35 / 168
第二章 開業準備をする俺
35、帰宅
しおりを挟むセシノの家を出てシェイラと別れた俺たちは、とにかく必要な物を買いに走り回っていた。
もう時刻はすでに夕方、ダリノさんと話し込んでいたら思った以上に時間が無くなってしまったのだ。
「よし、今ので最後だな?」
「は、はい。本当ならバンさんの服はもっとじっくり見たかったのですけど……」
「どうせまたすぐに町には行くから大丈夫さ」
「え、バンさんまた外に出てくださるのですか?」
セシノは収納ボックスに入りきらなかった手荷物を驚きでドサドサっと落としてしまった。
俺はそれを拾ってあげながら、首を傾げる。
「いや、そんなに驚く事かな……でもさ、一度出たら二度も三度も同じ事だろって思ったんだよな」
「そうかもしれませんけど、でもバンさんにとっては大きな一歩ですね」
大きな一歩か……。
この調子でアンナもダンジョンに来てくれたらいいのになぁ~。
「とにかく今は早く俺たちの家に帰ろう? 明日からは忙しくなる。その前にセシノのために家を建て直さないとな……」
「た、建て直す??」
「ああ、そんな大変な事じゃないからな。今回はちゃんとスキルを使って作るから」
「そ、そんなスキルもあるんですね……」
「ダンジョンマスターになった特権ってやつだな」
俺は本当のダンジョンマスターじゃないから、軽くしか触れてこなかったけど、まあ家を建てるくらいならそんなに影響はないよな……?
そんな事を話しながら、待ち合わせのギルドまで着いた俺たちだったが、日が暮れてもマリーは戻って来なかった。
「来ませんねマリーさん」
「まあ、マリーの事だからなんか忙しいんだろう。そのうち帰ってくるだろうし、言われたとおり先に帰るか……」
「少し心配ですけど、マリーさんなら大丈夫ですよね?」
「ああ、それに帰ったらセシノは俺たちの仲間入りだからな、マリーには申し訳ないがそのためのパーティーを開かないとな!」
「……え?」
突然立ち止まったセシノに数歩先で気がついた俺は、どうしたのかと振り返った。
セシノの顔からは、涙が溢れていた。
「え? せ、セシノ……!?」
「す、すみません。凄く、嬉しくて……だってこんな幸せな事が続いて良いのかなって、これは夢なんじゃないかって……うぅ……」
「これは夢なんかじゃなくて現実だよ。だからセシノはもう苦しまなくてもいいんだ」
そう言ったのに泣き止まないセシノを見て、つい俺は頭をポンポンと撫でてしまい、しまったとすぐに手を離した。
前回あんなにも拒絶されたのだから嫌なはずだと思っていたけど、泣いているセシノは俺に何も言わなかった。
一応拒絶されなかった事に、少しでも信頼してもらえたのかなとホッとしながら、俺はセシノに言う。
「それに、パーティーはまだ始まってもないんだから、泣くのはまだ早いぞ!」
「た、確かにそうですよね……じゃあ急いで帰りましょう!」
「ああ!」
そう言って俺たちはギルドのダンジョン塔に足を踏み入れた。
来たときはちゃんと見れなかったけど、帰るときはゆっくりでも大丈夫だろうと、俺はキョロキョロと周りを見回していた。
今の気分は田舎から出てきたおのぼりさんである。
「へ~。この東部エリアのギルドに、今は13個もダンジョンボックスの転移ゲートがあるんだな。俺が冒険者やってたときはまだ10個しかなかったのに……」
「近年冒険者の人口が増えているようでして、ギルドが他所と共有で使うダンジョンボックスを増やしたそうですよ」
ダンジョンボックスは一応ギルドの所持物である。
そしてそのため転移ゲートは所持している所しか基本設置出来ない。しかし共同所持を認めた場合には複数の転移ゲートができる場合もあるのだ。
そのため他エリアへ移動するためにダンジョンに行く人も存在するらしい。
因みに『カルテットリバーサイド』はこの東エリアしか転移ゲートは存在しない。
だからもしアンナが他エリアのギルドに行っているのなら、こっちに戻ってきて貰わないといけないわけだ。そのためにダンジョンを観光地にして誘き寄せなくてはならない訳だけど、そのうちギルドに怒られそうだよな……。
そう思いため息をついたせいで、セシノに心配されてしまった。
「だ、大丈夫ですか? 流石にこの階段は疲れますよね」
確かにダンジョン棟はひたすら階段を上がって、目的の移転ゲートに向かう訳なんだけど『カルテットリバーサイド』のゲートは思ったよりも上の方にあった。
「いや、疲れた訳じゃないから大丈夫だよ。まあ俺の体力は確かに落ち始めてるけどさ。それにもう見えて来たみたいだから、あともう一息ってところかな?」
「本当ですね、あと少し頑張りましょう」
「でもよく考えたら、向こうに出てもマリーがいないから家までは歩きになると思うけど、セシノはまだ大丈夫なのか?」
「あ、はい。体力だけは自信がありますから」
「なら俺も、もう少し頑張るか」
そして俺たちは転移ゲートにたどり着くとその上に足を踏み入れた。
