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ファンラウンド領、変人豪腕繁盛記編
24.恋人でもイタズラはほどほどに
しおりを挟む――翌朝。
俺達……というか、ヒルダさんと村人達とブラック以外の俺達は、げっそりしたまま朝を迎えた。
まあ、俺の場合はブラックに変態行為を強要されて精も根も尽き果てたからなんだが、クロウとラスターは一日中落ち込んでいたんだろう。そう確信できるぐらいに、朝の爽やかな時間だと言うのにどんよりしたオーラを纏っていた。
……やっぱ昨日の事が尾を引いてるんだろうなあ……。
だって、ラスターもクロウも、朝会うなり異様に俺の事心配して来たし……。
二人とも武人とか騎士団長としてのプライドが有って、騎士道だの武士道だのの精神を持っているから、不慮の事故を止められなかった自分に不甲斐なさを感じてしまい、延々悩んでしまったんだろう。
それを思うと、なんだかんだで二人とも真面目で高潔な所が有るんだなあと俺は感心してしまったのだが、こう言う場合は、そんなまともな部分が残っていた方がよりダメージになってしまうのかもしれない。
……だって、ブラックはケロッとしてんだもんなこの野郎……。
まあ、それはそれとして……流石に二人がしょげたままではこちらも困るので、二人には改めて「気にしてないよ」という事を伝え、帰ったらまた美味しい料理を作るからと俺が好意的である事を示し、なんとか持ち直して貰った。
メシで釣るなんて男らしくなくて我ながらアレだが、これ以外に二人を元気にする言葉が思い浮かばなかったんだから仕方がない。
俺が漫画の美少女とかだったら、ほっぺにキスとかで手軽に「怒ってないヨ!」と伝えられたんだろうけどな……でもそんな事するとブラックが鬼になるからな……。
色々とままならないが、二人が元気になったのでよしとしよう。
俺は腰が痛いしプライドも死んでるが、みんなが元気ならよし!!
ってなわけで、俺達は予定していたゴシキ温泉郷の視察を始める事にした。
しかし「視察」とは言っても、そこまで難しい事は無い。
ヒルダさんからゴシキ温泉郷の店の配置の意味や、冒険者が語ったと言う「温泉とは斯くあるべき」というお話、そして、土産物などのこの土地特有のモノを詳しく説明して貰うだけであり、別に都市計画がどうのと言う話は全然しなかった。
……というかまあ、そこまで専門的な話になると、それはもうセルザさんの方に投げる事になっちゃうからなあ。
このゴシキ温泉郷に村の人を連れて来たのは、ひとえに「観光地と言う所はどういう場所なのか」という事を知って貰う為だし、村の改装についても明確な目標のような物が有る方が良いと思ったからここを紹介したんだしな。
セルザさんに丸投げする訳にもいかない現状なんだから、少しでもリーダー格の人達に考えて貰おうと思っての視察なのだ。
あと、責任者とか居住者とかじゃなくて、普通に観光客目線から考えて貰いたいってのもあるからな。やっぱ自分が客になって見なきゃ解らん事も有るし。
俺達のその考えはわりと上手く行っているのか、視察中、村人二人と村長さんは凄く真面目にヒルダさんの話を聞いていて、お土産物屋にもかなりの興味を示していた。これなら彼らの意識も良い方に変わるかも知れない。
とても喜ばしい事だ。
今も、土産物屋で村人達は「アレがそそる」とか「コレはいい物だ」だのと熱く語りあっていて、良い成果が期待できそうだ。
しかし……それをすぐに喜べない事情が、俺には降りかかっておりまして。
「ツカサ君、説明中暇だねえ。二人で抜けちゃおっか」
俺の肩に手を置きながら、ブラックが後ろで呑気な声を出す。
思わずその手にびくりとしてしまったが、俺は少し顔を逸らして目を泳がせた。
「ば、バカな事いうなっての……ほら、お前も土産物見ろよ」
「そうだぞブラック。こう言う調査はきちんとやるべきだ」
俺の背後で呑気な事を言っているブラックに怒りながら、クロウは温泉郷名物の罪獄まんじゅうと罪獄モニカを両手に持っている。
元気になってよかったが、早速食べ物か……いや、クロウらしいけどね。
しかしほんと凄い名前だな罪獄銘菓……。罪獄まんじゅうは中に高菜みたいな漬物が入ってて、モニカは焼きまんじゅうっぽいんだっけ。
まんじゅうは前にブラックと来た時に食べたが、確かに美味かったな。
……まあ美味いから食べたくなっても仕方ないか。
「クロウ、買っても良いけど、今日買ったのは温泉郷に居る内に全部食べ切るんだぞ? 今買うと土産にする前に悪くなっちゃうからな」
