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世界協定カスタリア、世界の果てと儚き願い編
33.真実とは
しおりを挟む※またかなり遅れてすみません…(´;ω;`)
――――だけど、憎む理由ってそれだけなのかな。
エメロードさんがここまでシアンさんを嫌っているのは、優秀な妹がいて、実質的に国を動かしてるからってだけでは無いんじゃなかろうか。
だけど、ラセットとクロッコさんは、それ以上シアンさんとエメロードさんの話をしてはくれなかった。どうも、彼らにも言える事と言えない事が有るらしい。
……ということは、他にも原因が有るって事なんじゃないのかな……でも、そこに突っ込んでしまったらもう何も聞けなくなるような気がして、何も言えなかった。
本当は早くシアンさんを助ける情報が欲しかったんだけど、焦ってはいけない。
それに、俺には二人からうまく言葉を引き出す話術なんてないんだ。下手に動いて警戒されたら終わりだ。ラセットはともかくクロッコさんは一筋縄ではいかない感じがする相手だしな……。何かよく分かんないけど、そう思うんだから仕方ない。
しかし、この情報だけじゃ何にもならないよなあ……最悪の場合、シアンさんから事のあらましを聞けば、同じような情報が得られただろうし……。
まあでも、好意から聞かせて貰っていた事なんだから仕方ない。有用な情報が何も無かったと言っても、二人を責めるのはお門違いなのだ。
……でも、ぶっちゃけ拍子抜け感は否めないよなあ……。
思わず肩の力を抜いてしまっていると、クロッコさんが俺の様子に苦笑しながら、ゆっくりと椅子から立ちあがった。
「色々と話して疲れたでしょう。今飲み物を用意しますから、一息入れて下さい」
そう言いつつ、少し離れた所にあるスペースにクロッコさんは向かう。
食器や何かの箱っぽい物が置かれているが、もしかしてドリンクコーナー的な場所なんだろうか。そう言う所はなんだか妙に現代っぽいな。
クロッコさんの後姿を見つめていると、ラセットが不意に俺に手を伸ばしてきた。
「それにしてもお前……本当にそれは大した怪我じゃないのか?」
「あ、う……うん、平気」
「…………まあ、お前の体質の事は知っているが……それでも、痛くない訳ではないのだろう?」
「ラセット……」
心配そうに聞いてくる相手に、俺は呆気にとられてしまった。
信用すればここまで心配してくれるのかという驚きも有ったが、しかしそれ以上に驚いたのが、俺を“災厄たる黒曜の使者”だと認識していてもなお、こう言う風に心配してくれているのだ。
普通なら、近寄る事すら怖いって思ったりするだろうに。自己治癒能力が有るなら平気だろうと放っておいてもおかしくはないだろうに。
なのに、俺を心配してくれるなんて……。
「ど、どうした」
「いや……俺の事、そう言う風に心配して大丈夫かなって……」
そう言うと、ラセットは目を丸くしたが、俺が何を言いたいのかに思い至ったのか、少し不機嫌そうに眉を顰めた。
「……信用した物に、今更疑いの目などもたん。お前が黒曜の使者であっても、私はお前の事を信用した。その事は変わらん。友であるなら、心配をするのは当然だ」
「そ……そう……」
なんか……なんか、イケメンって狡い……。
なんでそんな格好いい事をサラッと言えちゃうんだろう。俺がそんな事言ってもギャグにしかならなそうなのに、美形ってのは本当に得だよなあ。
「はーい、緑茶が出来ましたよ。ラセット、砂糖をどうぞ」
じんわりとしている所にクロッコさんがお茶を持って来て、俺とラセットはそれを受け取った。おお、ほんのりあったかい。
クロッコさんにお礼を言いつつ、お茶を飲もうとすると……目の前にいるラセットが迷いも無く緑茶にドサドサと緑茶に砂糖を入れていた。
……ら、ラセット……い、いや、この世界じゃそういうのは普通だったよな。
ずるずるとお茶を飲みつつ暫し歓談していると、気が緩んだのかラセットは頭をゆっくりと動かし始めた。どうやら眠たいらしい。
しかし、そんな急に眠くなるものだろうか。緑茶って安眠作用とかあったっけ。
「おや、ラセット……。すみませんね、こいつ、昨日からずっと眠れていなくて」
「それって……」
「姫が、今日……でしょう? なので、気が気ではなかったようで……あまり眠れてはいなかったらしいのです。不作法ですが、少し眠らせてやって下さい」
「ああ……」
そっか、俺とブラックにとっては勝負の一日だけど、ラセットにとっては大好きな人が他人と寝るって言う最悪な日だもんな……そりゃ眠れなくもなるわ。
俺は何か色々な要因でそこまでえっちに何か思う事が出来なくなってるけど、本当はラセットのような態度がまともなんだよな……何で俺「やってこい」って言っちゃったんだろう……いやでも、体と心の繋がりは別だと思う派だし俺……。
ま、まあ、あれだ。ラセットがピュアで素晴らしいってことだよな!
