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第12章 仲間

仲間Ⅱ

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「いや、クローディオが珍しいんだよ。女性に興味無いなんて」

「そうかな。……でも」

 クラウは何故か私の顔を見て、そっと微笑む。

「俺はミエラと出逢えたから。ミエラさえ傍に居てくれるなら、他に贅沢は言わないよ」

 スチュアートは「ははっ」と小さく笑い、目を細める。

「エメラルドからどんな女性を連れてきたのかと思ったら、クローディオと同じ、元魔導師様、か。俺の知らない何かがあったんだろ?」

「うん、沢山ね」

 言葉では表せない程に、本当に沢山の事があった。
 魔導師だった頃の事を思い出しながら、私もクラウに微笑み返す。

「でも、何でエメラルドに逃げ帰ったなんてデマを?」

「ミエラを守る為だよ。公表もしないまんま俺の傍に居たんじゃ、また狙われるかもしれないから」

「そっか……」

 スチュアートは真顔になり、私の顔をまじまじと見る。そして、深々と頭を下げた。

「ミエラ、クローディオ、今回は勝手な行動を取ってしまって申し訳無かった」

 そんな態度を取られると、なんだか此方まで申し訳無くなってくる。

「あ、あの、頭を上げて下さい!」

「悪気があった訳じゃないし、誰にも言わないなら許す」

 私の配慮は何だったのだろう。クラウの物凄い上から目線な発言に言葉が出ない。
 それをスチュアートは気にも留めなかったのだろう。

「ああ、義両親にも言わないよ。ただ……」

「ん?」

 頭をすっと上げ、スチュアートはにこりと笑う。

「リリーには伝えさせて欲しい」

 リリーとは誰だろう。考えても分からないのに、頭の中で思考を巡らせる。
 一方で、クラウは首を横に振る。

「リリーも駄目だよ。マーガレットも居るし、うっかり他の夫人や令嬢に漏らしでもしたら──」

「良く言い聞かせるから」

「うーん……」

 困り顔で考えても結論は出なかったのだろう。クラウは少し身体の向きを変える。

「取り敢えず、リビング行かない?」

「そうだね」

 スチュアートも同意し、私たちは廊下を後にした。
 リビングの扉を開けると、そこには険しい顔をしたお父様とお母様が鎮座していた。なんともいたたまれない気持ちになる。
 それはスチュアートも同じだったのだろう。

「叔父様、叔母様、申し訳ありません」

 クラウが私をソファーの上に降ろすと、先程同様に深々と頭を下げる。

「まあ、起きてしまったものは仕方無い。これからの事を話し合おう」

「スチュアート、頭を上げて。貴方もこっちにいらっしゃい?」

「はい」

 ゆっくりと頭を上げたスチュアートはスタスタと移動し、角を持って座る。それを確認したルーナはカイルをケージの中へと入れた。

「ミエラ、怪我したの?」

「はい、ちょっと足首捻っちゃって……」

「あら、いけない! ルーナ!」

 ルーナはお母様に返事をすると、要件も聞かずに氷水の入った水嚢を持ってきてくれた。「失礼致します」と告げると、私のドレスの裾を少しだけたくし上げ、左足首に水嚢を押し当てる。
 冷たくて気持ち良い。熱を持っていた左足首は急激に冷まされていった。

「それで、だ。ミエラの事は……」

 お父様は手を組み合わせ、スチュアートを鋭い目で見る。

「他言無用で頼む」

「それはクローディオにも言ったんですが、リリーにだけ、この事を伝えさせて下さい」

「何故、リリーに?」

「ミエラにはルーゼンベルクの者だけではなく、外にも味方が必要だと思うんです。それも、立場が対等か、それ以上の者が。リリーが適切ではありませんか?」

 お父様は「うーん……」と唸り、考え込む。

「ねえ、クローディオ」

「……ん?」

 話の内容についていけず、クラウに耳打ちをしてみる。

「リリーって?」

「アイリンドル公爵の令嬢で、スチュアートの結婚相手だよ」

 成程、ようやく理解出来た。
 スチュアートはお父様に畳み掛ける。

「クローディオとの婚約発表の時、どのようにミエラを立ち振る舞わせるつもりだったんですか?」

「それは後々考えるつもりだった。な? キャシー」

「ええ、私かヒルダが付いていれば大丈夫だと──」

「そんなの、ミエラは社交界で必ず浮いてしまいます」

 お父様とお母様は同時に「うーん……」と声を上げた。

「ルーゼンベルクの者がミエラを囲んでいたら、他の者はミエラに立ち入れない。ミエラには令嬢たちの中に入っていく為の橋渡し役がいる。それをリリーにやってもらいます」

「うーん、それは良いアイデアかもしれないが……。マーガレットはどうする?」

「それは……」

 スチュアートも此処で考え込んでしまう。
 話に隙が出来たので、クラウにもう一度耳打ちをする。

「ねえ、マーガレットは?」

「リリーの妹だよ」

 ようやく、話に出てきた人物全員の関係性が判明した。これで混乱する事は無いだろう。

「マーガレットにも話してしまうか……いや……」

 何かを閃いたらしく、スチュアートは上体を少しだけ前に傾ける。

「マーガレットには秘密を通します。婚約発表当日、リリーと話すミエラに、何も知らないマーガレットを話し掛けさせた方が絶対に上手くいく。リリーに打ち明ける時には、俺たちが別邸に居れば済む話ですから」

「成程……」

 スチュアートの提案を受け入れるかどうかを決めるのだろうか、お父様とお母様は二人で小声で話し始めた。
 話の内容は私たちには聞こえない。
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