ブラックを後ろに引っ付けながらクロウを見上げると、相手は物凄く嬉しそうに熊耳をぴるぴると動かして何度も頷いて、お金を払いに行ってしまった。
たくもー、元気になったのは良いけど、これじゃどっちが大人なんだか……。
「はー……っていうかブラック、頼むから離れてくんない……?」
そう四六時中引っ付かれていたら歩きにくい。
ハッキリとそう言ってやりたいのだが……今は事情が有って、いかんせんビシッと言い切れない。
だ、だって……今は……。
「ふむ……中々妙な物を売ってるのだな、庶民の店と言うのは……」
「ひっ!? そ、そうだな!」
いきなりラスターが横から入って来て、独り言のような台詞を放ってくる。
思わず驚いてしまったが、ラスターはよほど庶民のお土産が気になるのか、ふむふむと頷きながら棚や平台に乗った商品を凝視していた。
よ、よかった……ブラックが俺の後ろに張り付いてる事に関しては、なにも変に思っていないらしい。
……いや、まあ、俺にしてみたら充分変なんですけど、この世界って本当に俺の世界の同性同士の距離感が通用しねえなコンチクショウ。
「ツカサ、この土産物というのは、基本的にはこの値段なのか? 街の店に置いてある工芸品と比べると、割高なように思えるのだが」
「ああ、ええと……そう言うのは、なんていうか……雰囲気代? その土地の由来に関係してたり、他の場所で同じ物を作っても意味がないからって事で、特別感を出すためにちょっと高くなってたりする……らしい」
もちろん別の理由もあるだろうけど、実際そう言うのもあるからなあ。
値段ってのも案外バカに出来ない物で、人ってのは安い物を見ると、その価値を無意識に低く見積もりたがる。元々粗製乱造とか「安かろう悪かろう」なんて意識が有るからかもしれないが、基本的に良いモノは高いので、どうしたって安いモノにはある程度の「諦め」を持って安心しようとしたがるのだ。
そんな心理が有るもんだから、ヘタに安いと侮られるわけで。
この点も、ゴシキ温泉郷は実に巧みだった。
安い物は安いなりの作りが荒い物で、高い物は「なるほど」と納得する逸品。
溶岩石を彫った置物なんかは、お高いだろうと納得のお値段だった。
こう言うのも“ある冒険者”の入れ知恵なんだろうなと思うと、何だかこの温泉郷自体がオーパーツのような気がしてちょっとゾクゾクしてしまった。
「なるほど……確かに、その土地特有の物だと言われれば、多少高くても構わず手に入れてしまうな。普通の商品の場合は輸送費や人件費で価値が膨れ上がるものだが、それとはまた違うと……。しかし、食品が土産になるとはな……。てっきり、メダルや置物が主だと思っていたのだが」
「あ、それは……」
と、答えようとしたら。
ぽん、と肩を叩かれて……ブラックが、俺をマントで覆うようにして背後からぴったりと体を寄せて来た。そう、して。
「ひっ!?」
何をするかと思ったら、い、いきなり……俺のケツに、手を這わせてきた。
「ん? どうした?」
「っあ……なっ、なんでもない……っ」
幸い、ラスターは熱心に土産物を見ていて俺達には気付いていない。
というか、ブラックが俺の背中をすっかり隠してしまっていて、マントをめくりでもしない限り、俺が何をされているのかなんて誰にも解らなかった。
それを良い事に、この、後ろの変態は……。
「っ……ん……」
尻の割れ目に指を這わせて、何度も何度もなぞってくる。
人のいる場所で、しかもラスターが至近距離にいるってのに、このド変態は昨日「俺にイタズラする」と言った事を、よりにもよって今実行してきて。
そ、そりゃ、約束しましたけど。しましたけど!!
でもなんで今!? イタズラしてる場合じゃないだろお前えええ!!
「で、何が“それは”なんだ、ツカサ」
「ッ!」
うわっ、や、やばい。答えないと……ちゃんと、ふ、普通に……。
頼むからそのままケツの割れ目をなぞるだけでいてくれと願いつつ、俺は何事も無いかのように装って、ラスターに説明しようとした。
「そ、それはだな、多分……あの、冒険者って奴が考えた、ん、だと……思う……。日持ちする、なら、食べ物の方が……いいし……」
「それも件の冒険者か……余程の切れ者だな。たしかに、置物やメダルだけでは何がどう素晴らしいのか解らない場合もある……。となると、このエハガキという廉価で粗雑な絵画も、そういう事を解消するものか……ううむ……」
ああ、もう、ラスターが真剣に話してんのに、なんなんだよ!
人が話してる時にぐっと指を入れようとしてきやがって!!
