれの音が聞こえて、背後からブラックを抱き締める細い腕が伸びて来た。まるで白磁の陶人形のような滑らかで白い腕は、ブラックの男らしく張った胸の下に絡み付き、背中に独特な柔らかさのあるものを押し付けてくる。
「まだ足りませんか、お姫様」
冷静にそう返すと、相手は柔らかな髪を裸の背に擦り付けながら、己の武器なのであろう豊かな胸を遠慮もせずにブラックに押し付けた。
「御満足、頂けなかったみたいですね」
背後から聞こえる声もまた冷静だ。
甘さや媚を含んではいるが、その実、彼女……エメロードの声音は、情事の後の女とはとても思えないほどの怜悧さを含んでいた。
(まあほんと、商売女もびっくりだよなあ。娼姫はそもそもが商売だから、男なんかを喜ばせる術を心得ているけど、ここまで徹底してる奴はそういないだろう)
人族と言う物は、肌の交わりには無意識に興奮を覚えてしまうものであり、商売と言えども娼姫自身もセックスを楽しむのが普通だ。
基本的に、己の快楽と直結しない行為はお断りだし、そう言う客は二度と取らないと言う娼姫が大多数なのである。だからこそ、娼姫は男女問わず明るく凛としているのだが……このエメロードと言う女の場合は、それとは全く違う。
彼女は、全てを相手が望むままに変えようとする。
そうしていつしか「してやっている」という優位に立ち、次第にオスどもを手玉に取るように遊び出すのだ。こちらが操られているという事など全く思わせぬほどに、極々自然に、オスの欲望を余すところなく発散させながら。
……それが、ブラックには気に入らなかった。
(セックスして解ったけど……この女、聖母どころか支配者なんだよな。こっちが好む行為を読み取って変えて来て、従順そうに振る舞ってはいるが……その実、少しも翻弄されること無く相手を観察し絡め捕り、自分の信奉者にしてしまう。性欲を盾に取られちゃ、そら大抵のオスはどうしようもないだろうな)
今まで感じたことのない刺激と快楽を与えられ、どんな欲望も許され、その豊満な体に抱き締められる。……聖母の何たるかを知らない者であっても、そんな風に受け入れられたら落ちても仕方は無いだろう。
だが、そんな事は並大抵の技量で出来る事ではない。
明らかに作為的に極め、意図が有って相手を籠絡し、そうやって相手を信者と成す目的でもなければ、辿り着く事は出来ない境地だった。
だからこそ、気に入らないのだ。
今ブラックに抱き着いているこの女が聖母というのなら、自分の醜く恐ろしい欲望を一生懸命に受け止めてくれたツカサは何だというのだろう。未熟な体で恐れもせずブラックを純粋な好意だけで受け入れたツカサは、どう形容されるのか。
無意識の許容を知っていたからこそ、ブラックは彼女が行う故意の許容が酷く醜いものにしかみえなかった。……そんな事を、言えるはずもないが。
「ブラック様……わたくしの体は、お気に召しませんでしたか?」
「……いや、素晴らしかったですよ。それは本当のことです」
そう。それだけは、本音だ。
冷静に組み敷き、女が喜ぶ方法を思い出しながら、エメロードを抱いた。
手に余るほどの豊かな胸は感触やハリが素晴らしく、揉んでいる手が疲れもしないまさに女性の粋を集めた魅力的なものだったし、磨きをかけて来た腰は美しく括れ、足はすらりとしているが柔肌を損なわず、太腿の感触も欲をそそった。
尻はまろみが有り、こちらも陶器の曲線のように美しく、そもそも染みやほくろなど一つも無い肌は白磁のようだ。
綺麗に整えられた淡い茂みに眠る陰部も、何千回も欲望を受け入れた女陰とは思えないほど淡い紅桃色に保たれており、内部は殊更たとえようも無い名器だった。
確かに、彼女は完璧な女であり、メスである。
体を繋げたブラックだからこそ分かる、疑いようのない真実だった。
