上 下
68 / 318
第三章

3-28 調味料革命

しおりを挟む
「では伯爵、話がまとまりましたので、少し実演しますか。
ディートリヒ、すまないが肩をかしてくれないか?」
「はい。カズ様。」

 お、ディーさん、今まで赤面してた顔が仕事モードに変わっている。

「ティエラ様、お加減は大丈夫ですか?」
「はい。少し力が出てきましたので大丈夫です。」
「では、もう少しだけお付き合いください。
伯爵様、厨房をお借りしてもよろしいでしょうか?」
「もちろん構わんが、主は何をしようとしているんだ。」

伯爵さま…、今まで、ユーリ様と話していたことで何も考えてなかったか…?
肉、小麦粉、実演と厨房という言葉が出れば察するだろうに…。残念なヒトだ。
ユーリ様、ティエラ様はもちろんご理解なさっており、どんなものができるのか、既に目をキラキラ輝かせている。
うん、伯爵は食わせないでおこうか。

 ディートリヒに肩をかりて、厨房まで移動する。
厨房に居た料理人とメイドは、いきなり伯爵が入って来たことで、座っていた椅子から20㎝くらい浮いていた。
 理由を説明し、小麦粉を水で溶きオークの肉をスライスする。あとは厨房にあるキャベツに似た野菜を千切りにし、タネに肉と野菜をぶっこみ、かき混ぜる。
お好み焼きの作り方はいろいろあるようだが、これまでの世界では全部具材をぶっ込み、それをグチャグチャに混ぜたものを焼いていた。
 腕力が必要だったので、それは料理人にやってもらった。
フライパンを温め油をなじませ、グチャグチャになったものを薄く延ばし焼いていく。

 当然、グチャグチャになったものを見た伯爵は、『うわ、ゲロ…』と小声で言っていたようだがそれは無視する。味付けは料理人に聞くと塩と高価ではあるが胡椒も少しあるという事で、塩を胡椒を少々振って、焼いたものを小分けにし、先ずは伯爵に試食してもらう。

「のう、ニノマエ氏、確かに香ばしくもあり、腹も膨れるとは思うが、いささか味気がないの。」

 皆も試食する。やはり物足りない。

「そうなのです。これはまだ完成途中なのですよ。」
「こら!完成途中のモノを食わせるとは、主は何を考えておるのだ?」
「あ、今のままでも食べることはできますので問題ありません。
ですが、やはり味にパンチが効いていません。ですので、これからとっておきの秘策を作ります。」

 そこで俺は、料理人さんに頼み、館にある野菜を見せてもらい、トマトに似たもの、セロリ、玉葱、ニンジンのような野菜を選び鍋の中に入れ煮込む。
煮込んだ後、塩、砂糖、香辛料、ワインを入れ、味を調整する。
 ただ、これを煮込むのには時間がかかるので、内緒で付与魔法をかけ熟成を付ける。
流石にもとの調味料を知っているので、簡単にイメージができる。それにラベルには“超熟成”とか書いてあったからな…。
その間、2,3枚お好み焼きを焼いてもらっている。
大体ソースも出来たであろうタイミングで、皆を呼び、フライパンの上にソースを塗る。
すると、香ばしくも食欲をそそる匂いが厨房を蹂躙した。

「これは…」
「主、何をした…」
「この匂いは…」

 そうです。ウスターソースを焦がした匂いです。嗅覚を魅了するんです。
あの食欲をそそる凶暴かつ残虐な大怪獣。これを君臨させた。

 料理人もメイドもこちらを向いてる。
料理人さん、涎が出ていますよ。

「では、こちらをお召し上がりください。」

 俺はウスターソースを塗って焼いたお好み焼きを小口に切り分け、皆に振る舞う。
最初に匂いを嗅いだ伯爵は恐る恐る口に入れる…、とその瞬間、咀嚼を激しくし一気に飲み込んだ。
次なる得物を狙っている。
奥様方も同じだった。
あの…ディーさんや…、一緒に参戦してはいけません…。
厨房はさながら戦場と化した…。

「どうでしょうか?」
「これはいけます、売れますよ。」
「肉だけとはキツいですが、私もこれなら食べることもできます。」
「そうだな。これは美味い。主よ、もう一枚所望する。それと、子どもたちを即刻呼んで来い!皆で食事会だ。」