行きと同様、床には魔法陣が光輝いている。
一瞬の浮遊間の後、気がつけば俺は見慣れた森の中に帰ってきていて……。
「マスター、おかえり!!」
そして何故か目の前には、四足歩行型で待機しているフォグの姿があった。
「フォグ、もしかしてずっと待っててくれたのか?」
「いや少し前にマリーから通信が入ってさ、待ち合わせに間にあわないから代わりに迎えに行けって言われたんだぜ。それでここで待ってたんだ」
もしかして俺にも通信が来ていたのだろうか……全く気が付かなかったが、マリーには申し訳ないことをしてしまったな。
「わざわざ迎えに来てくれてありがとな、フォグ」
「フォグさん、ありがとうございます!」
「お、セシノもいるって事は許可が出たんだな。よかったぜ!」
「ああ、そうなんだよ!」
「でもマスターが、最初は乗り気じゃ無かったって聞いてたぜ? それなのに今じゃこんなに喜んでるんだからよくわからねぇぜ……」
そういえば俺は最初、セシノがここに残る事には反対していたんだった。
そう思ったら手のひらクルクル過ぎて恥ずかしくなってきた。
「い、いや……それは別にいいだろ? それよりも早く俺たちの家に帰ろう。今日からはセシノにとってもあそこが家だからな」
「はい!」
すぐに家の形は変えるだろうけど、それでもようやく家に帰ってきたのだと、俺は凄いホッとしたのだった。
そして着いた家の前では、アーゴとフラフも待っていてくれた。
「マスター、おかえり! 外、よかった?」
「フラフただいま。外は良くなかったよ……」
「マスター、オカエリナサイ。ダンジョン、ナニモナカッタ」
「アーゴもありがとな。何もなかったならそれが一番だよ、よかった……」
俺はダンジョンに問題が無かった事にホッとすると、今あるオンボロ小屋を改めて見た。
今日でこの家ともお別れだな。
「じゃあ、まずはセシノが安心して暮らせるように家の改造からだな」
俺は『ダンジョンリフォーム』を展開する。
「こ、これは……?」
「ああ、セシノは初めて見るよな。これはさっき話してたダンジョンマスター専用のスキルだ」
「じゃあ、これで家を建て直すのですか……?」
「そうなんだけど、俺もこれで家を建てた事が無くてな……」
俺は建物一覧を見ているが、どう見てもダンジョン用の建物ばかりある。
いや、ここはダンジョンなのだから当たり前なのだけど……迷宮や塔に洞窟。それに古城なんてのもあった。
だけど宿屋に適した建物は何度見ても見つからなかった。
0
あなたにおすすめの小説
異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました
雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。
気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。
剣も魔法も使えないユウにできるのは、
子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。
……のはずが、なぜか料理や家事といった
日常のことだけが、やたらとうまくいく。
無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。
個性豊かな子供たちに囲まれて、
ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。
やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、
孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。
戦わない、争わない。
ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。
ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、
やさしい異世界孤児院ファンタジー。
異世界で目覚めたら、もふもふ騎士団に保護されてました ~ちびっ子だけど、獣人たちの平穏のためお世話係がんばります!!~
ありぽん
ファンタジー
神のミスで命を落とした芽依は、お詫びとして大好きな異世界へ転生させてもらえることに。だが転生の際、またしても神のミスで、森の奥地に幼女の姿で送られてしまい。転生の反動で眠っていた瞳は、気づかないうちに魔獣たちに囲まれてしまう。
しかしそんな危機的状況の中、森を巡回していた、獣人だけで構成された獣騎士団が駆け付けてくれ、芽依はどうにかこの窮地を切り抜けることができたのだった。
やがて目を覚ました芽依は、初めは混乱したものの、すぐに現状を受け入れ。またその後、同じ種族の人間側で保護する案も出たが、ある事情により、芽依はそのまま獣騎士団の宿舎で暮らすことに。