「では……何故そのようにわたくしに背を向けていらっしゃるのです? ブラック様も、わたくしの体に欲を抱き、わたくしを抱いて下さったのでしょう?」
――確かに、ブラックはエメロードを抱いた。
だが、それが純粋な興奮から来る物だと言われれば微妙なところだった。
(香のお蔭で多少は気分が高揚したのか、さして問題もなく勃起してヤッっちゃったけど、やっぱりツカサ君とセックスする時の興奮とはまるで比べ物にならないチンケな物だったしなあ……。まあそれでも、勃つものは勃つんだけど)
寝ているツカサを使った自慰でも、ここまで控えめな興奮にはならなかった。
しかし、それをエメロードに言える訳も無く、ブラックは葉巻を灰皿に押し付けると、体勢を変えて相手へと向き直った。
「ええ、抱きました。興奮しなければ事は起こせませんからね」
「けれど、貴方様は冷静で……未だにわたくしを見て下さらない。…………それほどあの少年が……愛しいのですか」
何一つ身に着けていないエメロードは、本当にツカサくらいの歳の少女のようだ。
その華奢な体に豊満な胸や尻がくっついているというのがまた倒錯的ではあるが、ブラックにとってはやはりそれ以上でもそれ以下でも無かった。
そう思うのも……ツカサが愛しいからなのかもしれない。
いや、それ以外に考えられなかった。
「……そうですね。私はツカサ君を愛しています。恋人ですからね」
さらりとそう言うと、エメロードはその長い耳を少し下げて眉根を寄せた。
「ブラック様の事をないがしろにするような、年端もいかぬ少年であっても?」
「年相応の態度と言う物が有りますし、私はそれも彼の一部だと思っていますから」
「他の男と仲良くしてブラック様を放っておくのが常でも?」
「私が許している事ですし、私の傍に居ろと縛りつける訳にも行きませんから。それに……私は、そういうツカサ君が好きなので」
はっきりと言うと、エメロードは一瞬驚いたような顔をしたが、すぐに冷静な顔に戻った。
「どうして……大切なものを放って置くような相手を、好きになれるのです……?」
声が、震えているような気がする。だが、だから何だと言うのだろう。
エメロードが怒ろうが悲しもうが、今言った言葉はブラックの真実でしかない。
おためごかしなど通用しないのなら、ハッキリ言うほか無かっただけだ。ブラックの言葉に対して衝撃を受けたのだとしても、こちらの責任など何もない。
何故震えているのかと片眉を寄せながらも、ブラックは応えた。
「あの程度で放って置かれたなんて言うのなら、最初から彼を冒険者になどしていませんよ。……ありのままの彼が好きだから、私は彼を恋人にしたんです」
そう。それ以上でもそれ以下でもない。
ブラックは、初めて出逢った時からツカサに惹かれた。一緒に居るうちに、もっともっと彼に惹かれて、手に入れたいと思うようになった。今もその気持ちは変わっていない。いや、寧ろ、今の方がより強くそう思っているような気がする。
ツカサが自分のすべてを受け入れてくれると知ってしまったから、ブラックは自分を受け入れてくれたツカサを好きになったのだ。
自由奔放で、誰彼構わず引き寄せて、仲良くなって、自分をやきもきさせる。
だけど最後には絶対に……ブラックの事を、選んでくれる。
そんな愛しい存在だからこそ、ブラックはツカサを手に入れたかったのだ。
(そう……僕のことを、僕の全てを救ってくれたツカサ君だからこそ、僕はツカサ君をツカサ君のまま手に入れたかったんだよ)
だが、そんな事を話してもエメロードには伝わらないだろう。
彼女にとってのツカサは、彼女が見た限りの存在でしかないのだから。
「ブラック様……だから……わたくしと行為に及んでも、揺るがなかったと……?」
「…………まあ、そうかもしれませんね。ただ、貴方はツカサ君の事を良く知らないのでしょう? だったら、私が何故貴方に溺れなかったのかも判らないでしょうね」
