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第三章
3-4 魔モノに魅了される
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ディートリヒとパーティーを組んで一週間が過ぎた。
声をかけなくてもお互いの動きが手に取るように分かるようになった。
『いくぞ』の一声でバフもかかるようになった。
そのほかの魔法も、イメージするのが早くなったのか、それとも慣れたのかは分からないが、最初の魔法よりも早く発動できるようになったと思う。
そして、何よりも進歩したのが、壁魔法のウォールとお湯を出せるようになったことだ。
ウォールは壁をイメージできたので早かったが、お湯を出すのには少々手間取った。
そもそもお湯とは何か。
そこからイメージしなければいけなかった。一発でお湯が出ると思っていた俺は甘かった…。
イメージで、水の球体に火魔法を当てるイメージだが、これがなかなか難しい。
どれくらいの水量でどのくらいの火をぶち込むか…温度管理が非常に難しい。
そう!魔法は練習です!練習あるのみです! と、自分に言い聞かせて何度も試行錯誤した。
マナを枯渇しながら、時には沸騰、時には水が出てくる魔法を何度も繰り返し行き着いた結果、水400リットルに対しドッジボール大の火球をぶち当てるといったイメージを描き、ようやく適温となる40℃のお湯を作ることに成功した。
多分、もっと楽な方法があったとは思うが、文系のおっさんです…。
生活に必要な事以外、すっかり忘れています…。
さて今日は、街の雑貨屋に寄って念願の風呂桶を手に入れる日だ。
ディートリヒには何も告げていない。
サプライズ的なものにしたかったので、雑貨屋には俺一人で来ている。
多分、今の俺は薄ら笑いをした、だらしのない顔をしているのだろう。
「おやっさーん。頼んでおいたものできてるかい?」
「おう!できてるぞ。裏に回ってくれ。」
俺は雑貨店の裏手に回る。
木枠で出来た大きなたらい…、つまり、風呂桶だ!
1.5m×1.0m×45㎝。一人で入るのに十分な大きさの風呂桶だ。
何故もっと大きいのを作らなかったのか…それは予算がありませんでした。
このサイズでも大銀貨10枚だったんです。勿論、特注品です。
「あんた、これ持って帰れるのか?」
「あ、大丈夫です。内緒ですけど、アイテムボックス持ってますので。」
「ははは。そりゃよかった。このまま置かれたらどうしようかと思ってたからな。」
俺は、雑貨屋のおやっさんに大銀貨10枚を渡す。
「毎度ありー。」
おやっさんは店の方に戻っていく。
さてと、この風呂桶を俺のアイテムボックスの中に入れる。お、入ったよ。
よし、それじゃ、この世界で初めてのお風呂に入りに行きましょうか!
早速、ディートリヒと合流して出発しましょう。
街を出て森に入り、小川が流れている地点まで行く。
「よし、この辺でいいかな?」
俺は早速、さっき購入した風呂桶を出す。もちろん水抜き栓は小川の方に向けて設置する。
足場を整え、風呂桶の周りに2mくらいの高さの壁を作る。
「ウォール」
「ウォール」
「ウォール」
小川に面した部分だけ空いている。まぁ、こんなもんか。
ディートリヒは、これが何かを理解したらしく、目をキラキラ輝かせているよ。
さて、次は練習しまくった“お湯”だ。
これくらいの風呂桶なら400リットルで十分だ。
水400リットルの球体を風呂桶の上にイメージし、そこにドッジボール大の火球をぶち込むようなイメージでお湯ができるよう念じる。
「ホットウォーター」
そう掛け声をかけると、目の前に大きな水が浮かんだ。
よし!これを風呂桶の中に落とす…。
バシャーン
お風呂にお湯が入りました。
恐る恐る水の中に手をいれると…、完璧! 適温です。
俺はサムズアップし、ディートリヒに笑顔を向ける。
何故、英語で叫ぶのか。
なんというか、あくまでもノリです。だって「お湯~!」と叫びながらお湯を出すのと、「ホットウォーター」と言ってお湯を出すのとでは、何となく前者はしまりが悪いと思っただけです…。はい。
「ディートリヒ!やったぞ。」
「ご主人様、流石です。」
さて、念願のお風呂タイムだ!
