ダンジョンで温泉宿とモフモフライフをはじめましょう!〜置き去りにされて8年後、復讐心で観光地計画が止まらない〜

猪鹿蝶

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第二章 開業準備をする俺

36、歓迎会

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 ダンジョンリフォームで見ている建物はどう考えても宿屋として使いづらい上に、資材の数が圧倒的に足りない物ばかりで悩んでいた。

「バンさん、凄く渋い顔してますけど大丈夫ですか?」
「いや、余りにも宿に使えそうな建物がなくてだな……うーん、とりあえず家といえば家だしこれにしよう」

 そう思い選んだ建物は、コレを建てるのに必要な土地の面積に生えている木を伐採すれば、資材もなんとか足りるようだった。

「一旦この家を資材としてとりこむから、皆家から離れるぞ!」

 そして俺たちはその家から距離を取るため少し走ると、建築予定に使う範囲外まで出ていた。

「大体この辺なら大丈夫だろう。俺のオンボロ家よ、さらばだ!」

 俺は8年近く一緒に過ごした我が家に別れを告げて、回収ボタンを押した。
 するとシュポンっと言う音と共に、その場はただの更地になったのが遠くから見えた。

「あぁ……バンさんの思い出の家が……」
「いいんだ、あの家には嫌な事の方が多かったから、だから新しい家では良いことが増えるように頑張ろうな!」
「は、はい。私も頑張ります」
「よし、ならば新しい家をお披露目しよう!」

 俺は新しく建てる建物を選んで意気揚々と建築ボタンを押した。
 その瞬間、当たりは光に包まれた。

「うおっ! ま、眩しいんだが!!?」
「こ、ここは本当に安全なんですか?」
「いや、そのはずだけど……」

 少し自信は無いが、間違いなく選択範囲外にいる筈だ。
 そう思っている間に、徐々に光りは収まっていった。

「あー、ようやく光が収まったかな? セシノ、折角だからせーので目を開けるぞ!!」
「は、はい」
「せーのっ!!」

 目を開けた俺たちの目の前には、大きな4階建ての洋館がそこには建っていた。
 その洋館は多分ダンジョンに相応しくできているため、どこか古ぼけた恐怖を煽るような作りになっていて、絶対幽霊とか出て来そうなやつだと思ってしまった。

「えっと、宿というよりはお屋敷って感じですね……」
「やっぱりそう思う? しかもこれ改修しないと危ない奴だよな」
「ええ、そうですね」

 とりあえず俺はダンジョンリフォームの改修ページを確認する。
 今ある資材では一階部分しか改修出来なさそうだけど、今日使うのはそこだけだからとりあえずは良いだろう。

「今日は一階だけ改修するよ。どうせ宿泊施設は二階以降になるから、だいぶ変えないといけないしな……ああ、明日から資材集めしないと……」
「マスター! それぐらいなら俺たちでもできるし、他の奴らにも手伝わせるからあっという間だと思うぜ!」
「フォグ……ありがとうな! よし、それなら一階の改修をパパっと終わらせるから待っててくれ」

 俺は今、最低限できる範囲の改修ボタンを次から次へと押していく。
 とりあえず、俺とセシノの部屋は両端に設置する事にした。これだけ離れていればきっとセシノも安心だろう。

「よし! 出来たから、今日買ってきた荷物を運び込むぞ。それと俺はご飯の準備するから、セシノは今のうちに自分の部屋に物を全部置いてくるといい。部屋は一階の正面からみて左側の一番奥にある部屋だから、あとフォグは荷物運ぶの手伝ってやってくれ」
「はい、わかりました。フォグさんこれ、よろしくお願いします」
「ああ、任せろ!」

 二人が奥の部屋に入って行くのを見送りながら、俺は不思議な事に気がついた。
 この洋館どうやって灯りがついてるんだ? よくわからないけど、暗くなくてよかった。
 そう思いながら俺もキッチンに向かう。