 さらに、もうひと手間加えて、皆を降参させましょうかね。

「さらにもう一つ、手間を加えればこのお好み焼きは完成しますが、いかがしますか?」
「まだあるのか?」
「是非(お願いします)。」

満場一致です。

卵と油、塩、砂糖、酢に胡椒、そして辛みをつけるための香辛料。
これを一気にかき混ぜる。勿論攪拌は料理人にやってもらう。
はい、即席マヨネーズです。一晩寝かせないとコクが出ないけど、これはこれでいける。
本当はもっとおいしい作り方があるのだけど、それは今後のために取っておこう。

「黒色というか茶色というか、その色と白色が綺麗ですね。」
「少し酸っぱさもありますが、それが美味しいです。」
「上手いぞ。おかわりだ!」

 ガツガツいってます。
次のターゲットを狙う皆の目が怖い…、そろそろ血を見るのか…、殺気もある…。

 数刻後、お腹がパンパンに膨れ上がった伯爵は、ダイニングルームでお茶を飲みながら悦に浸っている。ユーリ様に至っては既にこれを売り出す“試算”という世界に入っている。
ティエラ様とディートリヒは相変わらず、赤面しながらきゃいのきゃいの話してる。

 おそらくユーリ様は気づかれていると思うので、敢えてユーリ様にふってみた。

「ユーリ様、いかがでしたか?これであれば、商業ギルドが飛びつくと思いますが。」
「まさしく、ニノマエ様がおっしゃる通りになりますわね。
しかし、よろしいのですか? このようなレシピをギルドに教えることは世界中に広まることになりますわよ。」
「もちろん、それで構いませんよ。食が豊かになれば、食べる事が楽しくなります。食べることが楽しくなれば、健康にもなりますし体力もつきます。ティエラ様にとっても良いことです。
それに、このレシピはあくまでも基本形です。場所によってはいろんなヴァリエーションが生まれ、その土地土地でアレンジされたものができると思いますよ。
 これであれば、肉は少量でもお腹がいっぱいになりますし、元値を安くできますから。」
「流石、ニノマエ様です。
では、この2つのレシピについては、私、ユーリが責任をもって商業ギルドと掛け合います。勿論、悪いようにはいたしません。」
「そうか、では、儂は錬金ギルドと鍛冶ギルドに早急にモノの提供を依頼しよう。
あとは、冒険者ギルドか…。直接クーパーを呼び、人員整理をするよう依頼するか…。」
「お願いします。それと、このソースは野菜を煮込めば煮込むほどコクが出ておいしくなります。食堂などでそれぞれ作っていただいたものを持ち込んでいただくことで効率化が図れます。
あ、それと冒険者ギルドへの依頼は冒険者は含まないでください。あくまでもギルド職員のみで対応すべしと依頼をお願いします。」
「そうだな。冒険者は本当に一生懸命やってくれたからな。感謝している。」

「あとは…そうだ。主にもう一つお礼を言わねばならぬな。」
「ん?何かいたしましたか?」
「あぁ、主が放った魔法だが…、」

 うわ、ヤバい。何も考えずに撃ったから、どうなっているのか分からない…。
まさか、農作物がダメになったから、その分弁償しろとかいうんじゃないだろうな…。

「この街に新しい産業を生み出してくれたこと、感謝する。」
「は? 今、何て?」
「いや、だから新しい産業をと、」
「新しい産業って、何ですか?」
「そりゃ、硝子だよ。硝子細工だ。」

まったくイメージがわきません。
何故、硝子細工が新しい産業に?
俺が腑に落ちない、産業まで行きついていない事を察し、ユーリ様が助け舟を出してくださった。

「ニノマエ様、ニノマエ様が放たれた魔法は土地を焼いたのです。焼いただけではなく土の中にあったモノが混ざり透明なガラスが出来上がったのです。
これまでガラスは王都のみで作られており非常に高価なものだったのですが、それがあの一面で採れるようになったのです。
 そのガラスを利用して、今鍛冶ギルドでどのような商品を生産できるのか思案中なのですよ。」

 え、なんだって?ガラス?