「入る順番は俺が決める!」
「はい。ご主人様。」
いつもは、ご主人様が先だとか言うディートリヒではあるが、これまでの間、お風呂という存在の素晴らしさを滔滔(とうとう)と語って来た成果だ。一種のサブリミナル効果を植え付けたのだ。
衣を脱げば王様も貴族も奴隷も皆一緒で上下もない。
お風呂は正義なのだ。
風呂はヒトを魅了する。
いろいろな言葉で熱く語ったよ…。
ディートリヒさんを一番風呂、俺が二番風呂にする…。
おっさん、一番風呂は湯が固くて、どうしてもしっくりこないんだよね…。
決して若い女性が入った後のお風呂に入りたいという邪な気持ちではないんです。
・
・
・
「はぁー。ご主人様、お風呂というものはこんなに気持ち良いものなんですね。」
「そうだ。ディートリヒよ。何度も言うが、お風呂は正義なんだよ。」
「ふふふ、正義なんですね。」
「そうだ、正義だ。」
「川のせせらぎの音を聞きながら、ゆっくりできることは最高ですね。」
「そうだ。今は3方壁で囲われているが、壁が無い“露天風呂”というものもあるぞ。それに魔法でお湯を作らなくても良い“温泉”というものもある。」
「“ろてんぶろ”に“おんせん”ですか。いつか入りたいですね。」
「そうだな。いつか入ろうな。」
俺はこれまでの索敵魔法の練習の成果からか、常時魔法をかけている状態にすることができるようになっていた。勿論索敵にかけるマナの消費量も減ってきたと思う。
この周辺にはイヤな感覚はない。今は安全ではあるが、万が一ということもあるので、見張りが必要なのだ。
「ご主人様、お湯をいただきました。ありがとうございました。」
おう!んじゃ、次は俺だ。
「んじゃ、入ってくるから、周囲の見張りよろしくね。」
「かしこまりました。」
俺は衣服を脱ぎ、湯船に浸かる。
「あ″―――――極楽、極楽…。」
この世界に来て、お風呂の大切さを身に染みて感じた。
やはり、疲れた身体にはお風呂が一番だ。
「ご主人様…。」
「ん?どうした?」
あかん。完全に意識が飛びそうになってた。
「もし、よろしければ、肩でも揉みましょうか。」
「いえ、間に合ってますよ。」
そうです。お風呂は正義なのです。俺の正義を貫くんです。
「でも、もうここに居ますので…。」
おうふ!ディートリヒさん、何故ここに居るんだ?
「あれ?何でここに?」
「先ほどから居ましたが、ご主人様が違う世界?でしたか? そこに行かれていらっしゃったので。」
あかんよ。おっさん、これでも男だよ。
「ディートリヒ、周囲はどうなっている?」
「ご主人様の索敵魔法の方が、私が見回るよりもはるかに優秀です。今周囲に変化はありますか?」
「いえ、何もありません…。」
「そうですね。なので、私もここに居させてもらっています。」
ありゃ…、俺、いつの間にかマウント取られていました…。
「あの、ディートリヒ。おっさんも男だから、こんなのはいかんよ。」
「いえ、大丈夫です。私はご主人様の奴隷ですから。肩揉みもさせていただきます。」
まぁ、彼女服着てるし、俺が風呂桶の際に背中を付ければ肩くらいは揉めるか。
「それじゃ、肩揉みをお願いします。」
「分かりました。ご主人様。それでは準備いたします。」
ん?何か変だぞ?俺の背中の方で、何やらガサゴソと音がする。
シュルっという音がした後、背後に冷たい感触を感じる。
「えと…、ディートリヒさんや…、いったい何をしようとしているのかな?」
「はい。ご主人様の肩をお揉みしようと私も湯船に入りましたが。」
「いえいえ、そうではなく、自分が風呂の際まで移動するから、そこで肩を揉んでくれればいいんだよ。」
「はい、でも既に湯船に入りかけていますので…。」
あちゃ…既成事実か…。
俺、2週間以上お風呂入っていなかったから、お風呂に魅了されていたよ。完全に理性なくしてる…。というより、お風呂が気持ち良すぎて思考回路は回っていないんだ。
「んじゃ、しょうがないか…。」
お風呂という魔モノに襲われた俺だった…。
街に戻る時、ディートリヒからは、
