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第三章

3-3 ディートリヒ無双②

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「はい!」

 ディートリヒは構える。
索敵で相手の距離を測る。
およそ45m、向かって来ないって事は、まだこちらに気づいていないようだ。

 静かに足音を立てないように近づく。
距離30m…、白い奴を肉眼でしっかりと捉えた。魔銃20%の出力で照準を定め先ずは一発。
「パシュッ」
瞬時に一匹の頭が吹っ飛ぶ。
俺は続けざまに2発撃ち、ディートリヒの方を見る。
 
「いくぞ。」
「はい。」

 ディートリヒも準備ができており、二人で前方に走り出した。

 残り4体となった白い奴は、1体の頭が吹っ飛んだ時には何処から攻撃されたのか分からず、キョロキョロしていたが、2回目の弾道の軌道で俺たちの場所を知る。
しかし、軌道を確認できたのは3体だけで、既に1体は腹に風穴を開けられ絶命していた。

 白い奴3体と俺たちとの距離は20mを切る。
俺はここで光輪3つを3体に投げつける。

「当たれー!」

 3つの光輪は、回転しながら3体に向かっていく。
身の危険を察したか、3体とも立ち止まり、武器を身体の前にし防御姿勢をとる。
が、光輪は無残にも白い奴を武器ごと切り付けた。

 一番近かった一体は武器、腕、身体の順番に真っ二つになった。
次の一体は、武器と両腕が切り落とされ、胴体まで傷を負った。
最後の一体は武器と利き腕が切り落とされた。

 もう一体くらい殺っておいた方がよかったか?と思った矢先、ディートリヒが前に飛び出す。
先ずは、利き腕がなくなった白い奴に狙いをつける。
利き腕を無くした白い奴はもう一方の腕で横殴りする。
ディートリヒは屈みこみ、空ぶって半身になった白い奴に向かい、下段からフランベルグを切り上げ、殴り損なった腕を切断する。瞬時に剣を中断に戻し胸を刺突した。
白い奴は、吐血したものをディートリヒにぶちまけて絶命した。

 刹那、ディートリヒは絶命した白い奴から離れ、今度は両腕が無くなった白い奴に向かっていく。
 正気に戻った白い奴ではあるが、両腕が無くなったため闇雲に腕を動かしているだけである。
ディートリヒは白い奴の腕の合間をかいくぐり、胸を一突きし絶命させた。
この間、わずか十数秒のことであった。

 流石騎士だ、殺れると確実に判断できる相手ではなく、まだ攻撃が出せる敵を最初に殺し、自分たちの安全を確保する…。

 お互いがお互いの攻撃に驚いていた。

「ディートリヒさん…」
「ご主人さま…」
「すごいよ!(すばらしいです!)」

 なんかハモっていた。
同時の声にびっくりしたものの、二人とも次の瞬間笑っていた。

「ディートリヒ、すごいな。」
「ご主人様こそ、すごいです。」

お互いがお互いを褒めている。

「ところで、ご主人様」
「ん、何だ?」
「あの武器は一体なんですか? 鉄の道具から魔法が打ち出された感覚がありました。」
「あれか。自分のマナを魔力弾として撃ち出す、そんな感じの魔銃だ。」
「そうですか…。初めて見ました。それに、光の輪ですか、あの威力も凄まじいです。」
「なんだか、いつもより強力だった気がするね。それよりもディートリヒの剣捌きがすごくて見えなかったよ。」
「いえ、まだまだ全盛期には達しておりません。」
「そうなのか。でも近接であれだけ動ければ凄いと思うんだけどね。
 あ、そうだ。剣の切れ味とか問題なかった?」
「はい。この剣の凄さでしょうか、何かスパンと切れる感じがしました。」

という事はあのバフは何らかの効果があったのかもしれないな。
経験値というか実績についてはよく分からないので、しばらくは様子見だな…。
俺は、ディートリヒにクリーンをかけ、素材の剥ぎ取りをしようと白い奴の方に向かう。