 そんなもの何でできるんだ?
確かガラスって、ケイシャとソーダ灰と石灰から作られるんだっけ?
珪石、塩、石灰か…、そうすると土の中から塩や石鹸の成分も取り出せる訳か…。
もう一つが高熱だ。土を焼いたとか言ってたが、どろどろに溶けたってことだろうか?
罪悪感があるから、見たくないなぁ…。と思い『すみません。』と謝っていた。

やっちゃった感が強い…。
これが、文化が作られたって事なんだろうか…。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【R18】散らされて

月島れいわ
恋愛
風邪を引いて寝ていた夜。 いきなり黒い袋を頭に被せられ四肢を拘束された。 抵抗する間もなく躰を開かされた鞠花。 絶望の果てに待っていたのは更なる絶望だった……

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

【R18】僕の筆おろし日記(高校生の僕は親友の家で彼の母親と倫ならぬ禁断の行為を…初体験の相手は美しい人妻だった)

幻田恋人
恋愛
 夏休みも終盤に入って、僕は親友の家で一緒に宿題をする事になった。  でも、その家には僕が以前から大人の女性として憧れていた親友の母親で、とても魅力的な人妻の小百合がいた。  親友のいない家の中で僕と小百合の二人だけの時間が始まる。  童貞の僕は小百合の美しさに圧倒され、次第に彼女との濃厚な大人の関係に陥っていく。  許されるはずのない、男子高校生の僕と親友の母親との倫を外れた禁断の愛欲の行為が親友の家で展開されていく…  僕はもう我慢の限界を超えてしまった… 早く小百合さんの中に…

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

チョロイン2人がオイルマッサージ店でNTR快楽堕ちするまで【完結】

白金犬
ファンタジー
幼馴染同士パーティーを組んで冒険者として生計を立てている2人、シルフィとアステリアは王都でのクエストに一区切りをつけたところだった。 故郷の村へ馬車が出るまで王都に滞在する彼女らは、今流行りのオイルマッサージ店の無料チケットを偶然手に入れる。 好奇心旺盛なシルフィは物珍しさから、故郷に恋人が待っているアステリアは彼のためにも綺麗になりたいという乙女心からそのマッサージ店へ向かうことに。 しかしそこで待っていたのは、真面目な冒険者2人を快楽を貪る雌へと変貌させる、甘くてドロドロとした淫猥な施術だった。 シルフィとアステリアは故郷に戻ることも忘れてーー ★登場人物紹介★ ・シルフィ ファイターとして前衛を支える元気っ子。 元気活発で天真爛漫なその性格で相棒のアステリアを引っ張っていく。 特定の相手がいたことはないが、人知れず恋に恋い焦がれている。 ・アステリア(アスティ) ヒーラーとして前衛で戦うシルフィを支える少女。 真面目で誠実。優しい性格で、誰に対しても物腰が柔らかい。 シルフィと他にもう1人いる幼馴染が恋人で、故郷の村で待っている。 ・イケメン施術師 大人気オイルマッサージ店の受付兼施術師。 腕の良さとその甘いマスクから女性客のリピート必至である。 アステリアの最初の施術を担当。 ・肥満施術師 大人気オイルマッサージ店の知らざれる裏の施術師。 見た目が醜悪で女性には生理的に受け付けられないような容姿のためか表に出てくることはないが、彼の施術を受けたことがある女性客のリピート指名率は90%を超えるという。 シルフィの最初の施術を担当。 ・アルバード シルフィ、アステリアの幼馴染。 アステリアの恋人で、故郷の村で彼女らを待っている。

【R-18】悪役令嬢ですが、罠に嵌まって張型つき木馬に跨がる事になりました!

臣桜
恋愛
悪役令嬢エトラは、王女と聖女とお茶会をしたあと、真っ白な空間にいた。 そこには張型のついた木馬があり『ご自由に跨がってください。絶頂すれば元の世界に戻れます』の文字が……。 ※ムーンライトノベルズ様にも重複投稿しています ※表紙はニジジャーニーで生成しました

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

隣の席の女の子がエッチだったのでおっぱい揉んでみたら発情されました

ねんごろ
恋愛
隣の女の子がエッチすぎて、思わず授業中に胸を揉んでしまったら…… という、とんでもないお話を書きました。 ぜひ読んでください。

処理中です...