「また、お風呂にはいりましょうね。」と言われ、赤面してしまった事は胸に潜めておこう。
声をかけなくてもお互いの動きが手に取るように分かるようになった。
『いくぞ』の一声でバフもかかるようになった。
そのほかの魔法も、イメージするのが早くなったのか、それとも慣れたのかは分からないが、最初の魔法よりも早く発動できるようになったと思う。
そして、何よりも進歩したのが、壁魔法のウォールとお湯を出せるようになったことだ。
ウォールは壁をイメージできたので早かったが、お湯を出すのには少々手間取った。
そもそもお湯とは何か。
そこからイメージしなければいけなかった。一発でお湯が出ると思っていた俺は甘かった…。
イメージで、水の球体に火魔法を当てるイメージだが、これがなかなか難しい。
どれくらいの水量でどのくらいの火をぶち込むか…温度管理が非常に難しい。
そう!魔法は練習です!練習あるのみです! と、自分に言い聞かせて何度も試行錯誤した。
マナを枯渇しながら、時には沸騰、時には水が出てくる魔法を何度も繰り返し行き着いた結果、水400リットルに対しドッジボール大の火球をぶち当てるといったイメージを描き、ようやく適温となる40℃のお湯を作ることに成功した。
多分、もっと楽な方法があったとは思うが、文系のおっさんです…。
生活に必要な事以外、すっかり忘れています…。
さて今日は、街の雑貨屋に寄って念願の風呂桶を手に入れる日だ。
ディートリヒには何も告げていない。
サプライズ的なものにしたかったので、雑貨屋には俺一人で来ている。
多分、今の俺は薄ら笑いをした、だらしのない顔をしているのだろう。
「おやっさーん。頼んでおいたものできてるかい?」
「おう!できてるぞ。裏に回ってくれ。」
俺は雑貨店の裏手に回る。
木枠で出来た大きなたらい…、つまり、風呂桶だ!
1.5m×1.0m×45㎝。一人で入るのに十分な大きさの風呂桶だ。
何故もっと大きいのを作らなかったのか…それは予算がありませんでした。
このサイズでも大銀貨10枚だったんです。勿論、特注品です。
「あんた、これ持って帰れるのか?」
「あ、大丈夫です。内緒ですけど、アイテムボックス持ってますので。」
「ははは。そりゃよかった。このまま置かれたらどうしようかと思ってたからな。」
俺は、雑貨屋のおやっさんに大銀貨10枚を渡す。
「毎度ありー。」
おやっさんは店の方に戻っていく。
さてと、この風呂桶を俺のアイテムボックスの中に入れる。お、入ったよ。
よし、それじゃ、この世界で初めてのお風呂に入りに行きましょうか!
早速、ディートリヒと合流して出発しましょう。
街を出て森に入り、小川が流れている地点まで行く。
「よし、この辺でいいかな?」
俺は早速、さっき購入した風呂桶を出す。もちろん水抜き栓は小川の方に向けて設置する。
足場を整え、風呂桶の周りに2mくらいの高さの壁を作る。
「ウォール」
「ウォール」
「ウォール」
小川に面した部分だけ空いている。まぁ、こんなもんか。
ディートリヒは、これが何かを理解したらしく、目をキラキラ輝かせているよ。
さて、次は練習しまくった“お湯”だ。
これくらいの風呂桶なら400リットルで十分だ。
水400リットルの球体を風呂桶の上にイメージし、そこにドッジボール大の火球をぶち込むようなイメージでお湯ができるよう念じる。
「ホットウォーター」
そう掛け声をかけると、目の前に大きな水が浮かんだ。
よし!これを風呂桶の中に落とす…。
バシャーン
お風呂にお湯が入りました。
恐る恐る水の中に手をいれると…、完璧! 適温です。
俺はサムズアップし、ディートリヒに笑顔を向ける。
何故、英語で叫ぶのか。
なんというか、あくまでもノリです。だって「お湯~!」と叫びながらお湯を出すのと、「ホットウォーター」と言ってお湯を出すのとでは、何となく前者はしまりが悪いと思っただけです…。はい。
「ディートリヒ!やったぞ。」
「ご主人様、流石です。」
さて、念願のお風呂タイムだ!
