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受験勉強ラストスパートと、ゲン担ぎのトンカツ②

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 コウキを見送り、店の扉に休憩の札を下げる。

「さて今日のお昼は、受験が近いから験担げんかつぎにトンカツを作りましょう」
「今からだと時間がかかりません?」
「大丈夫よ。昨日の夜のうちに下ごしらえはすんでいるから、揚げるだけ」

 歩は室温にしておいた一口カツのタッパを開いてみせる。
 ブタのヒレ肉に塩こしょうをし、火が通りやすいよう切れ込みを入れてから衣をつけた。

 油を温めている間にどんぶりの準備をする。

「アリスちゃん、お味噌汁作ってくれる? アリスちゃんの好きなのでいいから」
「わかった」

 アリスも冷蔵庫の中を確認して、小鍋に湯を沸かす。
 手のひらの上で豆腐をさいの目に切り、お湯の中にそっと落とす。乾燥ワカメを少し入れて、出汁と味噌で味つけをして火を止める。

「はい、歩さんできたよ」
「ありがと、カツも今揚がったところよ」

 トンカツに千切りキャベツを添えて、豆腐の味噌汁と白ご飯。たくあんも添える。
 手を合わせていただきます。

「あちちち、はふ、おいし-。天ぷらの時も思ったけど、歩さんって揚げ物もすごく上手だね。料理人みたい」
「ふふふ。そうでしょう。定食屋でバイトしたのが効いてるわね」
「定食屋さん?」
「そう。初斗が大学の時に定食屋でバイトしていたんだけどね、アタシも調理補助でその店のお世話になっていたときがあるの。海外に渡るにも渡航資金貯めないとでしょう?」
「なるほどー」

 無一文で飛行機に乗れるほど世の中甘くはない。
 歩はバイトで渡航費を貯めたら海外に渡り、向こうで半年から一年バイトしながら暮らし、日本に帰国したらまた別の国に渡るための資金を貯める。

「って、初田先生って定食屋でバイトしていたの? 見た目は、オシャレなバーでバーテンダーしてそうなのに」
「顔だけならオシャレ系だけどね、初斗ってお酒嫌いなのよ」
「意外」
「お酒の臭いも嫌いだから、バレンタインにチョコボンボンなんてもらおうものならその場で突っ返していたわ」

 初斗は嫌いなものは嫌いだと、相手が誰であろうとキッパリハッキリ言ってしまうたちだ。
 想いを込めて贈った女性たちは、乙女心がズタボロ。

「歩さんはチョコを突っ返したりしないですよね……」
「アタシはお酒好きだもの。チョコボンボンなら喜んでもらうわねぇ」
「そう、ですか」

 アリスは「歩はお酒のチョコが好き」と脳内に書き留めた。
 受験も近いけど、バレンタインも近い。

(友チョコとか、職場の人に贈るのって普通にあるし、うん、不自然じゃないよね)

 なぜ自分にそんなことを言い聞かせているのか分からないけれど、アリスは翌日、仕事が休みなのでネルと一緒にチョコレートフェアに向かうのだった。
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