そこで芽依は、助けてくれた獣騎士たちに恩を返すため、そして日々厳しい任務に向かう獣人たちが少しでも平穏に過ごせるようにと、お世話係を買って出る。
そんな芽依に、当初は不安だった獣人たちだったが、元気で明るい瞳の存在は、次第に獣人たちの力となっていくのだった。
これはちびっ子転生者の芽依が、獣人や魔獣たちのために奮闘し、癒しとなっていく。そんな、ほっこりまったり? な物語。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
戦場の英雄、上官の陰謀により死亡扱いにされ、故郷に帰ると許嫁は結婚していた。絶望の中、偶然助けた許嫁の娘に何故か求婚されることに
千石
ファンタジー
「絶対生きて帰ってくる。その時は結婚しよう」
「はい。あなたの帰りをいつまでも待ってます」
許嫁と涙ながらに約束をした20年後、英雄と呼ばれるまでになったルークだったが生還してみると死亡扱いにされていた。
許嫁は既に結婚しており、ルークは絶望の只中に。
上官の陰謀だと知ったルークは激怒し、殴ってしまう。
言い訳をする気もなかったため、全ての功績を抹消され、貰えるはずだった年金もパー。
絶望の中、偶然助けた子が許嫁の娘で、
「ルーク、あなたに惚れたわ。今すぐあたしと結婚しなさい!」
何故か求婚されることに。
困りながらも巻き込まれる騒動を通じて
ルークは失っていた日常を段々と取り戻していく。
こちらは他のウェブ小説にも投稿しております。
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる
仙道
ファンタジー
気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。 この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。 俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。 オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。 腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。 俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。 こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。
12/23 HOT男性向け1位
最愛の番に殺された獣王妃
望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。
彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。
手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。
聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。
哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて――
突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……?
「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」
謎の人物の言葉に、私が選択したのは――
追放されたので田舎でスローライフするはずが、いつの間にか最強領主になっていた件
言諮 アイ
ファンタジー
「お前のような無能はいらない!」
──そう言われ、レオンは王都から盛大に追放された。
だが彼は思った。
「やった!最高のスローライフの始まりだ!!」
そして辺境の村に移住し、畑を耕し、温泉を掘り当て、牧場を開き、ついでに商売を始めたら……
気づけば村が巨大都市になっていた。
農業改革を進めたら周囲の貴族が土下座し、交易を始めたら王国経済をぶっ壊し、温泉を作ったら各国の王族が観光に押し寄せる。
「俺はただ、のんびり暮らしたいだけなんだが……?」
一方、レオンを追放した王国は、バカ王のせいで経済崩壊&敵国に占領寸前!
慌てて「レオン様、助けてください!!」と泣きついてくるが……
「ん? ちょっと待て。俺に無能って言ったの、どこのどいつだっけ?」
もはや世界最強の領主となったレオンは、
「好き勝手やった報い? しらんな」と華麗にスルーし、
今日ものんびり温泉につかるのだった。
ついでに「真の愛」まで手に入れて、レオンの楽園ライフは続く──!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる