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ファンラウンド領、変人豪腕繁盛記編
25.良い副産物、良くない副産物
しおりを挟む俺の嫌な予感は案の定ばっちり当たってしまったようで、その後ブラックの俺に対する悪戯は留まる事を知らなかった。
とは言っても、ケツを揉んだり撫でたり一瞬の隙をついてキスしてきたりと言うショボいもので、最初の内はビクビクしていた俺も慣れて来てしまい、最後らへんは背後のオッサンの荒い息を無言で聞いているほど菩薩になってしまった。
そう言えば「ローター挿れられて半日過ごした三次元女子が、耐える内に振動に慣れてしまい最後は彼氏をガッカリさせないように演技してた」みたいな夢のない話があったが、実際あの状態になると辛いもんだな……。
いや、ブラックは満足してますし良いんですけど、俺は、ねえ。別に。
宿に帰った途端にハメられて何か色々凄い事言ってた気がしたけど、俺はホラ、そういうのには屈しない男だから。
イタズラされただけで真っ赤になってないし、あの、ほら、股間も大変な事になってないから! 現実って悲しいもんだから!
に、二回も中出しされたけど、気絶してないし。気絶してないって事はアレだ、俺は屈してなかったって事だよな! 外でちょっとえっちな触れ方されたからってそんな、あんあんらめえとか普通、いわねーよなあ! なっ!
言ってない。俺は言ってない。普通に終えました。おわり。この話終わり!!
……とは言っても、視察はまだ続く訳で……当初は三日ぐらいを予定してたんだが、なんと困った事に村人達が二日ばかり延長を申し出て来たのだ。
それを聞いた時、俺は「無理」と思っ……いや、思ってない。思ってないし、勉強熱心なのはとてもいい事で、俺達としては地元愛を燃え上がらせた村人達を応援するべきであって……だから、結局延長を聞き入れるしかなくて……。
……いや、違う。喜んで受け入れたんだ。
ほら、あの、地獄エリアとかじっくり見た方が良いし、紫狼の宿の施設もちゃんと研究して、おもてなしの心って奴を勉強しなければ…………。
………………。
う……うう、嘘です。マジで困ってます。二日も延長されて困ってます……。
だって。だって……明日終わりだから我慢出来ると思ってたのに、一日中えっちなイタズラされたって必死で頑張ってたのに、あと二日もとか無理だってばあ!
三日目……悪戯が始まって二日目……の時なんて、食事中にちょっと手を洗いに行ったらトイレに連れ込まれて、壁ドンされながら滅茶苦茶キスされまくったし、相変わらず後ろから抱き付いて来たと思ったら、ベストの中に手を突っ込んできてち、乳首いじってくるし……。
幸い、ブラックが露骨に抱き着いて来てる方がインパクトが強いせいで、周りは俺が“ブラックに抱き着かれて赤面してる”と思ってくれているが、しかしこんな事がいつまでも隠せる訳がない。
何より……イタズラされる回数が増す度に、どんどん過激になってて、その……トイレで密着されてキスされた時だって、ブラックも興奮して俺を煽るようにぐいぐいとテントを張った股間を……ああもうそれは良い、良いんだってば!
と、とにかく困る。ヤバいんだって。
三日目の夜なんてもう俺ブラックの部屋に連れ込まれた後の記憶が全くないし、このまま残り二日も休みも無しにえっちするなんて、俺マジで壊れちゃうよ……。
そりゃ、俺が気絶したってブラックが後処理してくれるし、回復薬で腰の痛みとか以外は完治しちゃうから弊害は少ないけど、でも……その……。
ま、毎日されることなんて、無かったから……体が、変というか……。
しかもここの所ずっと、えっちしてない時もちょいちょい体を触られるから、体がなんか、び、敏感になりすぎてて……ああもうだから二日延長なんて無理なんだってば! 俺は変態でも淫乱でもないし、こんなの毎日されたら、その、そりゃ敏感にもなるし!? 俺だって健全な男子だし、触られたら反応ぐらいは……でもやっぱ、腹の下の所がきゅうって熱くなるのはおかしいような……。
…………どうしよう……ほんとにインランとかになったら……。
実際あれってどういう感じなんだ? 俺は男だけど、エロ漫画とかみたいに、常にブラックが欲しいって思っちゃうようになるのかな。
でも俺は我慢出来てるし、違うよな。インランになんて、なってないよな?
だ、だって今も、別にえっちな気分になってないし!