「やはり…。」

そこには、白い奴の亡骸ではなく、奴らがドロップしたと思われる魔石と素材が落ちていた。

「もう、ここまで来ているのか…。」

 先日、採取した時は、もう少し奥だったはず。
今日、ドロップした場所を考えると、数日のうちに5㎞以上街に近づいているとみていい。

 ただ、この案件はコックスさんのいる“風の砦”に任せている。

「ご主人様…」
「ん?どうした?」
「素晴らしく怖い顔をしておられますよ。」
「お、ごめんこめん。んじゃ、薬草を採取するから、周囲をよろしくね。」
「分かりました。」

 我に返り、先ずは薬草を採取し始める。

 本日の依頼分以上を集めることができた。
後はギルドに報告し、宿に戻るだけだ。

「なぁ、ディートリヒ?」
「はい。なんでしょうか?」
「スタンピードって知ってるか?」
「はい。ダンジョンから魔物があふれ出してくることですね。」
「あれは、どれくらい危険なんだ。」
「湧き出てくる魔物の数にも依るかと。」
「つまり、数が増えれば危険度が高まるって事か。」
「そうです。私が読んだ記録では、過去1万匹以上のスタンピードが起きた事もあったそうです。」
「そうか…。何事もなきゃいいんだけどな…。」
「はい。私もそう思います。」

 二人の会話は少し重かった。

 街に戻り、ギルドに依頼達成と素材の買取をお願いする。
今回の依頼達成で、晴れてDランクに上がった。
ディートリヒはびっくりしていたが、依頼回数の勝利だ、とこれまでの薬草依頼の回数を伝えると、妙に納得と感心していた。

 今回は、ディートリヒの無双で49体の魔物を倒したと報告し、素材の買取を依頼した。
受付は、俺を見るのではなく、ディートリヒの出で立ちを見て、流石に弱者ではないと悟ったのか、すべての買取に応じてくれた。勿論、安く叩かれた結果ではあるが、アイテムボックスの肥やしにしておくこともできないから…。

 宿屋に戻り、ディートリヒと食事をとる。
今日の成果とお互いがお互いを褒めあうといった、甘ったるい会話であったが、彼女の戦闘スタイルも理解できた。勿論、飛び道具のような俺のスタイルも理解してくれたと思う。
 部屋に戻りしなに、イヴァンさんにお湯を頼む。
勿論、俺用ではなく、ディートリヒ用だ。

 その件に関し、またディートリヒと無限ループの押し問答があったことは言うまでもない。
しかし、こちらの方が上だよ。何せ主人ですからね。

 ディートリヒは少し不満げな顔をするも、湯浴みができることが嬉しいのだろう、眼から嬉しいビームが出ています。

 俺はディートリヒが湯浴みしている間、1階の食堂に居るから後で呼びに来てくれと伝ると、食堂に向かいハーブティーを飲む。そして、いつものごとく考えを巡らしながら自分の世界にトリップする。

 何がきっかけとなったのかは覚えていないが、湯浴みのことを考えていた。
お湯をもらうのにわざわざ1階から持ってくるのも億劫だ。
であれば、いっその事自分の魔法でお湯が出せないか?
もし出すことができれば、たらいではなく、浴槽のようなものをアイテムボックスに入れて持ち歩けばいつでもどこでも入ることはできるよな…。

 そうすると露天風呂になるか…。
俺はいいが、ディートリヒはダメだな。
なら、囲うか? ディグは掘る、バックフィルは埋め戻す、んじゃ、壁を作るのはウォールか?
今度、試してみるか?
 後は、何とか石鹸とシャンプー、リンスが欲しいところだな。俺は石鹸で大丈夫だが、流石に女性は…。
まぁ、石鹸はこの世界にもあるってことだから、製法は確立されているんだろう。
では、作ってみるか?

 完全にニノマエ・ワールドの中に没頭し、目の前に湯浴みを終えたディートリヒが居る事すら目に入っていない状況を作り出していた。

 その夜、たらいに入った冷めたお湯を見つめながら、ディートリヒにこんこんと説教された。
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