「…………」
信じられない、とでも言わんばかりに、エメロードの目は見開いている。
その大きく可憐な眼は純情そうな乙女を想わせたが、しかし素肌のままの彼女は、最早純情などとは遠い場所に居るのだと示していた。
「……虜にすると仰っておられたが、もう一回やりますか」
別に、他の女にペニスを挿れるのに嫌悪感は無い。
それは、相手に興味が無く、道具を使って抜いたようなものだからだ。
例え絶世の美女であるエメロードですら、その認識からは逃れられない。ツカサとの愛ある行為とは全く違う、事務的な性欲処理で付き合っているというだけだった。
だが、その事はエメロードには酷く衝撃的だったようで。
「ブラック様は……わたくしが、彼のことを知らないから……わたくしに冷たく接していらっしゃるのでしょうか……?」
「いえ。どなたにでもこうですよ。生憎と、今の私はツカサ君以外には積極的になれませんでね。無礼でしたら、お許しください」
そう言いながら頭を下げると――――エメロードは、ブラックの腕を引き寄せて、体を強引に横たえさせた。そうして、ブラックの上に乗っかると、丁度股間の位置に尻を乗せて、険しい顔を近付けて来る。
その表情は、ブラックの下で可愛らしく喘いでいた時とは違い……彼女の本当の顔が浮かび上がっているのだと思える程に、険しくなっていた。
「わたくしは……負けません…………貴方の事を満足させて籠絡して見せます」
「…………そうですか」
エメロードに譲れないものが有るように、ブラックにも譲れないものが有る。
相手は一国の女王だと言うのに、ブラックは冷めた感情と声で相手をする以外に、何もしてやれることはなさそうだなと思った。
「もう一度……」
そう言いながら、エメロードはブラックの肌に小さな手を這わせる。
恐らく、興奮させるためにまさぐっているのだろうが、大した刺激ではない。
ツカサに胸に飛び込んで来られた時の方が、よほど股間に熱が集中した。
――――相手を支配しようと躍起になる女と、恋人が絶対である男。
しかもそれは、決して別の関係になることなどない。
ブラックがツカサを恋人だと思っている限り、崩しようがなかった。
……だが、エメロードは諦めはしないだろう。生理現象で勃起するだけのペニスを好意だと勘違いして、ブラックの事を離さないに違いない。
(…………こんな風にセックスしたって、何も得られないだろうに)
片方は本気で、片方は遊びと言う感覚すらも無い。
これほど虚しいセックスも無いだろう。
(認められないというのは、哀れだな)
同情すべきなのだろうが、残念ながら涙を流そうという気持ちすらも起こらない。ブラックに取っての彼女は、涙を流して哀れもうと思える存在では無いのだ。
ブラックが言うのもなんだが、王だと言うのになんと哀れなのだろうか。
(といっても、僕には勃起するぐらいの事しかしてやれないんだけどね)
意気込んでやって来たが、やはり心など動かされない。
自分がそれほどツカサに心を奪われていると言うのであれば嬉しい事だが……
そもそもブラックは、他人に対して同情すらもしない。
ただ、昔の自分に戻っただけでしかないのだ。
「ブラック様……」
自分を犯そうとする小さくたおやかな手は、胸板に縋りついてくる。
可愛らしい声も、表情も、その体も、それ以上でもそれ以下でもない。
(……はあ。終わったら、あの葉巻を吸おう……)
香の甘ったるい匂いをつけて帰るより、煙草の苦い香りを纏って帰る方がいい。
そのほうが、ツカサも嫌な顔をしないだろうから。
そんな事を考えながら、ブラックは笑顔を顔に張り付けて、目の前で自分を昂ぶらせようとするエメロードを冷めた目で見つめ続けていた。
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