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第三章

3-27 軍師 VS 策略家

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「ベーカーの奴が馬車で逃げた事は先ほどユーリが話したとおりだ…。」

 伯爵が重い口を割り、滔滔(とうとう)と話し始めた。

 彼らが発見されたのが、ここから南西に20㎞行ったところにある廃村。
廃村の奥には森が広がっていることから、その森を抜けていく算段だったのだろう。
 
 発見者は冒険者グループ。
残党狩りの最中、オークに支配された村を発見。複数パーティーで挑みオークを討伐したとの事。
村の入り口付近に設置してあった木杭には、四肢をもがれた村人の死体が尻から口に向け刺さっており、その中にベーカーも同じように四肢をもがれた状態で突き刺さっており、子飼いの冒険者も同じ状態だったようだ。
 村の中の家屋からは村人の女性が発見され、家屋の一つからはベーカーの妻とアシェリー、冒険者と使用人が発見された。
 女性らは、ある者は家屋の中で天井から吊り下げられ、またある者はテーブルであったと思われるものに縛られ、またある者は逆さに吊るされた上、ある部分に殺した冒険者から奪ったであろう剣や杖がささった状態で、長時間弄ばれ犯され続けたのではないかといった状態で発見された。
 魔獣に襲われ弄ばれた女性は、世間的には既に死んだものと認定されていることから、慣例に従い精神が崩壊してしまっている者は、その場で死亡させたと報告があったようだ。
 なお、精神が崩壊していない女性は、女性の同意を得た上で、神殿(神聖魔法)で子宮を無くし、死ぬまで神殿内で細々と奉仕活動を行うといった噂があるようだが、真実は定かではない。
今回は生きている者が居なかった、それだけの報告であった。
 何故死亡させるのかについては、人道的な話で済ましている。因みにオークは雌が少なく子孫を残すために他種の雌の身体を宿主とするそうだ。

 実際に現地を見ていないことに安堵した。
見ていたら、おそらくキラキラをいっぱい出していたと思う。
それを簡潔に、淡々と話してくれた伯爵に感謝したい。

「分かりました。報いと言えば報いですが、本来であれば、法の裁きを受けるべきでしたね。」
「そうだな。でも、起きてしまったことは仕方がない。これでご破算という事だ。」
「そうですね。」
「それと、奴がしこたま貯めこんでいた金貨などが付近で見つかったのだが…、額が額なので、冒険者も驚いてたそうだ。」
「そうですか。ご参考までにどれくらいため込んでいたんでしょうかね。」
「金貨3,000枚だ。」

 どんだけ貯め込んでたんだ。

「で、その金はどうするのですか?」
「流石に討伐した冒険者にすべて渡すことができないな。まぁ、ギルドの金をネコババしているという事だから、ギルドに返すのが筋だが、今あのギルドは止まっているからな。」
「では、クーパーさん預かりにすれば良いのではないでしょうか。彼であれば時間は少しかかりますが、何とかしてくれると思います。それに、ギルドスタッフにはシーラさん他、優秀なスタッフがいますからね。」
「分かった。そう指示しておく。」

 まぁ、いくら個人であっても組織で起こしたチョンボは組織で尻をぬぐえって事ですからね。
可愛そうですが、これが現実です。

さて、頭もすっきりしたので、今後の事について参謀のユーリ様を交えてお話しした方が良いかな、と思っていた矢先、バスチャンさんがディートリヒが到着したとの報告があった。
俺は、申し訳ないがまだ身体が思うように動かないので、奥様もこの場に同席していただくよう伯爵にお願いした。

「全員お揃いです。」

汗まみれになったディートリヒが口火を切った。

「皆さん、また来ていただき申し訳ありません。先ずは自分が持っている肉類ですが…おそらくこの場で出すことができないくらいあります。」

皆が目を丸くする。

「ざっとですが、このバッグの中にオークが200㎏、バジリスクが80kgあります。それに今回のスタンピードでの肉類の合計が…」
「400㎏です。」

ディートリヒが即答する。

「ありがとう。で、合計680kgありますので、すべて提供します。」
「あ、お、に、ニノマエ氏、お主本気か?」
「あ、ごめんなさい。バジリスクジャイアントの残り80kgは伯爵様にお渡ししますね。」
「お前…、そんなので良いのか? 680㎏も売れば相当な額になるぞ。」
「そうかもしれませんが、市民の飢えの方が問題ですよ。」
「主の考えが読めん…。ユーリ、対応を頼む。」

あ、伯爵さん、頭を抱えた…。考える事放棄しやがったな。なんだ、これからが面白いのに。
じゃぁ、ユーリ様と話を進めましょうか。

「分かりました、あなた。ではニノマエ様のお考えをお聞かせください。」
「ははは、お手柔らかにお願いしますね。
 では、この肉と伯爵様が保持している小麦を拠出していただきます。
 そうですね。期日は明後日、シェルフールの街をあげて大慰霊祭を行いましょう。」
「大慰霊祭ですか?」
「そうです。伯爵様の館の手前にある広場と教会を利用することはできますか?」
「伯爵名であれば可能でしょう。」
「では、お触れを出して明後日の昼の刻を過ぎた頃から慰霊祭を教会で行います。
準備は午前中かければ問題ないでしょう。
その広場で大食事会を開催し、一般解放します。そうですね、参加費は家を潰されてしまった方や財産を無くされた方は無料、それ以外の方は銅貨5枚、成人前の子どもは銅貨2枚の参加費をいただきましょう。飲料は各自持参で酒も自由とするってのでどうですか。」
「そうしますと、金貨15枚くらいの収入が出ます。」
「流石ユーリ様です。で、その収益金の中からご家族を亡くされた方に、領主名で見舞金をお渡しください。その残金を先ずは小麦を提供していただいた分として伯爵様に納めていただきます。そうですね。今後のこともありますので、今ある小麦の1.5倍を保管できるようにしておくと良いでしょう。」
「備蓄を増やすということですね。」
「そうです。」
「しかし、小麦はあってもパンが焼けません。」
「そこは、パンというものではなく自分がお教えする方法で焼いていただきます。自分の村ではそれを“お好み焼き”と呼んでいます。例えば各自で野菜などを細切りにしたものを持ってきてもらい、その野菜と一緒に焼いたものを食べるというものです。
 あとは、串焼きも食べることができれば良いですね。」
「“おこのみやき”とはどういったモノなのか想像がつきませんが、なかなか面白そうなお話しですね。」
「その大慰霊祭を領主さま主催で進めます。
もちろん、各ギルドにも参加してもらいます。商業ギルドは作り手を拠出、鍛冶ギルドは鉄板と足場、錬金ギルドはハーブ系、香辛料系の素材の提供。冒険者ギルドは・・・呼び込みと人員整理で如何でしょうか?」
「とても良い案ですね。あと慰霊祭ですから教会も噛ませましょう。」

 なんだかユーリ様と話をしていると、トントン拍子に決まっていく。
伯爵なんて蚊帳の外だ…。ティエラ様とディートリヒは、俺の姿を見て何やらヒソヒソと赤面しながら話をしている。
さて、伯爵を一人にしておけないので、詳細は商業ギルドで調整できるようにしておく。メインは商業ギルドが動くのが良いだろう。それにとっておきの秘策をギルドに教えるつもりだから。
これに食いつかない人は、商業ギルドに所属する価値が無い!とも言えるものだ。
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