「入る順番は俺が決める!」
「はい。ご主人様。」
いつもは、ご主人様が先だとか言うディートリヒではあるが、これまでの間、お風呂という存在の素晴らしさを滔滔(とうとう)と語って来た成果だ。一種のサブリミナル効果を植え付けたのだ。
衣を脱げば王様も貴族も奴隷も皆一緒で上下もない。
お風呂は正義なのだ。
風呂はヒトを魅了する。
いろいろな言葉で熱く語ったよ…。
ディートリヒさんを一番風呂、俺が二番風呂にする…。
おっさん、一番風呂は湯が固くて、どうしてもしっくりこないんだよね…。
決して若い女性が入った後のお風呂に入りたいという邪な気持ちではないんです。
・
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「はぁー。ご主人様、お風呂というものはこんなに気持ち良いものなんですね。」
「そうだ。ディートリヒよ。何度も言うが、お風呂は正義なんだよ。」
「ふふふ、正義なんですね。」
「そうだ、正義だ。」
「川のせせらぎの音を聞きながら、ゆっくりできることは最高ですね。」
「そうだ。今は3方壁で囲われているが、壁が無い“露天風呂”というものもあるぞ。それに魔法でお湯を作らなくても良い“温泉”というものもある。」
「“ろてんぶろ”に“おんせん”ですか。いつか入りたいですね。」
「そうだな。いつか入ろうな。」
俺はこれまでの索敵魔法の練習の成果からか、常時魔法をかけている状態にすることができるようになっていた。勿論索敵にかけるマナの消費量も減ってきたと思う。
この周辺にはイヤな感覚はない。今は安全ではあるが、万が一ということもあるので、見張りが必要なのだ。
「ご主人様、お湯をいただきました。ありがとうございました。」
おう!んじゃ、次は俺だ。
「んじゃ、入ってくるから、周囲の見張りよろしくね。」
「かしこまりました。」
俺は衣服を脱ぎ、湯船に浸かる。
「あ″―――――極楽、極楽…。」
この世界に来て、お風呂の大切さを身に染みて感じた。
やはり、疲れた身体にはお風呂が一番だ。
「ご主人様…。」
「ん?どうした?」
あかん。完全に意識が飛びそうになってた。
「もし、よろしければ、肩でも揉みましょうか。」
「いえ、間に合ってますよ。」
そうです。お風呂は正義なのです。俺の正義を貫くんです。
「でも、もうここに居ますので…。」
おうふ!ディートリヒさん、何故ここに居るんだ?
「あれ?何でここに?」
「先ほどから居ましたが、ご主人様が違う世界?でしたか? そこに行かれていらっしゃったので。」
あかんよ。おっさん、これでも男だよ。
「ディートリヒ、周囲はどうなっている?」
「ご主人様の索敵魔法の方が、私が見回るよりもはるかに優秀です。今周囲に変化はありますか?」
「いえ、何もありません…。」
「そうですね。なので、私もここに居させてもらっています。」
ありゃ…、俺、いつの間にかマウント取られていました…。
「あの、ディートリヒ。おっさんも男だから、こんなのはいかんよ。」
「いえ、大丈夫です。私はご主人様の奴隷ですから。肩揉みもさせていただきます。」
まぁ、彼女服着てるし、俺が風呂桶の際に背中を付ければ肩くらいは揉めるか。
「それじゃ、肩揉みをお願いします。」
「分かりました。ご主人様。それでは準備いたします。」
ん?何か変だぞ?俺の背中の方で、何やらガサゴソと音がする。
シュルっという音がした後、背後に冷たい感触を感じる。
「えと…、ディートリヒさんや…、いったい何をしようとしているのかな?」
「はい。ご主人様の肩をお揉みしようと私も湯船に入りましたが。」
「いえいえ、そうではなく、自分が風呂の際まで移動するから、そこで肩を揉んでくれればいいんだよ。」
「はい、でも既に湯船に入りかけていますので…。」
あちゃ…既成事実か…。
俺、2週間以上お風呂入っていなかったから、お風呂に魅了されていたよ。完全に理性なくしてる…。というより、お風呂が気持ち良すぎて思考回路は回っていないんだ。
「んじゃ、しょうがないか…。」
お風呂という魔モノに襲われた俺だった…。
街に戻る時、ディートリヒからは、
「また、お風呂にはいりましょうね。」と言われ、赤面してしまった事は胸に潜めておこう。
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