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第二章 開業準備をする俺

34、男たちの終わり(マリー視点)

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 ワシは捕まえた男を連れ出すために、マスターの姿を模していた。
 それはあの日、冒険者たちを追い出したときにマスターが着ていたダサい服までも完全に再現されていた。

「うむ。髪色はどうにもならぬが顔はお面で見えぬし、わからぬじゃろぅ。どうせ髪色の情報も出てはおらぬようじゃからのぅ」

 準備は出来たと、ワシは男たちを体に取り込んだまま兵の詰め所まで乗り込んだ。
 もちろん、話し方もあの時のマスターそっくりに話しかける。

「すまない、捕まえて欲しい奴らがいるんだがいいだろうか?」
「は、はい? どういうことでしょうか?」

 突然手ぶらで現れたワシを見て、詰め所にいる三人の兵は訝しげに首を傾げコソコソと話し合う。
 しかしワシの耳には全て聞こえているのじゃ。

「おい、また頭のおかしいお面の野郎が来たぜ?」
「これだから、ヒーロー気取りのお面集団には困ったもんだぜ……どうするんだよ?」
「はぁ、それじゃあ適当に話をして帰って貰うか……」

 どう考えても、この警備兵たちはワシの姿を見て偽物じゃと思っておるようなので、追い出される前にワシは声を発する。

「最近捕まったズーロウに関わっていたと思われる男を見つけたから連れてきた。男たちを出す前に、先に証拠品から提示させてもらう」

 ズーロウという名前にピクリと反応した兵は、突然驚いたようにこちらを見た。

「な、何!? 今、ズーロウの関係者だって!?」
「それは、本当でしょうか!!?」

 二人の兵は、椅子から立ち上がってワシの近くまで寄ってくる。
 あらかじめチンピラたちから奪っておいた、借用書と担保提供書を取り出す。
 そして担保提供書には、ワシが直接細工をほどこしておいたので準備はかんぺきじゃ。

「これはズーロウとその一味が協力して詐欺行為を行っていたという証拠だ」
「こ、これは!! 借用書の内容は確かに酷い詐欺だが……それよりもこの担保提供書には間違いなく、ズーロウの名前が書かれているな」

 兵に渡した書類は先程マスターが書いた物に間違いない。なのに何故ズーロウの名前に変わっていたのかといえば、ワシがマスターに渡したペンはワシの体から作り出した物だからじゃ。
 ようはそのインクはワシの一部であり、ワシの意思で自由に動かすことが簡単に出来るわけじゃ。
 それでマスターが書いた文字を浮かせ、全ての文字を並び替えて担保の内容やサインをズーロウの名前に書き換えた物が、今兵たちに渡った書類だった。

「これはとても重要な証拠品になります。ご協力ありがとうございました」
「それはいいのだが、被害者はどうなる?」
「この詐欺被害に遭われた方には後ほど事情を伺い、安心して暮らして頂けるように配慮致します。あの気になっていたのですが、捕まえたという方々はどちらにいるのでしょうか?」
「もし外で動けない状態で放置されていると言うなら、すぐに手配しますが?」
「大丈夫だ」

 そう言って、ワシはあたかもポケットから男たちを取り出したように偽装して、体内から男たちを床に放り出す。

「「「えええっ!!?」」」

 その様子に、兵たちは驚きの声を上げていた。
 そこには状況の理解で来ていないチンピラどもが澄んだ瞳で、互いを見つめ合ったまま座り込んでいた。

「あ、あれ、俺たち……」
「生きて……る?」
「すぐに縄を持ってこい!!」

 ハッと我に帰った一人の兵が、奥で待機していた男に声をかけると三人は慌ただしく駆け出し、ワシの前を行ったり来たりしはじめたのだ。
 そしてチンピラどもは抵抗をする事なくグルグル巻きにされ、連れて行かれるのをワシは見送っていた。

「俺たち、心を入れ替えて何でも話します!」
「今までの俺たちは、どうかしてたんです!!」

 そう叫び消えていくチンピラの声が聞こえたが、これなら取り調べも楽じゃろうとワシはここを後にしようとして、一人の兵に声をかけられた。

「あの、まさかあなたは噂の……」
「さて、どうだろうな。だが一つだけ言わせてもらうなら、平穏を脅かす奴には落とし前をつけてもらうだけだ」

 そう言うと、唖然とする兵たちを放置してワシはその場を後にしたのだった。
 しかしその後、ワシはすぐにマスターのもとに帰る事はなかった。
 マスターが町の人と関わると言う事は、もっとこちら側に関する情報を得なくてはならないと言う事にワシは気がついたのじゃった。
 別にマスターが心配とかそういうのではないのじゃ……!
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