「アーゴとフラフは、予定してた通りダイニングの飾り付けを頼んだぞ?」
「任せて! ボク、いっぱい頑張る!」
「オレ、イッパイ、カザル。マカセロ」

 そう言いながら二体はダイニングの飾り付けを始めた。
 俺はその奥のキッチンに向かいながら、玄関ホールの横にも食堂が必要だよな。
 なんて、これからのことを考えてしまったのだ。
 そして俺は料理を作り始めることにした。
 今日作るのは以前セシノに行った通り、俺の故郷の味という奴だ。

「調味料を買ってきてもらったから、色々作れるな」

 俺はウキウキとジャガイモを潰し始めたのだった。
 そして出来た料理は、ジャガイモがパンケーキのようになっている『ドラニキ』という料理と、ジャガイモのスープ。そしてジャガイモを使ったサラダ。
 そしてメインは、ジャガイモと牛乳を混ぜ、そこに炒めた食材を加えて釜戸で焼いた『バプカ』と呼ばれてる料理だ。

「ここの施設に釜戸があってよかった。あとはじっくり焼いたら完成だな……」
「マスター、準備終わった。どうする?」

 疲れた体を伸ばすようにほぐしていたら、フラフがフワフワとここまでやってきた。

「ああ、こっちももうすぐ終わるから一度そっちを見に行くよ」

 俺は立ち上がるとダイニングに移動する。
 そこには『ようこそカルテットリバーサイドへ! セシノ、これからよろしく!』と俺が書いた大きな布が上に吊るされていた。
 そして周りにはお花が沢山かざられていた。
 コイツらには朝から綺麗な花を探すようにと、お願いしておいたのでコレはその成果だろう。

「うん、凄く可愛く出来たな!」

 きっとマリーがいたら沢山ダメ出しを食らっていたところだったけど、まだまだ帰ってこなさそうなのでコレで行くしか無いだろう。

「じゃあ、フラフはセシノを呼んできて貰えるか? アーゴは俺と料理を運ぶのを手伝ってくれ」
「はーい、ボク行ってくるー」
「マスター、オレ、テツダウ」

 そして俺たちはセシノが戻ってくるまでに、どうにか食事を並べ終えることができた。
 本当にギリギリだったようで、もう廊下からはセシノたちの足音が近づいてきていた。
 俺は扉が開くのをじっと待つ。

「す、すみません遅くなりまし……た?」
「セシノ! カルテットリバーサイドへようこそ!! これからよろしく頼む!!!」

 テンション爆上げで叫んだ俺とは対称的にセシノは、ポカンと固まってしまった。

「せ、セシノ? セシノさーん?? ほ、ほら今日からここで一緒に頑張る仲間なんだから、そのお祝いだよ??」
「…………う……」
「う?」
「嬉しい、です……パーティーしてもらえるとは聞いてたけど、こんなにちゃんと準備してもらえるなんて思ってなくて……やっぱり、また泣いちゃいました」

 そう言って涙がでているセシノの顔は笑顔で、それが嬉し涙だとすぐにわかり俺はホッとしてしまう。

「よし、今日は朝までお祭りだ!! 二人分にしては作り過ぎたけどドンドン食べてくれよ?」
「は、はい! あの、これってもしかして……」
「ああ、セシノに食べて欲しい俺の故郷の味ってやつだ。ただ、味が合わなかったら悪いな。でも足りない調味料はこっちにある物で補ったりしたから、少し親しみのある味になってるはずだ」

 なんて話してる間にセシノはもうパクリとドラニキを口に入れていた。

「って、まだ話してる最中だし立ちながら食べるのは行儀が悪いから、まずは座りなさい」
「……美味しい、です!」
「え、そうか? ほら、他にもあるからもっと食べてくれ」

 セシノはまだ立ったままだったけど、褒められた事が嬉しくて俺はもうセシノの自由でいいかな、と何も言わない事にした。
 今はセシノが幸せそうにご飯を食べているのを見ているだけで俺は満足だ。
 そしてパーティーの時間はあっという間に過ぎて、疲れている俺たちはすぐに眠りについた。
 気がつけば『約束の腕輪』が取れていた事に俺は全く気がつかなかったのだった。
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