今日はその、ロスタイム一日目だけど、朝からブラックも何もしてきてないし!
まあそりゃそうだよな。今日みんなでやって来たのは、人が多い観光名所なんだ。いくらブラックが俺にイタズラしたくても、こんな場所では捗るまい!
それにホッとしてる内は、多分……だいじょうぶだよな?
……ホントは、朝からちょっと下半身が変だけど……それは、まあ、昨日の夜にまたシたから、その名残が残ってるだけだと思うし……。
と、とにかく、俺は正常だ、ノーマルなんだ。
ブラックのイタズラを避けられている今の内に、なんとかして理由を付けて日中のスケベ行為だけでも回数を減らさせねば……!
夜は、まあ……仕方ないし……約束しちゃったし……。
本気で嫌なら突っぱねられたんだけど、それが出来てたらこんな風になってないんだよなあ。……なんで拒否できねんだろうなあ、俺……。
今までの事をぼんやり考えていると、前方で名所を説明しているヒルダさんの声が聞こえてきた。
「…………と言う訳で、このイスタ火山の鉱泉を利用する事になったのです」
「ほぉお……火山と言う物は火を噴く恐ろしい存在だと聞いておりましたが、そのような恩恵もあったのですね……こればかりはどこも真似できませんなあ」
村長さんと村人二人は、案内人のヒルダさんに最前列で付いて行きながら、ほうほうと何度も頷いて話を聞いている。
ラスターも相変わらず勉強熱心なのか、罪獄の原の風景を矯めつ眇めつと言った様子で見ながらも、ヒルダさんの話に耳を傾け軽く頷いていた。
……みんな真面目だな……つーか俺が駄目だな。ブラックが真面目に人の話を聞いてない以上、片割れの俺が真面目にならなきゃ駄目じゃん。
いかんいかん、色欲に呑まれてはいかんのだ。
俺だってトランクルを立て直す役目を担ってるんだ、ちゃんと話を聞かねば!
つまんなそうに俺の隣にいるブラックを見て、今回は確実に悪戯のタイミングを失っていると確信する。よし、これなら今日は無事に済みそうだ! 尻以外!
そうとなったら俺も会話に参加しようか……と、思ったのだが。
「づがざ……はだがまがりぞうら゛……」
横から鼻が詰まってるような声を掛けられて、俺は反射的にそっちを振り向く。
そこには……とても辛そうな顔で鼻をつまんでいるクロウの姿が……。
「あ……。く、クロウ、そっかお前鼻……! うわーごめん! お前こういうのは苦手だったよねえええ!」
うわあそうだった! クロウは獣人だから嗅覚が尋常じゃないくらい発達してるんだったー! そんな種族を硫黄だかなんだかの臭いが充満してる所に連れて来たら駄目じゃん! ぎゃーごめんクロウうっかりしてたー!!
ああああ青い顔して鼻を抑えてるし本当ごめん我慢してたよねええええ。
「ああああ鼻が! クロウの鼻が曲がっちゃう!! ブラックちょっと、クロウを休憩できるところに連れてってやってよ!」
「なんで僕が」
「真面目に話を聞いてねえんだから、ちったあ役立て!!」
お前本当ここに来てやってる事と言えば、俺にイタズラするか落ちこむかメシ食ってサカってるかだからな!?