むう、イケメンは心までイケメンってやつなのか。チクショウめ。
「それにしても……貴方は随分とラセットに好かれてるんですね。この男、信頼した者でなければこうも無防備にはならないんですよ」
「そうなんですか……じゃあ、友達だって思ってくれてるんですね……」
イケメンはイラッとするけど、でも友達だって思ってくれる事は素直に嬉しい。
俺だっていがみ合いたい訳じゃないからな。
仲良く出来るならイケメンとだって手を繋ぐわ。
「ツカサさんは、ラセットをどう思います?」
「あー……美形な所がイラッとしますけど、友達だと思ってますよ」
そう言うと、クロッコさんは満足げにニコリと笑った。
「そうですかそうですか……でも、我々の事はあまり好きではないでしょう?」
「いえ……俺、シアンさんもエネさんも好きだし、ラセットみたいな気の良い神族も居るって知ってますから……」
種族自体が嫌いと言う訳ではないと答えると、何故か相手は妙な顔をした。
どことなく困惑した感じと言うか、おかしいなと思っているような戯妙な顔をしたと言うか……。なんだろう、何か引っかかる事が有ったのかな。
こちらも困惑していると、クロッコさんはすぐに表情を笑顔に戻した。
「嬉しい事を仰って頂けますね……ですが、ツカサさんは黒曜の使者ですから、神族には少し引け目が有るのではないですか?」
「そう言われると……まあ、俺は神族からしてみれば“災厄”らしいので、そのことで敵視されているとしたら、近寄りがたくは有りますけど……」
「でしょうねえ。……しかし、実際の所……神族も、黒曜の使者に関してはほとんど何も知らないし、大多数の物は使者の事自体も知らずに生きているのですよ」
「え……そうなんですか……」
そこまでの事は考えてなかったけど、そう言えばエネさんもラセットも、俺の事に関しては必要以上に恐れたりとかはしてなかったな。
事前に俺の事を聞かされていたから、落ち着いていたんだと思ってたけど……そもそも一般人的な暮らしをしているエルフ達は、俺の事を知らなかったのか。
という事は、俺が“災厄”と言われてもピンと来てなかったって事なのかな。
「しかし……真実を知ると言う事は、本当に厄介な事ですね。現に、君の事を知ってしまったラセットは、もう君を憎み切れない。君だって、今さっきの姫と妹君の話を知って、最早二人の事を放って置けなくなったでしょう?」
「え、ええ……」
「何かを知ると言う事は、本当に罪な事です」
目の前でにっこりとほほ笑みながら話すクロッコさん。
だけど、何だろう。何故かよく解らないけど、妙な感じがする。
「君は……どう思います?」
「……と、言いますと……」
なんだろう。どうしてクロッコさんはこんな事を言い出したんだろう。
よく分からない。だけど、何故だか鼓動が早くなっていく。嫌な感じがして来て、耳を塞いでしまいそうだった。
なんで、どうしてこう思うんだろう。
「真実とは、辛く苦しいものでもあります。一度知ってしまえば、忘れる事など出来ないという毒を持っている。そうして、幸せだった時間を奪って行くのです。あの時知らなければ幸福だったのにと悔やむ日々だけを残して……ね」
どうして、そんな話をするんだろう。
クロッコさんにとって「苦い」真実が、今の話に有ったって事なんだろうか。
でもそれはラセットに聞かせる事が出来ないことだから、彼が寝た後に打ち明けているんだろうか。しかし何故俺にそれを話すのか解らない。
俺も、どうしてこの話を真面目に聞いているのか自分で自分が解らなかった。
「ツカサさん、もし貴方が“真実”を知りたいと言うのなら……実際に、エルフ神族の国へと訪れ……王族が守りし【六つの神の書】を見るべきです」
「…………」
「このことは、今回の事件とは直接関係ありませんが……貴方にはきっと必要になる情報だと思いまして。……出過ぎた真似をお許しくださいね」
出過ぎた真似なんて。
クロッコさんは多分、俺の事を心配して言ってくれてるんだよな。
でも……言われてみればそうか……今まで俺は地上にある情報を探し求めて歩いていたけど、そもそも神族の国には俺の事を明確に示している書物が有ったんじゃないか。だったら、そっちを自分で確かめてみるべきだったんだ。
……だけどそれも、シアンさんの事を解決しないとどうしようもない。
あとは、ブラックがエメロードさんとどう決着をつけるかにかかっている。
「ありがとうございます、クロッコさん」
とりあえずそう言うと、相手はにっこりと笑った。
だけど、その笑顔は嬉しそうには見えない。何故そう思ってしまうのかは俺自身も解らなかったけど……どうしても、今の話が喜んで良い情報には思えなかった。
→
※次はブラック視点です。予告通り女性とセックスしてるんで、そう言う事が
苦手な方はスルーして頂けると幸いです。内容は次の次でまとめます!
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