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第12章 仲間
仲間Ⅲ
しおりを挟む二人の会話は長くは続かなかった。頷き合うと、スチュアートを真っ直ぐに見る。
「そのアイデア、乗った」
「叔父様……」
スチュアートはお父様に爽やかな笑顔を向ける。
「分かりました。お任せ下さい」
「ミエラの身の安全がかかってる。ミスは無いようにな」
「はい」
どうやら私にもようやく友達が出来るかもしれない。不安と期待が入り交じり、そっと胸を押さえた。
「リリーはおっとりした良い子だよ。ミエラとも直ぐ仲良くなれる筈だよ」
「うん」
クラウは私の頭を撫で、そっと微笑む。それが凄く心地良い。
「本当に仲が良いんだね。クローディオのそんな表情、初めて見た。貴重だよ」
声に振り向いてみると、スチュアートは目を丸くしている。
そんなに珍しいのだろうか。私にとってはいつもの優しい表情だから、良く分からない。
小首を傾げると、スチュアートは「あはは」と笑う。
「なんだか安心した。ミエラになら、クローディオを任せられそうだ」
言われ、クラウと私も笑い合う。
そこへお父様が「良し!」と声を上げた。
「キャシー、ミエラ、そろそろ席を外してくれないか? 私たちは仕事の話をしなくては」
「分かりました。ミエラ、立てそう?」
「はい」
そっと腰を上げると、足首の痛みは大分引いていた。
名残惜しくはあるけれど、立ち上がったお母様の後を追う。去り際にクラウとスチュアートに手を振られたので、私も手を振り返した。
「私は自室に行きますね」
扉の前でお母様も見送り、「ふぅ……」と息を吐く。
一時はどうなる事かと思った。上手く事が進みそうで良かった。
私も自室に戻ろう。前を向き、一歩踏み出そうとする。そこへ、
「お嬢様」
ルーナが何やら封筒を持ってやって来た。
「お手紙が二通届いています」
重ねられた封筒を丁寧に差し出してくる。それらを受け取ると、早速差出人の名前を見てみる。
「これは……」
一通はエメラルドに残してきたお母さん、もう一通はブラストン伯爵──アレクからだった。
何が書かれているのだろう。特にアレクの手紙が気になり過ぎる。
早足で部屋に辿り着くと、他に目もくれずソファーに座った。ルーナに封を開けてもらい、最初にお母さんからの手紙を広げる。
────────
ミエラへ
怪我の具合はどう? 少し良くなった?
お母さんは心配です。今すぐミエラに会いに行って、抱き締めてあげたい。
でも無理だから、手紙に思いの全てを託します。
どうか、ミエラが沢山の幸せに包まれますように。
カエラ・アークライトより
────────
短いながらも、愛情溢れる内容だ。
そっと便箋を折り畳み、次にアレクからの手紙を広げてみる。
────────
ミユへ
事件の事はクラウから聞いた。
大丈夫か? っつっても、大丈夫じゃねぇよな。
オレらが傍に居てやれれば良いんだけどよー、そんな訳にもいかねぇし。
ちゃんと食うもん食ってるか? 優しくしてもらってるか?
何かあったら、直ぐに手紙書いてくるんだぞ?
……なんか父親からの手紙みたいになっちまったな。オレらもそれだけ心配してるって事だ。
ミユは今でもオレらの仲間だ。気兼ねなく頼ってこい。
アレックス・ウィンスレットより
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「アレク……」
左手でそっと手紙を撫でる。その時、便箋が捲れて二枚目の便箋が現れた。
何だろう。好奇心いっぱいに二枚目の便箋を上に重ねた。
────────
ミユへ
久し振りだね。元気してた? って書きたかったけど、そんな筈無いよね。
折角、サファイアに慣れてきた頃にあんな事件があったんだもん。誰だって心折れちゃう。
でも、エメラルドに帰らなかったミユは凄いよ! あたしだったら、アレクに一緒にガーネットに帰ろうって頼んじゃいそう。
ミユはよく頑張ってる。
そうだ! あたしたち、猫を飼い始めたの。サラっていう茶トラの美人さんだよ。
使い魔と同じ名前にするなんて、ミユに笑われちゃいそう。だけどあたしたち、それ以外に名前思い付かなくて。そのままサラにしちゃった。
また手紙書くね。あたしたちの事も、サラの事も。
ミユとクラウからの手紙も待ってるからね。
フローリア・ウィンスレットより
────────
「フレア……」
エメラルドの家族も、アレクも、フレアも、皆が私の事を心配してくれている。なんて有難い事だろう。
ルーナに手紙を封筒の中に戻してもらい、先ずはお母さんに手紙の返事を書いてみる。
────────
お母さんへ
あんな事があったけど、今は元気にしてるよ。
左腕はまあまあかなぁ。感覚は有るけど、まだ力が入ってくれないんだ。
それでね? ルーゼンベルクの両親が私の為に犬を飼ってくれたの。茶色でハチワレの小さな可愛い犬だよ。名前はカイルっていうの。私の介助犬にしてくれるって、皆で一生懸命育ててる。
私はサファイアでも幸せ者だよ。私の事を思ってくれてありがとう。
お母さんにも沢山の幸せが降り注ぎますように。
ミエラ・アークライトより
────────
筆を置くと、書き終えた手紙をそのままルーナに預けた。ルーナはそれを慎重に折り畳み、紺色の封筒に入れる。
封蝋だけは自分でしっかりと押した。
アレクとフレアへの返事は、後でクラウと一緒に書こう。
裁縫道具を引っ張り出し、クラウへのプレゼントにするハンカチの仕上げに取り掛かる。
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