そのくせ、俺が言い終わるとまた割れ目をなぞるだけになって……。
「……っ」
流石にイタズラが過ぎると思い、ブラックを睨むために振り向くが……相手は、変質者みたいにニヤついた顔をして上機嫌で笑っており、俺の抗議の表情などまるで気にしないとでも言うように、また太い指をぐっと谷間に押し付けて来た。
ズボンを食いこませるようなその強さに、思わず息が止まる。
足が震えそうで、それがいやで、俺は小さな声で必死にブラックに「やめろ」と意思表示をしようとした。
「っ、ぅ……ば、か……っ!」
う、うう……くそう……全然抗議になってない……。
ああもう何か嬉しそうな顔してるし、またハァハァ言い出してるしこのオッサンわぁあああああ!!
「ツカサ?」
「あっ、あぁっ!! ……ッ! っく、ご、ごめ……」
ああ、ごめん。軽くそう言おうとしたのに、ブラックが強く指を押し付けて穴に触れたせいで、思わぬ声になってしまった。
必死で歯を食いしばって耐えたけど、でも、今のは……見られてたら、完全に、何をされているかバレて……。
「っ……~~~~ッ!!」
悔しくて、こんなことをするブラックが小憎らしくて、無言で睨み付けるが……相手は、俺の「温泉郷に居る間はイタズラして、毎晩えっちしていい」という了承を知っているせいか、俺の射竦めなど全然気にしていない。
それどころか、俺の耳元に顔を寄せて来て…………
「この程度のイタズラで可愛い声を出しちゃうなんて……ツカサ君、そんなんじゃ、すぐに他の奴らに気付かれて恥ずかしい思いをしちゃうよ……?」
「――――っ」
う、うううう、くそう、なんであんな約束しちゃったんだ。
俺の馬鹿、堪え性なし、あそこでズリネタを選んでおけば、今こんな風に延々と恥ずかしい事なんてされずに済んだのにぃいい……!
「ん……? なんだお前ら、ひっつきすぎて暑苦しいぞ。散れ。というか、お前は何もしないならツカサから離れろ」
「ハァ? 何様のつもり? 僕が恋人のツカサ君と何しようが僕の勝手だろ」
「真面目に視察せん奴は帰れと言ってるんだ。なあツカサ」
ちょ、こ、こっちに話振って来ないでえええ!
いやでもラスターが俺達の引っ付きに気付いてくれた事は幸運だぞ。
ラスター頼む、そのままブラックを諫めてくれ!
「僕はツカサ君に悪い虫が付かないようにしてるんだから良いんだよ。ねー」
「一番の悪い虫が何を言ってるんだ。ツカサ、こっちに来い。むさ苦しい不潔男に引っ付かれていては、お前も不潔になってしまうぞ。高潔な俺の傍にいろ」
「えっ、うわっ」
そう言うなり、俺の手首を掴んでブラックから引き剥がそうとするラスターに、ブラックは慌てて俺の肩を掴んでそれを阻止しようとする。
しかし相手の力も強いので俺を取り戻す事が出来ず、俺は二人の強い力に挟まれてにっちもさっちもいかない状態になってしまった。
……い、痛い。
ブラックに捕まれた肩と、ラスターに捕まれた手首がめっちゃ痛い。
お前ら本気過ぎ、痛いってば。
「ちょ、ちょっと二人とも、ここお店……」
「なんだ、どうしてツカサを取り合っている。オレも混ぜろ」
「わーっクロウまでそんな事言わないでー!!」
両手に紙袋を抱えて戻って来たと思ったら、お前もかよ!!
ああもうなんでコイツらはややこしい事態をややこしい方向に持って行くんだ!
わざとか、わざとなのか!
「もうやめろってば三人とも! このままだとまた昨日みたいになるだろ!?」
再び俺をノックダウンさせる気か、と、少し強めの声で言うと――――
三人とも、驚くほど素直に俺から手を引いてしまった。
「……そ、そうだな……暴力は、暴力は良くないな、ツカサ」
「む、ムゥ……ツカサ、すまなかった……まんじゅう食べるか……?」
「…………チッ……」
おい、ブラック、お前だけ反省してないなコラ。
でもイタズラされる雰囲気ではなくなったので、ちょっと安心した……。
「ツカサ……」
「あ、ごめんなクロウ。ありがと、一個貰うよ」
しょぼんと耳を伏せるクロウに笑いかけて、俺は饅頭を受け取る。
すると相手はすぐに耳を立てて、なんだか嬉しそうにこくこくと頷いた。
……オッサンに可愛いと言うのもどうかと思うけど、ブラックにもこのくらいの純粋な可愛さってのがあればな……。
クロウから貰った饅頭をもしゃもしゃ食べながら、俺は溜息も呑み込んだのであった。
とは言え、この程度でセクハラが終わるなら苦労なんてしないんだよなあ……。ああ、早めに視察を切り上げて帰れればいいんだけど……。
→
※セクハラは続く
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