別にどこかに逃げようって訳でもないんだから、それくらいは協力しろ。
怒りながらそう言うと、ブラックも流石に何もしてない自分が不甲斐ないと思ったのか、渋々と言った様子でクロウを引き摺って行った。
なんか連行してるみたいだったけど、まあちゃんと連れてったので良かろう。
「どうしたツカサ、むさいオッサンどもが消えたが」
「あ、ラスター……いや、ちょっとクロウの鼻が大変な事になっちゃったからさ」
オッサン二人が移動した事に気付いたのか、ラスターが不思議そうな顔をして近寄ってくる。しかし俺の説明を聞いて納得したのか、そう言えばそうだったなと片眉を顰めた。
「そうか、獣人は嗅覚が鋭すぎる人種だったな……。あの不潔中年に比べたら、熊の方は中々見どころが有ったが……所詮は下等人種か」
「いや、普通は凄いと思うんだけど……」
まあラスター的には自分がヒエラルキーの頂点だし、悪気ゼロで人を見下してるから、そう言うのは仕方ないのかもしれんが……普通は凄い特技ですよ、アレ。
でも弱点と言われるとそうではあるから、何とも言えない所だなあ。
「みなさん、次に進みましょうか……あら? ブラックさん達は……?」
説明を終えたヒルダさんもやっとこちらの状況に気付いたのか、あらあらと焦っていたが、俺の説明を聞いて納得してもらった。
人数が欠けてしまったけれど、順路の途中でいつまでも立ち止まっていても他のお客さんの邪魔になるので、俺達は再び移動する事にした。
「……それにしても、大盛況だなあ」
改めて周囲を見回して、俺は呟く。
ゴシキ温泉郷の生命線とも言える、曜気を含んだ鉱泉を生み出すイスタ火山の地獄――【罪獄の原】は、今日も今日とて人でごった返している。
少しお高いまんじゅう屋台も健在で、紙袋代わりの葉っぱで包んで、観光客にせっせと名物を渡していた。
俺の世界では珍しいと言う程でも無い光景だったが、しかしこの世界ではやはり特殊だろう。ただの自然物の名所にこれだけ人が集まるってのは、大自然に囲まれている世界では稀だろうしな。
まったく、異世界の眼鏡冒険者はよくやったもんだよ。羨ましい。
温泉をみつけて、日本の温泉を模倣するだけでコレだもんなあ。
はあ、俺もテルマエなんとかみたいな称賛を受けてみてえもんだわ。
そんな風にうらやむ俺の考えを読み取るように、隣を歩くラスターが俺の呟きに言葉を返してきた。
「大盛況、か……。しかし、ただ熱湯を讃えた湖が一つあるだけでは、ここまで人を呼べなかっただろうな。罪獄の原という恐ろしい名前が付いているが、人の目を楽しませる程度に多様な源泉が有ると言う所が人気の要因なのだろう」
「うーん、確かに……色がついてるすっごい臭いの源泉もあれば、凄く透明で綺麗な水たまりっぽい所もあるもんな」
順路も半ばを過ぎ、そろそろ折り返し地点だと言う所で、俺が以前見かけたその“透明な水たまり”が見えてきた。
ブラックと前にデー……うん、ええと……散歩しに来た時に、流し見程度で見た物だったんだけど、その中でもあの水たまりは妙に頭の中に残っていた。
色々な地獄があったんだけど、アレだけは沸騰してなかったし……しかも、なんか周囲まで綺麗だったんだよな。
“透明な水たまり”に近付いて、みんなで柵越しに少し遠いその名所を見てみると、相変わらずその不思議な水たまりは泡を立てる事も無く静まり返っていた。
「おお、やっぱ綺麗だな……」
俺と同じように感嘆の声を上げて例の水たまりを見やる村人達に、ヒルダさんは微笑みながら再び説明をしてくれた。
「あの水たまりのような物は、ある結晶の泉なのですよ。……ほら、フチに水晶のような小さなモノが出来ているでしょう? あの結晶は液体として湧き出て来て、冷えると個体に変わると言う珍しいものなのです」
「ほう……」
液体から個体に変化……って、わりとよく有る現象だと思うんだが、この世界はファンタジーだし俺の世界とは微妙にモノの挙動が違うんだっけか。
曜気とかっていう謎パワーも存在してるしな。でも、常温で結晶化ってすごい。
「なんの結晶なんですか?」
思わずヒルダさんに訊くと、彼女はニッコリと笑って答えてくれた。
「あれは、【ハクバン】と言うものですわ。あの結晶はとても有用な物で、貴族は制汗剤として利用したり、他では皮をなめすのに使われています」
ほう。ハクバン。
皮をなめしたり、制汗剤に使ったりするって事は……もしかして、それって……ミョウバンみたいな物なのかな?
いやだってほら、温泉つったら湯の花が付き物だし、湯の花にはミョウバンが含まれてて、温泉地では今でもミョウバンを作ってるって言うじゃん。
アレも確か、なめし剤とか制汗剤に使われてたよな?
だとしたら……これは、使えるかも……!
「ヒルダさん、あのハクバンって……俺達でも買えますか?」
「ええ、まあ採取しやすいだけで、別段特別な物ではないので……トランクル村の為になるのなら、喜んでお譲り致しますが……しかし、どうなさったのです?」
「アレがあったら……新たな名物が作れるんですよ!」
そう、このゴシキ温泉郷の真似ではない、新しい名物が!
思わぬ所で良い材料を見つけたとはしゃぐ俺だったが、ラスターたちは俺がハクバンで何をするのか解らないようで、それぞれ首を傾げていた。
→
※次はエロです。ツカサがちょっとノリノリです(やむをえず)
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